● こうせいニッキ●
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2006年11月15日(水)
実験連載 塔 66

「なお一層不機嫌になったな。それでも帰れといわないということは、同行してもよいということか」
「追い返しても、戻ってくるだろう」
「まあな。よくよく考えてみたら、俺は常山真定の家族のことをすっかり忘れてしまっているわけだ。あんたの話からすれば、俺と常山真定の家族、これはあまり連絡をとっていなかったようでもある。だから、とりあえず常山真定に帰るにしても、それはべつに、いつでもかまわないのではないかと思ったのだ。
つまり、あんたが塔に行くのを見届けてから、帰ってもかまわないということではないのかな、と」
「拡大解釈だな」
「そうか? あんたは石に守られているから、道中は無事だと豪語していたが、それは行きの話で、帰りはどうするつもりだったのだ?」
「む?」
「ほらみろ、考えていなかっただろう。あんた、賢いのはたしかだが、いささか間抜けなところもある」
「間抜けはよせ」
「けれど図星だろう。成都には戻らないにしても、せめて国境までは一緒にいるさ。どうした、頭を抱えて」
「一緒にいるということは、たとえ反動がわたしに降りかかるようにと願っても、あなたを巻き込んでしまうというわけではないか」
「なんだ? すまん、聞き取れなかった。すごい風だな。麦がいっせいに風になびいて、潮騒のようだ」
「潮騒はもっと、迫ってくるような音がするよ。これは、ずいぶんと優しい波音だ。けれど、この黄金の海にはふさわしい」
「宝玉も宝剣も、この光景の前では価値が褪せるな。身を飾るものをあつめたところで、その者自身の心を高めてくれるわけではない。けれど、この光景は、あたりまえのようにここにあり、そしてだれのものでもなく、等しくその姿を見せてくれる。そう思えば、人の欲望や執着など、ずいぶんとちっぽけなものだ」
「それは、初めて聞いたな。ああ、だからあなたの家は、なにもなかったのか」
「俺は自分がなにを願ったのかは思い出せないが、忘れてしまった記憶のなかに、きっと多くの宝があったにちがいない。そしてそれこそが、ほんとうは俺を成しているものであったはず」
「美しいものがわずかで、つらいことのほうが多かったのかもしれないのに」
「それでも、なぜだろう、俺はなくしたものにこだわらなければならない気がするのだ」
「懲りない人だな。石を使った意味がない」
「そうかもな。でも、記憶は消えても、このからだのどこかが過去を覚えているのだろう。だからこそ、俺はあんたの言葉を聞きたくなって、しょうがなくなったのかもしれない。つまりは甘えているのだろうな。
こういうと、また殴るか」
「殴らない。けれど、この人たらし、と思った」


※お久しぶりの登場となりました。ニッキの更新は少しずつしてまいりますので、どうぞよしなに~m(__)m と、いけない、大事なことを忘れてしまうところだった。WEB拍手で温かい励ましの拍手をくださった方、どうもありがとうございます。胸にじーんと来ました。こうせいニッキから、すこしずつアップを再開していくようなかたちになります。こちらを見てくれるかなあ……ゆっくり休んで、いいものをお届けできるようにがんばります(^o^)丿

