● こうせいニッキ●
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2007年4月12日(木)
流砂の絶佳 その十一

「どこへ行くのだ」
親しさゆえの無礼というわけで、挨拶を飛ばして趙雲は目が合うなり、孔明に問うた。
そしてさすがは目がきくことに、御者がいつもの男ではないことに、すぐ気がついたようである。顔をしかめ、たずねた。
「いつものやつはどうした」
「どれから答えればよい」
平静をよそおいつつ、孔明はちらりと御者の背中を見た。
御者のほうは、まるで緊張した様子はない。
さきほどの夢のような話がほんとうならば、自分のほうがつよいと分かっているので、恐怖もない、ということになる。
なんとも不遜なやつだと思いながらも、どこか憎めない男であるとも思う。
異国人の年齢はよくわからないものだが、肌つやのよさや双眸の表情から、おそらく自分とさほど変わらないだろうと孔明は判断した。
趙雲は、孔明のほうをじっと見て、それからなにやら考え込むように、おのれの顎をなぜながら、首をひねった。
「おまえ、さっき、錬兵場にいなかったか」
「宮城のか」
「そうだ」
「いないよ。左将軍府にずっと詰めていた。朝から一歩も外に出ていない」
だよな、といいつつも、趙雲は、まだ納得してないらしく、怪訝そうにしている。
「おかしいな。さっき、おまえに会ったのだ。具合が悪そうであったから、自邸へ送り届けてやろうとしたのだが、途中でいなくなってしまった。だから探しにきたのだが」
「わたしを」
「うん、おまえをだ」
孔明は、奇妙に思いながらも首をかしげて答えた。
「そうは言っても子龍、わたしは今日は宮城には出かけていない。あなたが会ったわたしというのは、ほんとうにわたしであったのか。だれかと間違えたのではないかな」
「おまえに似たやつが、そうそういるものか。まちがいなくおまえだった」

ふむ、と趙雲の話に首をかしげながら、ふと、孔明は気がついた。
本名・エウゲなんとか、現・来哲(仮)がいうには、孔明がさきほど千里の彼方を見ることができたのは、孔明にちかい何者かが近づいているからだと言っていた。
孔明はそれを、縁者のことを指しているのだと理解していたのだが、もしや、それではあるまいか。

そうして、思わず来哲の背中を見ると、趙雲もその視線につられて、来哲のほうを見た。
「いつもの男はどうした」
ああ、それは、とうその理由を言おうとした孔明より早く、来哲のほうが先に趙雲に答えた。
「ちょいと腹具合をおかしくしましてね、代わりに頼まれました」
男があきらかに胡人であったので、趙雲はおどろいたらしい。率直にたずねてきた。
「どこの国の者だ」
「安息国よりさらに北西の国ですよ。この時代には奄蔡(アラン)と呼ばれているんだったかな。どんな生活をしているんでしょうねぇ」
趙雲がどういうやつだ、と問いたそうに孔明を見たので、孔明は答えた。
「すこし変わり者なのだよ。気にしないでやってくれたまえ。名前は来哲という。本名がエウなんとかというのだが、呼びづらいので変えてみた」
「エウなんとかとは、なんだ」
「わたしにもわからぬ」


※昨日のうちにお話を途中までまとめました。頭のなかで出来上がっているものを、実際にカタチにすると、やっぱりズレが生じる…このズレをどんどん縮めることができたら、技術が向上した、ということなのかな、などなど考えます。早くそうなりたいもんだ。やはりここは、数をこなすことが重要? がんばろう…

