● こうせいニッキ●
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2007年3月5日(月)
これから・ニッキ編

おかげさまで、くっきき。無事連載を終了させることができました。みなさま、お付き合いくださってありがとうございました(^^)/
さて、占いだ、なんだを持ち出すまでもなく、ここ三年ほどの自分自身の変化は、自分で冷静にながめてみても、おおきいように思えます。
外見的にもそうですが、やはりおおきいのは思想面。同じ自分でも三年前の自分と話が合うとは思えないほど(^_^;)
しかし野放図でいいかげんな部分はなかなか矯正されませんで、今後の課題であります。
ブログのほうで拍手に似た『ペタ』という足跡を残す機能があるのですけれど、そこを残してくれた男性のプロフィールに、
好きなことばとして「生れ変わるなら生きているうち」というのがありまして、ああ、なるほど、いいことばだな、などと思った次第。

と、長い前置きはさておき、今後のニッキの予定です。

キツネのリハウス
明日から連載がはじまります。
法正の家が失火で焼けてしまい、なんだかあちこちの家を転々とする、というものがたり。
まずは劉巴の家からはじまって、よく出てくる人々の家をぐるっと回って、また劉巴、という構成を予定。最初はシリアス→おばかというふうになっていきます。
登場人物がマイナーだなあ。まあ、そこは、はさみの世界ならでは、ということで(^_^;)

流砂の絶佳
タイトルだけ決まったおはなし。
時間的に見て、『キツネ』の連載が終わるのが、おそらく4月半ばか、以降。
そして4/29は、当HPの三周年記念、というわけで、ちょっと特別なお話も書いてみたいな、などと考えています。
ずんだにするか、それとも現代版にするか、まったく舞台設定の異なるシリアスにするか、まだ未定ですが、三周年らしいごった煮の世界になったらいいなあと思います。
流砂の絶佳というタイトルは、むかーし構想だけ考えた『ナポレオン軍に財宝を奪われたエジプトの古い部族の末裔の娘が、財宝を取り返すべく、北アフリカ、ヨーロッパを渡り歩く』というお話より。
知識と筆力が現段階でもまったく追いつかず、おそらくこれは日の目をみない確率のほうが高い。ならタイトルだけでも、というわけでタイトルを流用。
あ、内容はナポさんではなくて三国志になります。
どんなお話にしようかなー(^.^)

本編そのほかが、やはり舞台が戦乱の世、というわけで、どうしても血なまぐさい展開になりがちなので、なるべくならニッキはお気楽に読んでいただけるものを目指したいところです。
今後とも、こうせいニッキをどうぞよろしくおねがいいたしますm(__)m

2007年3月6日(火)
きつねのリハウス ごあいさつ 

とうとつであるが、法正の家が焼けた。
市井は、この話題でもちきりである。
原因は失火。
あの方のことであるから、命を狙われての放火ではないかという暗い噂もながれたが、そうではない。
ちょっとしたボヤであったのだが、その日は、あいにくと風がつよく、あっというまに火がまわってしまったのだった。
さて、市井の声をすこしばかりひろってみよう。

