● こうせいニッキ●
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2006年9月9日(土)
実験連載 塔 1

「さあ、持ちたまえ」
「なんの荷物だ、これは。みたところ、なにやら俺の物のような」
「そうだ、ずばりだ。さすが文武両道の蜀将・趙子龍。というわけで出かけるぞ」
「どこへ。そもそも、おまえが俺をやたらと誉めるときは怪しいな。それに、『というわけで』の意味がわからぬ。だいたいなんだって、そんなに興奮しているのだ」
「興奮するに決まっているではないか。夢を見たのだ」
「夢ごときでそんなに興奮するとは……まるで肉つきの骨にしゃぶりついている野良犬のような」
「龍を犬ころに表現するとはすばらしい。しかし、あなたの言葉だから、許してさしあげよう」
「それはどうも。で、なんだって? 夢? 公琰の懇意にしているという夢占い師に、ちゃんと診てもらったのか」
「趙直か? まあ、あれも悪くはないが、わたしは自分で自分の夢解きができるのだよ。非常に興味深い話だったのだ。どうする、聞くか? いいや、時間がもったいないな。見たまえ、この、蜀にしてはめずらしい快晴! おそらくはわれらの旅立ちを祝しているにちがいない。これは吉夢であろうぞ。さあ、いざいかん、『未知なる塔』へ!」
「ますます、待て。だれが行くといった。だいたい、左将軍府のほうはどうした。俺とて仕事があるのだし」
「ああ、それな。大事無い。左将軍府のほうは、こういうときのために劉曹掾(劉巴)がいらっしゃるわけであるし、あなたのほうは、ちゃんと主公に、しばしお借りする旨をちゃんと伝えてある」
「俺は物かなにかか。というより、劉曹掾? あの方に任せて大丈夫か。あの方は、おまえの困り顔が見るのがなにより大好きな、妙な癖がある。おまえの留守のあいだ、困り顔見たさに、なにもしないかもしれないぞ」
「呆れたな、子龍。劉曹掾は、そのあたりは官僚の鏡だぞ。公私のけじめはきっちりつけておられる。そうだな、まあ、旅から戻ったあとに、わたしの部屋に、落とし穴だの、隠し扉だの、文庫を開くとカエルが飛び出してくるだのの仕掛けができているかもしれないことは、覚悟しておいたほうがよかろうな」
「よくそんな人物を主公に推挙したな。でもって、そんなふうで、本当に仕事ができる人物なのか」
「劉曹掾のように癖のある人物を使いこなせるのは、おそらくわたしと曹操くらいなものだろう」
「………きわどいことを。声を落とせ。おい、そこの二人、奥から掃除をはじめてくれ。そう、よろしい」
「あなたの家人にとっては、馬が主人のようなものだな」
「俺の家の事情はどうでもよい。劉曹掾のやることがわかっていて、なんのために出かけるのだ。いや待てよ、変なことを言ったな。『未知なる塔』とはなんだ」
「言葉のままさ。ああ、わたしの話を道すがら聞く気がないのであれば、馬の体を洗いながらでいいぞ。歩きで行くつもりだからな。じっくり名残を惜しんでおけ」
「歩き? おい、全員聞け。おまえたち、俺と、特に軍師にはかまわず、ほかの馬の世話に移ってくれ」
「そうそう、みな、励みたまえ。もてなしなんぞいらぬぞ。てきぱき厩の掃除に励んでくれ。ええと、なんであったかな。そうそう、旅だがね、一ヶ月…いや、二ヶ月は見たほうがよいかな。たぶん西のほうだと思う。周囲が砂地だったから」
「知っている土地なのか? だったら『未知なる』というのはおかしい」
「うまく説明できないな。行き先を見てはいるのだよ。ただし、夢でなのだが」


※みなさま、早速のアンケートへのご協力ありがとうございます。いままでにないコメントの多さにびっくり。でもって、コーエーの雑誌って、『ゲームパラダイス』のことですよね? 一部の方はご存知かもしれませんが、はさみのもその雑誌に何度か投稿し、アンソロジーなんかにも作品を掲載させてもらいました。なつかしー(^。^) そして犬たちにすでに2票。同情票でも二匹は喜んでいることでしょう。さてはて、土日のゲリラアップですが……いささか無理のようです(>_<)ごめんなさい。その代わり、月曜日の本アップはがんばります!なんか時間が経つのが早いなあ。なんでだろう…。でもって、本日よりはじまりました実験連載も、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

