● おまけの広場 ●
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2007年5月7日(月)
流砂の絶佳 三十六

「ほんとうでさ」
『あっさり言うな! 国賓待遇が必要かもしれんだろう!』
「まあ、そうしたほうが、無難と言っちゃあ、無難でしょうな。長くつづいたリゥ王族の、初代の補佐をしていた、かの名高き諸葛孔明、でもって、豪胆な虎威将軍趙子龍。
マー王族とは姻戚ではなかったが、多少の付き合いはあったでしょうね。すくなくとも歴史書じゃ、気味が悪いほど仲良しだったと書いてある」
『不敬罪で逮捕するぞ、同志バルエフスキー!』
「はいはい、ちょっとした冗談ですよ」

手をひらひらさせて、どこにいるのかわからない参謀総長をなだめる来哲であるが、そのうしろで趙雲が、それこそ虎のように低くうなった。
「いまの意味はわかったぞ。首をねじ切られたいか、ばる……ばる何とか!」
来哲はあわてて振り返ると、さきほどと同じような愛想わらいを浮かべて見せた。
「すっかりこっちを忘れていたぜ。いや、いまのは失言だった。謝るから勘弁してくれ。
あんたら古代人の腕力なら、ほんとうに素手で首をねじ切れそうだ!」
『いまおまえと話をしているのはわたしだぞ、同志バルエフスキー! 
おまえはナジエ姫殿下のお気に入りだから、ある程度のお目こぼしをもらっていることを忘れるな! 
アイオーンの乙女のお友だち、とは、過去世にアトラ・ハシースがあらわれたということか!』
「それがご丁寧に、この二人なんでさ」
と、来哲は、親指で、孔明と趙雲をくいっと指さしてみせる。

すると、それがどういう意味であったのか、それまでがなり立てる一方であった参謀総長の声の調子が、あきらかに勢いが落ちて、こわばった。
『待て。確認したい。この二人のスピリチュアル・ランクは?』
「聞いておどろきのランクU(Ultimet)。下手なことをすると、あとでいじめられる可能性がありますぜ」
「ランクUとは、レアだな」
と、ブラックボードのオッペンハイマーも感心したように言った。
『この時期に、なんだってアイオーンの乙女は、そのお二人を現世に召喚したのだ?』
「いきなり『お二人』に変わりましたね。すこし節操がなくないですかい」
『やかましい! わたしの質問に答えろ!』
「じゃ、答えますが、わかりません。あんまり急だったもんで。
やっぱり過去世にも悪魔が入り込んでいて、魂を大量に狩ろうとしていた。
マー王族とリゥ王族の祖先が、それぞれ争そうように仕向けてね。俺はそれを止めようとしたのだが、悪魔の返り討ちにあうところだった。
それをアトラ・ハシースが助けてくれたんです」
『つまり、来世においてのこのお二人が、おまえを助けてくれたというのか?』
「たぶん、こっちの世界じゃなく、外界、いや、こっちが外界なんだったっけか。ともかく、基本世界側のアトラ・ハシースが召喚されたようです。
こっちの世界のアトラ・ハシースは、みんなおっとりしていて、戦闘には向いていないから、乙女たちも場数を踏んでいる兵隊が欲しかったのかもしれない。
つまりはそれほど、過去もいまも、抜き差しならない状況になっている、ってことです。
こっちの状況はどうなっているんです、ファ参謀総長?」


※ひさしぶりに早起きできました(^^♪ さて、こちらのお話は明日より、ふたたび、うさぎのいる世界に戻ります。交互に状況を交えつつ、お話は進む予定です。さー、今週もがんばってまいりましょう!(^^)!

