● こうせいニッキ●
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2006年11月2日(木)
実験連載 塔 56
「天水は、羌族が多いな。商人も西域からの者が多いようだ。市場の雰囲気も、成都とちがうな。どの商人に荷物を届ければよいのだろう」
「市場で胡桃を売っているじいさんだと」
「おや、これは葡萄か? こんな大きな粒のものがあるのだな」
「めずらしがっている場合ではないぞ。なにか騒ぎが起こっているらしいな。聞いてくる。待っていてくれ」
「うむ。葡萄をひとつ…いや、ふたつくれ。おや、棗もある。これもくれないか。味見してよいのか。ありがとう。
わたしか? 襄陽からきたのだよ。訛りが中原のものだろう。よくわかるな。中原にも足を運ぶのかい。
成都に行ったことは? まあ、あそこは山道が険しいからね。え? 途中で出没する警備隊の質が悪い? そうかい、改善するように言うさ。
ああ、知り合いが蜀にいるのでね。左将軍府にいるのさ。ある男によれば、わがままで嘘つきでろくでもないやつだそうだけれど。
ああ、なに、こちらの話だよ。おまけまでくれるのか。ありがたいな。これからもっと西へ進まねばならないから、滋養のつくものはありがたい」
「こ、いや、元平だったか平元だったか」
「元平に統一しよう」
「よし、元平、子どもが消えたらしい。どこぞの寡婦の息子だというのだが、奇妙なことを口走って、家出をしたそうなのだ」
「奇妙なこと? どんな」
「塔へどうしても行かなくてはならないと言っていたそうだ。その母親が言うには、息子とやらは、数日前に河原で薄桃色の、卵のような、きれいな石をひろったらしい」
「五つ目だな」
「ああ、おそらくな。塔の夢をみたということは、まだ石を使っていないのだろう」
「子どもはいくつだ」
「まだ十歳にもなっていないらしい。母親は気も狂わんばかりになっている。母ひとり、子ひとりだったそうだから、余計だろう」
「塔へ向かったのなら、西だ」
「ああ、そして、おそらく女も、子どものもつ石に引き寄せられて、姿を現すだろう」
「よし、すぐに出立しよう。馬がなくても、子どもの足だ、すぐに追いつく。で、子どもの名前はなんだって?」
「阿維とか呼ばれていたな」
「阿維か。よし、その使命感に満ちたやんちゃ坊主を追うぞ」
2006年11月3日(金)
実験連載 塔 57
「人だかりがあるな。先に坊主を探しにいった者たちだろう。話を聞いてみよう」
「おや、羌族のことばがわかるのか?」
「片言ではあるが、あとは身ぶり手ぶりだ。人間が相手に伝えたいことなんて、案外単純な事柄ばかりだったりするぞ」
「なかなか含蓄のある言葉だな」
「どうやら、子どものかぶっていた頭巾が落ちていたらしい。二又の道の片一方にあったそうだ」
「二又の道とな? ふむ、わたしが見よう」
「頭巾が落ちたのも気づかずにひたすら西へ向かったとは、『塔』は、そんなに強烈に暗示をかけるものなのか」
「茂みにひっかかったわけでもなし。頭巾が落ちているとは、なんとも怪しい。しかしわたしには通用せぬぞ、見るがいい」
「子どもの足跡だな。昨日の雨でぬかるんでいるおかげで、はっきりとわかる。うん? だがおかしいな。足跡が途中で引き返している」
「そうさ、そして、もう一方の道を見るといい」
「こっちにも子どもの足跡だ。別の子どものか?」
「いいや、そうではあるまい。足跡の深さを観察すれば行動が手に取るようにわかるというものだ。
阿維といったか、その子は、まず、この二又の道にさしかかったときに、自分を追ってくるであろう街の大人たちを振り切るための策を思いついた。
ほら、ここで立ち止まっている。そうして、自分の頭巾をとると、わざと先に進まないほうの道に置いたのだ。
そうして、慎重に引き返したのが、足跡の深さと、間隔でわかる。そして、つぎには、もう一方の道を、こんどは猛然と駆け出した。歩幅が大きいだろう。そのうえ、足跡の深さが浅い。走ったのだよ」
「なるほど。妙に知恵のまわる小僧だな。だれか大人が一緒なのだろうか」
「そうではあるまい。子供に付き添っているような足跡はない」
「それでは、これをあいつらにも教えて………やろうと思ったのに、せっかちな連中だな。もういなくなっている」
「人が多くないほうが、この場合、かえってよかろう。石のことをほかの者が知るのは、好ましくないからな。われらはこちらの道を行こう
2006年11月4日(土)
実験連載 塔 58
「子どもの足だからと高を括っていたが、なかなかどうして、かなりの俊足らしいな。まるで姿が見えない」
「石を使ってしまったのではあるまいな。子どものことだから、かなりつまらぬことに使ってしまってもおかしくないぞ」
「たとえば?」
「走って地平線まで行ってみたい、とか」
「壮大じゃないか。地平線のその先は地平線だ。つまりはえんえんと地の果てまで駆けていくことになる。俺だって地の果てに行ってみたい」
「地の果ては海だよ」
「ならば、海の果ては? 馬鹿でかい山があって、そこに太陽を動かす怪物が住んでいるというのなら、そいつを見てみたい」
「なんだか、いろいろごっちゃになっているようだな。だいたい、海の上を走るのか」
「走れるものならば、走ってみたいな。俺がどうして馬が好きかといえば、あの風を切る感覚が心地よいからだ。あんたは地の果てや、海の果てを見たいとはおもったことがないのか。まだだれも見たことがないはずだぞ」
「そんなことを考えていたわけか。そうだな、見てみたいとは思うが、考えてみればふしぎなものだ。どうしてこの大地を縦横無尽にうごきまわる商人たちがいるのに、だれも地の果てを見たことがないのだろう。
伝説の帝王たちは、みながみな、天下を治めることを目的に兵を動かすが、天下とは、もしかしたら、われらが想像する以上に広大で、人の身が、これをおさめることなどできないのかもしれない。
だとしたら、われらは虚しい夢を追っているということにならないだろうか」
「そんな嘆きにとらわれるのは、あまり健康的な心のありようではないな。あんたは地の果てにはなにがあると思う。海か、それとも巨山と、そこに住まう太陽を司る怪物か」
「さてね、それこそ想像がつかないな。東には大海がある。そしてそのさらに東には蓬莱という国があるそうな。この蓬莱より東は、どうなっているかよく知らないが、やはりまた海であるらしい。
となると、西だが、これはえんえんと厳しい乾いた大地がつづき、さらに進めば大秦国があるそうだが、大秦国のさらに西は、やはり海だというのだよ。その海の彼方になにがあるのかは、だれも知らないそうだ」
「行ってみないか」
「いつ。そしてだれと?」
「そうだな、あんたは『塔』へ行くんだったな。そして俺は石の災厄たる反動を避けるため東だ。
あんたは厄介な道連れだが、退屈しない道連れでもある。彼方の太陽をひたすら追いかける旅も、あんたが一緒だったら面白いのではないかと思ったのだが」
「ずっとこんな調子だぞ。面白いのか」
「俺は面白いがね、あんたは面白くないというのなら、仕方ない、あきらめるさ」
「ほかの道連れを探すがいい。あなたの人生はこれからなのだからな。
ほら、そうこうしているうちに、いよいよ目標発見だ。あそこで崖の上にいるざんばら頭の子供こそ、われらが阿維ではなかろうかね」
「なにをしているのだ、あれは」
「空でも飛ぼうとしているのかもしれないが……ええい、石の力がどれほどのものか知らぬが、うまく力が働かなかったら、あの高さでは死ぬぞ! 急ぐぞ!」
2006年11月5日(日)
実験連載 塔 59

