● おまけの広場 ●
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2007年5月2日(水)
流砂の絶佳 三十一

「戻ってきたか、わが故郷、流砂の絶佳よ」
そんなつぶやきに、孔明は目を覚ましたのだが、まず最初に気づいたのは、その手に触れた床の冷たさであった。
目を覚まし、おのれの輪郭をうつす床の、磨きぬかれた鏡のような質感におどろく。
頭がまだぼんやりしている。刺客に襲われたのであったか。しかし命はあるようだ。
視界が明るいし、身体のどこも拘束されているというわけではないので、軟禁されているというわけではない、つまりは敵意ある環境におかれているのではないと、すぐに理解できた。

それにしても明るい。
屋外に放り出されたというわけではない証拠に、風はなく、そして孔明が気がつくほどに、空気ににおいというものがなかった。
かわりにあるのは、すきま風がひっきりなしに通っているような風の音と、痛いほどの太陽の光だけである。

まぶしさに目をほそめつつ、孔明が周囲を見回すと、ぞっとするほどに蒼ざめた空を眺める、来哲ことエウゲニー・バルエフスキーの姿があった。
そして孔明は思い出した。
馬超の屋敷にいたのである。
ところが馬超のもてなしていた客を来哲が殺してしまったために、揉め事が起こって、なにがなんだかわからないうちに光につつまれて、ここにいる。
そうだ、この男に、なんであんなことを(といっても、孔明は、何が起こったのかをまだ正しく認識できていなかったが)したのか詰問しなければと、責任感にかられて、孔明は立ち上がった。
と、ふと見れば、来哲の背後に、剣を抜いた趙雲が立っている。
来哲はそれに気づいているのかいないのか、腰に両手をあてて、じっと外の光景を見ているのである。
来哲がなにを見ているのであろうかと、ともに周囲を見回して、孔明は絶句した。

雲ひとつない蒼ざめた空の下、砂色の砦にぐるりと取り囲まれている。
砦の規模は途方もないもので、逆に奇怪な砂色の街が、砦のなかに陥没してしまったのではないかと錯覚するほど、大きくせり出している。
砂の津波がそのまま凍ってしまったような形状の砦のなか、砦をはるかに見下ろす尖塔がいくつもそびえている。
そのうちのひとつに、孔明たちはいた。

塔の斜面を、大きな団子虫のような奇妙な形状の、象ほどに大きなものが、音も立てずに往来している。
おどろいたことに、その虫のようなものには窓があり、そこには人の姿がみえる。
さらにおどろいたことに、窓の中にいる人々の肌は、孔明と同じ者もあれば、透き通るように白い者もあり、一方で漆黒の闇のように黒く輝く肌のものもいた。そして、その者のひとりが、同乗している者に、孔明のほうを興味深く指差したのである。
「……………!」
声にならない声をあげて、思わず身を引いた孔明に、来哲が振り返った。


※本日よりおはなしは『現世』に移行。SFファンからしたら「ヘンテコだなあ」と思われる箇所が多々あるかと思いますが、お目こぼしいただけたらと思います(^_^;) 話があちこち広がるのはいつものことですが、大風呂敷にならないようにしないと、いや、ほんとに。明日はアップの日であります。お時間あるかた遊びにいらしてくださいませ(^o^)丿

2007年5月3日(木)
流砂の絶佳 三十二

来哲の態度は、じつに堂々としたものであった。
剣を向けている趙雲のほうに、しばし待てというふうに手をあげると、孔明のほうに悠然と近づいてくる。
それが虚勢ではないことは、浮かべている、余裕たっぷりの表情でわかった。
趙雲の発する殺気は、半端なものではない。
しかしこの男は、すこしも怖がっていないのだ。

この男の自信は、どこから来るのだろうと頭の隅で考えつつ、孔明は、来哲が馬車のなかでしていた、視界を共有できるという、奇妙な話を思い出していた。
ほとんど直感ではあったが、孔明は、視界を共有しているからこそ、この男はこちらのことを理解しているのだと判断した。
そして、ふしぎなことではあるが、それを理解すると、とたんに、反発というより、仲間意識のようなものが芽生えてきた。
事実、孔明のほうに近づいてくる来哲の双眸の表情に、悪意や敵意は見られない。

