● こうせいニッキ●
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2007年3月12日(月)
きつねのリハウス 劉巴邸・六

酒を飲まなかったこともあり、もともと神経質なため眠りの浅い法正は、子供たちがおのれの身体を揺する気配にて目をさました。
闇の中に、ぼんやりと見慣れた輪郭をつくって起き上がっているふたりの子供たち。
月が出ているものか、扉の向こう側の空は、いがいなほどに明るい。
まだまだ眠れる時間ではないか、どうして起こしたのだと苛立ちかけて、法正は思い出した。
劉巴の家に、夜、ぶきみな声がひびくので、子供たちがおびえてしまっているのだった。
それの正体をたしかめるべく、声がまた聞こえたら、起こすようにといい含めていたのである。

さて、そのことを思い出してから法正は、さむいので夜具をかぶったまま、真夜中の異変に、おびえているというよりも、むしろ興奮気味の子どもたちをなだめるべく、近くに寄るようにというと、三人で手をつないで、じっと耳をそばだたせた。
となりで、やはり薬が混ぜられていたものか、ぐうぐうと怪物じみた大きないびきをかいているのは妻であるが、それはさておいても、たしかに闇の帳をぬけて、赤ん坊の声が聞こえてくる。
その声を聞いて、法正はぞっとした。
赤ん坊のものとおぼしきその声は、だれかを求め泣き叫んでいるのか、切迫感に満ちていた。
赤ん坊だとすると、この声は、まさに母親の姿を求めているものなのか。
やはり、いまだ姿を見せない劉巴の娘たちに、なにか秘密があって、赤ん坊ともども隠されてしまっているのか。
だれも容易に入ることも、そして表にでることもかなわない堅固なつくりの窓もない部屋にて、三人の、まったく正気に見えない女たちが、赤ん坊を抱えて、狂乱の声をあげているといった、ぶきみな空想を、法正は抱いた。

すると、息子が、突如として、素っ頓狂な声をあげた。
「ちちうえ、見て!」
その声にうながされて見れば、なんと、とびらの向こうで、なにものかがゆっくりと廊下をうごめいている。
うごめいている、と表現したのは、そのモノにしてみれば、歩いていたのかもしれないが、法正には蠢いているようにしかみえなかったからである。

それは、人よりもすこし大きな蛹のような姿をしたモノであった。
手足があり、盲目であるのか、闇を手探りで歩いているらしく、身体にしてはちいさな手をさまよわせている。

それが、ゆっくり、ゆっくりと、廊下のほうから、ずるり、ずるりと嫌な音をたてて動いているのである。
月光をうけて扉に投じるその影は、蛹に手足が生えたような、じつに奇怪なものであった。

ここで勇気をだして表に出て、物の怪の正体をたしかめる法正ではない。
法正は、口はだすが自分で動くことはしない男なのだ。
というわけで、親子三人、
「寝てしまえ! 朝になれば、とりあえず元通りの生活に戻れる!」
という法正の、いささかいくじのない主張にしたがって、夜具をかぶって、そのまま朝まで、見なけりゃよかったと後悔しながら、ぶるぶると震えながら過ごした。

※すこし早起きをして正解でした。雪が積もっています…。しかもまだ降ってるし。今年いちばんの積もり方ですね。この程度なら歩いていけないこともない、かな? がんばって行ってきます。

2007年3月13日(火)
きつねのリハウス 劉巴邸 七

劉巴の秘密主義は徹底しており、法正が個人的にどうしても好きになれないタイプがやたらと多くつとめている左将軍府にコネを多く持つ部下に、劉巴のことについて調べさせたのであるが、結果はかんばしいものではなかった。
なにせ、夫人からしてどこの出自なのか、だれも知らない。
三人いるという娘たちの姿を見た、というものもなく、どうやら劉巴の女たちは、みなしてあの清潔でうつくしいが、どこか陰気な空気のただよっている屋敷のなかから、一歩も出ないで過ごしているようであった。

