● こうせいニッキ●
本文へジャンプ XX月XX日 

 

2007年2月18日(日)
くっきき。 11かいめ

「まったく、マメな男だのう」
思わずつぶやきつつ、せっかく用意してもらったのだからと、仲達は、呼び鈴をぴんぽんと押してみる。
すると、ほどなく家の中からがたごとと物音がして、人間用の玄関から、家のあるじである趙子龍が顔を出した。
やはりうさぎの訪問を受けるということに慣れていないのか、最初は、きょろきょろと訝しげに周囲をうかがっていたが、やがて足元にグレーの毛玉があることに気づくと、ぶっきらぼうに、
「おまえか」
とだけ言った。
歓迎のことばもなく味気ないものだが、それがこの男なのだと言うことを、仲達はすでに学習している。
仲達は、手にしていた青い魚のかたちの水筒を見せて、言った。
「すまぬのう。道中、水を切らせてしまったのだ。貴殿の家の水を分けてくれぬか」
「それはかまわぬが、ひとりで来たのか」
言いつつ、趙雲はポーチに横付けされているピンクとシルバーの自転車を確認した。どうやら孔明に、うさぎ用自転車のことは事前に聞かされていたらしい。
「ああ、完成したのだな。派手な自転車だな」
「夜目でもすぐに自転車とわかるように選んだ色だということだ。蛍光塗料が塗ってあって、夜になるとピンクの部分が蛍光色にかわるらしい」
「自転車にしては、なにやら奇妙な装置がついておるな。あの自動照準器とあやしげなレバーはなんだ?」
「説明書を読んでもよくわからぬのだ。なにせページをめくったら、『使い方・ピンチになったら勝手に始動! 小さなことでくよくよするな!』と書いてあったのだ」
「なんとも怪しい自転車だな。ともかく中に入れ」
すまぬのう、と言いつつ、建物に比して、窓のすくないことが難点の家のなかに入った。
中に入ると、いったいいつの間に増えたのやら、入ってすぐのところにある広間には、いびつに歪んだ柱のようになって、たくさんの本が積まれていた。おそらくは、供給所でもらってきたものであろう。
あいかわらず、家具はすくなく、そうした本の柱のあいだに埋もれるようにしてあるテーブルとソファのうえには、趙雲が本の内容をまとめていたのか、ノートやメモが散乱している。
うさぎの呪詛がいま以上に強かったころは、ことばを発することができなかったので、仕方なく趙雲や孔明らとともに暮らしていた仲達であるが、ともに住んでみて感心したのは、趙雲が思っていたよりもずっと努力家であったということである。
やはり同国人ということで、いまも親交のある張郃も勉強家であるが、趙雲の勤勉さは、すこしばかり種類がちがう。
張郃という男は、趙雲とおなじ武将ではあるが、勉学だろうと修練であろうと、なすことにどこか余裕がある。遊び心があるのだ。
一方の趙雲は、試験の期日がせまっている学生のように本にかじりついて勉強をする。なにやら悲壮感さえ漂わせているほどだ。
見栄を張っているのではなくて、いつも隣にいる人間が破天荒にすぎるため、ついていくのに必死なのだろうと思う。
そうして、ちょっぴり同情する仲達であった。


※ナゾ企画のごあいさつ文ができましたm(__)m 今回はご挨拶のみとなりますが、いままで零していた部分を拾い上げる企画になればと思います。さて、どんなものか? どうぞこちらをクリック→ でもって、アンケート、ようやく休昭に一票がー。よかった、よかった(^.^) ご協力くださった方ありがとうございます(^^)/

2007年2月19日(月)
くっきき。 12かいめ

「桑の木の精は、たしかに厄介だぞ。自信家で人間ぎらいなうえに、偏屈なのだ。人間ぎらいになったのは、やはり鍋でぐつぐつ煮込まれたことを恨みに思っているかららしい。
なにせ、食われてそのあと、ふたたび受肉して桑の木の精に戻るまでに百年以上かかったらしいのだ。だからこそ、ぐつぐつ煮込んだ男の代わりに、その叔父である孔明は、目の敵にされておる。なんやかやと、言いがかりをつけられては、ことあるごとに呼びつけられて、何時間も説教を食らっているようだ。
あいつもそのあたりは妙に忍耐強さをみせるというか、『わりとためになる話を聞ける。頼んでもいないのに、霊薬の調合なども教えてくれたりするし、なかなか親切だ』などと言っていた。まあ、あいつは、マイナスもプラスにむりやりにでも変えたがるやつだからな」
水筒に水を入れつつ、趙雲が言った。

