● こうせいニッキ●
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2006年11月20日(月)
実験連載 塔 71

「ほら、その者に、わたしの上衣を着せてやるといい。ひどいものだ。殺して衣を奪ったか、そうではなく、より苦しめるために裸にして引きずったか……後者でないといい。人のすることではない。
本格的に雨雲がせまってきたな。これは涙雨か。雨宿りできる場所もない。子供たちのなかで、弱っている者はないか? わたしの袖の中に隠れるといい。さあ、みなで身を寄せて、雨が行過ぎるのを待とう。向こうの空は晴れているから、すぐにやむであろう。
子龍はどこまで行ったかな。矢のように行ったきり、戻って来ない。
ああ、わたしか? ただの旅人だよ。大丈夫、ありがとう。雨に濡れたところで、感冒にかかることもなかろう。わたしは石に守られているからな。
それよりも、おまえたちを元の集落に戻してやりたいが、気にかかることがあるな。そこも魏の兵卒に占拠されているのであれば、戻るのはかえって危うい。いくら子龍がおそろしいほど強いとはいえ、ひとつの集落にあつまっている兵卒たちすべてを相手には出来まいよ。さあて、困った。おまえたちと仲のよい部族の集落へ連れて行くしかなさそうだな。
これこれ、あれは雷だよ。落ちてこないかって? わたしのそばにいる限りはだいじょうぶだ。安心して隠れていなさい。
どうしたのだね?

…………赤毛か? いや、ちがう、人ちがいか。雷とともに登場とは、派手なやつだな。風体も派手だが。貴殿は?」

「神威将軍」
「神威将軍? それは馬孟起のあだ名のひとつであろう」
「馬孟起どのと、知り合いか? ことばが、このあたりの者とちがう」
「やはりわかるか。襄陽から来た、ことにしておこう。神威将軍か。よく考えると華があるというか、派手なあだ名だな。わたしの号といい勝負だ。
貴殿、みたところ羌族のようだが、馬将軍のお身内かなにかか。なぜに馬将軍のあだ名を名乗っている」
「漢族の支配から脱するために立ち上がり戦った、かつての神威将軍は、敗れ、漢族に魂を売った。そしていまは、故地を見棄てて山中の土地にて安穏と暮らしている。いわば、儂らの英雄は死んだも同然。だから、儂がその名を継いだのだ」
「なるほど、馬孟起はまことの英雄であった。それにあやかって、勝手に派手なあだ名を使用しているというわけか。
怒るな、莫迦にしたわけではない。この者たちを助けにきたのならば、もう心配は無用だぞ。わたしの連れが、そなたの部族のものを救うべく、片っ端から魏兵を片付けているところだ。
眩暈がするほどつよいやつだから、朗報を待て」
「そいつは羌族か?」
「ちがうが、どこの民であれ、女子供が理不尽に痛めつけられているのを見るのが許せない性質で……おや、言っている側から帰ってきた、のに、やれやれ、なんだってそう好戦的なのだね。
矢をつがえなくともよい。この者は敵ではないよ、子龍。だいたい、弓なんぞ、どこから持ってきたのだ」
「奪った。おい、そこの派手な羌族。そいつから離れろ。いますぐだ」


※ニッキだけですが朝にアップ敢行(^^♪ ブログは夕方にアップ予定です。仙台、月曜日から天気が崩れ気味ですが、がんばっていってまいります!(^^)!

2006年11月21日(火)
実験連載 塔 72

「おまえが、儂の仲間を助けてくれたのか」
「この雨であるから、移動が遅くなっているが、みな無事だ。すまぬが、馬車に引きずられていた者は、すでに事切れていたが」
「特に反抗した者たちだった。勇敢な者だ。おそらく神もかれらをすぐにお認めになり、魂をお手元に置かれていることであろう。
おまえに礼を言いたいが、弓で狙われている状態では素直になれぬな」
「そのとおりだぞ、子龍。わたしはこの者に害を為されておらぬ。弓を下ろせ」
「子龍? たしかそんな名前の蜀将がいたはず」
「ああ、わたしの連れは、いま売り出し中の武将でな、やはり趙子龍にあやかるために、字を子龍と名乗っているのさ」
「なんだ、偽者か。年の頃はほんものとおなじくらいなのに、その後塵にあやかるしかないとは、あわれなやつ」
「こ、いや、元平、弓を放ってよいだろうか」
「だめだ。ところで神威将軍、この者たちの集落は魏兵に占拠されているのだろうか。どこか安全な場所に避難させてやりたいのだが」
「それならば、安心するがいい、儂の仲間が魏兵を皆殺しにして、集落を取りもどした。避難していた者たちも戻ってきている。捕まったのは、逃げ遅れた者たちばかりだ」
「そうか、帰る場所があるというのなら、よかった。この檻の馬車には乗せたくない。ほかに馬車の手配はないか。この大雨のなかを歩いて帰すのも忍びない」
「あいにくと、馬車の用意はない。手配をしているあいだに歩いたほうが、早く集落に帰れるというものだ。漢族の子供とちがって、儂らの子供らは足が丈夫だ。
さあ、みな、歩けるな?」
「おや、みなどうしたのだね、そんなふうに不安そうな顔をして。この男は、おまえたちの仲間ではないのかね?」
「儂は仲間だと思っているが、この者たちからすれば、初対面の知らぬ男だ。怖じるのは無理ないかもしれぬ。
おまえたち、神威将軍の名を聞いたことはないか。漢族の支配からわれらが故地を守るために戦っている男だ。おまえたちを魏に売り渡しはせぬ。安心するがいい」



