● こうせいニッキ●
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2007年2月13日(火)
くっきき。 6かいめ

翌朝、五時。
塔のロビーから、ゴーレムの管理人・イーさんに見送られ、一台のチャリンコが、りんりんとベルを鳴らしながら旅立った。
『おでかけチャリンコ・りんりんくっきー号改』に乗った仲達である。
「なにやら面倒に巻き込まれたものだのう。しかし、諸葛亮があれだけ素直に頭を下げたのもめずらしい。よほど桑の木の精の祟りとやらが怖いのだな。はて、どんな精霊なのであろう。精霊の住処は、ええと」
言いつつ、自転車をころころと転がしつつ、ちょうど仲達の顔くらいある液晶画面のナビゲーター機能を呼び出す。
画面にタッチするだけで、ユーザーの思念を受け取り、目的地をずばり教えてくれるすぐれものである。
画面には、3Dの地図が浮かび上がり、桑の木の精がいるという川辺を映し出した。
「なんだ、さして遠くもないのだな。途中で趙子龍の家にとおりがかる。茶でも馳走になろうかのう。あそこは万年春ゆえ、行くたびに心がほがらかになるからな」
そうしてペダルをこぐ仲達のまえを、ひらりとちいさな白いものが横切っていった。
と、同時に、ほんのりと馥郁たるかおりが鼻腔をくすぐる。
顔をあげて見れば、すっかり春めいた林の一角から、ぽっかりと咲いた梅の花びらが、その香をともなって風に舞っていたのだった。
白いちいさな花々を愛でて、どうやら中華系らしいアトラ・ハシースたちがあつまって、なごやかに酒宴をひらいている。
「おお、よい風情だのう。そろそろほんものの春も近いのか。わたしも歌いたくなってきた。

♪ 両人酌山花開 りゃお れん とぅい じゅお しゃん ほあ かい
一杯一杯復一杯 いーべい いーべい ふー いーべい
我酔欲眠卿且去 うぉ ずい ゆぅ みん ちん ちぇ ちゅ
明朝有意抱琴来 みんじゃお よう いー ばお ちん らい ♪
(※読みは無気音に関しては濁点表記しています)

李白め、よい歌をつくるのう」

そんなこんなで、真あたらしい自転車をりんりんと漕ぎながら、そろそろアストラルたちの住む界隈にさしかかろうかというとき、暁の空を背景に、なにやらうきうきとしたステップを踏みながら、いまどきのストリートファッションに身をつつんだ、どこかで見たような長髪の少年がむかってくる。
それが誰だかわかったとき、仲達は目をぱっちり開いて、手を振った。
「炎ちゃーん!」


※このくっきき、本当になにがある、というわけでもないお話であります。さて、キツネVS趙雲、趙雲のほうが優勢らしい…。でもって知らないあいだに票をがっちり稼いでいる孔明。そしてさりげなく増えている劉巴。あたたかいコメントとともに一票ゲットの偉度。楽しいなー。昨日分のアップで拍手をいただきまして、ありがとうございました(^^♪ 久しぶりだったので、ちょっとドキドキしておりました。よかったー。さて、お話変わりまして、ファイルを削る必要が出てまいりました。候補としては2005年の更新履歴と、こうせいニッキの一部です。決まりましたら予告させていただきます(^^ゞ