2007年5月8日(火)
流砂の絶佳 三十七

気絶した馬超を丁寧に床に横たわらせ、趙雲とうさぎを胸に抱いた孔明は、その場をはなれた。
仲達は、寝ている耳を、しきりにぴっ、ぴっ、と動かして、外の様子を気にしている。
「家人らがさわいでおるぞ。なんと説明するつもりぞ」
「うむ、荒療治ではあるが、一時的に記憶を消去するしかあるまい」
触れていた馬超の頬から手を離し立ち上がりながら、孔明が言った。
そんな孔明を、目をぱちくりとさせながら、仲達はたずねる。
「ほう、これはしたり、そなたにそのような技があったとは」
「いや、普段はそんな便利なことはできないが」
言いつつ、孔明は袖から、ライターほどの小さな筒状の金属をとり出した。
「乙女らから預かった記憶操作ガスだ。なにせ諸葛亮と趙子龍が二人いる、という奇妙な状況になっているわけであるから、混乱が生じるおそれがある。それを防止するためのもの。
潜入者が持っていたものよりバージョンアップしておる」

仲達がみせてくれ、というふうに手を動かしたので、孔明は片手で抱っこしているうさぎに筒を近づけた。
筒は近づいけて見れば、ちいさな香水瓶ほどであったが、デザインはじつに素っ気ない。
携帯することを考えてのこと、さらにはどんな時代に持ち込んでも目立たないようにという配慮からだろう。
キャップは親指ひとつで押し開けられるようになっており、ガス噴射口があらわれる。

「なにやら虫除けスプレーを思い出すのは気のせいか」
「そう言うな。スプレーの底のところに調整ねじがあるだろう。このねじに数字が見えるのはわかるか」
「ふむ、マイナス10から始まって、ほほう、最大で1440まであるな」
「携帯用なので、1440分、つまり24時間しか濃度を調整できないが、ガスの濃度を調整することによって、24時間分の記憶を消去することができる」
「ほほー、それはいい。たとえば『しまった、遅刻した!』というときに、さあっとガスを噴射すると、記憶がなくなるわけだから、だれが遅刻したかも記憶がなくなるというわけか! 
ほしいのう。仕事を無事に終わらせることができたら、一本プレゼントで、もらえぬだろうか」
「そういう使い方をするものではない。たった一分であろうと、記憶を消去したがために歴史が変わってしまうこともあるのだ。
われらがあくまでこの世界の過去に来ていることを忘れるな。
子龍、この屋敷の者たちの記憶を消去した場合の歴史への影響力の計算はできたかな」

孔明のかたわらでは、手のひらほどの大きさの電子手帳に向かって、趙雲がなにやら打ち込んでいる。
これもまた電子手帳ではなく、アイオーンの乙女たちが使用する霊具で、記憶操作ガスとセットになっている計算機だ。
過去で活動している場合、記憶操作ガスを利用することで、現状の未来と差異がでるかを瞬時に計算してくれるすぐれものなのだ。

「影響は、30分程度であれば問題ない」
「よろしい。では念のため、30分を目安にガスを噴霧しよう。全員、呼吸を止めよ」
「呼吸といったものをしていない、アトラ・ハシースやアストラルだから使える道具だのう」
つぶやく仲達をかかえて、孔明は馬超と家人たちに几帳面にガスをかけていった。

※さて、これからまたお話は三国時代となります。いろいろとプロットを立てておりますが、長くなりそうな気配。どうぞよろしくお付き合いいただけたらと思いますm(__)m 今日は全国でいいお天気だそうで、仙台も快晴です。さー、がんばって仕事して、でもって続きを書きますぞ(^^♪

2007年5月9日(水)
流砂の絶佳 三十八

「さて、それでは今後の展開であるが、この世界のわたしたちが『現世』に飛ばされた以上、エウゲニー・バルエフスキーもしばらく戻ってくる気配もないし、その仕事をわれらで完成させるのが最上だと思われるが、いかがか」

この世界における諸葛孔明が乗ってきた馬車のなか、趙雲と孔明、そしてうさぎは話し合っている。
仲達は、小さい手をぴっ、と伸ばして、たずねた。

「潜入者の仕事を引き継ぐにしても、拠点はどうする」
「ま、わたしの屋敷というのが無難なところだな」
孔明がいうと、趙雲がむずかしい顔をして反駁した。
「この世界のおまえの屋敷は、守りがうすい。なにせ偉度たちが、ほんとうにただの側仕えだからな」
「いいことではないか。国を守るために子供までも利用する、といった風潮が、平和なこの世界には生じなかったというわけだ。
守りがうすいのは、あなたもわたしの屋敷に住むことで解決するのではないか? 理由はなんでもつけられる。家にシロアリが出たから建てかえるとかなんとか」
「理由については、状況に合わせて無理がないのを考える。そうだな、それが無難か」
「アモンにわれらが来ていることはバレているわけだから、連中がどこから襲ってくるかはわからない。
いま屋敷に仕えている者たちも、なるべく理由をつけて、屋敷の外に出しておく必要があるな」
「怪しまれぬようにしなければ。さて、それでは、さっそく移動するとしよう」