「焼け落ちた家の土台を見た者が言っていたが、果たしてこれが人の家かというほどに複雑な構造をしていたらしい」
「マル適マークはもらっていたのだろうか」
「いや、もらっていなかったらしい。なぜに複雑な構造にしていたのかといえば、暗殺者をおそれて、増改築をくりかえしたうえに、トラップをさまざまに仕掛けていたらしいのだな。
たとえば、わざと行き止まりの廊下をつくってみたり、フェイクの玄関を置いてみたり、開かない窓や、明かり取りにみせかけた扉など、それはもう、かの有名なサンフランシスコのウィンチェスター邸宅並みの改造度であったらしい」
「ちょっと待て。さきほどから、バシバシとカタカナが飛び交っておるのだが」
「気づいたか。今回はおばか企画なのだ」
「今回も、だろう。では、焼け出された尚書令のご一族はどうなされているのだ」
「とりあえずは飯店に宿泊しているそうなのだが、なにせ荷物がすごい」
「荷物?」
「うむ。知ってのとおり、尚書令どのは骨董あつめが趣味で、火事のさなかも、家人の制止をふりきって、なんども火の粉をかいくぐり、骨董を助けるために燃え盛る炎をものともせずに走り回っておられたそうな」
「命知らずなことよ。そうした慈悲を、なぜに人に向けぬのか」
「そこはそれ、尚書令さまであるからのう。荷物がすごいために、飯店の部屋のほとんどを借り切っているのだが、そこでほかの宿泊客よりクレームが出た。おかげで、いま借りの宿りをさがしておられるそうな」
「ふうん? しかしそれほど荷物がすごいのであれば、受け入れ先もおのずと狭まろうな」
「そこよ。で、主だった重臣があつまって会議をひらいた結果、とりあえず尚書令さまのお屋敷があたらしく出来上がるまでは、あちこちのお屋敷に泊まることになったらしい」
「それも落ち着かぬ話だのう。お気の毒に」
「さらに悲惨なことに、いつもは親しくしている方々は、なんやかやと理由をつけて、尚書令のご宿泊を断られたそうな。いらっしゃいと声をかけてきたのは、左将軍府の面々がほとんどであったとかで」
「それはまた気詰まりなことであろうな」
「そういうわけで、『キツネのリハウス』、はじまりはじまり」


※はじまりました「きつねのリハウス」、これまた脱力系のお話となりますので、お気軽に楽しんでいただけたらと思います(最初の一週間ほどシリアスな展開になりますが、あとはいつものパターン)。さてブログでもご連絡しましたが、アップは出来ましたら明日を予定。だめそうなときは朝に連絡できるようにしておきますm(__)m そういや、どうなったかなと、ニッキの更新を見がてら、覗いていただけたらうれしいです(^^)/

2007年3月7日(水)
きつねのリハウス 劉巴邸・一

法正が最初に招かれたのは劉巴、字は子初の屋敷である。
劉巴はもともと、法正とおなじく劉璋につかえていたのであるが、法正とは、立場はまったくちがった。
もともと荊州人士であったのが、劉表と対立し、曹操の家臣となったものの、その後、劉備が荊州三郡を奪取すると、曹操のもとに戻れなくなり、やむなく南方をまわって蜀へ逃げ、劉璋に仕えることになったという、複雑な来歴をもつ人物である。
人付き合いがわるいことで有名であるが、それも単に人嫌いというわけではなくて、派閥をつくることによって人品が腐敗することを避けてのことであり、徹底した清廉の士でもある。
そうしたところから孔明に尊敬されているようで、劉備が成都を征服したのち、招聘を無視してずっと引きこもっていたのであるが、孔明にぜひにと頭をさげられて、左将軍府にて曹掾をつとめている。

左将軍府の人間であるとはいえ、法正は、劉巴には信頼を置いていた。
というのも、この男が孔明びいきであることは知っていたが、それは妙にベタベタしたものではなく、突き放した冷静な関係であったからだ。
つまり、法正が滞在中に、孔明のために劉巴がおかしな小細工をすることはないといえる。
しかし、その人物が得意かどうかと問われたら、法正は苦手、と答えたであろう。
若い頃から名望高く、趣味もよいため、屋敷もたいへんに居心地がよいのであるが、なにより劉巴自身が、なにを考えているのか、いまひとつよくわからない。
いつも笑っているような目をしているが、その表情の奥でほんとうになにを考えているのか、まったく読めないのだ。
劉巴には妻がおり(おどろいたことに、いるのである)さらには娘ばかり三人いる(いるのである)。

法正が、おのれの家族、妻、娘、息子をつれてあいさつに顔をだすと、劉巴のほうは、ひとりで応対した。
「申し訳ない。本来ならば妻たちも顔を出させるべきでありましょうが、そろいもそろって風邪をわずらいまして、奥で休んでおります」
「それはこちらとしても申し訳ない。間の悪いときにきてしまったようですな」
素直に尚書令がいうと、劉巴は、ゆったりとした挙搓でもって、鷹揚にほほ笑みつつ言った。
「お気遣いめさるな。みたとおり、広いばかりが取りえの屋敷に、すくない人数で過ごしております。わが家と思って、おくつろぎくだされ。なにか用事がありましたら、家令になんなりとお申し付けいただきたい」
そういって、劉巴は、目のどんよりと暗い、蛙のような、じめじめとした雰囲気をもつ、年齢のよくわからない男を呼び出した。