2007年2月14日(水)
くっきき。 7かいめ

祖父に呼び止められた司馬炎は、それまでシャカシャカと音をさせながらワイヤレスヘッドフォンで好きな音楽を聴いていたのであるが、祖父の姿を見て、スイッチを切った。
大作曲家と呼ばれる人々と、名演奏家と呼ばれる人々と、さらに名歌手、楽器作りの達人が大量にいるこの世界での音楽のレベルがどれほどのものかは、想像におまかせする。
「なんだよ、ピンクの塊が来るなーとか思ったら、じいさんじゃん。なにそれ、もしかして諸葛亮が言ってた、じいさん専用自転車?」
祖父の司馬仲達の容姿は、ともかく異民族の血でも引いているのではないかしらというくらいに濃いのであるが、孫の司馬炎はそのあたり血がうすまったのか、つるりとした卵のような肌に、愛嬌のあるつんととがった唇をした、なかなか愛らしい顔立ちである。しかし双眸に関しては、やはり司馬仲達とおなじで、ばっさばさの長い睫毛に埋もれている。
「諸葛亮め、炎ちゃんには自転車のことを教えておったのか。いつそんなに仲良くなったのだ」
仲達が怪訝そうにいうと、炎は答えた。
「仲良くなったというか、まあ、なんとなくかなー。じいさんがうさぎになってから、どうも移動するのが大変そうだって教えたら、それじゃあ、やはり自転車でも作ろうかなって言ってたんだよ。
あいつ、仕事早いよな。その話をしたのって、一週間前なんだけど。へえー、悪くないじゃん。なんだかいろいろついているみたいだし。ナビまであるんだ。なんだろ、自動照準器までついてるんだ。なんにつかうんだろ?」
感心して、りんりんくっきー号をながめる孫に、仲達は得意そうに答えた。
「使い魔を召喚して、あれこれと指示を出す手間がはぶけてよいわい。なにせこの身になってからというもの、なにかと使い魔に頼るか、でなければ諸葛亮かおまえに用事を頼むかするしかなかったからな。これで自立が一歩進むわい。
ときに炎ちゃんや、おまえはいったい、こんなに朝早く、どうしたというのだ。もしや、朝帰りか。よくないのう。昭が心配しておったぞ。
一時期はおまえの生活が荒れていたが、わたしが帰ってきたらすこしおさまったのに、最近はまた夜に出かけているようだとな」
眉をひそめて仲達がいうと、炎は、しょうねぇな、親父のやつ、といいつつ、ジャケットの内ポケットから、なにやら取り出した。
「親父のやつ、ぜんぜん信用してないんだから、やんなっちゃうよ。オレが夜に出かけてたのは、女と会ってたからじゃなくて、ほら、これ」
と、司馬炎が取り出したのは、涙型の、大きなうつくしい、ふたつの玉であった。朝陽をうけてなないろに光る玉は、思わず息を呑むほどのすばらしさである。
取り出されたそのふたつの玉をよごさぬように気をつけつつ、仲達は、じいっと玉を見つめる。そうして、あることに気づき、おどろいて孫を見上げた。
「炎ちゃん、これはもしや、明月珠ではないのか!」
すると、炎はうれしそうに、にやっと笑った。
「あったりー。これを採るの、苦労したんだよー。なにせ月の出ている夜の、ちょうど月を水面に映している波の下でしか採れない、っていうややこしいものなんだもん。オレってば水属性じゃないから、まー、時間のかかること、かかること。やっとゆうべ、四つ目を採れたってわけ」
言いつつ、炎は、ポケットのなかから、もうひとつ、加工してチョーカーにした明月珠を取り出すと、ぽかんとしているうさぎの祖父の首にかけた。
そして、にやっといたずらっ子のように笑って、自分のTシャツの襟を、ぐいっと引っ張ってみせる。そこには、仲達がつけているのとおなじ明月珠のチョーカーがあった。
「おお!」
「おそろー♪ この明月珠の効果って知ってる? これって対になっているもので、それぞれ分けて持っていると、相手がどこにいようと、居場所がわかるんだってさ。
これでじいさんが今度、うさぎからまた妙なもんに変えられちゃってもわかるよね。諸葛亮といるかぎり、なにが起こってもおかしくないからさー、オレも考えたわけ。賢いっしょ?」
そうしてまた、じいさんは友達の趣味がよくないよねぇ、などと言ってケタケタ笑う炎に、仲達はじんわりと涙を浮かべて言った。
「炎ちゃん、じいさんはうれしいぞ! おまえはまことに、なんという祖父思いの孫であろうか! じいさんの言うとおりに天下もとるわ、死んだあともじいさん孝行をかかさぬわ、まこと孫の鑑なり!」
「いやあ、やっぱ後半生がイマイチだったことの償いを、こういうかたちでしとこうかな、っていうのもあるし、アトラ・ハシースになってからも、ここ何百年か素行不良だったじゃん? じいさんが失踪したときに、オレも自分のいままでをじっくり考えちゃったわけ」
孫のことばに、うんうんとうなずきつつ、仲達は言った。
「考えることはよいことぞ。しかも珠を四つとは、これは父らにか。感心だのう。司馬家に誉れあれ!」
「いや、つーか、親父たちには珠はいらないでしょ。あの人たちはあの人たちで持ってそうだし。これは、じいさんが友達に渡せばいいかなって思ってさー。ひとつだけだと、角が立ったりしたら気の毒だから、ふたつ」
差し出された明月珠を、仲達は受け取りつつ、感激のあまりぶるぶると、グレーの毛皮をふるわせた。
「おまえは、おまえはまことにわたしの孫か? あまりに出来すぎとる! まさに帝王の器! 神さまありがとう!」
「大げさだなあ。震えてると落すよ」
「まったくだ。元家臣のうさぎの分際で、明月珠をもつのは勿体なかろう」
いささか呂律のまわらぬ不穏な声に、いったいだれかと顔を上げれば、そこには朝から酔っ払って、足元もふらふらの、元君主である曹丕がいた。