2006年9月10日(日)
実験連載 塔 2

「なぜにそう呆れた顔をして、わたしを見る。狂ってはおらぬぞ」
「おまえの素っ頓狂な発想には、慣れているつもりであったが、いまのにはおどろいた。つまりなにか、夢で見た土地が本当にあると思って、おまえは旅に出たいと、そういうのだな?」
「一度だけであったなら、どんなに鮮明な夢であれ、こんなことは考えなかっただろうよ。
ところが、おなじ夢が、昨日で三度目だ。毎日ではないが、おなじ夢を三度もくりかえし見る。これはなにか、意味があることではなかろうか。特にわたしは、三という数字に縁の深い人間だからな」
「で、思い立って、らしくもなく地味な旅装で、俺の前にあらわれたわけか」
「地味は余計。夢の中では、砂地を抜けると不意に草原があらわれて、そこに屋根のない、土で出来た円錐の塔がある。窓があり、そのなかに人が住んでいる。わたしの夢の中では、いつも入り口から顔を出すのは、ひとりの翁だ」
「どこの翁だ。おまえ、黄将軍に、最近は不摂生がひどいと説教をくらったようだから、それであの口やかましいじいさんを塔に閉じ込めてしまおうかなと思った願望が、そのまま夢の光景になったのではないか」
「じいやは、最近、孫くらい歳のはなれた嫁をもらって、やたらと気が張っているのだ。わたしに説教をするのも生き甲斐なのだから、そこはべつになんとも思っていないさ」
「話を戻そう。入り口にいる翁は、おまえに何か行ったり、あるいはなにかしようとしたりするのか」
「いいや、なにも。ただ扉をあけて、翁が顔を出す。あれは西域の人間の顔だと思う。よく市場で見かけるもの。
塔の周りには草原があって、黄色い小さな花が、あちこちに咲いている。塔の背後には岩壁をうまく利用してつくった家の連なる集落がある。わずかな雪解け水を頼りに水路を引いて、なんとか生活しているのだ」
「やたら具体的だな」
「そうだろう。不思議だろう。夢のなかでのわたしは、そのちいさな集落のことをよく知っているのだ。それも奇妙だと思わないか。あの風景は実在するものではないだろうか。それを探しに行くのだよ。
というわけで、わが主騎たる趙子龍に命ず。ただちに貴殿も旅装し、わが旅に同行せよ」
「主公に了解をいただいたと言っていたな。主公にも、俺にした話と同じ話をしたのか」
「うむ」
「で、なんとおっしゃっていた」
「『おまえも疲れているからなあ』と。気晴らしに二ヶ月ほど、ゆっくりしてよいとおっしゃっていただいた。やはり主公は寛大なお方だ」
「いや、寛大というか……おまえがそんなふうに真剣に変な提案をしてきたら、俺もそう言ったかもしれないな」
「と、いうわけで、旅にいくぞ」
「おい、俺が厩の掃除の途中だとわかっているだろう。さっさと行くな! 待て! 
おまえたち、厩の掃除をしたあと、叔至に使いをだして、しばらく留守にするのであとを頼む、途中で便りを出すと言っておいてくれ。それと、この雑巾もついでに洗っておいてくれ! 
あいつ、もう門をくぐったのか! 待て!


※初回より、やたらハイテンションな孔明と、趙雲でありますが、みなさま、引いてない、ですよね? えへ……ビクビク。二人のセリフのみで状況を想像していただくという、なんともはや、おいおい、はさみの、無謀だぞという企画であります。果たして目的地にたどり着くことはできるのか? 書いている人にも自信ナシという素晴らしい実験企画。明日アップ予定の三回目あたりから、慣れていただけるかなあ、なんて計算しております。
ところでみなさまー! アンケートへの多数のご回答ありがとうございます。うれしいですヽ(^。^)ノ いろんなきっかけがあるものなんですねー(゜o゜) はさみのは柴錬の小説が原点になっているために孔明と趙雲は絶対に美形で仲良し、というのがありまして、そこから年数を経て、自分なりのイメージに落ち着きました。ちょうど、はさみのがはまった時期が三国志ブームだったこともあり、いまでも資料として使っている書籍もたくさんあります。いまはネットがあるから、便利だな~と思います(さて、はさみのはいくつでしょう?)。
みなさまの回答が面白いので、ぜひぜひチェックしてみてくださいませね。それでは、明日は本アップとなります。今度こそ早めにアップいたしますぞ! 