「目が覚めましたかい。まずは、あんたたちに謝らなくちゃいけないが、そのまえに」
と、来哲は空を見上げるべく、くっ、と顎をあげると、高らかに呼ばわった。
「システムBelinda・O、認証番号07、アレクセイビッチ、エウゲニー・バルエフスキー」
『同志バルエフスキー、認証しました』
とたん、どこからか、低めの女の声が聞こえてきた。
孔明はびくりと身をすくめて周囲をみまわすが、円形の塔の上らしきその空間には、三人のほかは人影はない。
屋外にも、おなじようにいくつもの塔があるのだが、それにはそれぞれ、透明なおわんのようなものが被さっている。
見上げれば、ほとんど存在を感じさせないほど自然に、自分の頭上にもそれはあるようであった。
硝子だろうかと孔明は想像し、同時に、これほど透明度の高い大きな硝子を、どうやって精製したのか、その技術に感嘆した。

「ドームを閉じてくれ。目立っていかん」
『了解、ドームを閉じます』
とたん、床からせり上がるようにして、光の線が競りあがってきて、硝子の椀をなぞるようにして、ふたたび光の線は床に消えた。
しかし、孔明のまえにある光景に、変化はまったくない。
青空と、黄砂でできた砦、奇妙な、牛や馬をつかわずに移動している人を乗せた虫。いくつも佇立している塔。
奇奇怪怪な山海経の中にも、こんな奇妙な国の紹介はなかった。

目を白黒させて絶句している孔明に、来哲は、すまなさそうに言った。
「悪いな、本来なら、こっちに来るまえに準備をしておかなくちゃいけないのだが、なにせ突然だったから、あんたらが混乱するのもわかる。
Belinda・O、すまんが委員会に、突発的事項によるゲスト2名の来訪の承認を代理でたのむ」
『同志、それには理由が必要です』
「アイオーンの乙女のお友だちに命令されたと言ってくれ。
それと、早急にこの2名に正式なフィルターをかけたい。仮フィルターは先にかけてある。
正式なフィルターをかけるには、証言者が必要だろう。だれか適任を呼んでくれないか」
『了解。アクセス申請者が2名ほどおりますが、承認しますか?』
「いや、申請者の名前だけ読み上げてくれ」
『了解。申請者名、23:55……』
「夜更かしだな」
『オペレーター、同志エピファニー・コヴァルスキより。つづいて5:15』
「こいつは早起きだね」
『プリンゼッツィン、ナジエ』
孔明には、姿の見えない女の声がなにを言っているのか、さっぱり理解できなかったのであるが、来哲はそれを聞くと、口笛を吹いた。
どうやらうれしいらしい。


※本日はちょびちょびとアップする形になるかも……なにせ一本はともかく、もう一本をなににするか、まだ決めかねている状態だったりします。イカン(-_-;)ちょっと気分転換に散歩してまいります。で、まずはこちらをアップです。

2007年5月4日(金)
流砂の絶佳 三十三

『プリンゼッツィン、ナジエ・リゥからの申請の重要度はSです。早急のアクセスを推奨いたします』
「いや、ここじゃまずい。ただ返信を。
バルエフスキー帰還、殿下のご先祖のお友だち、約2名も一緒。名前は諸葛孔明と趙子龍。
現在委員会にゲスト承認依頼中。後押し頼む。それでわかるだろう」
『了解。ただちに返信します。エピファニー・コヴァルスキには如何いたしますか』
「心配かけてすまん、ちゃんと戻った、首尾は上々、っぽい、と」
『文言のなかに不明瞭な表現があります。こちらで校正して送信しますか?』
「いーや、おまえたちは人間の微妙な心理というものを理解しない。そのまま返信してくれ」
『了解。ただちに返信します。同志バルエフスキーにお知らせします。同志エドゥアルト・オッペンハイマーが証言者としてこちらに向かっています。
到着はあと1分後。BBシステム起動』
「オッペンハイマーとは、行動が早いな。おい、趙子龍……長いな、子龍でいいか?」
来哲の問いに、趙雲は剣の切っ先を向けたまま、大きく眉をひそめた。
「断わる」
趙雲の剣幕に、来哲は両手をあげると、愛想わらいをうかべて、言った。
「ま、そう攻撃的になるなよ。聞こえただろ、あんたが立ってるその床の下から、ブラックボードが出てくる。
そのまま立っていると、ブラックボードにつまずいて転ぶぞ」
「なんなのだ、そのブラ、なんとやらは! そして貴様は何者で、ここはどこだ!」
「まいったな、まだ仮フィルターだから、あんたみたいな頑固者ほど混乱するんだよな」
「また! なんなのだ、その仮フィルターとやらは!」

