● こうせいニッキ●
本文へジャンプ XX月XX日 

 

2006年8月30日(水)
椒聊よ、遠き条よ 番外編 おむすび18
しばらく、二人して、沈黙のまま、山をのぼった。
孔明は、あまりに突っ込んだ質問をしてしまった、無粋であったなと後悔していた。
先行する趙雲の顔は、徐々に翳る日によって、見えづらくなっており、何を考えているのかは、気配で感じ取るしかない。
「さっき、あんたがした質問だが」
と、しばらくして、趙雲のほうが口をひらいた。
さて、どの質問だろうと孔明が思案しているあいだ、趙雲はつづける。
「俺が生まれたときから、すでに世は乱れていた。乱れているのがあたりまえの状態だった。
武装して戦い、敵を討たねば、こちらが死ぬ。それはあたりまえのことだろう。だから、それをなぜとか、どうするべきかとか、考えたことはなかったな」
趙雲はそういうと、孔明が意外に思ったことに、そこでため息をついた。
「つまり俺は、世の中を見ているようで、見ていなかったということになるのかな」
「それは、ちがうのではないかな。そんなふうに言えるということは、自分で気付いていなかっただけで、あなたは世の中をちゃんと見ていたのだよ。
だから、新野でも、だれとでもそつなく付き合えるし、浮き上がることもなかったのだ。わたしはそんなふうにできない」
「意見をいわずに、つまらない男としてすごしていたほうが、たいがいの面倒に巻き込まれなくてすむ。だからそうしていただけだ」
「面倒に巻き込まれたことがあるのか」
「昔な。主公から聞いたことがあるだろうが、俺は昔、公孫瓚のところにいた。あそこで踏んだのと同じ轍を踏むのがこわかった」
「たいへんな目に遭ったのだな」
孔明が言うと、趙雲は、ちいさく、そうだな、と言ったきり、押し黙ってしまった。これは、あまり人に言いたがらない事柄らしい。
そういった機微は、孔明は、徐庶で学んでいたから、あえて不用意なことは口にせず、黙っていた。
やがて、しばらくすると、趙雲のほうが、また、たずねてきた。
「あんた、退屈していないか。俺は口下手だから、あんたのようにうまく話ができない」
「退屈なんて、していないよ。ぜんぜんしていない」
それは本音のところであった。
趙雲の過去は、よく知らない。けれど、趙雲の語ることばの端々から、さまざまに連想させ、思考を深める作業は、孔明にはたのしいものであった。
「あなたは口下手じゃないよ。論客として徹底して訓練を受けたわたしが言うのだ。あなたは口下手ではない」
「そうかな」
趙雲にしては、らしくない、ぐずぐずした口調である。孔明はぴんときた。
「ふむ、だれか、あなたのことを口下手と言った者がいるのだな。女だろう」
「……………」
図星であったらしい。


※ほぼ二ヶ月にわたりましてつづいた一日置きアップでありました。途中、休みをいただいたり、あるいは長い(ホントに)休暇を利用できたりして続けることができました。通ってくださった方、ありがとうございます。ニッキのほうは毎日アップを続けていく所存ですのでどうぞよしなにー(^^ゞ でもって、作品別アンケート、うさぎがトップ…すごいなあ。いえ、嬉しいです。今後ともみなさまよろしくお願いいたします(^o^)丿
2006年8月31日(木)
椒聊よ、遠き条よ 番外編・おむすび19

この男が、いわゆる『甘い囁き』とやらで女を口説いているところを、孔明はどうしても想像できなかった。
とことん、生真面目なのである。
本当に真面目にその気持ちに向き合わなければ、趙雲は本気にはならない。
まさに真剣勝負。
それでは商売女は疲れてしまうだろうし、耳に挟んだ話では、たまに浮いた噂も出てきたようだが、いまもって独り身であるとか。
それも分かる気がする。
よほどの教養をもち、おのれの生き方に哲学をもった女でなければ、趙雲を正面から受け止めるのはむずかしかろう。
でなければ、その真逆、底抜けに陽気で享楽的。しかしそうなると、あまり長続きしそうにないな、とも予測できる。