2007年4月13日(金)
流砂の絶佳 その十二

「狐につままれた気分だ。どうにも納得がいかぬ」
と、趙雲は、ゆっくりと動く孔明の馬車に随伴しながら、首をひねりつづけている。
趙雲は、臨機応変に行動できる反面、矛盾したことに、頑固なところも持ち合わせているので、理解できないものにぶつかると、とことんまでそれについて考えてしまうのだった。
趙雲は、やはりどこに行くのかと再度たずねてきたので、孔明は来哲の指示どおり、平西将軍の屋敷に行くのだと答えた。
とはいえ、常日頃から親交のない人物の屋敷に足を伸ばす理由が思いつかない。さて、理由を問われたらどうしようかと思っていた孔明であるが、趙雲は、自分がさきほど見たという孔明のまぼろし(?)のほうが気にかかるらしく、
「ならば、俺も同行しよう」
と、行って、馬車に随伴したのである。
孔明は、来哲がおかしな真似をしないだろうかと気にしていたが、来哲のほうは、平然と御者に徹している。

「狐といえば」
と、趙雲が思いついたらしく、口をひらいた。
「尚書令のところに盗賊が入っただろう」
孔明はぎくりとした。
趙雲の勘のよさは、ときどきうすきみわるくなるほどに、するどいのである。
来哲のほうは、これはよほど肝が据わった男なのか、やはりそのひろい背中に動揺の影はみられない。
「しかしなにも盗まれなかったので、尚書令があつめている骨董品は、じつはみんな、盗賊が見向きもしないほどの偽物だらけなのではないかと噂になっているのは、知っているか」
孔明は、馬車の幌をかきあげたまま、うなずいた。
「そのようだな。口がさない者たちは、常日頃の尚書令の自慢癖に辟易しているから、ここぞとばかりに悪口をたたいているようだ。それも品のないことだな」
「まったくだ。しかし、自慢癖にみなが困っているのは事実だろう。あたらしい骨董品を仕入れるたびに、趣味人だけではなく、目についただれをも宴に招いて、えんえんと自慢話だ。
その品の来歴や逸話だけなら面白いのだがな、いかにして値切ったかを説明されても、俺にはさっぱり面白くない」
「その口ぶりでは、また宴に誘われたとか」
趙雲は、おそらく自覚はないのだろうが、ため息とともにうなずいた。
「いつもは親しくしていないどころか、無視されているというのに、どうしてこういうときばかり思い出されてしまうのかがわからない」
「あなたが聞き上手だからだよ。わたしのように、横から話題をさらったり、茶々を入れたりしないからな」
「俺も茶々を入れてみるか。しかし、蜜蜂が花園を飛びまわる勢いで話す尚書令に、よく茶々を入れられるものだ。それに感心する」
「コツがあるのだよ。そういえば、あの金の蛇の細工を手に入れたときの話は長かったな」

※明日から休みです。いろいろやらなくちゃいけないこともあるのですが、まずはHPだな~。週末はお疲れモードなのでいささか弱気でありますが、ゆっくり休みつつ、結果を出すようにしたいと思います。

2007年4月14日(土)
流砂の絶佳 十三

それは法正が、掘り出し物をもとめて、変装し市場へでかけたときのはなしである。
顔がきつねっぽいということで、すぐに身元がばれてしまうため、法正は、顔がすっぽりとかくれる頭巾を装着して市場へ出かけるのであるが、頭巾が蒸し暑くてのぼせてしまい、ざんねんなことに、いままでお忍びでろくな買い物をしたことがない。
それでも出かけてしまうのは、おなじ好事家から聞いた、お値打ち品を市場でぐうぜん見つけたという武勇伝に刺激されてのことである。

さて今日こそはと、法正が意気込んで市場をまわっていると、まさにそうした法正の意気を買ってのことか、まさかこんなものがというくらいに見事なものが、ぽつんと売られていた。
それが黄金の蛇の細工ものであったのである。
遊牧民は黄金を好み、農耕民は銀を好む傾向がある。
もちろん、そんなむつかしい分類は、法正のあたまのなかできっちりされているわけではなかったけれど、それを見て、これはおのれとおなじ漢族の細工ではなかろうと、法正は判断した。
それは女の細腕にはめるとちょうどいい大きさの、ニ匹の蛇がからみあっている意匠のもので、蛇のうろこから、妖しげな体の曲線まで、みごとに再現されていた。
法正は、最初はそれを見つけたとき、いよいよ掘り出し物を我が目で見つけたと喜んだのであるが、しかしもともとの性格が慎重なため、ふと、こんな疑問をおぼえたのである。

