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「やれやれ、大変な目に遭った。阿維といったな、忘れぬぞ。
まったく、天水の者たちも感じのわるい。われらを行きずりの盗賊と勘違いするとは」
「あんたが子どもの挑発を真に受けて、大人気なくも、喧嘩をはじめたからであろう。あんたいくつだ。あの子はまだ十にもなってないそうだぞ」
「だからこそ、世間の厳しさというものだな」
「ぜんぜん教育になっておらん。あんた、子沢山だというわりには、ダメだな」
「大きなお世話だ」
「あの子どもの母親が出てこなかったなら、どういうことになっていたやらだ。話の判る女でたすかった。でなければ、警吏に引き渡されていたぞ。
でもまあ、子供としては、さんざん悪態はついていたが、最後には『また来てね』などと言って手を振っていた。あんたのことを、図体のでかい遊び友達と認識したものらしい」
「また来るときがあるとしたら、敵の軍師としてだろうな。薬師の女の埋葬を手伝ってくれたのは感謝しているさ。それに、思いもかけず石も五つあつまった。これで迷わず西へ向かえる」
「だが、そのまえに陳倉というのだろう」
「そうだ。この分ならば、明後日にはつくかな」
「陳倉で、趙子龍としての俺はいなくなるわけか。あんたとも会えなくなるな。こういっちゃなんだが、寂しくなる。
あんたは楽しい道連れだったよ。わがままに振り回されっぱなしだったが、それが楽しかった」
「変わり者」
「その憎まれ口も、ひとりになったら、思い出すのだろうな」
「呆れたものだな。記憶を取り払った趙子龍という男は、こんなに感傷屋だったとは」
「感情が豊かなのだと言い換えてくれ」
「似たようなものだろう。武将としては、あまりよいことではないぞ。まあ、これからのあなたのことは、あなたが自分で決めるのだ。
あなたならば、きっとなんでもこなせるよ。その気になれば文官とて務まろう。あなたほどに、すべてにおいて過不足なくこなせる人は滅多にいない」
「それはまた、怖いくらいの誉め言葉だな」
「事実を述べたのだよ、子龍。そうか、この名も、ほかに人のない道中だからこそ呼べるが、陳倉に入ったなら、もう、そういうわけにはいかないか」
「自分で言うのもなんだが、よい字だと思う」
「うん、そのとおりだ。それは素直に認める」
「あんたの号は臥龍というのだったよな。自分の字を捨てることで、あんたのことまで捨ててしまうような気がしてならぬ。これも感傷だろうか」
「そうだな、感傷だよ。気にしてはならない」
※明日はアップの日であります。どうぞ遊びにきてやってくださいませ(^^ゞ
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