2006年11月16日(木)
実験連載 塔 67

「つねに一定距離、というのも難しいな。だいたい、あんた、足のほうは大丈夫か」
「おかげさまで絶好調。気にせず離れて歩け。あんな扱いを受けるのならば、足が磨耗してしまうほうがよほどマシだ」
「ずいぶん怒らせたものだな」
「なーにを他人事のように。ところでな、ひとつ聞きたかったのだが」
「なんだ」
「正直、これを聞いてよいものかどうか、迷っているのだが、あなたは、いままで、わたし以外に、その、なんというのだろうな、同じ男と分類されるものに対して、似た振る舞いをしたことがあったのか」
「………………」
「興味本位で聞いているのでもないし、憎まれ口でもないぞ」
「おぼえている限りでは、ないな。なにを根拠にこう思えるのか、自分でもわからないが、たぶん、あんたが俺にとっての特別なんだろうさ。また怒るかもしれないが、それでも謝る気がすこしも沸かない」
「やっぱりあなたは変だ」
「病気かな」
「病気かどうかはわからないけれど、変だ。あれほどさんざん突き放したのに、どうして一宿一飯の恩義を忘れぬ犬のように戻ってくるのやら。
変わり者。おせっかい。いじめられ好き」
「なんだ、最後の『いじめられ好き』とは」
「言葉のままだ。どうやらあなたは、いじめられればいじめられるほどに喜ぶ人らしい。思わぬ性癖が見つかったものだ。ああ恐ろしい」
「あのな」
「一定距離を保てと言っただろう。近づくな。ああ、こんな調子で塔までもつのだろうか。行けば行くほどに、目になじんだ光景とはちがう光景に変わっていくというのに。
人の容貌もちがえば、風物もちがう。緑が目に見えて少なくなってきた。桂陽や臨烝のあたりの豊かな山水を思えば、まさにここは不毛の大地だな。
平西将軍は、いまでもこのあたりを恋しがっているといっていたが、わたしにはわからないな」
「じき、狄道だ。その先は涼州に入る。昼と夜との寒暖がはげしいところだから、街道を行くにしても、準備は万端にしておいたほうがよかろうな」
「やはり馬がいるか。塔はおそらく、まだもっと西にあるのだと思う。涼州のその先、か。帰ってこられるだろうか」
「弱気だな。安心しろ、なにがあっても、あんたは成都に帰してやるよ」

※来てくださった方、ありがとうございます。拍手もいただけて、本当にうれしいです。ニッキだけでもこの調子でアップできたらなあと思っております。また遊びにいらしてくださいねー(^^♪

2006年11月17日(金)
実験連載 塔 68
「見ろ、遠くの雲が、まるで水のなかに墨をこぼしたようになっている」
「天気が崩れているらしいな。じきにこちらに雲が流れてくるかもしれない。いそいで雨宿りができるところまで移動したほうがよさそうだ。と、言っているはしから、なぜに足を止めるのだ」
「せっかちだな。こんなにめずらしい眺めはないのに。あなたも一緒に見るといいよ。恐ろしくも美しい光景だと思わないか。
ほら、いま光ったのは、雷ではないだろうか。子龍、わたしは父がおとぎ話に聞かせてくれた、雨雲を操る雷師がほんとうに天空を駆っているなどという話は、想像たくましい古のひとびとの作り話だと思ってきたけれど、こんな風景を見ると、もしかしたらと思うな。黒雲があんなにうねって、まるで龍のようだ」
「あいにくと、俺には、あんたのように、旅情とやらをいちいち楽しむ余裕のない男のようだ。早く移動しよう。あの龍は雨を降らせるぞ。ずぶ濡れになったうえに、風邪を引きたいか」
「引きたくない。足を止めさせて悪かったな」
「悪くはないが」
「が?」
「雲にかこつけて足を止めたが、じつは足の具合が悪くなっているのではなかろうな」
「と、いいつつ近寄るな。わたしの足は、わたしが面倒をみる。怪我も重なれば、皮が厚くなって、かえって頑丈になるものさ」
「その怪しげな自家製のぬり薬、効いているのだろうな」
「失礼な。アカギレ、しもやけ、じんましん、虫刺され、なんでもござれの万能ぬりぐすりだぞ。と、いまごろ雷鳴が落ちてきた。間近で銅鑼を鳴らされたら、こんなふうだぞ。ああ、むかし、新野で、心根のいやしい士卒長から、こんな嫌がらせをされたものだな」
「その士卒長はどうした」
「さあて、生きているのか死んでいるのか…………どうした」
「いや、いま、雷鳴に紛れてしまったが、馬車の音が聞こえた」
「それは聞こえるであろうよ。ここは街道だもの」
「ただの荷車ではないぞ。車輪の音に対して、馬のひずめの音が多すぎる」
「よくわかるな。六頭立ての馬車というのなら、貴人のものであろうか」
「貴人か。ここは敵地だな。となると、やってくるのは誰だ」
「このあたりの太守であろうか。おや、ほんとうだ、近づいてくるようだ。わたしの耳にも聞こえてきたぞ」
「聞こえてきたぞとのん気に構えている場合か、隠れろ!」
「手をつかむな! 近づくなと言っただろう!」
「そんな場合か! 頭を上げるな。地べたに這いつくばっていろ!」
「…………!! いま鼻を打ったぞ……」