※風邪? 花粉症? なんかいまひとつ症状がはっきりしないのでわかりませんが、すみません、本日アップ予定でしたが、延期になりましたm(__)m 次回アップ予定は未定です。楽しみにきてくださったかた、ほんとうに申し訳ありません。早く治るといいな…

2007年3月8日(木)
きつねのリハウス 劉巴邸・ニ

劉巴が口にしたとおり、その屋敷は広かった。
なにせ向こう側の塀が見えない。
樹木に囲まれているというのではなく、広くて見えないのである。
たしかに広さにみあわず、そのなかで過ごしている人間の数はすくないらしく、庭に出た法正は、うしろからのそのそと、足を引きずってついてくる家令のほかに、劉巴の家人の姿はない。
しかし手入れはされており、庭はどこもかしこも美しく掃き清められ、目に心地よい。
しかし、法正は落ち着かない。
視界が暗く感じられるのだ。
それは、妻や子たちもおなじであるらしく、いつもならば、知らない家に来たなら、興奮してあれやこれやと見て回る、旅行好きな三人が、口数もすくなく、ぴったりと身を寄せあうようにして動いている。
法正は、それをからかう気にはなれなかった。

「家人に一時的にとはいえ暇をだしておいて正解でしたわね。もし一緒につれてきていたら、きっとここのお屋敷の人の数より、わたしたちのほうが多かったでしょう」
と、妻が、失敗を回避できたことに安堵して言った。
荷物が多いという理由から飯店を追い出された教訓から、法正は、信頼できる家令ら数人に骨董品などの荷物をあずけて、某所に保管させていた。
子どもたちと妻は、うしろから、無言のまま、のそり、のそりとついてくる家令を気にしている。
法正の家の家令も口数のすくない男であったが、無口の内容がちがう。
劉巴の家令は存在感がありすぎる。
どうも背後を気にしたくなってしまうのだ。
どうせならば、屋敷についてあれこれと案内してくれればよいものをと法正は思う。
とはいえ、家令は、まったくみずから口を利く気配はないようだったので、しかたなく、たずねた。
「ひろいお屋敷であるが、劉曹掾が建てられたものか」
すると、家令はふるふると首を振って、ひとことひとことをしぼり出すように答えた。
咽喉をどうしたのか、ひどいがらがら声である。
「もともと豪族のお屋敷であったのを、前太守さまよりもらいうけ、それを、碁主人さまが手を入れて、さらに増築なさったものです」
「趣味の高い方だという評判どおりの、清雅なお屋敷ですのね。庭木の配置がうるさすぎず、寂しすぎず、絶妙ですもの」
と、妻がなかなか目の高いところを見せると、無愛想な家令は、こくりとうなずいた。
「ご主人さまは、家のことは、なんでも取り仕切っております」
「奥方さまたちがお休みになっているのは、どの部屋になるのだね」
法正がたずねると、家令は、いまにも飛び出しそうな大きな目をきょろりと動かした。
その動きは、まさに蛙そのものである。
「なぜに、それを、お知りになりたいのです」
「わが子らがハメをはずして、寝付いておられる奥方さまの部屋のそばで、うっかり大声を立てたりしないようにと思ったのだ」
それを聞いて納得したのか、家令は、こくり、こくりと頷くと、答えた。
「それは失礼をいたしました。奥方さまのお部屋は、ほれ、あそこに」
と、家令は、屋敷の最奥にある、日あたりの悪い部屋をゆびさした。


※アンケートにてさりげなく法正、票を伸ばしておりますね…かつてないペースであります。引越しシーズンでもありますし、法正といっしょに当HPのメインとなっている人物の家を回ってみよう、というこの企画。ナゾの劉巴邸のあとは、いつものおばか企画に突入予定です。

