● こうせいニッキ●
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2006年10月13日(金)
実験連載 塔 36
「成都にもどらなくて、本当によいのか。武都を一歩出たら、そこは完全に敵地だぞ。あんたの名前がどれほどのものか知らないが、隠密に向いている風体をしておらぬようであるし、危険が増すのではないか」
「へえ、そういう心配はしてくれるのだな。うれしいけれど、大丈夫だよ」
「なぜそんな確信を持っている」
「『石』のせいさ。わたしは、あと三つの石を集めて、『塔』に向かう指名を帯びている者。あの赤毛の男の言を信じるならば、石を持ちながら、その誘惑に乗らないでここまでいられる者は、わたしだけだったようではないか。もし『石』たちにこころがあるのなら、自分たちの目的を達することができるかもしれないわたしを、きっと守ろうとするはずだ。問題は、あなたのほうだよ。忘れているようだから教えるけれど、あなたは有名人だから、身元がばれたら捕獲される危険が高い」
「俺はなにをしたのだ」
「そんな苦虫を噛み潰したような顔になることはない。あなたはね、とても優秀な人材だから、天下に勇士として名前が轟いているのだよ。それにわたしを目立つ、目立つというが、あなたの目立ち方もなかなかたいしたものだ。魏の人間のだれかが、あなたを見つけた場合、あなたを捕縛しようとするかもしれない。その場合、子龍、わたしのことは構わず、あなたは逃げろ」
「待て。あんたも軍師将軍という高位にあるのなら、捕縛される危険が高いのではないか。それを守るために、俺はあんたに同行しているのだろう」
「………」
「ちがうのか?」
「いや、そうだよ、合っている。あなたはとても腕が立つので、こうした隠密行には欠かせない人なのだ。だから、一緒にいるのだ」
「そうか。ならば勤めを果たさねばなるまい。逃げろというが、そのろくでもない『石』が、あんたを守ってくれるという保証はなにもないのだから」
「たぶん大丈夫だろう。こういうときの勘は、おそろしくよく働く。あなたは、記憶をうしなっているわけだから、わたしのことなんていちいち気にしないで、自分のことだけを考えていればいいのだよ」
「そういうわけには」
「だめだ、自分のことだけを考えるといい。あなたは、わたしに金で雇われた用心棒というわけではないのだから、そこまで義理立てする必要もない」
「しかし、主騎であったのだろう?」
「記憶があるままの、以前の『趙子龍』であったなら、わたしもいろいろわがままを言ったかもしれないが、あなたはもうそうではない。子龍、わたしの身の安全や、わたしの向かう旅の行く末など、なにも考える必要はない。あなたは、ひたすら、自分のことだけを考えていればいいのだ」
「妙なことを。旅の行く末を考えるなということは、俺に引き返せというつもりか」
「そうだよ。ずばり言おうか、あなたの願いを石が叶えた以上、きっと反動がやってくる。わたしには目的があって、あなたの身にふりかかるであろう『反動』は、その目的の邪魔となろう。だから、あなたとともにこれから先の旅を続けることはむずかしいのだ」


※さーて、ここからが気を引締めていかねばならぬ部分でありますぞと、自分に言いきかせるワタクシ。でもって、さっそく昨日のおねだりに答えてくださった方、ありがとうございます(^_^;) さてはて、明日のアップはうさ・ルート本編+新連載+おどろき企画予告状という内容でのお届け。どうぞみなさまいらしてくださいませね(^^ゞ
2006年10月14日(土)
実験連載 塔 37

