● こうせいニッキ●
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2007年4月22日(日)
流砂の絶佳 二十一

水の柱は、小男の背中の真ん中に突き刺さるものの、小男の様子が変わることはない。
しかし、天井にはりつく小男の身体からこぼれた水が、ほかの男たちに降り注ぎ、それを男たちがいやがって暴れだした。
孔明にも水は降りかかったが、暴れるほどのものではなく、ふつうの水滴である。それは趙雲や馬超もおなじらしく、男たちがのたうちまわる様子を、ぼう然と見つめている。
「阿聞さま! わしらはこれは耐えられませぬ! 溶けてしまいます!」
男たちのうちの一人が叫ぶと、阿聞と呼ばれた小男は、おおきく舌打ちした。
「ったく、情けないわね。これくらい耐えられなくってどうするのよ、へっぽこ! 
あんたたち、それでもあたしに魂を売ったガッツマンなの! ガッツで乗り切りなさい!」
「無理です!」

見れば、水滴は酸とおなじ威力を、男たちにはふるっているらしく、水滴を身に受けた男たちの肌は、火傷を負ったようになっていた。
「軍師、たしか阿聞というのは、尚書令に金蛇の腕輪を売ったやつではないか?」
孔明を庇いながらも、暴れる男たちに剣を向けつづける趙雲が、記憶力のよいところをみせてたずねてきた。
「そうだ! けれど、いまはそれを探っている場合ではない。子龍、逃げよう!」
趙雲は、ちらりと孔明のほうを振り向いた。
「おまえもそうしたほうがいいと思うか」
ここで『敵に背中を向けるなんぞできるか』などと言って駄々をこねないのが、趙雲のよいところである。
孔明はうなずいた。
「あまりに事態が把握できない。すぐに応援を呼ぼう。われら二人だけでは対処しきれぬ」
「わかった。だが、俺から離れるなよ」

と、趙雲は、油断なく剣を男たちに向けたまま、空いた手のほうで孔明の手首をつかんで、ゆっくりと後退をしようとするのだが、天井にいる小男のほうは、めざとくそれを見つけた。
「お待ち! ここで逃がしてなるものか、もろともに死んでおしまい!」
いうと、小男は大きく口をひらく。
とたんに、その口そのものが変化し、鳥のくちばしのように尖った。
さらにはその先端から、光る雨のようなものが、孔明らにむかって降り注いでくる。
「いけねぇ!」
来哲が叫んだ。


※あしたもアップを予定中。ぬーん、早めのアップを目指しておりますが、どうなるかなー。うまくできますように(^_^;)

2007年4月23日(月)
流砂の絶佳 二十二

「われらにかまうな、時を飛べ、潜入者よ!」

耳慣れた声がした。
と、同時に、ほんの一瞬だけ、孔明の視界に、趙雲が映った。
しかしおかしなことに、趙雲は屋敷の廊下をちょうど曲がって、こちらに向かってくるところであった。
趙雲は、さきほどからずっと目のまえにいて、孔明の手首をつかんでいる。

視界がぶれた。
左将軍府を出ようとしたときと同じように、視界がゆがんで、ひどく遠方の光景が間近に見えた。
険阻な山にはさまれた谷間、蜀の桟道をそばにひかえた、日のろくもささない乾いた土地のうえに、騎兵が待機している。
かれらの風体は異様だ。みな、漢族の衣裳をまとっていない。
騎兵の数は、ざっと見ただけでも2万はいる。部隊ごとに衣裳がちがっており、よくよく見れば、民族もちがうようであった。
かれらは沈黙しているが、その全身からは、強烈な殺気を感じ取ることができた。

なんだ、これは。
なにを狙っているのだ。

答えはすぐに浮かんだが、それについて検討することを、孔明の本能が拒んだ。
馬超が裏切って、蜀を囲む蛮族たちと与して、成都を陥落させるべく、兵をあつめている。

そんなことはあってはならない。
裏切りもよいところだ。
宮城へ行かなくては。主公にご注進申し上げねば。早く軍備をととのえなければ。

しかし、次第に意識は遠くなり、視界もまた、白光のなかに溶けて行った。



「行ったか」
とっさのことであったが、エウゲニー・バルエフスキーのもつ、時間移動装置はうまく作動したようである。
エウゲニーらクロノス機関の人間がもつ時間移動装置が、同時に移動させられる人員は三名まで。
エウゲニーと、『この世界の自分』と、『この世界の子龍』と、ちょうどよかったというわけだ。