趙雲が孔明のことを語るときは、本人をまえにしていないときは、いつも誇らしげであることを、仲達は気づいている。
かつては敵対していたから、同じ時代を生きたとき、ふたりがどのようにして絆を深めたのかはしらない。
けれど、仲達が知る限りでも、このふたりの友情や愛情で強固にむすばれた絆をもつ者たちはめずらしいと思う。
と、同時に、こうした稀な絆を基準に見ること自体が危ういのかもしれぬと仲達は考えた。
いまや孔明や趙雲を友人と堂々と呼ぶことができる仲達であるが、さて、ではその絆の強さはかれらと同等かというと、それはちがうのである。
おそらく、かれらと同じになることはできなかろうと思う。
曹丕が評した、八方美人ということばは、ただしい。知り合いはたくさんいるが、唯一無二の友はいない。孔明がそうだといいなあと思うところだが、しかし孔明に唯一無二の友はだれだとたずねたら、間髪おかずに「それは子龍だ」という答えがかえってくることもわかっている。
心から信頼できる最高の友というものは、だれしも努力すれば得られる、というものではなく、これもまた運命のめぐり合わせなのらしい。
だとしたら、いまだどこか孤独をかかえたままなのも、運命のめぐり合わせなのだろうか。

そんなことをしょんぼりと考えつつ、仲達は、趙雲たちといっしょに暮らしていたときに使用していた、うさぎ用の椅子のうえにちょこんと座っていた。
せっかくだから、昼食をとっていけ、ということになったのである。
趙雲は、ここでもマメなところを遺憾なく発揮し、いつの間につくっていたのやら、納戸から、仲達専用の手作りの椅子とテーブルを用意してきて、さらには自家製の新鮮野菜のサラダをテーブルのうえにのせた。
「そうだ、れんげのはちみつが採れたが、それも持って行くか。あとは、そうだ、裏庭の胡桃の木から、ちょうどよい実もとれたのだ。それもつめ合わせて持っていけ。自転車のかごに入れておこう」
なんとも、田舎の実家(というものが、もしあったとしたら)に、戻ってきたようではないか、と都会生まれ都会育ち、田舎知らずの仲達は感心する。
孔明とは、ほとんど遠慮がなくなったが、いまだに趙雲を友と呼ぶには、すこしばかり距離感があるように、仲達は思う。
仲達のほうは、趙雲に対してわだかまりはないのだが、趙雲のほうは、親しくはしてくれるが、この男は誰に対してもそうだが、ある程度のラインを持っていて、そこから先には、容易に近づいてこない。
単純にうさぎとして扱われていたほうが、まだ親しげだったようにも思う。
むずかしい男だな、と、もしゃもしゃとサラダを食しつつ、仲達は考える。
同時に、どうしても思い浮かぶのは、見るたびにやさぐれている元君主・曹丕の姿であった。


※あんけーと、少しずつ動いているようで、ありがたいです。なによりくっきーに一票増えていたことがうれしい~(^^♪ 今週ものんびり連載はつづきます。どうぞお付き合いくださいませ。でもって、小説のほうのアップは水曜日を予定しておりますので、合わせてよろしくであります(^^ゞ