孔明がおどろいたことに、冷静沈着な趙雲が、めずらしくも混乱している。
孔明がどうしたものかと二人の様子をうかがっていると、来哲のほうが、片方の手を、そろりそろりと、向けているのが見えた。
なにかを取り出そうとしているのだ。
だが、それを趙雲は見越しており、来哲がなにかを取り出そうとするより早く、剣でもって来哲に飛び掛っていった。
とたん、来哲は、懐に隠していたものを取り出す。

それは手のひらほどの丸い水晶のようなもので、斬りかかろうと趙雲が剣を振り上げて来哲の眼前にせまったとき、突如としてつよい光を放った。
さすがの趙雲もまぶしすぎる光にたじろぎ、思わず剣を取り落としてしまったのであるが、しかし職業意識がそうさせたのか、それとも常日頃の訓練か、目を片手で押さえつつも、肩をつかって来哲に突進した。
とたん、来哲は激しく弾き飛ばされて、硝子の壁に、背をしたたかに打ちつけた。


※流砂の絶佳は国の名前なのであります。それはともかくとして(?)、明日もアップあります。なんだかんだとGW後半は毎日アップになってますなー(^_^;)まあいいか。お付き合いくださっている方、ありがとうございます!(^^)!『ありがとう』の上の表現ってないのかなー。そしてこちらの連載もまだまだつづきます(^^ゞ

2007年5月5日(土)
流砂の絶佳 三十四

『ぶざまなものだな、バルエフスキー参謀。それでもクロノス機関武術大会の覇者か?』
揶揄するでもない、冷徹な男の声がひびいた。
孔明が声のしたほうを見れば、長方形のまっ黒な板が、いつのまにか床から伸びていた。
板の上には四角い窓がついており、そこに来哲と同じように異国の風貌をした男の姿が映っていた。
最初、孔明は板のなかにだれかが入っているのかと錯覚したが、板には人が入れるほどの厚さはない。
趙雲は落とした剣をひろって来哲に飛び掛ろうとしていたのだが、黒い板の登場に度肝を抜かれて、唖然としている。

『委員会は、ゲスト2名の来訪を、緊急事態として認定し、正式フィルターをかけることも了承した。わたしが証言者となり、委員会に報告する。
手こずっているようだが、ガスが必要かね』
「それはやめようぜ。信用がなくなっちまう。
さて、承認が降りたことだし、あんたたちが、いまどこにいるのか教えてやろう。これを」
と、来哲は、懐からちいさな水あめのようなものを取り出した。
「規定により説明するが、このキャンディーは、『流砂の絶佳』独自技術で開発された、一次的な脳神経介入装置だ。
このキャンディーのなかにはナノチップが含まれていて、あんたたたちの脳に入り、知識や言語の分析を補佐する。
ひらたくいえば、これをなめると、わけのわからないいまの状況が、一気にわかる、というわけだ。
危険性はなく、チップは24時間たつと、自然と体内に輩出されるようになっている。あんたらを隷属させる目的のものではないので、安心してほしい」
「毒ではなかろうな」
趙雲がうめくように言うと、来哲は答えた。
「俺もあんたと同じく軍人だから、疑う気持ちはわかる。だが、俺はあんたらの味方だ。
もしも敵なら、あんたらが気絶しているあいだに、さっさと殺していたさ」

「たしかにそうだ」
答えたのは、孔明である。
そして、孔明は趙雲のほうに顔を向けると、言った。
「落ち着こう、子龍。この男はたしかに敵ではないと思う。いま、わたしたちがいる状況は、きわめて特異なものだ。これを理解するには、生半可な説明では無理だと思うよ。
なにせ、なにもかも見たことのないものばかりだ。理解するまえに、わたしたちのほうがおかしくなってしまう。いまでさえ、くらくらしているもの」
「しかし、こんなあやしいやつの、あやしい食べ物を口にするつもりか?」
「そうしなければならないのなら。来哲、おまえを信用しよう」
「そいつはありがたい。キャンディーの味は、たしかライチ味だったはずだぜ。まずくはないはずだ」
孔明が来哲の手から水あめを受けとって、そのまま口にすると、趙雲もまた、胡散臭そうに来哲をにらみつけながらも、水あめを放り込むようにして口にいれた。