「ええい、何を考えているのだ、ほんとうに! どういう躾をしているのだ、親は! やめよ、小僧!」
「躾けの問題ではないぞ、駄目だ、間に合わぬ!」
「あ」
「あの女?」


「………」
「………どうなっている」
「奇跡なんて言葉を、簡単に使いたくないのだがな」
「しかし奇跡としか言いようがないであろう。宙に子どもが浮かんでいる」
「まことに翼でも生えたか。おや、ゆっくりと落ちてくる」
「女の様子がおかしいな。具合が悪そうではないか?」
「そうか、わかった。子龍、子供はおそらく放っておいてもよろしい。それよりも女のほうだ! 急げ!」
「どうした。しかし子供のほうがあきらかに尋常ではないぞ」
「ふつうならば、空を飛ぼうと崖から落ちたら、死ぬのだ。ところがあの子供はそうならずに、ゆっくりと落ちてくる。
つまりだ、あの女が、また石を使ったのだ。おそらくは、子どもに石を使わせないでくれということと、子どもを助けてやってくれという願いをかけた」
「なんだと、一度に二個も石を使ってしまったというのか?」
「評判どおりの女だったというわけさ。そして、一気に反動が来た。若い女だったはずだが」
「これは……なにがあったのだ、髪がこんなに白くなってしまって、肌もしわだらけで、手足もやせ細って、まるで老婆ではないか」
「これが反動というものなのか。辛うじて息はしているな。われらがわかるな? おまえがその石を盗んだ者だ。石は、おまえを選んではいなかったようだな。
しかしなんということを。見ず知らずの子供のために、おのれの命を終わらせようというのか。
笑っているな。なぜだ。なにがうれしい。おまえの命の火は消えようとしているのに。おまえは、石をあつめて、どうしたかったのだ?」
「塔へ行きたかったのではない?」
「……そうか、そなたは天晴れな女だ。そなたら夫婦の噂は聞いていた。どのような遠方の者であろうと、病になったと聞いたなら、厭わずに足を向けて治療に専念したと。
最初に石をつかったときに、そなたは賛成し、そなたの夫は反対した。けれどもそなたが引かなかったので、夫はそなたの身を案じ、みずから石を使った。そして、反動によって、夫は死んだ。
そなたは、そのことをとても悔いた。だからこそ、おのれと同じ悲しみを負う者がこれ以上でないようにと、石を集めていたのだ。そこへわたしがあらわれた。
そなたが持っていた石はふたつ。その願いに引き寄せられるように、わたしもふたつの石を持っていた。
おまえの前に、赤毛の男はあらわれなかったのか? 塔へ行けとはいわなかった? そうか、やはり、一度でも石を使用した者の前には、あの男はあらわれないのだな。
安心するといい、石はわたしを選んだ。そして、石を塔に返す役目も、わたしが担う…………そうだ。安らかに眠るとよい。あの世で、そなたの夫と、ふたたび出会えるとよいな」