そうした劉巴の屋敷のふしぎさについて、いままで噂にならなかった理由は、やはり世間の、劉巴への遠慮があったからである。
それに、劉巴という男、普段は温厚で、挙搓も士大夫らしい優雅さにあふれており、その身の処し方についても、徹頭徹尾、志に根ざしたものなのであるが、それまで抱えてきた苦労のためか、文官にしてはえもいわれぬ迫力を持っている男でもあるのだ。
だから、左将軍府のトップである孔明でさえも、劉巴にはたいへん気をつかっているという話も、法正の耳にとどいてきた。

『あまり騒がぬほうが得か』
と法正は考えたが、しかし、真夜中にみたあのぶきみな、手足のはえた巨大蛹を、世間体だけを気にして見なかったことにするわけにもいかない。
とはいえ、それがいったいなんであるかを確かめる術もない。
『そういえば、劉曹掾は、わが主公が荊州三郡を取ったさいに、これから逃げるべく南の蛮地に身を潜んでいたことがあったな。そのときにめぐりあった怪しげなる者たちを、じつは屋敷に匿っているのではなかろうか』
とはいえ、何千里と遠くはなれた彼方の地に逃げていたわけではない。
周辺の、それこそ何十とある多くの部族があつまってくる交易都市・成都に、幼少のころよりなじんでいる法正は、中原の者がしきりに言うように、自分たちの国の外では、姿すらちがう人間が住んでいるなどという奇妙な空想には同意しかねるのである。
巨大蛹が廊下をうごめいていたのは、ほんのすこしのあいだで、法正が、おそるおそる廊下をたしかめたときには、もう姿は消えていたのだ。
そのことを少し悔いる気持ちが沸き起こってきたが、そこはあえて
『君子危うきに近寄らず、である』
と、おのれに言いきかせて、だれにも語らないことにした。

あの身をふるわせ、耳をいじめる、赤ん坊の泣き声によく似た声にしても、その後、ずっとつづいていたのであるが、これにも法正は沈黙することにした。
そうして、法正は、妻と子の強い要望のもと、予定を切り上げて、劉巴の家をあとにすることにした。


※昨日の雪から一転、快晴の仙台です。積もった雪が融けて、町中マイナスイオン(かもしれない)。道が凍っていないといいなと思いつつ、さて出かけて参ります。

2007年3月14日(水)
きつねのリハウス 許靖邸 一

許靖の家は、成都の郊外にあるちいさな小山がまるまるそれである。
もともと巴蜀の地は、晴天であることがすくない土地であるが、許靖の屋敷というのは、さらに遠方からだと、なぜか靄がかかって、頂上が見えず、まるで神仙の住まいのようですらある。
屋敷の門は、宮城の門のように立派な構えをしており、部曲のものたちが、人の出入りを見張っているが、いかめしい雰囲気はなく、みな笑顔である。
山の上にあるがため、出入りするためにはなかなか急勾配な坂をのぼらなければならないのであるが、許靖は、おのれと訪問客、そして広大な屋敷に住まう家人たちのために、往復するための車をわざわざ用意していた。

法正一家は、劉巴の家の奇妙な経験で、はやくも他人の家に住むことにつかれてしまっていたが、許靖の家にやってくると、それまでの鬱々とした様子を捨てて、法正をのぞき、みな晴れやかな顔になった。
それというのも、出迎えの車、これがとんでもなく派手であったからである。
そうして、法正を出迎えにあらわれたのも、許靖本人であった。

この許靖は、若い頃は、法正が足元にも及ばないほど気性の激しい人物であったということだが、いまはすっかり丸くなって、面倒見のよい好々爺に転じている。
その、様子からは、劉表や小覇王・孫策を向こうにまわし、一族のために策略と武力でもって大立ち回りをしたと想像することもむずかしい。
とはいえ、許靖の人物は、当時の基準からみれば、立派であると表現するのはむずかしい人物であることも事実だ。

