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酒を飲まなかったこともあり、もともと神経質なため眠りの浅い法正は、子供たちがおのれの身体を揺する気配にて目をさました。
闇の中に、ぼんやりと見慣れた輪郭をつくって起き上がっているふたりの子供たち。
月が出ているものか、扉の向こう側の空は、いがいなほどに明るい。
まだまだ眠れる時間ではないか、どうして起こしたのだと苛立ちかけて、法正は思い出した。
劉巴の家に、夜、ぶきみな声がひびくので、子供たちがおびえてしまっているのだった。
それの正体をたしかめるべく、声がまた聞こえたら、起こすようにといい含めていたのである。
さて、そのことを思い出してから法正は、さむいので夜具をかぶったまま、真夜中の異変に、おびえているというよりも、むしろ興奮気味の子どもたちをなだめるべく、近くに寄るようにというと、三人で手をつないで、じっと耳をそばだたせた。
となりで、やはり薬が混ぜられていたものか、ぐうぐうと怪物じみた大きないびきをかいているのは妻であるが、それはさておいても、たしかに闇の帳をぬけて、赤ん坊の声が聞こえてくる。
その声を聞いて、法正はぞっとした。
赤ん坊のものとおぼしきその声は、だれかを求め泣き叫んでいるのか、切迫感に満ちていた。
赤ん坊だとすると、この声は、まさに母親の姿を求めているものなのか。
やはり、いまだ姿を見せない劉巴の娘たちに、なにか秘密があって、赤ん坊ともども隠されてしまっているのか。
だれも容易に入ることも、そして表にでることもかなわない堅固なつくりの窓もない部屋にて、三人の、まったく正気に見えない女たちが、赤ん坊を抱えて、狂乱の声をあげているといった、ぶきみな空想を、法正は抱いた。
すると、息子が、突如として、素っ頓狂な声をあげた。
「ちちうえ、見て!」
その声にうながされて見れば、なんと、とびらの向こうで、なにものかがゆっくりと廊下をうごめいている。
うごめいている、と表現したのは、そのモノにしてみれば、歩いていたのかもしれないが、法正には蠢いているようにしかみえなかったからである。
それは、人よりもすこし大きな蛹のような姿をしたモノであった。
手足があり、盲目であるのか、闇を手探りで歩いているらしく、身体にしてはちいさな手をさまよわせている。
それが、ゆっくり、ゆっくりと、廊下のほうから、ずるり、ずるりと嫌な音をたてて動いているのである。
月光をうけて扉に投じるその影は、蛹に手足が生えたような、じつに奇怪なものであった。
ここで勇気をだして表に出て、物の怪の正体をたしかめる法正ではない。
法正は、口はだすが自分で動くことはしない男なのだ。
というわけで、親子三人、
「寝てしまえ! 朝になれば、とりあえず元通りの生活に戻れる!」
という法正の、いささかいくじのない主張にしたがって、夜具をかぶって、そのまま朝まで、見なけりゃよかったと後悔しながら、ぶるぶると震えながら過ごした。
※すこし早起きをして正解でした。雪が積もっています…。しかもまだ降ってるし。今年いちばんの積もり方ですね。この程度なら歩いていけないこともない、かな? がんばって行ってきます。
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