「なるほど。俺は危険な道連れというわけか。あんたが、そう簡単に切り捨てられるということは、俺はあんたにとって、たいして重要じゃない人間だったのだな」
「友の一人だ。だが、それとこれとは別だ。まして、われらは怪異に操られている状態なのだ。情になどかまっておられぬ」
「冷たいやつだな」
「そうさ。それでも付き合ってくれたいままでに、感謝はしているが、これから先は別だ」
「では、成都にもどれというのか?」
「いいや、成都にもどることは許さぬ。あなたの身に、いつかかえってくる『反動』が、主公に悪影響を与えてはこまるからな。
主公のことは覚えているのだろう? 主公に真の忠心を誓うのであれば、成都にはもどることはできないはずだが?」
「あんた、いやなやつだな」
「とっくに知っていると思っていたが」
「主公に挨拶もさせないつもりか」
「当たりまえだ。主公に災難が降りかかったら、あなたは責任をとれるか?」
「とれないな」
「そうだ。わかったなら、わたしとともに北ヘ来い。途中まで送ってやる」
「途中までとはどういうことだ。それに、北ヘ行ってどうする」
「あなたは記憶がないという。それも、わたしに関する記憶がまるごとないというのであれば、それはもう他人も同然と言うことだ。
つまり蜀将としての趙子龍はいなくなったのだよ。
逆にたずねるが、成都にもどって、なんとする。成都には、あなたの家族はいないのだぞ」
「そうなのか? 俺は成都に妻子がいるのではないのか」
「いない。なぜそう思った」
「俺の年ならば、ふつういるだろう。それに、たしかに記憶はないが、なぜか成都に心残りがあるような気がしてならん」
「それはたぶん、馬のことだな。安心するがいい。もしも馬を届けてほしいというのであれば、ちゃんと手配する」
「馬、なのだろうか。というよりも、待つがいい。俺を北のどこへ向かわせようとしているのだ」
「蜀将としての立場を守らねばならない趙子龍はいなくなった。ならば、あなたは人の子として、常山真定の一族のもとへと帰るがいい」
「常山真定の一族のことも忘れているのだぞ」
「それでも血族であろう。戻れば、たとえ記憶が戻らなくとも、自然と気心が知れるのではないかな。
ああ、名前は変えるのだぞ。主公やほかの者たちには、あなたは旅先で死んだことにするからな」
「常山真定の家族といわれてもぴんとこない。あんたは、むかしの俺から、俺の家族のことを聞いていないか」
「さあ。残念だが、なにも聞いていないよ。
すまないが、野宿したせいか、体調が思わしくない。早めに宿をとりたいのだが、かまわないだろうか」


※ゆうべは実に濃密な夜をすごし(←あやしげ)楽しい新企画が、かなり具体的な形となりました。早くみなさんにお届けしたい、ということで、二回に分けてのアップとなります。ぜひぜひご意見を頂けたらと思います(^^♪
さてはて、アンケートにて塔へのご感想をくださった方、なんていい方なんでしょう(ToT)これから先の展開は、書いている人にも想像がつかないところがあったりしますが、楽しんでいただけるとうれしいです~(^.^)はさみのもがんばります(*^^)v

2006年10月15日(日)
実験連載 塔 38

「おい、熱があるのか」
「すこしあるかもしれない。あんまりそばで、わあわあと言わないでくれないか。頭痛もするのだよ」
「それはすまなかった。いや、もう昼も過ぎる頃なのに、気づかなくてすまない」
「………」
「だから口数も少なかったのだな。ほら、町が見えてきた。街道沿いの町だから、宿のひとつくらいはあるだろう。早く休んでおけ」
「そうさせてもらう。それと」
「なんだ」
「わたしとしては、たいへんに大回りではあるが、下弁から街道沿いに、北東の陳倉まで付き合おう。陳倉では衣裳をあらため、名を変え、そのままあなたは東の故郷をめざすのだ」
「つまりは、陳倉にて、俺の葬式がおこなわれる、ということか」
「つまらぬ冗談だな」
「すまない」
「生れ変われるのだと、素直によろこべ」
「…………」



「風がきついのは、山肌に当たった風が、こちらに跳ねかえってくるからだと宿の主が言っていたな。冷えてしまうが仕方ない。庭に出てやっとひとりになれた。
記憶がないと、あんなに口数の多い男だとはな。雛の親になった気分だ。それとも、単に心細さが先に立ってしまうのか。あたりまえのことだが、子龍も人の子というわけだな。
やれやれ、宿の窓からこちらを見ている。ほかに見るべきものがあるだろうに」
「石でも投げてやったらどうだ」
「やはり、ずっとついて来ていたのだな、赤毛。そのまえに、おまえに石を投げてやりたい気分だな。勝手に石を二つも押しつけていった。いきなりご神体のなくなった村では、暴動が起こっているのではなかろうな」
「それもまた、『反動』だろう」
「おまえに名前がないというのも不便だな。名前を忘れたのか、それとも捨てたのか。まあ、どちらでもよいわ。不便であるが、あえて名づけてやるつもりもない」
「俺もかまわん。見届ける者。それだけでいい」
「そのわりには、口を出すわけだ」
「おまえには、なんとしても『塔』に向かってもらわねばならぬからな。それより、面白いことになっているじゃないか。あの男を取り戻したければ、おまえも石に願いをすればいい」
「そんなことをしたら、石の災禍はますます広がりつづける、ということではないか。第一、矛盾しているぞ。わたしが『塔』に行くことができなくなっても、おまえにはどうでもいいとでも」
「願いが叶う反動は、どうやって訪れるかは、俺にも予想がつかないのさ。案外、おまえたちには累が及ばない形で、まるく納まるかもしれないぞ」
「となると、だれかが不幸になるということではないか。いちいち不愉快なやつだ」
「そういう性分なのさ。それよりも、おまえは、あいつが何を願ったか、気づいているのだろう」
「それがどうした」