さて、ここですこしだけ説明をしておこう。
劉巴とおなじく、許靖もまた、孫策との確執から命をねらわれる身となり、一足をつれて南の地に逃げ込んだ。
荊州から交州、そして益州に至る、逃走ルートというものが当時はあり、そこを仕切っていたのは、地元の異民族の長であった。
地方にてかれらが力をつけて、たとえ一部分だとしても、漢族よりもつよい影響力を持てるようになっていたのは、もちろん、内戦が多くつづいたために、辺境の地に漢王朝の力がおよばなくなっていたこともある。
大人数を連れて、慣れない道を、異民族からの圧力や、湿気の多い土地で襲い掛かる風土病に悩まされながら、許靖はいのちからがら、益州に逃れたが、その逃避行のさいに、何百という人命がうしなわれた。
それほどに、過酷な旅路であったのだが、この悲惨な経験が、許靖のその後の人生観や、義を守ることよりも生に執着するという価値観に、大きな影響をあたえたのはまちがいない。

※なんだか寒さが戻ってきた仙台であります。さむー(>_<) さて、HPのアップ準備ですが、進めてはいるのですが、アップは明日の予定となります。どうぞ遊びにいらしてくださいませ(^^)/

2007年3月15日(木)
きつねのリハウス 許靖邸・ニ

「なんとまあ」
広い、ということを誉めるべきか、人がやたらと沢山いることに驚くべきか、どこもかしこも美しく掃き清められていることに感心すべきか、それとも、許靖の家人たちが、みな異様なほどに愛想がよく、さらにはその足取りも、まるで踊っているかのようにリズミカルであることを不思議がるべきか。

法正はどれにするか迷ったが、結局、どれも口にしなかった。
というのも、そんな感想をこぼすまえに、ふしぎなことにいくつも気がついたからだ。

まず、山のてっぺんを切り開き、一族郎党のために家屋だけではなく、さまざまな施設を建築したというのだが、その建物様式は、成都どころか蜀、いや、近隣諸国すべてにも類のないものだ。
大きな門(関所と呼ばれている)をくぐると、淡色を主流とした二階家のつらなる町並みが、まずひかえている。
その一階は、なんと商店になっており、許靖の一族というには、あまりに多すぎるひとびとが、そこで買い物に熱中している。
道はすべて石によって舗装されており、その上に、人ばかりではなく、法正たちが乗ってきた、派手に装飾された馬車が悠然と歩いている。
どうやら、広すぎる敷地内を移動するためのものであるらしい。
徒歩で移動するのはなかなかの苦労であるらしく、中には、買い物袋を両手にさげて、疲労困憊という顔をして、ベンチに崩れている男の姿もある。

やがて法正は気づいた。
どうやら、この屋敷は、おどろいたことに、許靖の一族だけではなく、一般にも公開されているのだ。
漢族ばかりではなく、近隣の異民族なども、家族づれで足を運んできているらしい。

法正はちっとも知らなかったのであるが、妻子たちのはしゃぎっぷりから耳にしたところでは、ここは成都でも有数の『あみゅぅずめんと・ぱあく』というものであるらしく、舗装された道も、広くて、色とりどりの花が整然と植えられているのも、その名声に引き寄せられてあつまる観光客のためであるらしい。

広場の向こうには、やはりこれまた奇体な尖塔をもつふしぎな建物があり、その建物を中心に、人工の岩山を模した奇妙な建築物もあれば、地面に大きな椀をひっくり返したような建物、人間が三人以上なかにはいれるくらい大きい、取っ手つきの扁平な椀がぐるぐる回る、おかしなものもある。

そして法正が気になったのは、花壇の花々が形づくっている、なぞのネズミの輪郭である。
そのネズミの紋章は、それこそぐるりと取りまく視界のすべてのあちこちに見られる。
どころか、そのネズミの着ぐるみまでが出動し、観光客に愛想を振りまいている。
いったい、このネズミは何者なのであろうか。


