● こうせいニッキ●
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2007年2月3日(土)
実験連載 塔 141

「なんとな?」
「なんとな、ではない。もう一度いう。断る」
「自分が劉氏ではないことが引っかかっておるのか」
「そうではない。血統だけで天下は取れない。もともと劉氏の漢とて、秦をほろぼして為った国ではないか」
「おまえはもともと、臥龍などとあだ名されていたのだろう」
「あだ名はあだ名にすぎぬ。龍であると評価されたとしても、それがそのまま素晴らしい未来につながっているわけではない。多少、実力があると評価されたとしても、それを礎にして戦える者でなければ、結局は、評価されたという事実しか残らない」
「これまた珍しく謙虚なことだな。せっかくわたしの力を貸してやろうというのに」
「むかし、もし天になんでも願いをかなえてやると言われたら、天下のことではなにも願わないと約束したことがある。まさかほんとうに願いをかなえてやると言われるときがくるとは思っていなかったが、天下のことは天下にたくさんいる人間が、それぞれ必死に考えている。かれらに任せておけばよかろう」
「もったいないことだ。おまえにとっても、天下にとってもな。わたしはこれで天に還り、人の願いを聞くこともなくなるだろう。それでもよいのか」
「かまわぬ。天下はいらない」
「ならば、なにを望む」
「願いを言うまえに、ひとつ教えてほしいことがあるのだが」
「なんだ」
「天水で別れた趙子龍は、いまどうしているだろう。かれはちゃんと故郷に戻れたのだろうか」
「さて。故郷には戻っておらぬよ」
「なにかあったのか。病に倒れたとか」
「いいや、道の途中で、行くか進むか、ずっと迷っている。足がまるで鉛になったように動けないでいるのだが、かといって戻ることもためらわれるのだろう。頭をかかえて困り果てているのが見える」
「なぜ迷っているのだ。願いはかなえられただろうに。すべてを忘れることにして、一度は故郷へ向かったはずだろう」
「願いは叶えられてはおらぬ」
「すべてを忘れて、苦しみから解放されたいと願ったのではないのか」
「いいや。あの男が願ったのは、おまえが安らかであるように、だった。おまえが安らかになるためには、おのれの存在が邪魔であろうと思ったのだろう。だからこそ消えてしまおうと考えたようだが」
「消える?」
「そう。けれど、結局は思い切れずに、ただ記憶が消えただけになってしまったのだ」


※アップでありますが、明日になりそうです。最近はちょこちょことアップができていますねー(^.^)このペースでがんばろう。さてはて、アンケート、ありがとうございますー。強いな、孔明…でもってキツネ!とくさ様、いつも本当にありがとうございますm(__)m次回の椒聊は、まるまるキツネづくし。最初から最後までキツネであります(^^ゞぜひご覧くださいませね。 

2007年2月4日(日)
実験連載 塔 142

「願いは、まだかなえられていないというのか。待て、ではわたしはこう願おう。『子龍の願いを叶えるな』と。これならばどうだ」
「かまわぬが、そんなことでよいのか」
「よい。むしろ礼を言う。子龍の願いを知らなければ、わたしは危うく、それこそ永遠に友を失ってしまうところであった。たとえ天下が手に入ったとしても、そこにかれがいなくては意味がない。
消えてしまおうなどと考えたのなら、どうしてそんなふうに思いつめてしまうのかを聞きたい。どうしても消えるというのなら、わたしもいっしょに消える」
「なぜそれほどに」
「なぜって? 不滅の魂である貴殿にはわかるまい。われらの命はちいさく、有限であるからこそ、そのはかない人生を、だれかに知っていてほしいと願うのだ。
あまたいる人間のなかで、たとえ知己を得たとしても、一人の人間をどれほどまで知ることができるだろうか。それは親兄弟、夫婦にしても同じで、たとえ血を分けようが、契りを交わそうが、その心を理解できるかということとは、また別なのだよ。
わたしはかれほどにわたしを理解できる者は、おそらくほかにはだれもいないであろうと確信しているし、それはかれも同じであろう。
わたしはかれのうえに言葉を重ね、そしておなじく行動を示してきた。かれはまさにわたしそのものであり、わたしがこの世に存在することを明かしてくれる人間でもあるのだ。
かれが消えるということは、わたしにとっては、自分が消えてなくなってしまうのとほとんど変わらぬ。天下に刻むことができるのは、わたしの名前と事蹟と印象だけだ。わたしの心を知るのは、家族でも妻でも、ましてやこれから知り合であろう、ほかのだれでもなく、かれだ」
「消えないでほしいというわけか」
「そうだ。しかしそれとて、わたしのわがままなのだろうか。わたしが思っているように、かれはわたしを思っていないようだ」
「なぜそう思う」
「天水で戻ってきた子龍は、わたしの分身として用意した赤毛の男が、その正体を見破られたために用意した道案内だろう。本物はわたしよりも故郷を選んだ」
「たしかに道案内のために作られた幻影だが、その行動や思想などは本人をもとに作ったのだ。だから、たしかにおまえは途中までは、影とはいえ、その心とともに行動をしていた。
絶望することはない。記憶がなくてもなお、あの男は迷っている。おまえが安らかであれと願ってはいるが、しかし自分を消してしまうにもためらいがある。おまえへの執着心が消えないから、その勇気がでないのだ」
「そんな勇気なんて、一生、でなければいい。では、故郷に戻りたくないと言ったのも、かれの本心か。わたしに語った言葉のすべても」
「そうだ」
「…………………………」
「どうする。天下のことは、ほんとうになにも願わないのか」
「それは自分で何とかする。いや、そうではないな。世の中というものにわたしが愛着をもてるのは、そこに愛する者がいるからだ。わたしはかの者の願うとおりの者になりたい。だから天下を望むのだ。
奇跡の力などではなく、自身の力でどこまでできるのか、わたしという人間に、すべてを捨ててまで守る価値があるのか、ほかのだれでもない、かれに見せてみたい。さあ、願いをかなえてくれ」