御者をつとめていたエウゲニー・バルエフスキーがいなくなってしまったので、孔明はみずから御者を務め、趙雲はというと、この世界の趙子龍が乗っていた馬にまたがる。
まったく外見上の差はないように見えるのだが、馬には微妙な差がつたわるのか、趙雲がまたがると、怪訝そうに鼻をつよくならした。
仲達はというと、ぽっくりぽっくりとゆるやかに馬をすすめる孔明のとなりに座って、おそらくはじめておとずれる、『蜀漢の成都』をものめずらしそうにながめている。

アトラ・ハシースと女神たちのあいだで厳密に決められたことではないのだが、時間のズレのある汎世界のなかで、アトラ・ハシースの汎世界における姿が現存する状態では、基本世界における本人に該当する者が召喚されることは、まずない。
それは、やはり自分の姿を見れば動揺するということもあるし、なにより自分の近親者を見てしまうと、客観的な行動がむずかしくなるためである。
だから、よほどの場合ではないかぎり、アトラ・ハシースやアストラルが、自分たちの影の存在する世界には呼ばれない。
だから、生存中に蜀の地を踏むことはなかった仲達は、三国時代の成都ははじめてで、なにもかもが新鮮に目に映っているのである。


※今日もさわやかな朝を迎えました(^。^) しかし一方で風邪が流行っている様子。仙台、朝と夕方の気温差がだいぶあります。体調に気をつけないとなー。さて、早起きも3日目。問題は明日。三日坊主にならないようにしなくちゃ(^_^;)

2007年5月10日(木)
流砂の絶佳 三十九

宗教が統一されているこの世界においては、基本世界を中心とする汎世界とは、おなじ『中華』でも、微妙に文化がちがう。
市場や民家の軒先には、『時の翁』を描いた絵のはいった提灯がぶらさげられており、時の翁の周辺には、漢族の装束をまとったアイオーンの乙女らが描かれている。
かれらは頻繁に人類のまえにあらわれており、その造形は過度に美化されたものではなく、それぞれリアリティの含まれたものである。
本来ならば、さまざまな神々の祭られている社は、当然のことながら『時の翁』のみが祀られている。
神の祀り方に関しては、ほかの神々の社と変わりはない。

「なにやらふしぎな世界だのう。市場に売っているものからして、当時のわれらより、ずっと文化が進んでいるように見える」
感心する仲達に、孔明は言った。
「実際にそうなのだ。ともかく戦争や紛争がすくない世界だ。われらの世界では19世紀末にやっと起こった産業革命が、この世界では、9世紀末に起こっている」
「早っ! ということは、われらの世界でいうところの唐の末期には、蒸気機関が稼動しているというのか」
「なにより悲惨な歴史をまぬがれているのは、アジア圏よりも中南米だな。渡来してきたスペイン人は、黄金をもとめたいかがわしい山師の集団ではなく、なんと医師の集団であるというからおどろきだ」
「ピサロがこなくて、かわりに国境なき医師団が来た、という感じか?」
「ま、そんなところだな。当時流行していた梅毒に立ち向かい、これを治したことから感謝され、大量の黄金を贈られ、しかも主権まで穏便にゆずられ、中南米
の国家は殺戮と虐殺と、文明の破壊をまぬがれ、ヨーロッパ諸国の忠実な同盟国となった。
中南米のほうがすこし文化が遅れたので、やはり属国のような立場になったが、われらの歴史から見れば、よほどましだろう。中南米からもたらされた豊富な物資が、産業革命をいち早く推し進めた」
「ふうむ」
「しかし一方で、われらの世界よりもずっと早く、資源危機がおとずれたのだ。平和であれば、当然、人口は増える。都市が繁栄し、工業化がすすむいっぽうで、森林破壊や地球の温暖化が猛スピードですすんでいった。
さすがのアイオーンの乙女らも、これを止められなかったか、あるいは別の意図があるのか」
「別の意図、とは?」
「戦争がすくない世界においての、人類が自然に与える影響の差を見るのが、この世界かもしれぬからだ。さすがにそこまでは、わたしも教えてもらっていない」
「深いのう」
「そのあたりは神々の領域で、われらは口をだせぬ。
そういうわけで、この世界における『現世』では、ユーラシア大陸の砂漠化が深刻化し、シルクロード周辺の民族がそれぞれ東西に大量移動した。
そして、多民族がさまざまな国家の融合と分裂をくりかえしたなかで、できあがったのが、蜀の後継国ともいうべき『流砂の絶佳』だ。
多民族国家で、主要言語は漢語とロシア語、そのほかいろいろ。ちなみに、世界規模でもっとも話されている言語の順は、われらの現世と差異はなく、アメリカの躍進著しいため、専門用語に英語が多用されている。
『流砂の絶佳』の人口は約3億人。主要産業はペット用パンダを含む交易。中華に三つにわかれた国の、西にたいする玄関口でもある」