2007年2月20日(火)
くっきき。 13かいめ

「これは俺の考えだが、桑の木の精には、孔明のような低姿勢では、かえって逆効果であろうな。あれは、人間というものをすっかり舐めきっておる。多少は高圧的になってもよいのではと思う」
仲達はサラダを食べるのをやめて顔をあげた。
趙雲は、さらに器用さを発揮し、仲達のためにほどよい熱さのにんじんスープをつくってテーブルの上にのせた。
どうやら、いまだにうさぎ用の料理のレシピは増え続けているようである。
孔明がまたうさぎに戻ってしまったときの用心だとしたら、まさに天晴れというほかない。
「ほう、会ったことがあるのか」
「会ったというか、遭遇したというか。言葉はかわしていないが、俺がたまたまつりをしていて、舟の舵取りに失敗して、桑の木の精のそばに寄ってしまったのだ。そうしたら問答無用で舟を沈められた」
「ひどいではないか!」
「どうやらネットを駆使して、孔明とその周辺の交友関係をしらべていて、俺のことも知っていたらしい」
「むむ、となると、わたしも知られている?」
「最高府と煉獄をめぐる騒動は、なるべく表には出ないように抑えたらしいから、知らないかもしれぬぞ」
「気が重くなってきたのう。せっかく真新しい自転車に乗ってきたのに、壊されてしまったら申し訳ないし、自転車はここに置いて、ここからは使い魔を召喚して移動するか」
「それも勧められぬ。自転車をめぐって桑の木の精は怒っているわけだから、そこはちゃんと現物も見せたほうがよいだろう」
「うーぬ」
どちらにしろ自転車で向かうしかなさそうだと覚悟を決めた仲達は、気分をかえるべく、にんじんスープとサラダをむしゃむしゃと食べながら、たずねた。
「貴殿は料理をするからくわしいかな。タバコや酒をやめると、料理がうまくなるというのはほんとうであろうか。わたしはタバコは嗜まぬので、わからぬのだよ」
すると、台所で、自分の昼食の準備をしていた趙雲は、首だけ振り返らせて、言った。
「おれもタバコは吸わないが、たしかに味が変わるという話は聞いたことがある。なぜだ。アトラ・ハシースでタバコを嗜む者は少なかろう」
そこで仲達は、さきほど、曹丕とばったり顔をあわせたことを趙雲に説明した。


※明日のアップの準備を進め中。またもでありますが、椒聊です。ひさしぶりに当HPの主役登場。しばらメインで動きます。さーて、ほかの作品もがんばって進めよう。みなさまお時間ありましたら、遊びにいらしてくださいねー(^^)/

2007年2月21日(水)
くっきき。 14かいめ

「俺が鬼子母神に召喚されたときに会ったが、あのときもたしかに薬を身体に入れていたようであった。よくないな。このままでは堕天してしまう」
「どうしたものかのう」
相談する仲達に、趙雲は、ふしぎそうな顔を向けてきた。
「たしかおまえと文帝は仲違いをしたと聞いていたのだが」
「仲違いというよりは、すれちがいが重なったというほうが正しい。忠心というものはないのだよ。しかし、友情というか、それに近いものは十分に残っておる。とはいえ、向こうにしてみたら、わが家は己の子孫をことごとく滅ぼした、憎い相手、ということになるのかのう」
仲達が言うと、趙雲はしばらく思案したそぶりをみせて、それから答えた。
「そうした感情もあるだろうが、それだけではないだろうな。今朝の曹子桓は、裏切った、ではなくて、見捨てた、とおまえをなじったのだろう。しかも酔っていたのなら、それが本音とみてよいのではないかな」
「ふむ?」
「曹家と司馬家の派手な囲碁対決のてんまつは知っているが、そのとき、おまえが曹子桓をいやがったから、そうした騒動になったのか」
「ちがうな。炎ちゃんがほとんど仕切ってしまって、わたしは陛下とほとんど話ができなかったのだ」
「ならば、俺のいうことも間違っていないかもしれんぞ」
「わたしは陛下を見捨てたつもりはないのだ。ただ、わたしが陛下のそばにいると、陛下はわたしを頼ってばかりになってしまい、ますます荒れてしまうようで、それがすまなくてのう」
「そのことは本人は知らないで恨んでいる可能性があるではないか。おまえの孫の言うことももっともだが、やはりなにか引っかかることがあるのなら、そう我慢することなく、思うとおりに動いてみたらどうだ。意外に事態が好転するかもしれないぞ」
「だとよいな。うむ、考えてみよう」
趙雲のことばを頭のなかで咀嚼しつつ、仲達は、卓のうえの、サラダのなくなった皿のうえを見るともなしに見つつ、つぶやいた。
「人の心はむずかしいものだ。わたしは幼い頃から友達をつくるということが不得手な、内気な子供であったが、大人になったらば、こんな悩みはちっぽけに思うのだろうと信じていたよ。
ところが大人になっても変わらず悩んでおる。むしろ、悩みは大きくなっているほどだ」
「友達がいないという点では、俺は共感できるな。しかしおまえのように、積極的に欲しいと思ったことはない」
「そこはそれ、諸葛亮の面倒をみるのが大変だからであろう」
仲達がいうと、趙雲は、さてどうだろうなとつぶやいた。