追いかけるかたちとなっているその背中が、見るからに落ち込んでいるようだ。
いかん、今度こそ、いかん。失言だった。
孔明は穴埋めをすべく、つとめてほがらかに、言った。
「あなたが口下手だというのなら、わたしは社交下手なのだが、やはり人とこうして交流する、ということは大切なことなのだな」
追従ではなく、実感して思うことであった。
こうして実際に話をしてみなければ、趙雲の本質は、ここまでつかめなかっただろう。
新野城の一室で、不貞腐れた子供のように過ごしていては、なにも気づかなかったにちがいない。
「いろいろ考えていたら、憂さも晴れたよ、ありがとう」
連れ出してくれた趙雲への、感謝の意味もこめて孔明がいうと、趙雲のほうは、なぜだか怖い顔を向けてくる。孔明はうろたえた。
「なぜ怒る」
「直言にすぎる。そういうことを言われるのは嫌だ」
今度は、孔明が顔をしかめる番であった。
「でも、わたしは言いたいのだ」
「なぜ。あんたは士大夫にしては、直言が多いな」
「士大夫だろうとなんだろうと、そんなものに構っていられるか。子龍、もしかしたら、突然、虎が襲ってくるかもしれない」
「は?」
「想像したまえ。それはとんでもなく凶悪で巨大な虎で、あなたの武力を持っても、制することができない。足場も悪いしな。そう、そいつはもしかしたら、この山の神から使わされた虎なのかもしれぬ」
「はあ」
「奮闘努力の甲斐もなく、あなたは虎に倒され、わたしだけが生き残る」
「おい」
「そうして残されたわたしは、泣きながら、こう思うだろう。『ああ、こんなことになるのであったら、さっき、あなたに、山に連れ出してくれてありがとうと言うべきだった』とな」
「で?」
「だからだ」


※八月も最後になりました(^v^)アップダウンの激しい月でしたが、新しい仕事が見つかっただけよしとしなくてはいけませんね。明日より二日おきアップとなりますが、二日おきであるがゆえに濃い内容でお届けできたらなと思います。八月はアップ数の割りに、ほかの連載が進んでいなかったりしますが、「アップするために早く筆の進む連載」のほうがアップが先に出来上がってしまうゆえでりまして…反省。九月から、どんな内容となりますか、みなさま、どうぞお楽しみにー(^^♪
本日のキャラ別アンケートは、これは孔明ですよね。いやあ、二ヶ月で70稼いだよ、このひと…みなさま、ありがとうございましたm(__)m

2006年9月1日(金)
椒聊世、遠き条よ 番外編 おむすび20

「ときどき、あんたと話をしていると、眩暈を感じるのは、これは気のせいか?」
「食べている物に問題があるかもしれないな。医食同源。好き嫌いはいかん」
「俺はなんでも食うほうだが……虎はこのあたりにいない。もっと奥のほうにはいるらしいが、そこには入る予定はない。虎に会いたければ、ひとりでいけ。さすがにそこまで面倒はみないぞ」
「だから、喩えだ、喩え。わかりにくかったか。じゃあ、熊にしよう。さらに想像したまえ。それは、そうさな、小山ほどある巨大で凶悪な熊で……」
「どうぶつを変えても同じだ! わかった。つまり、言いたいときに言わないと、あとで後悔するから、だから言うのだと、あんたは言いたいのだな」
「伝わっているじゃないか」
「伝わってはいるが、直言をやめてくれと、俺は言いたかったのだ」
「どうぶつが気に入らないなら、『刺客』に言葉を変えてもいいぞ。途端に、ああ、たしかにそうかもな、と思えてくるぞ。さあ、想像」
「強制するな」
といいつつも、趙雲はしばしの沈黙のあと、答えた。
「そうだな、あんたの言うことも、一理あるかもしれん」
「そうだろう。というわけで、ずいぶん長い話になったが、ありがとう」
「あのな、まだ頂上についていないうちから、礼を言われても困る」
「頂上になにかあるのか? めずらしい岩とか?」
それは明日になればわかる、と言って、趙雲は意味ありげに笑うと、そのまま黙った。