「なんだって集落についていく必要が? 神威将軍の再来などと自分で名乗るところといい、なにやら胡散臭い男だ。ほんとうに魏兵を皆殺しにしたのか、怪しいものだ」
「かといって、ここまで乗りかかった舟だ。この者たちが、ちゃんと家に帰れるか見届けねば、ほんとうに助けたことにはならぬ」
「あんたも、たいがいお節介だな」
「あなたには負けるよ。ああ、あの白い壁の城塞のような建物が集落か。やはり塔がある。あれが羌族の祭祀の中心になっている塔か」
「注目すべきはそこではないぞ」
「あえて目を逸らしたのに。敵将の首を刎ねて、門に串刺しにして飾るとは、あまりよい趣味ではないな」
「魏兵を皆殺しにしたというのは、ほんとうのようだな。しかし、野蛮にすぎよう。このように苛烈なことをしては、よけいに敵をあおるばかりだぞ」

※ようやく天気もよくなりましたー(^^♪ 二日目も朝アップ成功です。さてはて、今夜の2時から6時まで、カウンタのサーバーメンテが入るため、TOPページや更新履歴が見れない可能性があります。90分ほどで解消するそうですが、深夜にいらっしゃる方、ご了承くださいませねm(__)m

2006年11月22日(水)
実験連載 塔 73

なんであろう、見えない針の山のうえを、素足で歩いているような心地だな」
「当たりまえだ。ここでは、俺たちは侵略者側の人間だ。あまり俺から離れるなよ。こいつら、いまは大人しいが、ふとした拍子で襲い掛かってくるかもしれぬ」
「命を助けたのに?」
「甘い。命を助けようとなんであろうと、敵は敵だ。あんたはどうやら、人を貴賎や民族の別で差をつけて見ないようだが、たいがいの人間は、そうではない」
「神威将軍と名乗っている男、やはり信用ならぬかな」
「信用できるか否かはわからぬが、妙な空気だ。みなの目を見ろ。あの男を見る目もなにやら不審に満ちている。わかる気がするな」
「あまりに仕返しが苛烈なので、迷惑がられていると?」
「そんなところであろう。あの男の言葉どおりならば、あいつは、錦馬超の威光を借り、部族間の争いを越えて、いまひとたび羌族をひとつにまとめて、この地から魏を追い払おうとしているらしい。が、俺からすれば、凡人の器だ。他人の威光を借りて動くやつが大成した試しはほとんどない」
「厳しいな。しかし、それは言える。あの男、そこそこに度量はありそうだが、せいぜいが地方の太守どまりの器だ。涼州すべてを統べることはむずかしかろう」
「厄介ごとに巻き込まれる前に、さっさとここから出たほうがいい。みな、家族と再会できたようであるし」
「あなたがそこまで嫌だというのだから、相当だな。こういうことの勘にかけては、あなたのほうが上だ。素直に従うよ」
「歓待の宴をする、と言われても、固辞してまわれ右。いいな?」
「わかった。どうやら、あの老人がこの集落の長らしい。挨拶したら、すぐにまわれ右」
「よし、行け」