趙雲も自分と似た人間であると、仲達は思っている。
孔明なぞは、趙雲が、自分よりも顔がひろいと思っているようだが、顔がひろいのと友達が多いのとは微妙にちがう。
友達がそう多くないからこそ、だれの訪問を受けるでもなく、この辺鄙だが景観のすばらしい家で、ひとりで勉強したり、読書をしたり、うさぎのための家具やあれやこれやを集中してつくれるのだ。
似ているけれど、まったく違う点をひとつ挙げるとなったら、それは孤独を楽しめるか否かであろう。
仲達は、後者である。


※深刻な展開になりようがないこのお話、登場人物もそれに合わせています。ほかが殺伐としているから、これくらいがちょうどいいんじゃないかな、と思ったり。ほら、おばか企画だしね(^^♪ 深く考えず、のんびーり読んでくださいませm(__)m

2007年2月22日(木)
くっきき。 15かいめ

趙雲の家を去るとき、仲達は、炎からもらった明月珠のふたつを趙雲にあげようかと考えたが、しばし迷って、やめた。
べつにケチケチしたわけではない。
趙雲に贈れば、当然のことながら、一方の珠は孔明の手元に行くであろう。
そのことに嫉妬したわけでもない。
あきらかに結果が見えているものに贈るのもつまらなく思えたし、強固な絆でむすばれている二人に対して、あらためてたがいの消息をしらせる明月珠を送るというのも芸がないように思えたのだ。

仲達は趙雲の家から、また自転車をりんりんと漕いで、そうして二時ごろには、首尾よく、桑の木の精のすまう川辺に到着した。
桑の木の精とは、いったいどのようなものであろうと見れば、なんともシュールなことに、桑の木の大きな洞にすっぽりとおさまって、それこそふつうの丸テーブルほどはあろうかという大きな亀が、川に釣り糸をたれていた。
どうやらあれが桑の木の精らしい。
面構えはというと、亀らしく無愛想で、頑固そうだ。
釣り糸をたれてぼんやりとしているその姿を見て、仲達は、さて、大亀が年数を経てほんとうに万年も生きたために桑の木の精となったのか、それとも神樹の精が凝り固まってかたちとなり、おなじく長い年月をいきる亀に変化したのか、どちらなのだろうと考えた。
自転車を引いて、そおっと亀のそばに寄っていく。
「あのう」
声をかけると、川辺の大亀は、目だけをうごかして、ぎろりと仲達をにらんできた。
仲達は、おもわず身をすくませる。
ただの大亀ではなく、これはたしかに、たたりで持って一国をほろぼすことも可能なくらいおおきな霊力をもつ精霊だということがわかったからである。
「なんだ、貴様は」
低くしわがれた声で亀は言う。
亀の甲羅の横にある魚篭をちらりと見れば、まったく釣れていない。
これは、あまりよろしくないときに、やってきてしまったかもしれない。
「あのう、わたくしは、そのう、諸葛亮、いえ、当山孔真君の」
途中までいうと、とたん、亀は顔をますます険しくして、それこそ火を吹きかねない勢いで、怒鳴った。
「当山孔真君などともったいぶった名前で呼ばなくてよろしい! ありゃ、ただの諸葛孔明で十分だ!」
「はい、すみません!」
思わず直立不動になりつつ、仲達は答えた。じっとりと嫌な汗がながれてくる……


※アンケート、知らぬ間に休昭に1票追加。そしてさりげなく増えている劉巴…。ご協力ありがとうございますm(__)m さて、アップですが、土曜日になるかと思います。ぜひ遊びにきてやってくださいませ(^^)/