※今日は早めにアップしました(^^ゞ アンケートも新しくふたつ追加しましたので、お時間のある方はぽちっと押してやってくださいませm(__)m 塔、2/6に最終回となります。あと二回、どうぞお付き合いくださいませ(^^ゞ

2007年2月5日(月)
実験連載 塔 最終回

「透明な空というものもあるのだな、なんてふしぎな色なのだろう。わたしはどこにいるのかな。
っと、危ない、なんで小舟のうえで寝てるんだ。あやうく立ち上がって船から転げ落ちるところだったではないか。と、いうより、どこだ、ここは。

河? 

わたしは釣りをしていたようだな。

てっきり天水か、そうでなければ、子龍のいるところへいけるかと思ったのに、なんだってこんなところに。
この箱はなんだろう。
う、餌のミミズか。気持ち悪い。生きてるではないか。
だれだ、こんな餌を用意して渡したのは。これは掴めぬぞ。
釣りはやめよう。そうだとも。蓋を閉めてしまえ。えい。どうかミミズが箱から飛び出してきませんように。

岸からはそう離れていないな。対岸は林になっているが、太陽はどっちだ。

なんだかすべてが墨をかぶったように黒いな。空ばかりが白んでいて。影絵のなかに迷いこんだみたいだ。
おや、あれは、煙ではないな。白い大きな筋が、空にのぼっていく。西のほうだ」

「おい、釣果を聞かせろ、軍師将軍。いいかげん、朝飯の支度をしないと、あっというまに昼になる」
「子龍」
「俺だが? おい、舟の上で立ち上がるな、落ちるぞ! なにを考えているのだ、まったく。で、釣果は?」
「釣果? ああ、釣果ね、釣果。はいはい。釣れた魚は、ええと、おや。いつの間にこんなに釣ったかな。あまり釣りは得意ではないのに。
よろこべ、子龍、魚篭にやまほど釣れている。これは、あの竜のおまけかな」
「へえ、意外な才能があったものだ。それともここの河の魚は、おまえに釣られるくらい、おそろしくとろいのだろうか。いつであったか桂陽におまえが遊びにきたときに、一緒に釣りにいったな。あのときはさっぱりだった」
「あのときはたまたま調子が悪かったのだ。というより、いま、桂陽と言ったか」
「言ったが」
「記憶があるのだな」
「あるとも。なんだかよくわからんが、それだけ成果があったのだったら、さっさと戻ってこい。まったく、夜釣りにいくと言い出して、それっきり夜明けまで戻ってこないのだから、てっきり溺れたのではと思ったぞ」
「そうなったら大騒ぎして助けを呼んでいたさ。ところで子龍」
「なんだ」
「ここはどこだ」
「…………は?」
「わたしはたしか、主公に二ヶ月の休暇をいただいて、そのあと夢で見た西の土地にある塔に向かったはずだろう。そのあいだに、なんやかやとあって、おかしいな、あなたもどうしてここにいるのだろう」
「寝ぼけているのか、はたまた錯乱か。前者であってほしいところだが、いいか、おまえは主公から働きすぎだと注意されて、二十日間の休暇を言い渡されたのだ。で、いきなり俺の家にやってきて、これから旅にでるからついてこいという。
いったいどこへ行くのかと思って付いてきたらば、どんどん東に向かって行って、いつのまに建てたのやら、見ろ、あんな立派な別荘で、ひたすらなんにもしないで過ごすといった。で、なぜだか急に夜になって『釣りをしたい』と言い出して、棹を持って小舟を漕ぎ出し、いまに至る。わかったか」
「西の塔へ向かったのではないのか」
「西の塔とはどの塔だ?」
「どこだったのだろう。武威と酒泉のあいだにあるのはまちがいない」
「主公が休めとおっしゃった理由がわかってきたな。そろそろ朝陽がのぼるとはいえ、体が冷えているだろう。火も焚いたし、食事も用意したから、岸にあがってこい」
「戻るのはよいけれど、ところで、どうしてわたしが釣り?」
「俺が聞きたい」
「そうだろうな。ミミズが気持ち悪いので戻るよ。舟を繋ぐのを手伝ってくれ」
「生きた蚯蚓が触れないくせに、よく釣りができたものだな。ほら、手を貸せ。せっかくここまで来たのに転ぶなよ。それと、魚篭を。
ああ、蚯蚓を俺が持って、おまえは魚と棹か。いいけどな。