「どうしてまわれ右をしないで、そのまま先に進む!」
「仕方ないだろう。挨拶をして、さあ、まわれ右、という段になって、両脇を神威将軍の部下とやらに挟まれた。逃げるに逃げられなかったのだよ。あなただって、なんだかんだと付いてきたではないか」
「仕方ないだろう。あんたを奪い返そうとしたら、子供たちに周りを囲まれた」
「神威将軍、なかなか人を見る目があるようだな。この料理、もてなしてくれているのはまちがいないが、どうも食が進まぬ」
「あまり食べないほうが無難かもしれない。疑心暗鬼もいやなものだが、どうも落ち着かない」
「味付けは悪くないのだが。聞いてよいか。なにを以て、そう落ち着かないと言い切るのだ」
「どうもおかしい。だが、魏兵との小競り合いをして悲惨な光景を目の当たりにしたあとで、みな、疲れ果てているだろうに、なぜこうも俺たちを歓迎しようとするのだろう。
それに、みながあんたを見すぎる。あんたは、見られることに慣れているから、気づかないようだが」
「気づいているよ。そんなにわたしの顔はめずらしいだろうか」
「たしかにあんたは目立つやつだ。だが、どうもみなの目つきがおかしい。
それに、さっき小耳に挟んだのだが、連中、どうやら俺がまったく羌族のことばを知らないと思っているらしく」
「うん? わかるのか?」
「いつどこでわかるようになったのかは思い出せないが、簡単なことばなら、問題なく聞き取れる」
「そうか、記憶がなくなっても、青羌兵と一緒に調練したり、馬のことでいろいろとやりとりしたときに得た知識が役に立っているのだな。
で、かれらはなんと?」
「願いがどうとか、石を五つ持っているとか話をしていた。」
「もしや」
「ああ。神威将軍が、なにも触れてこないことが、いっそう怪しい。石の存在を知れば、おそらく咽喉から手が出るほどに欲しがるだろう。
石はしっかり持っていろ。石が守ってくれるだろうと油断するな。あんたが夢で見た塔が、この地ではないと断言できないだろう」


※お寒うございます(>_<) 朝アップ三日目。お話はまだまだつづきます。すっかり遊んでいるこのミニ連載。いましばしお付き合いくださいませm(__)m

2006年11月23日(木)
実験連載 塔 74

「夢で見た土地と、この城塞のような集落は、だいぶちがうが」
「しかし、夢で見た光景から、もう何百年と隔たっているのだろう。そうならば、ちがっていて当然だ」
「羌族は赤毛ではない」
「何百年というあいだ、多くの民族が互いに争い、淘汰されていった。そのなかに、あんたが見た王国の末裔たちも含まれていたらどうだ。ほかの部族にその血が吸収されてしまっていたら。
夢のなかで石を掘り出した王国は、漢に攻め入ったはよいが、結局は滅んだのであろう。ならば、いまは王国の面影など、跡形もなくなっていても、おかしくはない」
「それはそうだな。そういえば、わたしの夢で見た王国、あそこもひとつの神しか持たない国だった」
「ひとつの神しか持たない?」
「そう。我らは多くの神を持ち、それぞれに信奉するだろう。しかし、羌族には神はひとつなのだ。天地を生みたもう神も、大地に恵みをもたらす神も、死者の魂を受け止める神も、みなひとつの神なのだ」
「それでは神は忙しかろう」
「すべてをこなせてしまうほどに巨大で偉大な存在なのだろう。想像もつかぬがね。
そうか、共通点は多いな。ひとつの神、そしてその祭祀の象徴としての塔。だとしたら、ここが終着点として、石を帰すべきかもしれぬ」
「慎重になるに越したことはない。ともかく、今宵はここに泊まることになる。お互いに、寝首をかかれないようにしないとな」




「うん? だれだ、夜更けに人の部屋の扉をどんどんと。厠とまちがえているのではなかろうな。それとも刺客が丁寧に来訪を告げてきたか。
おおい、この部屋の主は就寝中だ。用があるならば、朝にしろ」
「起きているのなら、開けてくれ、俺だ!」
「子龍? どうした。う。なんだ、脂粉のにおいをさせて! 女とひと悶着あったから逃げてきた、というのならば匿わぬぞ、勝手に戦え!」
「莫迦、勘違いするな。俺はふつうに寝ていたとも。ところが、ふと気づいたら、女が俺の寝台に忍んできたのだ!」
「ほう」
「なんだ、その目は。俺は何もしてない、潔白だ! というわけで、匿ってくれ」
「やだ」
「なぜだ、薄情もの!」
「わたしが前に言ったことを忘れているな。近づくな、と。こんな夜更けに部屋に入れて、こちらの身が危うくなるのは困る」
「あのな、陳倉での振る舞いは、たしかに俺はどうかしていたかもしれない。謝るから、だから今宵だけでも気持ちをおさめてはくれぬか。あんたには指一本触れないと約束する」
「どうしてそこまで。やってきた女がとんでもない醜女だったのか」
「いいや、文字通り、目が覚めるような、なまめかしい美女であった」
「ふん、ならばせっかくのもてなしを断るまでもなかろうに」
「いいや、あれはだめだ。ああいう女は危うい。一度手を出したなら、それこそなんだかんだと理由をつけて、主導権をがっちり握って、いつまでも纏わりついてくるだろう」
「別に言い換えれば、情の深い女だということではないか。そのうえに美しいのであれば、文句はないと思うがな」
「じゃあ、あんたが俺の部屋に行け」
「お断り。まったく、体が冷えてきた。仕方ない、部屋に入れ」