2007年3月9日(金)
きつねのリハウス 劉巴邸・三

「奥方様たちは風邪とおっしゃっておりましたけれど、ほんとうはそうではないのかもしれませんね」
と、ようやくあてがわれた自分たちの部屋で、家族みずいらずになってから、妻が口をひらいた。
興味をひかれて法正がたずねる。
「どういうことぞ」
「ほら、飯炊き女に、二月ほどまえにやとった娘がおりましたでしょう。あの子は、もともと、こちらのお屋敷で奉公していたそうなのです。
けれど、奉公しているあいだ、一度も奥方様たちを見たことがなかったそうなんですの。
よほどご自分の身分に誇りを持ってらっしゃる方で、飯炊き女には姿を見せない方なのかしらと思っておりましたけれど、お仕えするものの少ない人数のなかで、ずっと姿を見せつづけないというのはむずかしいでしょう。
あの娘は、こちらでは給仕もつとめていたそうですから、そうなると、やはり奥方さまたちは風邪なのではないかもしれません」

長患いだとすると、あの見るからに日あたりの悪い場所に寝かせているのは、いささか冷たくなかろうかと、法正は、そこばかりが黒い雲に覆われているようにさえ見えた、屋敷の一角を思い出していた。
ごていねいにも、その部屋のまえには竹林があり、窓から入るであろう日光をことごとく遮断しているのである。
風が吹けば、竹の揺れるさやかな音で心地よいであろうが、過度な日あたりのわるさは病人には毒ではないだろうか。

「うむ。しかし、憶測であろう。あまり滅多なことを口にしてはならぬ。われらは客人なのだからな」
「わかっております。が、郎君も、うっかり奥方様のことを詮索しないようになさいませね」
妻に釘を刺されて、法正はむっとしてたずねた。
「なぜだ」
「なぜもなにも、郎君は、気になることはなんでも口に出してしまわれる正直なところがおありでしょう。こちらはお世話になる身なのですから、くれぐれもご注意あそばせ」
「わかっておるわい」
ふてくされつつも、妻のことばには絶対服従の法正は、その言いつけをよく守り、夕べの膳においても、聞きたいところをぐっとこらえて、あたりさわりのない話に終始した。

そして翌朝のことである。
どうも、息子の邈の様子がおかしい。いつも快活な子が、なぜだか外に出るのをいやがって、部屋の片隅で膝をかかえているのだった。

※昼にすこし雪?がちらつきました。いやはや、寒いです。昨日は一日遅れのアップでしたが、訪問してくださったみなさま、ありがとうございました。次回アップは日曜日を予定しております(^^♪ 繁忙期のあいだのアップ方法についても、土日のいずれかに考えて結論を出す予定です。お時間のあるかた、ぜひ遊びにいらしてくださいませ(^^ゞ

2007年3月10日(土)
きつねのリハウス 劉巴邸・四

「どうしたのだ、家に帰りたいのか」
しかし家は燃えてしまって、ないのである。
仕方のないやつだと思いながら、息子を元気づけるべく、さて、いっしょに庭をくるりとひとまわりするかと考えた法正であるが、邈は、ぼそりと言った。
「ちちうえ、このお屋敷、いやだ、こわい」
「怖いとは、これ、せっかくもてなしていただいているのに、なんということを言うのだ。食事は馳走ばかりであるし、部屋も清潔できれい。これほど心地よく過ごせるところは、そうはないのだぞ」
法正が叱ると、法邈は、ぷいと顔をそむけた。
法邈の癖で、言うことをまともに聞いてもらえないと、ふてくされて黙り込むのである。
さて、困ったやつだと思っていると、それをみていた娘の玲瓏までもがいい始めた。
「父上、わたしもこのお屋敷は怖い。ゆうべの声はなんだったのでしょう」
声と聞いて、法正は首をかしげた。
妻のほうを見ると、これも心当たりがないらしく、怪訝そうに首をひねっている。父母の様子をみて、玲瓏は口をとがらせた。
「声が聞こえたとき、父上も母上も鼾をかいて寝ておられました。だから、わたしと邈は、ふたりでずっと起きて、声が止むのをまっていたのですよ」
「なんと。声とは、なんだ。獣の声ではないのか」
「広いお屋敷ですから、どこからか夜に獣が入り込んで、あばれていたのかもしれないわね」
しかし、子供たちは、ふたりそろって首を振った。
「獣の声などではありません。あれは、人の声でした」
「人とは面妖な。だれの声だというのだ」
「わかりません。けれど、赤ん坊の声にそっくりでした」