※ゆうべは軽い気持ちで流行りモノたるエルロイの「ブラックダリア」を読み始め……止まらなくなり寝たのが朝の五時。ナニヤットンジャ。短編は何度か読んでいたんですが、いわゆる「暗黒のL.A四部作」を読むのは始めて。こんなに面白かったんだ…扱う事件の猟奇性や暴走ノワールであることがとかく喧伝されがちですが、登場人物の背景や警察組織の様子や駆け引きなど、すごくしっかり描写されているので、ともかく面白い。主人公は日本人にしてみりゃ、「このやろ」と思う背景を持っているのですが、それでもいつのまにか感情移入してしまう。うーん、こんな厚みのあるお話を書けるようになりたいなあ。
それはともかく、アンケート、ありがとうございますー。趙雲へのコメント、嬉しいよぅ。思わず小躍りヽ(^o^)丿 それと作品別人気投票の項目「寒蝉」→「風の旗標」に変更しました。ドーゾ、ぽちっと押してやってくださいm(__)m 参考になりますので、ぜひぜひ。

2006年10月16日(月)
実験連載 塔 39

「故郷にあいつを返してやって、どうするつもりだ。常山真定の趙家は、いまや零落の一途をたどっているのだぞ。おまえはそれを知っているだろう。
あの男が帰ったところで、食い扶持が増えると困ると、厄介者扱いを受けるのが関の山だ」
「そうだろうか。子龍の大きな障壁となっていた父親は死に、長兄という男との確執も、記憶がなくなったのであれば、もしかしたら解消できるかもしれない。いや、子龍ならば解消できるであろう。
それに記憶をなくしたといっても、能力そのものは失われていないのだ。子龍ならばきっと、故郷の家を再興させることができよう」
「そんなことになると思うか?」
「なる。子龍は、いつまでも父や兄のことに捕らわれている。わたしに向けている心も、父や兄の不品行に対する反発が、大きく歪んだものなのだ。
苦しかっただろうよ。どうであれ八方塞だ。未来がみえない。
記憶がないことで不安にとらわれるのと、記憶にとらわれて、いつまでも明けることのない夜のなかに閉じ込められたような思いのまま生きていくのと、どちらが苦しいだろうか。後者であろう。
だからこそ、石に願いをこめたのだ。
自分を苦しむすべての心を取り去ってほしいと、子龍はそう願った。
だから、側室だった母親や、ほかの女たちを苦しめていた父、父親の妾を盗んでいた兄を憎んでいた少年のころの記憶、ほかならぬ主君に憎まれ、師匠たる男にすら妬まれ、苦境に立たされていた公孫瓚のもとにいたころの記憶、そして、そのあと、流浪者として、あまり口外できないような生活をくりかえしていたあいだの記憶、さらには、わたしと出会って以降の記憶がなくなっているのだ。
思い出してしまうと、苦しいから」
「つまり、おまえは、やつの人生の傷のひとつとして、あっさりと切り捨てられてしまったというわけだ。気の毒に、同情するよ。だから、あんなに冷たい態度をとっていたのだな」
「勝手に判断するといい。おまえにわたしのなにがわかる」
「言っただろう、俺は見届ける者。人外の者なのだぞ。
そうか、わかった。冷たい態度をとっているのは、女々しく捨てられたことを恨んでいるのではない。
おまえは傲慢なやつだな。せっかく記憶をなくしたあいつが、また同じような心を持ってしまうことがおそろしいのだろう」
「だまれ」
「そう思いたい、というのが本音なところなのじゃないか? あいつがおまえに心を傾けるようになったそもそもの要因は、常山真定の家にあるのだ。それを忘れているということは、同じことが起こる可能性は、ひくい」
「だまれというのだ!」
「ふん、笑わせる。天下の智者と謳われるやつにしては、ずいぶん女々しい考えだな。
おい、石を使ってみたらどうだ。二つもある。反動が来たら、もうひとつの石で反動を食い止めればいい」
「くだらぬ手を。ひとつの願いに対して反動が起こるのであれば、『反動を止めてくれ』という願いにも『反動』がくる、ということだろう。
わざとわたしに石をつかわせて、残りの三つをなんとしても探させようという魂胆か」
「疑い深いやつだ。ひとが親切を言ってやったのに。石は石を呼ぶ性質がある。ただし、石を使わないやつに、石は惹かれる。おまえが石を使っちまったら、なんにもならないのさ。
どちらにしろ、おまえはこの状況からぬけだせないぜ。
おっと、あいつが来た。しかも女を連れている。
どうだ、おまえの下手な気遣いは無用なようだぞ。あいつのご面相なら、ほうっておいても女のほうから寄ってくるであろう」