※ほんとうは二日分の内容ですが、(狙ったわけではないのですが)バレンタインデーっぽい内容だったので、一気にアップすることにしました。でもって、拍手ありがとうございます(^^♪一日の励みになっています! さー、今日もがんばろう!(^^)!

2007年2月15日(木)
くっきき。 8かいめ

「やや、陛下!」
仲達が声をあげるのとほぼ同時に、炎が、仲達をかばうように、すっくと立った。
「ってか、オレも陛下だけど、なにさ、あんた、じいさんに何の用? もう千年もまえに、二度とうちのじいさんをパシリに使わないって約束したよね? またおなじようにオレと決闘してみる?」
すると、曹丕は、酒か薬の作用かで、むくんだ赤い顔をしかめた。
「千年前の決闘では、一対一と約束したのに、さいごにおまえの父親だの叔父だのが出てきたから、余が負けたのだ!」
「それも多少あるけど、オレの側にあんたの父親と弟もついたのも忘れてない?」

それは千年前のこと。
アトラ・ハシースになって最初は真面目に仕事にはげんでいた曹丕であるが、なにぶん、アトラ・ハシースの世界は純粋な実力世界である。
社会機構がないので上下関係もないのだが、封建社会の頂点に苦労して立った人物だけに、生前つちかってきた地位がまったく意味がないこの世界に、なかなかなじめなかった。
しかし、年数がたつにつれ、父親の曹操はともかくとして、弟にアトラ・ハシースとして引き離され、仲達にも溝をあけられ、さらには敵国の宰相だった諸葛孔明や周公瑾らがつぎつぎと霊格を上げていくのを見て、曹丕は、思うようにならない自分自身に落胆するようになっていった。
仲達は、曹丕の繊細な面をよく見抜いていたから、だんだん荒れてきた曹丕の面倒をがまんして見つづけていたのだが、一方で、態度がどんどん横暴になっていくのを見かねた炎が、とうとう堪忍袋の緒を切らせて、曹丕に決闘を申し込んだのだ。
決闘といっても、警吏用ゴーレムに捕まってしまうので、じっさいに戦ったわけではなく、平和的に囲碁で戦ったのであるが、勝負は白熱し、なかなか決着がつかなかった。
勝負は七日七晩、飲まず食わずでつづき、囲碁での勝負というより、どちらの霊力が先に尽きるかというがまん比べになってきた。
そうなると黙っておられないのが身内である。
息子を心配して司馬昭が応援にやってきて、あれこれと指示をはじめ、さらにこれに司馬昭がくわわった。
司馬家と曹家が囲碁で対決しているという噂は下宿先じゅうにひろがって、召喚されていた曹操までも戻ってきた。
ここで通常ならば、曹操は息子側につくかと思いきや、
「いつまでも過去に捕らわれ女々しいかぎり。これを機に目をさませ!」
という理由から、なんと司馬家側についたのだった。
で、兄にいろいろと含みのある弟が父にしたがい、気の毒にも曹丕はひとりぼっちで戦い、しかし善戦むなしく負けたのであった。

仲達は、曹公はあいかわらず若君をわかっておられぬ、厳しすぎよう、と思ったが、しかしそこはそれ、口にだせないまま、司馬家と曹家のあいだで、『曹丕は司馬仲達ばかり頼りにしないで、自立する』約束がかわされたのであった。

この対戦が、曹丕にとって薬になったかどうかは疑問である。
千年たってもなお、曹丕はあまり仕事をせず、最近では、汎世界に召喚されるたび、現地の毒性のつよい嗜好品(酒、タバコだけではなくドラッグまで)に耽溺しているという、わるい噂がながれていた。


※誕生日メッセージくださった方、どうもありがとうございました。うれしいですー(^^♪ こういうところがHPをやっていてよかったなーと思うところであります。さてはて、アップでありますが、明日を予定しております。小説であります。お時間のある方、ぜひぜひ起こしくださいませ(^^)/