2006年9月11日(月)
実験連載 塔 3
「待て、待てと言われると、なぜだか待ちたくなくなる、この不思議」
「それはおまえが、ひねくれた根性の持ち主だからだ。ええい、手が雑巾くさい」
「手、というより、全身から馬臭さが漂っているぞ。ほら、この近くに女たちがつかうきれいな小川がある。そこですこし身だしなみを整えておけ」

                              ※

「女たちに、何事かと言う目で見られて、かなり恥かしかったのだが」
「自邸の庭の井戸に不具合があるとでもいっておけ。
やあ、こんにちは、いい天気だね。そうかい、市場に行くのかい。それでは気をつけて。さようなら」

「……だれだ? 俺もつい、頭を下げてしまったが」
「成都でも有数の機織名人『金さんのところのおかみさん』。彼女の織り上げた布は、市場でも常に最高値を叩きだすのだ」
「妙なところに知り合いがいるな」
「たまたま新しい機織器の開発の案を得るために、散歩をしていたら、とある家からすさまじい旋律をきざみながら動く織機の音が聞こえてきたのだ。
なにごとかと思ってのぞいてみれば、なんと、あのおかみさんが、すごいぞ、指先が見えないほどの速さで糸を生き物のように操りながら、機を織っていたのだ。
彼女は天才だ。織女の生れ変わりかもしれぬ」
「あのごくごく平凡な、どこにでもいそうな中年女が?」
「たとえ織女のごとき美女でも、生活苦に悩まされれば、次第にああなるのさ。聞けば、旦那は牛飼いで、むかしは生真面目であったのだが、悪い遊びをおぼえてからは、ろくろく家に金を入れなくなり、やさしくなるのは、それこそ年に一度がいいくらい。
子供を育てていかねばならぬから、自分が懸命に働かねばならぬというので、それこそ、髪をととのえる暇も、化粧をする暇もないまま、機を織っていた、というわけだ」
「ふうん、おまえが関わったからには、なにか変化があったのだろうな」
「変化というか、あの腕を、一介の主婦としておくのは惜しいからな、蜀錦を織るための娘たちの教師として、官費で雇うことにしたのだ。
おかげで、最近はわれらが織女たちがつくる錦は、どんどん質がよくなっている」
「それは良かった」
「旦那のほうに金を取られないように、うまく給料を渡さねばならぬから、そこが苦労といえば苦労かな。しかし、あんな駄目男なのに、健気というか、離縁したくないというのだから不思議だ。
それまでの生活に慣れてしまっているから、それを失いたくないのか、子どものためなのか、それともほかに理由があるのだろうか。余人にはわからぬこともあるのだろうと思ったから、そのままにしているがね」
「女には女の考えがあるのだろう。とんだ牽牛だな。ところで、このまま行くと下西門だな」
「大事無い。あそこは、今日は顔見知りがいない。ちゃんとしらべてきたからな」
「……というわりに、向こうからはげしく手を振っている、あれは厳将軍ではないか?」


※最近はたくさんの方に来ていただき嬉しい限りであります。さあて、実験連載も三回目。登場人物はいろいろいるのに、喋るのは二人だけ、というこの状況。書いているほうも慣れてきて、楽しくなってきました(^^♪しかも驚いてくださいな、筋書きとか、今回全然考えていません。二人でしゃべり倒しつつ、さてどこへ行くのだろうと観察するお話でもあります。
でもって、アンケートへの多くのご協力、ありがとうございます!(^^)! みなさんの回答をチェックするのが楽しくて仕方ありません。そしてくっきー人気がうれしいほどですねぇ。次回アップは『うさぎ』の続きがございますので、みなさま、どうぞお楽しみにー(^^ゞ
2006年9月12日(火)
実験連載 塔 4
「ああ、左様か、風邪がはやっておりますからな。それで若者と交替なさったとは、すばらしい。厳将軍は、いつもお元気そうで、なによりでございます。
寒風摩擦でございますか。はあ、利きそうですね、折を見て、ためしてみましょう。え? ご一緒に? ご要望に添うように善処いたします。
え? いかにも官僚言葉だ? 申し訳ございませぬ。実際に官僚ですゆえ。あー、からかっているわけではないのですよ。お怒りめさるな。はあ、はい、ええ、怒っておられぬのであればよかった。
いえいえ、お気遣いなく。大丈夫、わが主騎は一騎当千の勇士。一部隊を引き連れて行くよりも、ずっと安心できますゆえ。
主公? 主公にはちゃんとお話をしてございますよ、ほれ、お疑いならばご覧あれ。主公が直々に筆を執って、わたくしにくださった手形。これさえあれば、巴蜀のどんな関所もたやすく通ることができまする。
いえ、そのような大層なものではないのです。偵察ならば、わざわざわたくしは足を運んだりはしませぬよ。馬もけっこう。役には立ちますが……いえ、気取っているとかいうわけではないのですよ。馬ですと、かえって目立ちますし、歩きの旅のほうが、ゆっくりできて好きなのです。
ええ、そうです、本当にふつうの旅なのです。わが家に、ですか。息子がおりますが、なにぶん、丈夫な子ではありませんから。
左様ですな、それはありがたい。将軍らが目を光らせてくださっているおかげで、成都は日に日に治安がよくなっておりますよ。
ありがとう、それでは行ってまいります。みなさま方にも、どうぞよろしく」