山の中腹に差し掛かったところで日が暮れはじめてきたので、宿をとることになった。
趙雲が言っていたとおり、ほんとうに野宿である。
一張羅が汚れてしまうことを恐れた孔明は、趙雲が、『夕食』をとりにいっているあいだに、広げた粗布のうえに、一張羅をひろげて丁寧に畳むと、こんなこともあろうかと予備で持ってきた、多少汚れてもかまわない、年季のはいったものに着替えた。
そうして、虫が寄ってこないように、南蛮からの商人から買った、とっておきの野営用虫除け香を焚いてみる。
きくのかきかないのか、そのあたりは初挑戦なので、孔明にもわからない。
じき、趙雲が野鳥を何羽か取ってきて、食事の準備がはじまった。

※九月ですねぇ。月日の流れは本当に早いなあ…ところで高校生クイズ、東北、のきなみ一回戦敗退って弱すぎじゃありませんか(-_-;) 一回戦に進んでいるチームが圧倒的に西のチームが多いというのは、なんというか地域性を感じます。東北はねー、もっと前へ出てけー、前にー。と、高校生と真剣勝負でクイズに挑んでいたはさみのでありますが、最後まで見ていたらとんでもないことになりそうだったので切り上げ。いやあ、なんにせよ、高校生っていいなあと思います。だって年金とか保険料とか市県民税とか払わなくていいしー(当たりまえです)。いまの知識と経験を持ったまま、高校生に戻ってみたいと思うのはわたしだけ? もうすこし上手な三年を過ごせそうな気がする。でもまあ、高校の三年間はそれなりに楽しかったから、これからのことを考えましょう、というわけで、長い前置きとなりましたが、九月からのアップも、着々と進めていきますので、どうぞよろしくお願いいたします(^^ゞ

2006年9月2日(土)
椒聊よ、遠き条よ 番外編 おむすび 21

「妙な臭いの香だな。ほんとうに虫が寄ってこないのか?」
と、いかにも疑わしそうにしながら、趙雲がたずねてくる。
孔明としては、おもしろくない。が、大丈夫だともいいきれないので、
「おそらく平気だ!」
と胸を張ってみた。
「あんた、ときどき変なところで意地を張るな。じゃあ、賭けをするか。明日の朝までに、俺が虫に三箇所以上食われていなかったら、あんたの勝ち。三箇所以上食われていたら、俺の勝ち」
「よかろう。賭けの賞品はなんだ」
「そうだな、武器の手入れをするための獣の皮が最近足りないから、それを三枚」
「ちょっと待て。それは、あなたには必要かもしれないが、わたしは獣の皮を三枚もらっても使いどころがない。というか、うれしくない」
「どちらにしろ、俺が勝つ賭けだから問題なかろう。どこで買ったのだ、こんなもの」
「あのな、人の物に対して『こんなもの』扱いはひどかろう。南蛮から来た商人が売っていた『妖怪も逃げ出す』というのが売りの『退魔香』だ」
「名前からして怪しい。俺の勝ちだ」
「ふん、明日の朝が楽しみだな。獣の皮は、わたしがもらう。使い道はあとで考える」
「俺は、たぬきを三枚たのむ」
「鼠じゃだめか」
「たぬきだ」

そんな会話をしながら、すっかり暗くなった山の中、火を起こし、野鳥を串刺しにして焼いてみる。
鳥の肉の焼ける香ばしいにおいと、孔明の焚いた虫除けの香の臭いが微妙にまざりあい、山中では、なんともいえない緊迫感がただよった。
「野宿にするんじゃなかったな…」
そんなことをぶちぶちと言いつつ、趙雲は、自分がもってきた包みを取り出す。
すると、中から、竹の皮につつまれた大きな握り飯が出てきた。
「いそいで握ってきたものだから、形はわるいが、味はわるくないはずだ。ほら」
といって、趙雲は、孔明に、自身がにぎったという握り飯を差し出してきた。
「ありがとう。いまの口ぶりだと、時間があれば、うまく握れるとでも言いたげだったな」
すると、趙雲は目を細めて言った。
「俺はあんたとちがって、座にいれば自然と膳が出てくるような生活は、あまり送って来なかったのでね。たいがいのことは、全部自分でできる」
「わたしとて、握り飯くらいならば、握れるとも。炊いた飯を拳でぎゅっと」
「駄目だ。握り飯のうまさは、力加減にある。『拳でぎゅっと』などと言っている時点で、まずさは確定したな」
「それは食べてみなければわからぬ。新野に戻ったら、握ってくれよう」
「期待しないで待っていよう」
そんな、とげとげしい空気の中、孔明はどれどれと握り飯をひとくち、口にしたのであるが、さすがに薀蓄を語るほど、握り方を研究しているらしく、その握り飯はうまかった。