※今日は一転、寒いですね((+_+)) 仙台の最高気温18度…厚着をしていこう。夕方は雨になりそうです。さー、三日坊主にならずにすんだし、がんばって行ってきます(^。^)

2007年5月11日(金)
流砂の絶佳 四十

「この世界の諸葛亮らが、すぐに戻ってくるということはなかろうか」
仲達のことばに、御者台の孔明は、それはない、と首を振った。
趙雲はというと、孔明と仲達の話に耳をかたむけながらも、ところどころ差はあるが、人々の顔ぶれはかわらない、なつかしい成都の町並みを、感慨深げにながめている。
「現世に飛ばされたということは、向こうでのわれらは、王族の初代の政治を支えた伝説の人物だ。おそらく歓待を受けていると思うね」
「む。舞踏会だの園遊会だのに招待されておおわらわ、というわけか。ごちそうがいっぱいであろうな。ちとうらやましい」
仲達のことばに、孔明はちいさく首をかしげた。
「どうであろう。あちらの政情から察するに、たしかに歓待は受けるであろうが、ただの歓待ではなかろうと思う。政治の駆け引きに利用される危険があるな。わたしと子龍は、うまく立ち振る舞えるといいのだが」
「現世における『流砂の絶佳』は、悪魔の脅威にさらされているというのに、ややこしい勢力あらそいをしているのであったな」
「そう。『流砂の絶佳』は、百年前、資源危機による政情不安のために、王党派がクーデターをおこし、立憲君主制に戻ったのだ。そして現国王の時代に専制君主制に切り替わった。
この王がたいそう気むずかしい男で、二人の王子とひとりの姫がいるのだが、そのだれに王位をゆずるか、いまだに決めかねている。
次期後継をめぐり、『流砂の絶佳』のなかで小競り合いがつづているのだ」
「争そっている場合ではなかろうに」
「国王軍と貴族たちの指示を多くとりつけているのが二人の王子で、クロノス機関と民衆に絶大な支持を受けているのが姫君のほうだ。
王子と姫君は腹違いで、幼少のころよりたいそう仲がわるかったそうだ」
「兄妹が仲良くするように、乙女らが調整すればよいのに」
「そうしないところを見ると、なにか意味があるのか、それともそこまで干渉しない主義なのか」

「話を邪魔するようだが」
と、趙雲が、よこから口をはさんできた。
「つけられているぞ。馬超の屋敷から、ずっとだ」
孔明は、目だけをうごかして後方を確認し、答えた。
「何者であろうか。アモンの手下か?」
「霊力は感じられない。只人のようだ」
「アモンの手下ならば、討ち果たせばそれでよいが、只人とはな。アモンが、只人に呪詛をかけて、われらを尾行させているという可能性はどうであろう」
「いや、身のこなしからして、修練を積んだ細作だな」
趙雲のことばに、孔明はやれやれ、というふうにため息をついた。
「悪魔のことがなくても、状況は十分にややこしいようだ。対応は、子龍、あなたにまかせるよ」


※なんだか今週も詰まったスケジュールになっておりますが(^_^;)本日夜にアップできたらなーと思っています。お時間ある方はぜひお越しくださいませ(^^♪