※最近、どうも夜更かし癖がひどくなっております。うーむ、明日の朝は早起きして、ニッキのアップも早くできますように…(-_-;)

2006年11月6日(月)
実験連載 塔 60

「狼どもや鳥に荒らされぬように、墓を掘ってやろう。見事な女であった。すべてを失っても自暴自棄にならず、悲しみと戦って、あがき、死んで行った。だが、石は女の心などおかまいなしに容赦のない運命を運んでくる。
だめだ、やはりこんなものが世にあってはならない。石が四つ。さて、あとはあの小僧だな。
やや、懲りぬやつ、また使おうというのか! 子龍、止めよ!」
「子供相手に全速力とはな」
「いいから早く! 子猿のようにすばしこい子供だ。事態が良く呑みこめていないらしい。
おい、阿維といったか。その石は恐ろしい石なのだ。そなたも夢に見たであろう。その石は、塔に返さねばならぬもの。それに迂闊に願いをかけてしまうと、ひどいめに遭うのだぞ! 
は? なんだって?」
「……どういう環境で育っているのだ。『やかましい、男女』だと。
ええい、暴れるな! おまえをどうこうしようという意志はない」
「わたしが男の格好をした女に見えるか。まだ幼いというのに、目が悪いとは気の毒な。というか、どういう躾を受けておる!」
「は? なんだと? 自分は麒麟児と呼ばれている。麒麟なら空を飛べるはずだとおもって、挑戦したのに邪魔をした? 
おい、こ、じゃない元平、ともかく、この子供から石をとりあげろ!」
「まったくもう、暴れるなというのに。状況がまるでわかっておらぬな。こちらは人助けをしているのだぞ、ひ・と・だ・す・け。わかるか、子猿。おまえは助けられた命なのだよ。
あっ、蹴った! おのれ、もう許さぬぞ。そなたが麒麟児ならば、わたしは龍だ! それでも飛べぬものは飛べぬ! たわけものめが、ついでにこうだ!」
「あのな、子ども相手に、どうしてそんなに本気になれるのだ。程度が同じ……」
「みなまで言うな。同じように頬をつねりあげるぞ」
「火がついたように泣き出したな。客観的に見てどうだろう。これは俺たちが、ふたりがかりで、子どもから石を盗もうとしているようにみえないか」
「気にするな、これも躾けのうち」
「虐待では」
「だまれ。こやつ、年長者に逆らうとはいい根性だ。こんど逆らう時は、全力でかかってくるがよい。わたしも相手になってやろうではないか」
「妙な挑戦をするな。気の強い子供だな、受けてたつ、と言っているぞ」
「ふん、楽しみだな。そなたが武将として、わたしの前にあらわれることがあるならば、だが。案外、大人になったら、ふつーに畑を耕しているかもしれぬ。気が向いたなら、野菜を買ってやろう」
「負けない小僧だな。ぜったいに武将になって、こてんぱんにやっつけるだと。俺たちがどこから来たのか、わかっているような口ぶりだな」
「ふん、ならばなおのこと面白い。文句があるなら左将軍府にいらっしゃい、というのだ!」
「だから挑発するな。あとあとめんどうになっても知らぬぞ」


※早起き…できませんでした(ToT) 明日こそ! と、言い続ける「あすなろ」なはさみの。それはともかく塔、60回目を迎えました。みなさまご感想いつもありがとうございますm(__)m 今週、ちょっとした山場をむかえます。遊びにきてやってくださいませー(^o^)丿