※眠気に負けて今朝は朝寝坊してしまい、朝一アップができませんでした…。HPの運営について、まだまだ悩んでいたりするわけですが、理想としては、どんな作品も均等レベルにまで押し上げること。もうすぐ三周年ですし、頑張ってみようかな、と思います(^^♪

2007年3月16日(金)
きつねのリハウス 許靖邸・三

法正の妻子が大喜びで、全部まわるにはどういうルートで行くべきか、あんまり並ばないように効率よく、などと、にぎやかに話し合っている横で、許靖は、みなが楽しそうにしているのをながめて、うれしそうに髭をしごきながら、うんうんとうなずいている。
法正は、その許靖に、おそるおそるたずねてみた。
「許長史、おたずねしたいのであるが、このお屋敷は、いったいなんなのでございますかな」
たずねられると、許靖は、子供のように、にやっと笑って、答えた。
「尚書令はご存知ありませんでしたか、ここはわたくしの建てたあみゅうずめんと・ぱあくでございまして、その名も『DEATH NEED LAND』でございますよ」
「です・にーど・らんど? なにやら不吉な響きであるが、意味がわからぬ。ところで、あちこちで目につく、このネズミはいったい、なんなのであろうか」
「おお、このネズミこそは『DEATH NEED LAND』の誕生のきっかけでございましてな、ご存知かもしれませぬが、わたしはかつて、小覇王と領地をめぐって争そいましてな、それ依頼、孫家には命をねらわれる身となり、揚州にいられなくなったため、交州から益州へ抜けて逃走することにしたのです」
「それは知っておるがのう」
「しかし、その道中たるや悲惨のきわみ。なにせ気温がちがいます。温帯湿潤気候になれた身には、温暖冬季少雨気候はきつい。ちなみに記号でいうと、CfaからCw。テストに出ますぞ」
「テストは卒業しておるわい」
「ともかく、ただでさえ不衛生な逃避行、しかも漢王朝の支配力がよわまったことをよいことに、交州に根城のありました蛮族どもが、わたしたちを昼夜問わず、襲ってくるのです」
「それは大変であったな」
「いやはや、大変なのは人間もそうですが、困りましたのは、ネズミが大量発生したことです。どうやら食糧のなかに紛れ込んでいたのが、不衛生な環境が連中にとっては天国であったらしく、あれよあれよと増えまして、まさに芋煮状態」
「なんと…」
「そのうちのネズミがどうやら病を運んでいたらしく、ばたばたと人が倒れてしまいましてな、食糧も腐ってしまい、水も清潔なものが手に入らない、泥水を飲み、野草を喰らう日々。飢えて死ぬ者、過酷な環境に耐えかねて気がふれてしまったもの、蛮族にさらわれて帰ってこなかった者……文字通りの地獄でございました」
「ううむ、想像するだにおそろしい」
「まさにその日々の象徴がこのネズミでございまして、今日の平和あるのも、ネズミに苦しめられたあの日々があればこそということを、いまのおのれが忘れないように、ネズミをますこっと・きゃらくたあに採用したのでございますよ。
ま、それはともかく、尚書令もご家族とともに、わが屋敷で遊び倒してくだされ」
「そんな重い話を聞かされて遊べるか!」
「ちなみにこのネズミも、ただいま商品展開をしておりまして」
「スルーかい。しかし輪郭だけ見れば、どうもよく知っているアメリカねずみっぽいのであるが、名前はなんという」
「ミッ……」
「う、ミッ○ーマウス?」
「いんや、ミッフィーマウス」
「ビミョー!」
「輪郭は、例のアメリカねずみですが、顔の表情は例のうさぎです」
「大丈夫なのか………いろいろと」

※さてはて、日曜日に向けてアップ準備に動いております。そんなわたくしに心の栄養をくださった方が。アンケートにて、ステキなコメントをくださったUさま、ありがとうございます(^^♪ 力が湧いてきた~。さー、日曜日のアップ分、頑張って仕上げますぞ!(^^)!