赤ん坊と聞いて、とっさに思い浮かべるのは、いまだ姿を見たことのない劉巴の娘たちのことである。
あらかじめ聞いていたところによれば、劉巴の娘たちはすでに年頃を過ぎているのだが、みな嫁がずに、親元に留まっているのだとか。
そして、その姿を見たものも、やはりだれもいないのである。
その娘たちは、じつは婿をとっており、その子の鳴き声が夜陰にまぎれて聞こえているのではなかろうか。
存在を隠す理由は、劉巴と縁付くことで権勢を伸ばそうという輩を避けるためである。
それくらいのことは、劉巴はするであろう。

そんなことを考えていると、妻が法正の袖をつついた。


※アンケートにて、孔明にコメントくださったUさま、そしてくっきーと孔明にそれぞれコメントくださった方、ありがとうございます。うれしいー♪ 文字だけだとこのうれしさは、なかなか伝わりづらいものですね。ほんとうにありがたいことです。がんばるぞー。というわけで、きつねのリハウス、今後は史実のこぼれ話などを含め、脇役たちに怪しげなスポットを当てつつ進む予定です。お付き合いいただけたら幸いですm(__)m

2007年3月11日(日)
きつねのリハウス 劉巴邸・五

「郎君、じつは、わたくしも気になることがありますの」
と、妻は、いささか蒼ざめた面持ちで言った。
「まさか、おまえまで声を聞いたというのではなかろうな」
「いいえ、声は聞かなかったのですが、ゆうべは、わたくしも杯をいただきましたでしょう。ぐっすり眠れたのですけれど、今朝はなんだか心地がわるくて、頭痛が止まらないのです」

ここで、普通ならば、ただの二日酔いだと断じるわけであるが、法正は妻のことばに眉をひそめた。
というのも、法正の妻は酒にはとても強い体質で、法家に嫁にきてからこのかた、この妻が顔を赤くしているところはあっても、酔っているところは見たことがなかったのである。
それこそ法正の倍を飲んでも、翌朝にはけろりとして家事をこなしているのだ。

「こんなことを申し上げてよいのかわかりませんが、あの酒、なにか入っていたのではないでしょうか」
「毒か」
法正が顔色を変えると、妻は首を振った。
「いいえ、眠り薬かなにかではないでしょうか。思い出してくださいまし。わたくしたちが、子供たちに起こされて、目を覚まさなかったことがいままでにありましたか。
たしかに気疲れしていたとはいえ、子どもたちの声には、どんなに疲れていようと目をひらきます。それは郎君もおなじでしょう」
子煩悩を自認している法正は、たしかに妙だと思った。
法正はもともと神経質な男である。
尚書令の地位についてから、政敵の粛清をしたことから、その報復をいまもおそれている。
だから、守りが手薄になる夜に、異変があったらすぐさま目を覚ます、はずなのだ。
「今宵、もしまた酒が出されたなら、口にしないようにしよう。おまえも飲んではならぬ」
法正が言うと、妻は首を振った。
「いけません。二人して飲まなければ、劉曹掾も気を悪くなさいましょう。わたくしが郎君の分も飲みますから、郎君は飲むふりだけをなさいませ」
気遣いの人である妻の進言によって、その夜に出された杯を、法正はこっそりと妻に渡すか、あるいはみずからの袖に含ませて飲まないように注意した。

なにやら落ち着かぬと思いながら、床につき、夜もすっかり更けたころ、異変がおこった。


※本日アップの日でありますが、もうすこし時間がかかりそうなため、先行してニッキをアップいたします。長編小説のほうは、もうしばらくお待ちくださいませm(__)m