「まーた、あんたたちなの! ストーカー? っていうか、アタシたちに愛情感じてるんなら、すこしは遠慮しなさいっての!」
天井にしがみついたまま、きいきい叫ぶ悪魔のほうを、孔明は迷惑そうに見上げた。
その手ひらでは、悪魔アモンが口から吐き出した光弾が、それでもまえに進もうと足掻きながら留まっている。
「また、とは、こちらのセリフだな。おまえがくだらぬ企みをしているおかげで、われらが外世界から呼ばれるはめになったのだ」
「アタシのせいだっていうわけ?」
「そのとおり。というわけで、まずは挨拶といこう。この光弾は返すぞ」
孔明は言うと、その手に留まっていた光弾を、天井に向けて、そのまま投げつけた。

とたん、光は天井で大きく炸裂し、その下にいた部下たちや馬超もまた、光に包まれる。
だが、ほどなく光が失せると、崩れた天井と、割けた木材を受け止めて、埃だらけになった円卓のほかは、アモンの姿も、その部下の姿もなくなっていた。

「逃げ足の早い。部下を連れて、一瞬にして転移するとは、さすが上級悪魔」
感心している孔明に、部屋に飛び込んできた趙雲によって、天井に伏せていた馬超が、らしからぬことに怯えをふくんだ表情で、孔明を見た。
「いったい、なにが起こっているのだ。軍師は、何者なのだ?」
「いや、ほんとうにな。わたしは、この世界ではなんなのだ?」
ぼやく孔明に、馬超をかばっていた趙雲は、顔をしかめた。
ちなみに、ふたりとも、『当時』の装いを身につけている。
「ちゃんと説明してやれ。今回にかぎっては、俺たちに規制は適用されないはずだぞ」
「その約束だって守られるのか怪しい。しかし、たしかに説明しなくてはならぬだろうな。
この世界のわたしたちが、どこに消えてしまったのかも含めてな」


※あんまり早くはない時間のアップですが、いままでにしてみれば早いほうかなー、などと言い訳してみたり。さて、こちらのニッキの方向性は、本日にてあきらかに。あした以降、さらに状況がはっきりしていく展開になります(ホントかな?)。どうぞ見てやってくださいませ(^^ゞ

2007年4月24日(火)
流砂の絶佳 二十三

世界はつねに変転をくりかえす。
瞬間瞬間ごとにかさねられた、世界中のひとびとの、ほんのちいさな行動の差が、あらたな世界を生成し、それがまた別個に増殖していく。
その規模をはかれる『人類』は、いないとされている。
もしも世界をすべて知るものがいるとしたら、それは神と呼ばれるものだろう。

スェーデンボルグが幻視したように、気が遠くなるほどひろがる世界を俯瞰すると、ひとりの人間のかたちをしているという。
それがアダムと呼ばれる赤土からつくられた最初の人間だという話もあるが、たしかなところはわからない。
アダムを産んだ赤土をもつ世界は、すべての世界の中心である。
しかし簡素に基本世界とだけ呼ばれている。
この世界がベースとなって、こうしているあいだにも、莫大な数の世界が増え、あるときは減っている。

アダムと同じ体をもつ世界から生まれた者たちの、死せる魂のうちから、とくによいものと認められたものだけが、ふたたび意志と記憶をえて、さらなる進化をとげた人類として復活する。
そうしたかれらをアトラ・ハシース(最高の賢者)と呼ぶ。
このアトラ・ハシースは、流転し、変転する世界を守る女神たちに召喚され、人類のすべてがあこがれるように、時間から解放され、永遠の若さと不死をえている。
そればかりではなく、人類がいかに研鑽しようと得ることのできない、大きな力を所有することができる。
ときにかれらは炎を生み、風をあやつり、地を揺らす。