※変な時間にアップする癖がついてしまってますなあ(-_-;)いろいろ根本から見直す時期にきているのかも、といろんな場面で思います。時間はたっぷりあるのだし、考えよう、ともかくいろいろ、とか思います。ところで拍手くださった方、ありがとうございます!(^^)! お言葉しっかり受け止めました。わがまま管理人でありますが、本格復活まで、しばしお待ちくださいませm(__)m
2006年11月18日(土)
実験連載 塔 69

「ちょうど草叢があって助かったな」
「腹が冷える」
「我慢だ。馬車が来たぞ」
「ほんとうだ。たしかに来たが………貴人どころではない。なんだ、あれは。檻にぎゅうぎゅうに人が押し込まれている。女子供ばかりだ。見たところ、羌族のようだ。馬車を護衛しているのは、魏の兵卒だな。鎧のしつらえでわかる」
「暴動でもあったのかな」
「そうではなかろうよ。噂には聞いていたが、ほんとうらしいな。征服された羌族の部族に、暴動鎮圧の名目で、盗賊のように押し入って、片っ端から人々をとらえては、奴婢にしているというのは」
「そういう話ならば、俺も聞いたことがある。ああいう者たちが売られてどうなるかといえば、奴婢どころではない。男の子供で器量があるていど良いもの、利巧なものは宦官にされてしまう。女ならばもっと悲惨だ。わかるだろう」
「愚かな。そのようなことをすれば、羌族は勇猛な民族だから、ますます反抗するであろう。
なるほど、やっとわかった。馬平西将軍が涼州に帰りたがっていたのは、単に郷愁ゆえではない。おのれの不在になった故郷が、このような目に遭うであろうことを予想しての想いであったのか」
「馬平西将軍?」
「ああ、覚えていないか。錦馬超だよ。西涼の雄といわれた男だ。いまは蜀にて客将として力を貸してくれている」
「なるほど、ここは、大黒柱をうしなった、英雄不在の土地、ということだな」
「曹操は、たしかに優れた男だ。千年に一度の英雄だよ。しかし、その男の政治も、この西の果てには、なかなか行き届いていないのが現状ということだ。
武をもって武を制する。たしかにこの猛々しい気風の土地を制圧するには、わかりやすい方法だったのかもしれないが、そのあとがいけない。
曹操も老いたか、あるいは、曹操の意図をうまくこの地に運ぶ人材がいない、ということなのか」
「また別の馬車が来た。ひどいな。これは、どこかの集落をまるごと潰したのだろう。それに、荷車のうしろに、なにか引きずって」
「見るな!」
「また鼻を打った…」
「なんとむごいことを。許せん」
「たしかに許せぬが、こちらも鼻の骨が折れていなかろうな? うん? 子龍? どこへ行く!」
「あんたはここで待っていろ。あの馬車をことごと止めてくれようではないか」
「剣ひとつでか! 相手は騎兵だぞ、死ぬつもりか! 待て!」

※今日は特に冷え込みますねー(>_<) みなさま、風邪には十分に気をつけてくださいませ。一週間たって、ようやく治ってきたかな、というくらい、いま流行っている風邪はしつこいです。
塔、書き溜めております。拍手してくださっている方、どうもありがとうございます! しばらく毎日アップできるようにがんばります(^^♪
 