「ずいぶんと時間を取られたな。厳将軍は叔至のように、無責任に面白おかしく話をふくらませて吹聴する男ではないから、まあ、うがった噂はされないで済むであろうよ」
「うがった噂って? わたしとあなたが二人で成都から出て、このままどこぞへ投降するのでは、とか?」
「でなければ、このまま重責に耐え切れず、相談のうえに失踪」
「となると、失踪ではなく駆け落ちだな、子龍。しかし、いずれわたしは、そのつもりでいるから、なにもいまでなくていいだろう」
「は?」
「なにをおどろくのだ。いずれはわれらも老いて、後進の妨げになってしまうだろう。あいにくと、よぼよぼの年寄りになっても権力にしがみついていたいとは思わない。あなたはちがうのか」
「それは、たしかに老醜を衆目にさらすより、隠棲したいと思っているが」
「ほら、意見がぴったり合った。あなたが譲り受けたあの湖のほとりの家、あそこも悪くないけれど、ちと狭い。それにどうせ隠棲するならば、だれにも干渉されない、巴蜀よりも離れた土地がいいと思っていた」
「なあ、この旅、もしかして、その土地を見つけるための旅でもあるわけか?」
「半分はそうだ。ええい、夢の中の光景をそのままうまく伝えられないのが歯がゆい。なぜだか心惹かれる光景であったのだよ。む? なにやらむずかしい顔をしているな。老いてもわたしと一緒はいやか」
「いやというか……六十を超したおまえの姿をどうしても想像できないなと」
「さて、わたしは、ずっとこのままかもしれないぞ」
「そうかもしれないと思わせるところが、おまえの怖いというか、すごいところだな」
2006年9月12日(火)
実験連載 塔 5

「歩くというのは、いいものだね。馬だと風景を見るよりも、道を行くことそのものが目的になってしまう。大地の暑さを、おのれの足の裏に感じながら歩く、というのは新鮮でよい」
「俺は、馬でも歩きでもかまわぬが、しかしおまえ、ずっと自邸と左将軍府しか往復してこなかった人間が、いきなり長距離を歩いて、マメができたり足首の骨をいためたりしないだろうな」
「安心したまえ。襄陽で徐兄や崔州平たちと旅に出たときは、いつも歩きだったよ。それに、旅に出ると決めてから、体を鍛えていたからな、なまってはいないと思う……たぶん」
「旅に出ると決めたのは、いつだ」
「二日前」
「二日でどれだけ鍛えることが可能だと思う?」
「さー。てんでだめだろうな」
「わかっているのならば、いい。無理せずに行こう。どうせ成都に引き返したところで、おまえは、ずーっとしつこく『塔』『塔』といい続けるのだろうし、さっさと夢の風景とやらを見つけることにしよう」
「なんだかやっつけ仕事をするような言い方だな。まあ、いいさ。突然であったから、あなたの苛立ちもわかる。というわけで、子龍、先に宿を探して、そこを目的地として歩こう」
「そうだな、たしか、ここから八里ほど先に宿屋があったはずだ」
「あったっけ?」
「あったのだ。もともと宿屋ではなく、ふつうの民家であったのだ。近隣でも名をしられた豪農であったのだが、不幸がつづき、家門が傾いてしまった。
残されたのは老夫婦であったのだが、二人だけで老後を過ごすのはあまりに寂しい。そこで、生き甲斐を得る、ということも目的として、宿屋をはじめたのだ。
だが、家門が傾いたとはいえ、そこいらの農家とは、格がちがう。しかも、あまり滅多な客は泊められないというので、だれかの紹介の客ではないと泊めない、というめずらしい宿屋なのだ」
「ふうん、お高いのだな。あなたはそこの宿屋と縁があるというわけか」
「またかと思われるかもしれないが、羌族の馬商人と待ち合わせをするのに、そこを利用させてもらった。
ごくごくふつうの民家にしか見えないところだが、下手な飯店よりも、料理もうまいし、家のつくりも面白い」
「うむ、では、そこへ向かおうか。旅らしくなってきたではないか。唄いたくなってきたぞ」


※仙台、小雨がぱらついております。帰社途中に、散歩に連れられた犬が、濡れるのがいやだといって四肢をつっぱって、恨みがましく飼い主を上目遣いに見ていたのが笑えました。犬は嫌がりますよね、雨。
さてはて、キリ番、お陰さまで来週あたり、あらたに迎えそうですね。これは頑張って連載を終わらせなさいということにちがいない。頑張ります。でもって、実験連載へのご反響いただけるとありがたいですm(__)m わけがわからない、とか、読みにくい、とか……いつものことか(-_-;)
さーて木曜日のアップ準備も着々進行中。みなさまどうぞお楽しみに(^^ゞ