そのかれらを補佐する者たちもあり、アストラル(霊体)と呼ばれる。
アトラ・ハシースらが女神に召喚されるのであれば、アストラルはアトラ・ハシースに召喚される。
かれらの目的はひとつ。
自己をさらに高めることと、おのれを生み出してくれた『人類』への貢献。
いかなる見返りも求めない、理想の兵士たちである。


※本日は、おさらいのような説明であります。あした、とてもひさしぶりな、例のあの人物が再登場予定。いえ、書いている人間がいちばん楽しみにしていたりします(^^♪

2007年4月25日(水)
流砂の絶佳 二十四

「そしていま、貴殿のまえにいる諸葛孔明は、貴殿が知る諸葛孔明ではない。そして、ここにいる趙子龍も、また、然り。
ひとしく、貴殿もまた、わたしの知る馬孟起ではない。
この世界は、基本世界を中心として発展する汎世界から切り離された、時の魔女たちの管理する培養世界のひとつ。神々の壮大な実験場。
そしてこの国は、わがなつかしき蜀ではなく、魔女らの誘導によって発生した、蜀という名のべつの国。
顔ぶれはおなじではあるが、貴殿らをとりまく情勢は、すべてわれらの経験した日々とはべつのもの。
おわかりか、平西将軍。そしてわたしは、貴殿を守りにきたのだよ」

孔明のことばに、馬超は、まばたきひとつせず、聞き入っている。
が、ことばの意味が通じているとは、孔明は期待していなかった。
いや、これで、なるほど、よくわかる、などと納得されてしまったら、かえって怖い。

「培養世界というのは、わが真のふるさとである基本世界の、何百年と月日を重ねようと、不毛な争いが人類から消えないことを憂いた神が、人類にゆるしている自由をいくらか制限したうえで、基本世界の歴史を参考にしつつ、争いの起こりそうな要因を極限まで排除したうえで、文明の進度を観察している世界なのだ。
黄巾。この名を、貴殿は知らぬであろう」
孔明の問いかけに、馬超は、ようやく彫りの深い顔に困惑を浮かべつつ、うなずいた。
「黄色い布がどうした」
「そう。この世界では、宗教戦争は発生しない。
厳密にいうと、黄巾の乱は、易姓革命をねらった叛乱であったわけだが、神の名を騙るということすら、この世界では意味のないことだ。な
にせ、最初から、この世界の人類の信仰は、一箇所にあつまるように調整されている。
時の神クロノス。この地方では、真名を避けて、『時の翁』と呼ばれているのだったかな。
この世界では、その存在は、歴史の要所要所で、じっさいに人類のまえに姿を現わしている。
人類が神の姿を共有して記憶し、かつ直接に触れ合うことができるために、騙って、みずから教祖としてふるまう者は発生しえない。
まあ、クロノスが姿を現わしたとはいっても、アイオーンの乙女らが得意の幻術でもって作成した、ホログラムの類いだとは思うが」
「おい、あまり際どいことを言うな」
趙雲が横槍を入れると、孔明は肩をすくめてみせた。
「適当に嘘をついて、ごまかすのはよくない。
半端な嘘をついてみせるより、真実をありのまま語るべきではないかな」
「そうだとしても直球すぎるぞ、諸葛亮。見よ、錦馬超は目を白黒させておるわい」
と、なにやら甲高い声が孔明の腹のあたりから聞こえてくる。

孔明は、おお、そうだ、忘れておった、などと言いながら、おのれの衣の襟をゆるめた。
すると、不自然にふくれていた胸から腹にかけてのあたりから、ぬっと、灰色の毛の塊が顔をだした。
子犬のように見えるが、それにしては耳が長い。
灰色のそれは、鼻をひくひくさせながら、ぱっちりと大きな目を細めて、言った。
「ふう、新鮮な空気はいいのう。土のにおいが室内にいても感じられるぞ」
そして、灰色のそれは、動物にしては、人語をじょうずにあやつりすぎた。