2006年11月19日(日)
実験連載 塔 70

「行ってしまった……飛び出したところで、いまは足手まといになるばかりだな。なんとまあ、記憶をなくしても趙子龍は趙子龍ということか。めちゃくちゃな強さだな。あっという間に馬を奪って、兵卒を……ううむ、これではどちらがむごいかわからぬ。
子龍、もう出て行ってよいか」
「鍵を奪った。檻からその者たちを出してやれ」
「そんな血まみれの姿でどこへ行く」
「先に言った馬車を追いかけて、かれらも助ける。あんたは、ここで待っていてくれ」
「それはかまわぬが……全身鮮血に染まっているな。雨が来て、その姿をもうすこし人間らしくしてくれることを祈るよ」

「矢のような勢いで行ってしまったな。なんだかんだと面倒見がよいのだな。そして変わらず、武器をもたぬ者には、やさしい。武器を持っているものには、ぜんぜん容赦なしだ。あまり見ないでおこう。
さあ、大丈夫、わたしはおまえたちに危害をくわえたりしない。ええい、言葉は通じているのかな。そういえば、馬平西将軍の青羌兵も、言葉が通じる者と通じない者が混在していたな。
いいか、わたしは味方だ、味方。ほうら、武器はもっていない。衣のなかにもなにもないよ。納得したな? だから、檻を開けるなり襲い掛かったりしないように。
よしよし、もう大丈夫だ。いま檻を開ける。ああ、これこれ、敵、というか魏の兵卒は、あらかた子龍が殺してしまったから、そんなに怯えることはないよ。
それよりも、おまえたちはどこから来たのだね。
もっと西の集落、ふむ。隴西のほうか。かれらはどうして襲ってきた。
なるほど、よくある手だな。部族間の争いをおさめるという名目で兵を起こし集落を襲う。ほんとうの目的は、集落の掠奪だ。魏の兵卒は、まだこの土地にきて日の浅い者たちばかりで、家族から遠くはなれてこの任地にやってきているものがほとんど。たいがいが、心に鬱屈したものを抱えている。そうして、掠奪をさせてやることで、兵たちの不満を横にそらして、反逆せぬようにおさえようという、古典的な手法だ。
襲われるほうはたまったものではないし、文官の立場から言わせてもらえば、それこそ一時しのぎのつまらぬ方法だ。百年、いや、千年先を見ておらぬ。
とはいえ、いろいろ学習させられることでもある。わが巴蜀も四方を蛮に囲まれた地。このように武で民を虐げつづけているようでは、国の基盤はさだまらぬ。肥沃な中原を地盤にしている魏であるから、このような振る舞いをして、まだ余裕でいられるのだ。巴蜀ではゆるされぬことだ。
同時に、これは、魏の隙でもあるな。羌族によしみのある者を多く味方につけ、こちらが魏に攻め入ったさいに、内応するように仕向けるというのはどうだろう。
ふむ、わるくない策ではないか。日々、是学習。またひとつ、賢くなってしまった。成長に終わりはないものだな。
おや、その者たちは、そうか、おまえたちの部族の男たちだったのだね。かわいそうに、ほとんど腕がもげかかってしまっている。走る馬車に繋いで引きずって走るなどと、なんとひどい真似をするつもりであろう。ほかの羌族に対する見せしめのつもりであったのか。
よしよし、そうだな、泣くといい。泣いてすこしでも悲しみを流せるものならば、おおいに泣いてしまうといいのだよ」


※寒い~(>_<)みなさまいかがお過ごしでしょうか。家に閉じこもっているはさみのです。生活の建て直し案をたてつつ、のんびりゆったり時間をすごしております。HP再開への準備もはじめておりますよー(^^♪ 拍手くださっている方、通って下さっている方、ありがとうございます。待っていただいているだけのものを発表できるようにがんばります!(^^)!