※やっぱり三日坊主だった……(-_-;) いままでなにをしていたか? 寝込んでおりました。ヘタレ…。アップを終えたら、また寝ます。ひたすらにぐうぐうと。それではお休みなさいませ(-_-)zzz

2006年11月24日(金)
実験連載 塔 75

「女が嫌いというわけではなかったよな。たしか、以前にもうわさになった女が何人もいたと聞いたが」
「だれから」
「ああ、そうか、新野でのことも記憶にないのか。生憎とくわしくは知らないのだけれど、あなたには深い仲になった女人がいたのだよ。会ったことはないし、名前も知らないけれど、きれいな女だったと聞いた」
「そうなのか。なぜ、駄目だったのだろう」
「たしか、その女が、ほかの男のもとに走ったからではなかったかな」
「なんだ、俺は情けない役回りだったのだな」
「落ち込むことはないさ。その女はたまたまで、わたしが知らないだけで、あなたにはほかにもたくさんの色事の噂があったようだよ」
「自分のことなのに、なにも思い出せないとは不便だ。俺は女好きだったか?」
「いいや」
「だろうな。あんたには、みっともないところばかり見せている気がする。女が忍んできたくらいで、こんなふうにぎゃあぎゃあと子供のように騒いで、さぞ呆れているだろうな」
「呆れていないよ。あなたは、女人に対して、畏怖に似た感情を抱いている人なのだ。だから、女人を軽く扱うことができないし、深く入れ込むこともなかなか出来ないでいる。
そういうふうだから、逆に女人から積極的に来られると、おそろしさが先に立って、混乱してしまうのだろう」
「俺になにがあって、そんなふうになったのだろう」
「すまないが、それに関しては、わたしも知らないよ。あなたは話したがらなかった。しかし、記憶がなくなっているのに、そういうところが変わらないというのは、不便だな」
「無理に常山真定に追い返さなくてよかったと思わないか」
「すこし思うね。単純に、過去の嫌なことが、振る舞いのすべてに繋がっていると思いすぎていたかもしれない。それとも、記憶が消えたとしても、からだに染み付いた癖というのは、なかなか抜けないものなのか」
「じゃあ、俺があんたに惹かれるのも、その癖のひとつかな…………なんだって勢いよく部屋の隅に逃げる」
「逃げるに決まっているだろう! いいか、近づくな。以前の子龍ならば安心できたが、いまのあなたは、まるで信用ならぬ」
「俺はそんなに見境のない男ではないぞ。あんたにはたしかに惹かれるが、変な意味じゃない。そんなところで石の壁にぴったり体をくっつけていたら冷えるぞ。寝台に戻れ。俺は大人しく、床の敷物の上に転がっているさ」
「そうしてくれ。いいな、近づくなったら近づくなよ!」
「はいはい」
「『はい』は、一度でよろしい。まったく、今日は眠れるだろうか」
「眠らなくてもよかろう」
「………近づくなと言ったはずだが、どうして人の顔を覗きこんでいるのかな?」
「いや、ふと思ったのだが」
「なんだ」
「あんた、もしかして、男装した女とかではないよな?」
「は?」
「俺は女嫌いというわけでもないし、断袖の趣味があるわけでもないようだ。ほかの男どもを見ても、なんとも思わないし、むしろ女に目が行くからな。
けれど、なぜだかあんたはちがう。いまの俺には、なににつけても、あんたが最優先だ。考えることも、まっ先に目が行くのもあんただ。おかしいだろう」
「うん、変」
「そうだ、変だ。しかし、あんたが実は女だというのなら、俺がおかしい理由もわかるというものだ」
「で、人の服の襟に手をかけて、なにをしようとしているのかな?」
「脱がして確かめるべきかと」


※ぐっすり眠って体調回復であります(^^ゞ ブログのほうは夕方にアップいたしますので、どうぞよろしくです。