※やっとタイトルの「おむすび」登場。こちらの連載は来週で終了となります。でもって、次回連載の『塔』も着々と準備ちゅうであります。お楽しみにー(^^♪
今日は仙台、とってもいい天気です。でも引きこもっているワタクシ。二日おきアップ、今週は平日に二回とけっこう苦しいスケジュールなので、休みのあいだに準備しておこうと思います。アンケートのほうも、そろそろ集計予定です。
今月はなるべくバラエティに富んだ内容でアップしたいなあと思っております。どうぞよろしくです。でもって、本日の本アップは夕方ごろになります(^o^)丿

2006年9月3日(日)
椒聊よ、遠き条よ 番外編・おむすび 22

なんだかんだと、あっというまに、一粒ものこさずぺろりと握り飯をたいらげると、趙雲は得意そうにこちらを見ている。
なにやら癪であったが、ここは素直になるべきであろう。
「うまかった」
孔明がいうと、趙雲は、満足そうに声をたてて笑った。からかうようなことは、言ってこなかった。

それからしばし歓談したあと、香のにおいを気にしつつ(悪夢を見そうだと趙雲は言った)、二人は眠りについた。
香は、なんだかんだと効力を発揮しているらしく、いつもならば悩まされる虫が、たしかにまったく寄ってこない。
『獣の皮か。なにに使うかな』
明日の朝を楽しみにしながら、孔明は目を閉じたが、ふと、気づいた。
こんなに安らかな気持ちになって眠ることができるのは、ほんとうに久しぶりであった。新野では、いつもなにかを気にしていた。
戻ったら、また同じになるかというと、もう、そうはならないだろうという確信が、孔明にはあった。
ここに来るまでのあいだに趙雲と言葉をかわしているうちに、憑き物が落ちたような気分だ。
構えて、趙雲の心を疑っていた、今朝までの自分が愚か者に思えた。

味方を得た。いや、もうずっと前から得ていたのだ。
自分の身を守ることばかり考えて、気付かなかっただけのこと。
いま、火を挟んで隣に眠っている男は、わたしが本当に『腐る』といけないので、外に連れ出してくれたのだ。
嫌われ者に堂々と近づいたら、自分も嫌がらせを受けるのではないかとか、そんなせせこましい計算もしなかったのだろう。
心はあるではないか。場を盛り上げる華やかさには欠けるかもしれない。
けれど、これは、わたしだけが見つけた、わたしの剣だ。

主公に分からなくてもいいさと、すこしばかり背徳感のある喜びをおぼえつつ、孔明は眠りにおちた。


※財政難のはさみのより、こんばんわであります。遅くなって申し訳ありませんm(__)m ところで、うれしいことに八月分の全アクセス数が、開設初の5000を上回りました。去年より数字が伸びております。ご来場くださったみなさま、本当にありがとうございましたヽ(^。^)ノ
九月はアップ数が減る…というのは如何ともし難いのですが、これこそ自分の生活をうまく使えば、HPに使える時間が増えるのではないかと、あれこれ試行錯誤中です。アップ回数が少ないけど内容が濃い、あるいは、ゲリラアップができる、一回のアップ数が多い等、工夫するべく頑張っております。
あ、もちろん無理をしないように。どうぞみなさま、今月も遊びにいらしてくださいませね(^^ゞ