こんなに見事で目立つ細工ものを、どうしてほかの者が見つけないのであろうか、と。
もしや、これは新手の詐欺ではあるまいか。

とたんに喜びが失せ、かわりに疑心暗鬼にとらわれた法正であるが、見れば、店の店主は、往来の客に声をかけるでもなし、品物に見入っている法正にたいし売り込みをかけるでもなし、あくびなんぞをしてぼんやりしている。
風采は好ましいものではなく、手入れのあまりされていない汚れた髭に、おなじくあまりきれいとはいいがたい、粗末な麻の衣をまとっている店主である。
さて、こやつは、恐れ多くも(自分で言う)天下の尚書令たるこの自分をだまそうとする不埒なやからであろうかと、法正はじっと男を見つめたのであるが、男のほうはというと、ふうわと大きくあくびをしたあとに、法正のほうにぞんざいな視線を向けてきて、言った。
「それ、にせものだから」
法正は、やはり、と合点したのであるが、ここで法正らしく、べつな疑問にとらわれた。
素直ににせものと認めたのが、どうも怪しいではないか。

※本日より、すこしばかりきつねモード。Q・なんだってこのHPはきつねが厚遇されているのか? A・管理人の趣味。そして、わかる人には「こいつが出てきたか」となる予定。さーて、それはだれかはお楽しみに? でもって、明日はアップの日であります。さー、がんばって準備しようっと(^^♪

2007年4月15日(日)
流砂の絶佳 その十四

法正は、男を観察しながらも、器用に、いまの自分の風体が、相手にどういう印象を与えているだろうかと考えた。
足元をみられないように、あえて書生のようなナリをしてきたのであるが、かえっていけなかったのではないか。
法正が上客ではないと見て、男は、本物をわざとにせものだと言っている可能性はないか。

黄金の腕輪がほんものであるかどうか、触れてみようと、法正は、
「にせものとは、とても思われぬ。よく出来ておるのう」
などと言いながら手に取ってみた。
重さもほんもののように思われる。
そしてすこし汚れてはいるものの、身近で見れば、(法正はここでごくりと、興奮をおさえるために生唾をのんだ)まちがいなくほんものの輝きである。

「にせものでもかまわぬ。とてもよく出来ているゆえ、買い入れたいのであるが、いかほどであろうか」
と、法正は、声がひっくりかえらないように注意をして男にたずねてみた。
ところが、男のほうは、なんともやる気がなく、うさんくさそうに法正を見て、
「あんたにゃ売れない」
とぶっきらぼうに言った。
否定されることがなにより嫌いなのが法正である。むっとしてたずねる。
「では、だれに売れると言うのだ」
「あんたより金持ちにさ」
「金ならあるぞ。いまの風体から判断しているのならまちがいだぞ。わたしのことばを疑うのなら、我が屋敷にまでついてくるがいい」
「店はどうする」
「やる気もなく開けているだけの店ではないか」
ふん、と鼻を鳴らして、法正は、とがった顎をつんとそらせてつづけた。
「わたしが言えば、このような場末の市場の一角に出している店なんぞ、あっというまに潰せるのだぞ」
「あんたみたいな細いやつに俺の店が潰せるもんかい」
ここで、法正の誇りはいちじるしく刺激された。
目を細めて、男をにらみつける。
「たわけたやつめ。言葉どおりに受けとるとは。わたしが自ら潰すのではない。わたしが一筆、さらさらっと書いて、部下に見せれば、ここに取締りの役人が兵卒をつれてやってくるぞという意味だ。
まったく、脅し文句を微細に説明してやることほど、気持ちがそがれるものはないわい、わかったか、おおたわけ。というわけで、売れ」
男は腕を組んだまま、法正になにか言おうと口を開いたが、とたん、それはうしろのちいさな幕屋に隠れていた小男にさえぎられた。
「ちょーっとお! 上客逃してどうするの、このウスラトンチキの役立たず! そのお方のおっしゃるとおりになさい!」


※本日アップの日でありますが、すこしばかり時間がかかりそうですので、まず先にニッキだけアップさせていただきます(^^ゞ いつごろになるかなー。早めのアップを目指しておりますが、ちょっと予測不能。2本アップを目標にしております。どうぞお待ちくださいませね!