2007年2月16日(金)
くっきき。 9かいめ

「陛下、もしや、また酒を飲んでおられるのですか」
仲達が孫の背中から、ひょいと顔をだして言うと、曹丕は、うるさそうに手ぶりでひっこめというふうに振り払い、乱暴に言った。
「うるさい、すこしばかり口にしただけぞ。余を見捨てた癖して、心配なんぞするな!」
その言葉を聞いて、炎がうんざりしたように、言った。
「また始まった。見捨てたわけじゃなくって、あんたさえしっかりしてれば、じいさんと付き合うななんてこっちも言わないよ。あんたが酒とタバコと、ええと、薬もやってんの? ともかく、そういう堕天ぎりぎりの状態でいるかぎり、こっちはじいさんをあんたから守るしかないじゃんか!」
「余がまるで仲達を虐待していたかのように言うな、こわっぱが!」
「虐待とまでは言わないけどさ、ほとんどそれに近かったよね。なんての、言葉の暴力ってのかなー。じいさんが、一種の人間不信の八方美人になったのって、あんたが原因だとオレはにらんでんだけど」
「仲達は、余と会うまえから八方美人だったぞ! 司馬家の八達だかなんだかしらぬが、体面を気にしていつもにこにこ、にこにこと、決して本音を口にせぬ、いやな男であった。だから、余は性根を叩きなおしてやろうと思ったのだ」
「それこそ大きなお世話っての。八方美人のどこが悪いのさ。八方ブスよりはるかにマシだろ」
曹丕は炎に決め付けられて黙りこんだが、しかしそれは言い返せなくなったからではなくて、どうやら急に眠気が襲ってきたからのようである。
ふらふらっとよろめくと、そばにあった電信柱に身をもたれかけさせ、曹丕はそのままずるずると、隙間なく煉瓦のしきつめられた歩道のうえに崩れ落ちた。
「あーあ、だめだこりゃ。こいつの使い魔に連絡して、部屋まで運ばせるかな」
といいつつ、炎は、ぐうぐうと眠りにはいった曹丕のまえに身をかがませた。
曹丕の格好はひどいもので、生前とはうってかわって、この世界のほとんどがそうしているように、ラフな洋装なのであるが、髪は伸び放題、髭も手入れもされておらず、全身からタバコと酒のにおいがしている。
うーむとうなる炎のうしろから、キコキコと自転車をこいで、仲達がついていく。
「陛下はお会いするたびに荒れておられるのう。よい仲間とめぐりあえれば、斯様に、いつまでも駄々っ子のような態度はとったりなさるまいに」
仲達が、いびきをかいて熟睡している曹丕をいたわしそうに見下ろすと、炎は、やれやれというふうにため息をついた。
「じいさん、優しすぎ。こういう甘ったれタイプは、とことん突き放してやらないとダメなんだよ。いつまでたってもさー、だれか縋れる人間を探してるんじゃ、進歩しないでしょ」
孫のいうとおりとは思うのであるが、曹丕の人生というのは、皇帝にまでのぼりつめたものの、じっさいはつねに薄氷のうえを歩くがごとき危うさの連続であったことを、仲達は知っている。
だれからものぞまれて皇帝になったのではなかったから、その心はいつも平穏ととおいところにあった。讒言をあっさりと聞いてしまう脆さも、そのあたりに原因がある。
母親や父親に、素直に甘えられなかった少年が、そのまま大きくなったようなところがあるのが曹丕だった。努力しても努力しても、父親は決して認めてくれないという挫折感にいつも悩まされている。
だからこそ、ひとたびだれかを愛すると、盲目的に相手のすべてを肯定してしまい、讒言をもあっさりと聞き入れてしまう。
かなしいかな、その弱さが、かれの子孫たちに災いをもたらしてしまったのだ。その弱さを逆手に、曹丕が必死で手に入れた地位を襲ったのが司馬家なのである。
しょんぼりしていると、炎は言った。
「ったくもー、ダメだよ、じいさん。こいつのことは、オレに任せて、ええと、どこに行くんだっけ? 聞いてなかったか」
「桑の木の精のところへ行くのだ」
「ああ、そうなんだ。それじゃあそんなに遠くないから夜には帰ってこられるね。というか、このばかボンボンのことはオレにまかせて、じいさんは桑の木の精のところに行ってきなよ」
曹丕のことはたしかに気になったが、孫のいうとおりで、留まっていてもいいことはない。そこでふたたび自転車を漕ぎだした仲達であるが、ふと思い立ち、振りかえった。
「炎ちゃん」
「なに」
「炎ちゃんは誤解しているぞ。じいさんが陛下を気にするのは、優しいからではない。じいさんも、陛下とおなじように、ひとりの悲しさを知っているからだよ」
「じいさんには、オレや親父たちがいるじゃん」
「おまえたちは家族だろう。そうではなくて、友達がほしいのだよ」
「厄介だなー。贅沢っていわない、そういうの」
「苦労なしに友達をたくさん作れる炎ちゃんには、わからないかもしれぬ。世の中には、友達をつくることが下手で、困っている者もいるのだよ」
「そうなの」
「そう。じいさんは、炎ちゃんがそういう人たちのことも思いやれるようになったら、とてもすばらしいと思うがな」
言って、仲達は、すこしばかり寂しい気持ちになりつつ、自転車を漕いで、桑の木の精のところへ向かったのであった。