※ゆうべはPCの不具合かなんなのか、30分以上、アップロードが出来ない状態で、画面が真っ白になっていたページがございました(>_<) 待っていた方、遊びに来て「なぬ? 閉鎖か!」とおどろかれた方、ごめんなさいm(__)m うーん、原因は、なんだったのかしらん…今日もネットがやったら遅いので、ちょっと早めにアップできるようにします。画面が白くなっていたら「あ、はさみののやつ、アップに困っているな。もうすこし経ったら復旧か」と思っていただければと思います。

2007年5月6日(日)
流砂の絶佳 三十五

『同志バルエフスキーと同志オッペンハイマーに緊急連絡です』
それまで沈黙していた、さきほどの女の声が、ふたたび響いた。

孔明は水あめを、どこがライチだ、甘すぎる、と思いながらなめていた。
趙雲のほうは、舌に触れたとたんに合わないと感じたらしく、まるで苦いくすりを飲んだときのように顔をしかめると、一気に飲み込んでしまった。

『参謀総長より緊急のアクセス申請があります。承認しますか』
「いかんな」
とつぶやいたのは、黒い板の窓の中にいる(?)顔の長い男である。
「ちぇっ、情報が早いな。監視されていたのか」
「どうする、まだゲストが混乱しているので、後にしてくれと断わるか」
顔の長い男が、板の中から問いかけると、来哲は首を振った。
「どうせ委員会の参謀総長派から、この二人が『流砂の絶佳』に招かれたことはわかっているんだ。
どうだね軍師どの、キャンディーの効果は出てきたかな」

孔明はゆるゆると飴をなめていたのだが、たしかにさきほどの、いいようのない不安感は波が引いたようにおさまり、目のまえのものが、『見慣れないもの』ではなくなってきた。
趙雲のほうを見れば、これも同じようであるらしく、さきほどの猛々しさはなりをひそめ、周囲を見回しつつ、目をぱちくりとさせている。
「さきほどよりは、悪くない」
孔明がこたえると、来哲は、笑ってうなずいて言った。
「あんたは適応力が高い。エディ、誤魔化さないほうがりこうだ。承認するぜ」
「君に任せよう」
ブラックボードのモニターに映っているオッペンハイマーは、すこし投げやりにも見える態度で、そう答えた。

来哲は、ふたたび硝子のドームの天井に向かって(そうしなくても個人専用システムBelinda・Oは応答するのであるが、それが来哲の癖であるらしい)叫んだ。
「アクセスを承認する」
『では繋ぎます』
『同志バルエフスキー、この間抜け!』
その雷のようながらがら声は、Belinda・Oの声とほとんど同時にドームに響き渡った。
「参謀総長殿はごきげんななんめ」
来哲がうんざりしたように言うと、参謀総長のほうは、声を落として、急に猫なで声になった。
『時間旅行は楽しかったかね、現地の友だちもできてなによりだ。おまえみたいな偏屈者には、プロフェッサー・オッペンハイマーしかまともに付き合ってくれる者がいなかったからな』
「わたしだって、付き合っているつもりはありませんよ」
オッペンハイマーがモニターの前で、やはりうんざりしたように言うと、参謀総長はすかさず言った。
『おや、そうだったかね、婚約もした仲だというのに。すぐに破棄されたが』
「それはちがいます、参謀総長。語弊があるので訂正していただきたい。
同志バルエフスキーと婚約していたのは妹のベリンダです。いまの参謀総長のことばでは、わたしと同志バルエフスキーが婚約していたように聞こえて、迷惑です。
参謀総長のいまの発言には、わたしの所属する『独身生活を楽しむ会』への偏見がこめられているようにも受けとられるのですが」

『ともかーく!』
参謀総長はオッペンハイマーのことばを無視してつづけた。
『2名のおまえのお友だちを紹介しろ! 王族の祖先と関わりがある人物だというのは、ほんとうか!』


※昨日は夜の九時からアップをしようとがんばっていたのですが、ハテ(?_?)データのほとんどは送れたのに、MAPやあいさつの3ファイルがぴたりと送れなくなってしまいました。容量は大丈夫だし、ファイル名にNGもない…なぜなにドウシテ?で、その後、三時間ちかくアップにかかりました。「なんだよ、はさみの、ちゃんと見にきたのに、ファイルが白いぞ」と思われた方が大半だったかも…うう、ごめんなさい。スキル低いんだ…原因不明です。今日はちゃんと送れるかな?