● こうせいニッキ●
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2007年4月7日(土)
流砂の絶佳 その六

男の余裕をふくんだ声色に、孔明はすくなからず反発をおぼえた。
なんにせよ、挑発されたらこたえずにはいられないのが孔明の性分なのである。見た目はおとなしいのであるが、実際は負けん気がつよいのであった。
「名乗れ」
孔明が問うと、男は馬車をゆるゆると走らせながら、やはりのんびりと答えた。
「それはまだ答えられませんや」
「なぜ」
「あんたがどういうひとか、俺はよくしらないからです」
と、男は、はっきりと顔を向けてきたが、それは自分を孔明に認識させるためであると同時に、自分もまた、孔明の姿を見るためであるようだった。

男の顔を見て、孔明はおどろいた。
漢族ではなく、胡人だったからである。
頭巾をして頭髪を隠しているが、そこからはみ出ている毛は赤茶色の巻き毛で、その目は、孔明がさすがに怖じるほど、澄んだ瑠璃色をしていた。
全体に大作りな顔で、鼻は胡人がみなそうであるように、漢族などにくらべるとずいぶん長くて高いのであるが、鼻梁がすっきりと通っており、しかも目の輝きの印象がつよいため、高貴な人物のように見えた。

実際はどうだかわからぬぞと、気圧されそうになっているおのれをはげまし、孔明は思う。
ここ数十年、漢帝国は大きな戦乱のるつぼにあった。
そのため、危険を避けようとする異国からの商人は、長いあいだ平和のなかにあり、いまもまた、君主は交代したとはいえ、さしたる戦乱に巻き込まれずにすんでいる天然の要害の地・益州にあつまった。
成都は、そうした商人たちの一大集結地であり、全体をとおして、蜀という地が、これほど東西南北から多くの人々を受け入れ、にぎわったのは、漢王朝がはじまって以来のことなのであった。
土地がにぎわうということは、活性化をもたらす反面、悪いものをも引き入れる。
どうやら、この男は、その悪いもののひとつであるようだ。

「なぜ世を騒がす真似をするのだ。聞けば、そなたは他人の家に忍び込みはするものの、いまのところなにも盗っていないようす。もしも改心し、自首をするというのなら、わたしも主公にかけあって、そなたの罪状を軽くしてやるが」
孔明が言うと、男は顔を正面に戻し、鼻で笑った。
その仕草が、いかにも不遜であったから、孔明はむっとする。
「慣れねぇなあ、そういう物言い。封建社会のおえらいさんっていうと、たいがいそんなもんなんだろうけどよ。俺なんかは歴史書を読むかぎりじゃ、むかしはよかったな、なんてのん気に思っていたが、実際にこうしてみると、ぜんぜん俺の住んでる時代のほうがいい」
「? どういう意味だ。おまえはどこから来た」
「それについちゃあ、答えられねぇんです。ただ、ここ一日、あんたを見ていたが、ちゃんと約束を守ってくださったようだ。ほかの連中はだめだったね。盗人が家に入ったと大騒ぎしてさ」
「事実、そうであろうが。騒ぐのは当然だ」
「けど、黙っていてくださいよと念を押して、向こうはわかりましたと言ったんですよ。それでこれだもんなあ。人間不信になっちまう」
「勝手なことを。おまえの目的はなんだ」
孔明が問うと、男は頭巾の上から、おのれの頭をかいた。


※明日はアップの日であります。現在、アップ分作成中。でもって、HP改装も考えております。あらためて告知させていただきますので、どうぞよしなに~m(__)m

2007年4月8日(日)
流砂の絶佳 その七

「ですからね、そいつはリュウサノゼッカなんですよ」
「だから、それはなんだというのだ」
かみ合わない会話に苛立ちつつも、孔明は、あらためて男を観察した。
武器らしいものはもっていない。
腰に剣を佩いているわけではなし、頭巾になにか細工がしてあるという気配もなく、馬の鞭すらもっていない。
孔明の馬車をひく馬は、とくべつに気性のおとなしい頑丈な馬で、馬好きの趙雲が、孔明のために選んだものである。
おとなしい気性であるのはよいとしても、人見知りをする気性でもあり、馬は御者がいつもの男でないと、とたんにむずがるのであるが、しかしそんな様子もないところからして、男は馬のあつかいに慣れているのが見てとれた。

「軍師!」
聞きなれた声で遠くから呼ばれて、孔明は身を乗り出して、幌をかきわけた。
見れば、それは趙雲であり、どうやらかれもまた、宮城からおのれの屋敷へかえる途中であったらしい。
往来をいく馬車や水牛のひく荷車、そして鹿車などをかきわけてやってくる趙雲は馬上にいたが、その顔が近づいてくるにつれ、いつになく素直に、怪訝そうな気色を浮かべているのが見てとれた。
どうやら、孔明の馬車が、自邸とはちがう方向へむかうのを、あやしんでいる様子である。