「おや、いかんな、馬超が、目をまわしたどころか、泡を吹いて倒れたぞ」
「貧血であろうか」
などと語り合う、孔明と灰色のうさぎに対し、趙雲は、ため息とともに言った。
「貧血にもなるだろうよ。
孔明、俺はやはり、馬超に真実をなにもかも告げるのは反対だ。この世界への悪影響もあるだろうし、この世界の俺たちも、潜入者がうまく連れて行ってくれたのだし、それに成りすますほうがよかろう」
「自分に成りすますのか」
不満そうに言う孔明に、趙雲は、とがめるように顔をしかめてみせた。
「いつもと勝手がちがう。俺たちは、この世界にとっては異物だ。なるべくならば目だったことはしないほうがいい」
「異物か。いつもながら妙なことになったものだのう。トラブルのにおいがぷんぷんするぞ。
やはり、このような仕事は断わればよかったのだ」
と、孔明に抱えられているかたちの、灰色のうさぎはつぶやいた。


※当HPのずんだ関連を読んだことのない方にとっては、いったいなにがどういう展開になっているのやら、というこのお話。短い文章で世界観や設定を伝えるのってむずかしいー(>_<) お話は本日より、本格的に動いてまいります。そう、やっとプロローグ脱出なのでありました。長くなりそうです。お付き合いいただけたらうれしいですー(^^)/

2007年4月26日(木)
流砂の絶佳 二十五

さて、ここですこし時間をさかのぼる。

基本世界を中心に発展する世界を汎世界といい、この世界はそれぞれ互いに影響を及ぼしあって連鎖している。
その時間の進み方もほぼ同じであるが、基本世界から遠ざかれば遠ざかるほど、時間のずれは激しくなる。
だが、おおまかな人類の歴史はおなじである。まったく異なる歴史を持つ世界は存在しないといっていい。
多少なりの悲劇は、女神とアトラ・ハシースらの努力によって回避されても、社会や国家のたどる運命の結末に、大きな差はない。

こうした時間の影響から、すっかり逃れられている世界がある。
そこに住まうのは、基本世界をふるさとにする『善き魂』たち、アトラ・ハシースとアストラルである。
アトラ・ハシースの数は少なく、かれらのすべては、この世界に唯一ある、中央都市と呼ばれる大きな街の、その中心にある『塔』にあつめられている。
かれらは『塔』以外の住処をもつことをゆるされていない。

一方で、アトラ・ハシースより、弱冠、力のよわいアストラルは、アトラ・ハシースより恵まれており、世界のどこであろうと、好きなところに住むことができる。
この世界は『下宿先』と呼ばれ、平和で穏やかな理想郷、西方浄土、ヴァルハラ、エリュシオン、蓬莱、高天原など、古来よりさまざな名で呼ばれた世界でもある。
世界には、基本世界を去った幻想種族たちが住み、緑ゆたかな自然あふれる世界での生活を満喫している。
この安らかな世界において、アトラ・ハシースとアストラルたちは、女神たちからの召喚を待ちながら生活するのである。

そして、人類の名だたる賢者たちのつどう『塔』のフロアにおいて、体重が1KGにも満たない灰色のロップイヤーラビットが、愉快に歌などをうたいながら、てけてけと歩いていた。
「♪とーんとん とんからりーの とーなりぐみぃー♪」
アトラ・ハシースたちは、みな、この歌ううさぎの存在に慣れきっており、だれも驚くことはない。
灰色の垂れ耳のうさぎは、アトラ・ハシースとアストラルがつかう文字にて『回覧板』と書かれた書類ホルダーを持っている。
ただのうさぎではない証拠に、歌も唄っているが、その指も、通常のうさぎとはちがって、人と同じように五本指をそなえている。
うさぎの名をくっきー。
かつて人であったころは、『司馬仲達』と呼ばれていた。


※めずらしくも早起きができたので(何十日ぶりだろう…)、朝アップ! でもって昨日の分のコメントに「エピローグ」と書いていました。おばかなワタクシ。終わってどうする…。そして拍手くださった方、ありがとうございましたm(__)m 本日から二人の孔明が交互に登場する展開となっていきます。ちょっぴりSFテイストです。