見ろ、おもしろい雲だ。煙ではないだろう。あちらのほうに人家はない。天に昇る龍のような雲だな。これは瑞祥かな」

「そうだろうよ。知っているか、龍にもいろいろ格があって、高貴な龍の爪は五本あるのだよ」
「ふうん?」
「朝陽がのぼる。前にもこんな光景をいっしょに見たな。二十日の休暇で、今日は何日目にあたる」
「四日目」
「そうか、あと十六日もあるわけだな。うん、あなたのいちばん心の叶うように過ごそう。のぞみどおりにするよ。わたしはすべてに従おう。釣りも狩りも付き合うし、なんにもしないというのもいいだろう。
それから、夢の話も聞かせてあげようか。それはそれは面白い話なのだ。
疑うな。ほんとうに面白いのだよ。最後は多くのおとぎ話といっしょで、いいところに落ち着くから安心して聞いてくれ。
まずは最初にわたしが夢を見たことからはじまるのだが………」


※次回、「おまけ」につづきますm(__)m

2007年2月6日(火)
実験連載 塔 おまけ

「軍師、その石の使い方なのだが、五つ揃えたとして、三つ目まではふつうに願いをかけて、四つ目に『五つ目の石の願いをかけた時点で、いままでの反動が来ますように』とかけて、五つ目は使わないようにしたらどうだ」
「む?」
「でなければこうだ。四つ目までふつうに願いをかなえる。だたしここで間を空けないようにするのだ。そして五つ目の石に『いままでの反動は全部、憎い相手に向かいますように』とかける」
「非道い………でもそれもありだな。というより、どうして石を手にしているときにそれを思いつかないかな、あなたは」
「責められてもな。おまえの夢の話だろう」
「いや、夢じゃなかったと思うのだが。待てよ、もしかして、こうして話しているのも、常山真定に戻る手前で迷っているあなたが見ている夢かもしれない。確かめる術はないぞ。さあ、たいへん」
「夢だろうと現実だろうとかまわぬ。戦場のど真ん中に放り込まれたというわけではなく、こんな静かなところでぼーっとしていてよいのだから、素直に状況を受け取るさ」
「前向きというか、適応力が高いというか。しかし、これがあなたの望んだものなのか」
「だから、俺が望んだものではなくて、おまえが俺をここに連れてきたのだろうが」
「こんな別荘を建てた記憶もないし、買った記憶もない。だからわたしの勝ち」
「勝負だったのか……」
「あと十六日。なにをしようかな」
「おまえのいう夢が本当で、ここが俺が望んだとおりの結果だとする」
「うん」
「で、おまえは、俺にすべて従うと言った」
「うん、言った………かな?」
「言った。たしかに言った。のぞみどおりにする、すべて従うと」
「言った、気がするが、すまぬ、その言葉に『常識の範囲内で』と『可能な限り対応できるよう善処します』を加えてくれないか」
「却下」
「えーーと」
「あと十六日、言葉どおりに付き合えよ」
「なんだろう、その意味ありげな笑い………………………本気か」


おしまい。

あとはご想像におまかせいたしますm(__)m

つぎのうちから十六日間のあいだの出来事をひとつ選ぼう!
A・一年分の釣りのえさづくりに付き合わされた
B・朝から晩までひたすら馬の世話
C・言葉ばっかりで、なんだかんだとだらだらした十六日間
D・そのほか


※長い連載となりましたが、お付き合いくださいましてありがとうございましたm(__)m多くのご感想、拍手に、あらためて感謝!であります。明日より新連載の『くっきき。』がはじまります。一ヶ月を予定した、ゆるーい、気楽に読んでいただける物語となります。
最近はブログに妙に時間がかかっていけません。反省(>_<) 明日は、またかい、という声もあるかもしれませんが、椒聊のつづきのアップとなります。きつねづくし。お時間のある方、おこしくださいませ(^^)/ でもって、アンケートへのご回答ありがとうございます(^^♪ またまた楽しいコメントをいただけてうれしいです。いやしかし、孔明は強いなあ…。