これは助かったと孔明は思ったのであるが、御者の男は、ちぇっ、とちいさく舌打ちをして、孔明にたずねてきた。
「あの威勢のよさそうな男はだれですかい」
「翊軍将軍の趙子龍だ」
「趙、子龍。ええと、趙というと、あれか、趙雲のことか」
不遜にも、主君か親族でもかぎられたものしか口にすることができない名を、平然と口にするところが、いかにも異国のものであるらしい。
漢族であったなら、しかりつけてやるところであるが、成都での暮らしも長く、いりまじる諸民族の、それぞれの習慣や思想の差に理解のできていた孔明は、あえて口にするのをやめた。
あまりに無作法さが目につくようであったら、注意をしてやればよい。
ふしぎと、この頭巾の男からは、いちいち細かく説明しなくても、要点さえ教えてやれば、すべてを飲みこむことのできる賢さを、孔明は感じる。
男もまた、おのれの知性に自信があるらしく、それが、余裕を生んでいるように思えるのだ。

「ちぇっ、趙雲は不味いな。面倒そうだから、いちばんさいごにしようと思って
たのに」
「だから、なにをだ」
「だからリュウサノゼッカですよ。ともかく、ここは誤魔化すのがいいかな。協力してくださいよ、軍師さん」


※すこしずつ、すこしずつ設定が明らかになっていく予定のこのお話。いつもながらの「はあ(?_?)」な展開になることをお約束。とりあえず一週間分のストックは出来上がりましたので、今週はお待たせせずにお届けしたいと思いますm(__)m

2007年4月9日(月)
流砂の絶佳 その八
馴れ馴れしい男である。
協力してくれといわれて、わかったそうしようとうなずく理由はどこにもない。
孔明は柳眉をしかめると、趙雲に助けをもとめるべく、幌をかきわけ、趙雲に異変がおこったことを告げようとしたのであるが、男はというと、御者台から動くことなく、孔明に言った。
「変なことをしないでくださいよ。あんたを敵にまわすのは厄介だが、かといって、俺にも目的があって、それをあんたに知られた以上は、思い切ったこともしなくちゃいけなくなる」
趙雲に合図を送ろうとしていた孔明は、ぴたりと動作をとめて、男を見た。
「どういうことだ」
「言葉のとおりでさ。あんたに説明しても、きっとわけがわからないだろうが、俺はこの国の人間じゃない。おれはこの世界の客ですらない『時間介入者』だ。
あんまり長居もできないから、短い時間のあいだにぜんぶを終わらせなくちゃいけないのだ。あんたに見られたのは計算外だったんですよ」
「ほんとうに意味がわからぬな」
「そうでしょうともさ。さて、ずばりいいますぜ。あの強面の男に、俺のことを教えないでください。あんたはこれから、ちょっと用があって馬超の屋敷へ行く」
「平西将軍の屋敷に?」
なぜ、と問いかけて、孔明はやめた。どうせ答えはわかっている。『リュウサノゼッカのため』だ。
「どんな用かは、あんたのほうで適当に誤魔化してください。で、あの男がついてくると言ったら、無理に追い返さなくてもけっこう」
意外な申し出に、孔明はおどろいた。
「よいのか」
「かまいませんよ。たとえあの男が、あんたの様子がおかしいことに気づいて俺に殴りかかってきたとしても、俺にはあの男を消せるだけの用意がある」
物騒なことばに、孔明は趙雲がどんどん近づいてくるのを横目に見つつ、男にたずねた。
「武器を持っているのか」
「あたりまえでさ。『野蛮な旧世界』に丸腰で潜入する馬鹿はいない。この時代区域は潜入危険度がSランクだったが、入ってみりゃ、あんがいそうでもなかった。
ま、それはそれとして、俺はあんたらが想像もつかないような武器を持っていましてね、たぶん、この時代のどうぶつは、俺の武器の発する音に、まったく慣れていないから、びっくりして大暴れするでしょうね。空砲を撃つだけでも大混乱になりますぜ」
「おまえの言葉は呪文のようだ」
「そうでしょうとも。ともかく、危険だ、ってことは覚えていてください。武器はひとつやふたつじゃない」


※男の正体とは、一体…?(週刊誌の次回予告風に)昨日はに拍手をくださったかたがた、どうもありがとうございました(^^♪ うれしさひとしおであります。さて今週水曜日にアップは確実にできそうです。お時間のある方、どうぞ遊びにいらしてくださいまし(^^)/
2007年4月10日(火)
流砂の絶佳 その九
男がたいへんな誇大妄想狂で、自分を脅すためのハッタリを口にしている可能性もあるわけだ。
孔明は男がうそをついている可能性について考えたが、しかし、男のことばの意味は半分も理解できないまでも、そこになにかしらの真実味がかんじられるのも事実であった。

ただの盗人ではない。
趙雲のことを知っていることをにおわした、さきほどの言葉から探れば、蜀の高官について、ある程度の下調べはしている様子である。
他国から派遣された細作にしては、風体が目立ちすぎる。
中原に住まう者、あるいは江東に暮らす者から見れば、いくら成都が山深い異民族たちにかこまれた僻地のように思われているにしても、これほど極端な風体の人間が目立たないはずがないと、子供でも理解できるはずだ。
細作にはあまりに向いていない。