※昨日のアップ分でマゴ・炎の父親の名前をまちがっておりました。師じゃなくて昭でした~ご指摘ありがとうございます(^_^;) さて、本日は夜に小説のほうがアップとなります。どうぞおこしくださいませね(^^)/

2007年2月17日(土)
くっきき。 10かいめ

趙子龍は、最近引越しをして、ひまわりとたんぽぽとれんげとの畑のつらなる、海のみえる丘の一軒家に住んでいる。
家にはちいさなポーチがあり、そこには、なかなか読書家である、この感じの良い木造の家の主が読書を楽しむ場所でもあるらしく、ロッキングチェアーとサイドテーブルが置かれている。
アトラ・ハシースの住まう塔と、その周辺が魔法や最新テクノロジーに囲まれているためか、そこかしこに手作り感のあふれている家にやってくると、仲達もほっとする。
舗装されていない、くねったほそい道を、がたごとと上下に揺れながら、跳ねる耳を気にしつつくだっていくと、仲達は、白い屋根にみずいろの壁の古い木造家のまえに自転車をとめる。
波の音が風に乗ってやってきて、家のまわりに咲き乱れているれんげのうえを駆けていった。
すでに太陽は真上にのぼっている。
空には雲ひとつなく、ぴんと張ったシルクスクリーンのように澄み切った空がどこまでもひろがっている。
あまりの解放感、そして心地よさに、仲達はおおきく伸びをした。
孔明も、暇さえあればここにやってくると言っていたが、その理由がよくわかる。
景色のうつくしさもあるけれど、なにより、家を背に立てば、その視界に、人工物がなにも映ってこない。それが心地よいのだ。
アトラ・ハシースが塔から離れて暮らすことはゆるされていないので、アストラルはよいなあと仲達は心から思う。
とはいえ、うらやんでもはじまらない。
あきらめるためにも首をふるふると振って、自転車かごに入れてあった水筒をとりだす。
水筒は魚のかたちをした、うさぎサイズにあわせた青い水筒である。中にはふつうの水を入れていたのだが、すでに空になっていた。
この家では水道水を、直接、井戸から引いているので、格別な味がする。
それを分けてもらおうと思ったのである。

玄関にむかうちいさな階段を、人間ならば難なくまたげるところを、うさぎなので手もつかって、時間をかけて、うんしょとよじのぼり、そうして玄関までやってきた。
さて、この働き者のアストラルが召喚されていないとよいなと思いつつ、玄関をたんとんと叩いてみるが、応答がない。
それも仕方のないことで、一見するとこじんまりして見える家ではあるが、以前の小さな真っ白な家とはちがい、いまの丘のうえの家は、もともと複数で住んでいた家をそのままゆずりうけたもので、外から見るより広いのである。
部屋数も増えて、地下室と屋根裏部屋までついている。
さて、召喚されたか、それとも家の奥に引っ込んでいるのか。
裏にまわってみようかと、きょろきょろと周囲を見回した仲達であるが、ふと、脇を見れば、いつの間につくったのか、うさぎの身の丈にぴったりな、ちいさな玄関ができていた。
そして、真新しい玄関の横には、ちゃんと呼び鈴もあり、しかもていねいなことに、『もなか・くっきー用』と表記がしてあった。


※今日は仙台、とてもいい天気でありました(*^_^*) 明日もいい天気だといいなーと思います。まずはくっききでピクニック気分をどうぞ、というわけでアップ。ナゾ企画ですが、明日に発表の予定です。どうぞよしなにーm(__)m