※ちょっぴりブラック状態。また身の程知らずにたわごとを言っています↓
いささか見苦しいなと思うところもあり、削除しました。10/17

2006年10月17日(火)
実験連載 塔 40

「熱があるやつが、どうしてこんな風のつよいなかに立っている!」
「赤毛の男と話をしていただけだ」
「赤毛の男? どこにいるのだ、そんな奇妙なやつが」
「………消えたか」
「まったく。やはり、あんたからは目が離せんな。広い部屋が空いていると言っていたし、宿の主人にいって、やはり相部屋にしてもらう。もう決めたからな、いやだといっても、そうするぞ」
「そこの女はどうする。女と一緒に相部屋なんぞ、ご免蒙る。あなたはあなたで、好きに楽しめばよかろう」
「は? ああ、この女か。この女は、たまたま宿に泊まっていた薬師だ。病人がいると宿の主人に説明したら、紹介してくれたのだ」
「薬師? 呪師か巫女のまちがいではないのか。どうみても漢族ではなさそうであるが」
「ああ。西域のほうから流れてきて、この近辺をまわって稼いでいる女らしい」
「まだ若くてきれいな女だから、よろこんで連れてきたのではあるまいな?」
「それも少しある」
「あちらへ連れて行ってくれ。医者というのならばともかく、薬師なぞ、わたしには不要だ。
すっかり忘れているようだが、わたしも琅邪の古い巫子の血筋を引く家の長なのだぞ。薬の知識は十分にある。医巫同源というわけだ。
ひとつ利巧になったな、女好き。相部屋は取り消してくれ」
「なんでそんなふうに怒るのだ? あんた、俺の女房みたいなやつだな」
「は?」
「ああ、言い間違えた。俺の女房がいたと仮定して、もしいたら、似たような反応をしたのじゃないかと言いたかったのだ」
「だれがあなたの妻だ、気味の悪いことを。おかしなことを言うから、その女も、見ろ、わたしを、おかしな目で見ている!」
「すまん、俺の言葉が足りなかった。そう怒らないでくれ。でないと」
「でないと?」
「ますます熱が上がって、たいへんなことになるぞ。あんたは見るからに丈夫そうじゃないからな」
「………」
「どうした? なにか変なことを言ったか?」
「言ってない」
「ならばいいが」
「ふん、どうせ、旅の道連れが病人だと、面倒だと思っているのだろう」
「ひねくれたやつだな。そうじゃない」
「そうだ、わたしはひどいひねくれ者なうえに、あなたに災難ばかりあたえる人間だったのだ。構うな! 一人にしてくれ!」
「あんたが災難だというのなら、もしかして、もうすでに反動は十分に起こっているのではないか」
「うるさい!」


※昨日はブラック状態のまま、夜に「ブラックダリア」の続きを読んで就寝。このバランスの悪さに体が抗議行動を起こし、うう、気持ち悪い。でもちょっぴり早起き。
塔もいよいよ40回。さてはてこの旅の果ては? はさみのにもわかりませんが、どうぞお付き合いくださいませm(__)mでもって、ご感想などいただけると、たいへんうれしいですー。