孔明の戸惑いを見てとったのか、男は言った。
「俺のことばはわからないでしょう。けれど、それでいいんですよ。理解されたら、そのほうが怖いや。
でもあんたを納得させるために、ひとつ話をしましょうか。あんた、さっき、遠くが見えませんでしたか」

遠く、と指摘されて、孔明は、左将軍府のなかで見た、奇妙な地平線の様子を思い出した。
黒い群雲のしたに風にさわぐ草原と、一本の枯れ木。見えるはずのない、千里の彼方の風景である。
なにより奇妙なことは、孔明はそれを見たときに、なんら疑うことなく、それが『千里の彼方の光景だ』と理解したことであった。

「あんたは、普段は千里眼なんてできやしない、ごくふつうの人だ。けれど、さっきは自然とそれが出来た。
なぜなら、あんたに『潜入者』の影響がでているからだ」
「だれの?」
「潜入者。『時間介入者』である俺を監視し、敵か味方か探っている連中のことです。
そいつは、あんたに近しい人間なので、あんたにそいつの影響がモロに出ているんだ。
ただ、連中にも細かい規則があって、直接、あんたに接触することは禁止されている。だから姿をあらわすことはないが、いることは確かだ。
視線をびんびん感じるからね」
「なんだかまったくわからないが、そやつらは魏か、それとも呉か、それともまったく別の者たちか?」
「あんたにとっちゃ、敵でも味方でもない連中ですから安心していいですよ。
ともかく、もうひとつ、ふしぎに思いませんか。
あんたは千里眼のことをなにひとつ自分では口にしなかったのに、俺はあんたのことを知っているってことを」


※まーだまだOPのお話ですが、さて、なんとなーくお分かりのとおり、ずんだGAMEのお話の設定もすこし出てきますが、未読の方にも楽しんでいただける内容を目指しております。いかにも当HPらしい突拍子もないお話になりますのであらかじめご了承くださいませm(__)m
2007年4月10日(火)
流砂の絶佳 その十
指摘されてみればそのとおりで、孔明は、あらためて男をうすきみわるく思った。
「俺はあんたたちと同じ人間だが、けれど違うところがある。それはあんたたちよりよく見える、ということなんですよ。
特に俺は訓練されたので、人の思念に同調し、そいつの視ているものに介入できる。
あんたは、今日一日、なんだか仕事がはかどらなかったでしょう」
「そのとおりだ」
「俺が介入しているのを、なんとなくだが感じていたからです。それが負担になって疲れたんでさ」
「やっぱりよくわからぬが、迷惑をかけられたということだけはわかった」
「謝ります。けれど、わかってもらえませんかね。俺はあんたより、圧倒的に有利な人間だ。
視界に介入すれば、たいがいの人間がなにを考えているかが読める。あんたがなにを考えているのかだって読めますぜ」
「わたしが目を閉じたら?」
「わからなくなるが、そうなると、あんたも真っ暗闇のなかに放り込まれることになるでしょう」
「たしかにな」

荒唐無稽な話である。
仙人かぶれの詐欺師にも、おどろくほど話術にたくみなものがあるが、もしそうだとしても、この男の話は、独創的にすぎた。
詐欺師は人を信用させるため、ある程度の真実と、そして『どこかで聞いたような』話を絶妙に混ぜるものである。
しかし、男の語るような話を、孔明はそれまで聞いたことがない。

「わたしに協力をせよと申すのだな」
あらためて孔明がたずねると、男は、すこしばかり肩をすくめて答えた。
「話が早くてたすかる。なんとなく、あんたとはうまくやれそうな気がしたんだ。頭のやわらかいやつは大好きでね。
俺のことは、とりあえず適当に、そうだな、クロノスとでも呼んでください」
孔明は、しばしクロノスの名を口で反覆してみたが、発音がむつかしく、どうにも舌に慣れなかった。
「言いづらい。子龍が不審に思うぞ」
「それじゃあ、あんたが適当につけてください」
「元の名はないのか」
「エウゲニー・バルエフスキー」
「えう、えうげ、えう、えうげ? ええと…………なんだって? どなたさま?」
「言いづらいでしょう。識別番号ならあります。クロノス第参軍参謀・零七番」
「では、零七では奇妙なので、零でよかろう」
「それもおかしくありませんか。もうすこし、この時代風の名前がいいな」
「ぜいたく者め。なんだかさっぱりわからぬから、そなたの名は来哲でよろしい」
「来哲(未来に現われる賢者)。良い名をくださいましたね」
「あんまりおかしな名だと目立つからな。子龍が来た」


※ちょびちょびと(じゃ、だめじゃん!)改装をはじめています。問題点だらけでなかなかこれだ、というぴったりした改善策が浮かばなかったりしますが、現時点でいちばんいい状態になったらなと思います。まずはデータのダイエットだなあ…