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「ふん、一応、約束は守ったというわけか。ダイムラーのやつめ、儂と諸葛亮の因縁を知っておりながら、あやつが絡んでいるとはひと言も言わずに樹液を採って行きおった。まったく最近の若い者は、これだからいかん」
ぶつぶつと、なおも釣り糸を川面に垂れながら、大亀は文句を言っている。
なるほど、愚痴っぽい性格でもあるらしい。
亀の癖に眉があって、ぽやぽやと白いのであるが、それが皺だらけの顔に特に目だって見える。
「で?」
「は?」
「は? ではない。わざわざここに来た以上は、おまえのための自転車とやらを持ってきたのであろうな。見せてみろ」
命じられるまま、仲達は『おでかけチャリンコ・りんりんくっきー号改』を大亀に見せたのであるが、大亀のほうは、ちらりと一瞥しただけで、もう自転車のほうを見ようとはしなかった。
そうして、ぼそりとつぶやいた。
「ひどい色だ」
「そうでしょうか」
「気に入っておるのか」
「はい、とても」
「悪趣味だな」
仲達は忍耐づよい性格をしていたが、このときばかりはカチンときた。
なにせ、りんりんくっきー号は、孔明がわざわざ人をあつめて作ってくれた、世界ひろしといえど、たった一台きりのたいせつな自転車なのである。
その心遣いまでもあざけられたような気がして、落ち着かない。
とはいえ、相手は祟れば一国を滅ぼすこともできる精霊である。
孫や孔明の姿を脳裏に思い浮かべ、がまん、がまん、と仲達はおのれに言いきかせる。
「それでですね、あのう、諸葛亮からお怒りの件は聞いたのでございますが」
「おまえのその垂れた耳で、人の話が聞けるのか」
耳が垂れていようと、聴覚にまったく問題はない。
またまたムカッときた仲達であるが、やはり同じように、孫や孔明や息子たちの姿を思い浮かべてがまんする。
「はい、ちゃんと。むかしに桑の樹の精さまと諸葛家とのあいだに諍いがあったのは存じておりますが、そこはひとつ、広いお心で、諸葛亮とわたしがこの自転車を利用することを許してくださいませんでしょうか」
「諍いはー」
「はい」
「あったわけだが」
と、大亀は言葉をきると、それまで水面にしずめていた釣り糸をぴんと引っ張って、釣り針を確認する。
見れば、針の先にはなんにもついていなかった。
「やっぱりとられたか。おい、うさぎ、そこに小エビがあるから、寄越せ」
「はい、ただいま」
いそいそといわれるまま小エビを用意する仲達に、大亀は、いまさらながら、おや、というふうに目をきょろりと動かして、たずねてきた。
「諸葛亮の口上はわかったが、おまえは何者だ」
※スギ花粉、来了! 来るな~! 嫌な季節がいつもより早くやってきました。勘弁してくれい…。 そして小説のアップは明日を予定しております。どうぞお越しくださいませね(^^)/
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