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「なお一層不機嫌になったな。それでも帰れといわないということは、同行してもよいということか」
「追い返しても、戻ってくるだろう」
「まあな。よくよく考えてみたら、俺は常山真定の家族のことをすっかり忘れてしまっているわけだ。あんたの話からすれば、俺と常山真定の家族、これはあまり連絡をとっていなかったようでもある。だから、とりあえず常山真定に帰るにしても、それはべつに、いつでもかまわないのではないかと思ったのだ。
つまり、あんたが塔に行くのを見届けてから、帰ってもかまわないということではないのかな、と」
「拡大解釈だな」
「そうか? あんたは石に守られているから、道中は無事だと豪語していたが、それは行きの話で、帰りはどうするつもりだったのだ?」
「む?」
「ほらみろ、考えていなかっただろう。あんた、賢いのはたしかだが、いささか間抜けなところもある」
「間抜けはよせ」
「けれど図星だろう。成都には戻らないにしても、せめて国境までは一緒にいるさ。どうした、頭を抱えて」
「一緒にいるということは、たとえ反動がわたしに降りかかるようにと願っても、あなたを巻き込んでしまうというわけではないか」
「なんだ? すまん、聞き取れなかった。すごい風だな。麦がいっせいに風になびいて、潮騒のようだ」
「潮騒はもっと、迫ってくるような音がするよ。これは、ずいぶんと優しい波音だ。けれど、この黄金の海にはふさわしい」
「宝玉も宝剣も、この光景の前では価値が褪せるな。身を飾るものをあつめたところで、その者自身の心を高めてくれるわけではない。けれど、この光景は、あたりまえのようにここにあり、そしてだれのものでもなく、等しくその姿を見せてくれる。そう思えば、人の欲望や執着など、ずいぶんとちっぽけなものだ」
「それは、初めて聞いたな。ああ、だからあなたの家は、なにもなかったのか」
「俺は自分がなにを願ったのかは思い出せないが、忘れてしまった記憶のなかに、きっと多くの宝があったにちがいない。そしてそれこそが、ほんとうは俺を成しているものであったはず」
「美しいものがわずかで、つらいことのほうが多かったのかもしれないのに」
「それでも、なぜだろう、俺はなくしたものにこだわらなければならない気がするのだ」
「懲りない人だな。石を使った意味がない」
「そうかもな。でも、記憶は消えても、このからだのどこかが過去を覚えているのだろう。だからこそ、俺はあんたの言葉を聞きたくなって、しょうがなくなったのかもしれない。つまりは甘えているのだろうな。
こういうと、また殴るか」
「殴らない。けれど、この人たらし、と思った」
※お久しぶりの登場となりました。ニッキの更新は少しずつしてまいりますので、どうぞよしなに~m(__)m と、いけない、大事なことを忘れてしまうところだった。WEB拍手で温かい励ましの拍手をくださった方、どうもありがとうございます。胸にじーんと来ました。こうせいニッキから、すこしずつアップを再開していくようなかたちになります。こちらを見てくれるかなあ……ゆっくり休んで、いいものをお届けできるようにがんばります(^o^)丿
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