2007年4月16日(月)
流砂の絶佳 十五

きんきらと耳朶にひびく声に、法正は眉をひそめた。
頭から顎まで、すっぽりと頭巾でかくしている法正でさえ、小男の声が耳についたのであるから、ほかの市場の者たちにも、声はうるさく響いたらしい。
みなが非難の目を小男に向けるのであるが、つぎの瞬間には、みなが顔をそらした。
というのも、小男からは、なにか得体の知れぬ迫力が感じられたからである。
ここぞというときには肝のすわったところを見せる天下の意地っ張り、法正をして、小男を見るなり、踵をかえして逃げ出したくなったほどなのだ。

小男は、法正の腰ほどにも背丈がなかった。
赤い肌をした黄金の目をもつ小男で、頭髪の色は、黒い頭巾にかくれてわからない。
頭にもこぶがいくつかあるのか、おかしな具合に頭巾のうしろがふくらんでいる。
頭部からしても奇妙であるが、衣もまた奇妙で、一枚の大きな布に穴をあけて、そこに頭をとおして、腰に紐をまいているだけの簡素で粗末なものであった。

店の主とくらべてみれば、小男は子供よりもたやすくひねられそうなものなのに、力関係は見た目どおりではないらしく、ちいさな幕屋から小男が出てくると、店の主は、びくりと身体をすくませた。
そんな男を、小男は、手にしたおおきな木の匙で、ぺしぺしと容赦なく叩いてしかりつけるのである。
「この、ばか、ばか! ええい、もうひとつついでに、ほんとうに、ばか?」
「いてぇ!」
「いっちょまえに痛がってるんじゃないわよ! よっくご覧なさいよ、この方は頭巾で顔を隠してらっしゃるけどねぇ、アタシにはわかるわよ、貴相ってやつよ、偉いヒトなのよ! つまり金持ってるのよ! 
売れといわれたら、お買い上げありがとうございます、領収書のお名前はいかがいたしますか、包装紙は上等なのにいたしますね、でさっさと渡せっての! わかった?」
小男にぺしぺしと殴られながら、あまり痛くないであろうに、男はぶるぶると、さすがの法正も気の毒になるほどに身をふるわせて、涙声でうったえた。
「すみません、すみません、阿聞さま! この方に売りますんで、勘弁してくだせえ」
「勘弁なんてちっともならないけど、まあいいわ。
まあーあ、申し訳ありません、お見苦しいところをお見せしてしまいましたわねー」
ほほほ、と笑いながら、もみ手をして、阿聞と呼ばれた小男は、法正のほうに進みでてきた。
「この腕輪にお目をつけるなんて、おさすがですわねえ。
さあ、どうぞ、どうぞ、持って行ってくださいまし。
というか、うちのばかがご無礼を働きましたので、そのお詫びに、ただで持って行ってくださって結構です」
ここで喜ぶ法正ではない。
高価なものをただでいいと差し出されて、そうか、それでは、などと言って、喜んで受けとるような無作法はしないのである。
「いいや、そのような気遣いは無用であるぞ。
この法孝直、そこまで高価な品物を差し出されねば、腹をおさめぬほどの狭量者ではないからな」
とたん、阿聞の目がきらりと光ったのであるが、法正はそれを、品物をただにしなくてすむから喜んだのであろうと解釈した。


※三国志だよね? なんだろう、このヘンテコな登場人物たちは、と思われている方もいるはず。いったいお話はどこへ向かうのか? 徐々に明らかになってまいります。でもって、いつもいらしている方は、あー、ここでこいつか、となるはず。どうぞ見守ってやってくださいませm(__)m