|
仲達が、落ちてきた本の一部を見ていることに大亀が気がついた。
「ややや、プライベート侵害だぞ、うさぎ!」
火の玉になってこちらに向かってきかねない勢いの大亀に、仲達はうろたえつつも答えた。
「他言いたしませぬ! お約束いたします! でも『こんなときどうしよう!』シリーズはいまいちです。たしかにベストセラーですが、書かれてからほとんど改訂がされていないので、現状に合わなくなっております!
どうせなら『きっとうまくいく!』シリーズがおすすめです。ちなみに作者は孫臏! 苦労人だからかゆいところに手の届く実践的な社交術が満載!」
「おまえは出版社の営業か!」
「ひええ、ちがいます、ちがいます! わたしもこの本でいろいろ研究したのでわかるのです!」
仲達が震えながら訴えると、大亀は興味をひかれたらしく、怒りをおさめて怪訝そうに白い眉をしかめた。
「研究の成果は出たのか」
仲達は必死である。なにせ下手なことを言って、大亀を怒らせたら終わりだ。こくこくとうなずいて、答えた。
「見事なものでございます。たしかに最初は社交術というと、うわべだけの付き合いがうまくなるだけのものではないかと思っていたのですが、読みながらおのれの行状と照らし合わせていくうちに、気持ちが豊かになり、くよくよせずとも自分らしく生きればよいのだと思えるようになったのです」
「ほう、書名はなんだったかな」
「はい、『きっとうまくいく!』シリーズです。わたしの場合は『すれちがい人間学』を参考にいたしましたが、精霊さまの場合は『素直な心をつくる生活術』がおすすめかと思われます」
「うさぎ!」
「ぎゃあ、すみません、またまた出すぎた発言でありました!」
がばりと平伏すると、大亀は、意外なことに、カカカ、と笑いながら言った。
「よいよい、恐れるな。おまえにはよいことを聞いた。そうか、その本を読めば、あやつと仲良くできるのだな」
「え、は、えーと」
本を読んだからといって賢くなれるとはかぎらないし、ハウツー本がかならず役にたつともかぎらない。しかし大亀はそこは純朴な性格らしく、すでに結果が出たような喜び方をしている。
とにもかくにも敵意があるわけではないのだし、塔に戻ったら孔明にいろいろ根回しをすれば、タタリは回避されるはずだ。
そう計算した仲達は、ふかぶかと頭を下げて、言った。
「はい。かならずや仲良くなれましょう!」
「そうか、そうか、それはよい。よい話を聞かせてもらったゆえ、わが本体が半分吹っ飛んだことは大目に見てやろう。では、もう行け、司馬仲達。くれぐれも諸葛亮たちにはこのことは秘密に」
「はい、それはもう!」
頭を下げて、そしてここぞとばかりに自転車と一緒に川辺をあとにする仲達。
焦ってはいたものの、もう自転車はミサイルを発射しようとはしなかった。
振り向けば、大亀は散らばった家具を片付けながら、うきうきと鼻歌まで出ている
。
「諸葛亮は、ああいう偏屈ものに愛されるやつだのう」
つぶやきつつ、自分はちゃっかりその偏屈ものの数に入れていない仲達であった。
※2月ももう終わり、くっきき。も、おかげさまで終盤に入りました。そして、明日はずんだ本編のアップを予定しています。設定を先にアップする予定でありましたが、並行しても問題なかろうというわけでアップとなります。前回とどう変化があったのか、すこしずつあきらかになっていきます。どうぞ遊びにいらしてくださいませ(^^)/
|