● こうせいニッキ●
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2006年8月25日(金)
椒聊よ、遠き条よ 番外編 おむすび・13

「それで、よくいままでやっていけましたな」
「そこがそれ、あいつ、公孫瓚のところで身につけたのだろうが、そういう処世術には慣れててな、本当にソツがないんだわ。頭がいいから、相手の先をうまく読んで、するり、するりと世の中を渡っていっちまうんだな。
だから問題も起こさないかわりに、部下はいても、仲間ってもんがない。儂を慕って来てくれた奴だが、どうも十五のときと、変わってない部分があるなと、それで儂は心配しておったのだが、いやあ、軍師はなんでも解決してくれる。さすが臥龍!」
ひゅう、ひゅう、と奇声を発しながら、孔明をおだてて、拍手する劉備。このひとのこの陽気さは、いったいどこから来るものだろうと孔明は呆れつつ、言った。
「おだてても駄目です。つまり、子龍はよく働いてくれるが、どこか表面だけしか見せていないような気がして、主公としては心配だとおっしゃる」
孔明の容赦ない直言に、むしろ劉備は喜んで、さらに手を打ちながら言った。
「そうそう、そういうこと。いや、本当におまえは話が早いわ」
「お褒めの言葉をいただき、うれしゅうございますが、つまり、子龍はわたしの主騎であることは変更なし、と」
「そうだよ。先に言っておくが、こればっかりはおまえの我侭は通さねぇからな。おまえは子龍を通して、武将という物に慣れる…いっとくけど、あれだけ大人しくて品がよくて、躾けのしっかりしている武人は、めずらしいのだぞ…子龍のほうは、おまえを通して、世に慣れる……いや、世を知る、と言い換えるのが本当か」
「世を知る?」
劉備の言葉に、怪訝そうに孔明がおうむ返しにすると、それまで無邪気に機嫌よくはなしていた劉備が、真摯な顔になって、うなずいた。
「儂はあいつを十五のときから知っているのだが、そのときから、まるで人形のようなやつだと思っていたよ。外見があんまり立派だし、家柄もわるくないし、教養もあるから、ここぞというときに随行させると、まずまちがいない。
それくらい優秀なやつなんだが、あいつの頭のなかじゃ、せっかく蓄えている知恵とか知識といったものが、心につながっていないのだ」
「ますます不思議な御言葉ですな。それでは、主公は、子龍は、知識と経験を元に体を動かしている人形のようだとおっしゃりたいのですか」
孔明の分析に、劉備は戸惑いつつも、応じた。
「まあ、そこまで極端には考えていねぇけれど、知識と経験ってのは心とつながって、はじめて本当に力を発揮するものだろう。どういうわけか、あいつの場合は、それが、きれいに分かれちまっているようなんだ。
頭がいい分、いままで問題なく過ごしてこられたのだが、それとて、新野がずっと平和だったからであって、曹操が南下くるのはまちがいねぇこの状態で、人形みたいな大将に、ほんとうに何万も動かせるか、というか、兵卒たちがついていってくれるか、疑問が出てくる」

※季節が一ヶ月づつずれているような今日この頃、みなさまいかがお過ごしでしょうか。早いものでもう25日。前の会社を辞めてから二週間が経過。ものすごく時間が経ったように思えます。
さてはて、昨日のアップ分、おばか企画やずんだとはいささか趣のちがう馬超をお送りしておりますが、反響は悪くない様子。よかった~(^_^;)こちらは「おまけ」も含めて完結させました!(^^)!あとは校正を待つ状態であります。
さーて、この調子でどんどんいきますぞ。目指せ、アップの皆勤賞。あ、でも体調管理が一番ですね。併せて間抜けなことにならないよう、頑張りますです(^^ゞ

2006年8月26日(土)
椒聊よ、遠き条よ 番外編 おむすび・14

劉備のことばに、孔明は困惑し、反駁した。
「それは問題ないでしょう。事実、子龍は何度か小競り合いで、三万ほどの軍を率いて、夏侯惇の軍を斥けているではありませんか」
「そうだけどよ、そのときは、いいか、『すぐ』に蹴りがついたのだ。だが、ここからが肝心だぜ。曹操がきたら、何ヶ月、下手したら何年という長いあいだ、儂たちは戦うことになるだろう?」
それはそうである。孔明はうなずいた。
「おまえもわかっているかもしれねぇが、わしの兵卒たちってのは、華のある親分が大好きなんだ。子龍に大将をまかせたとして、そりゃあ、見た目もよけりゃ実力もある。絵に描いたような大将だから、最初はうまくやるかもしれねぇけど」
「けど?」
「なんか、地味」
「ほかにも、わたくしの目から見ても、地味な者はたくさんおりますが」
「いや、容姿が云々じゃねぇんだよ。なんていうかなあ。戦場では、もちろん武力が高いヤツが強いってのもあるが、やっぱ、最強なのは、実際に強いうえに、ハッタリもうまいヤツ。これだな」

なんだ、その理屈は。
いや、しかし、あまたの戦場を実際に駆け抜けた人が言う言葉だからな、と自分に言いきかせつつ、孔明は、そのまま黙って劉備のことばを聞く。

「張飛なんかはやっぱり、ハッタリがうまいぜ。俺一人で千だろうが万だろうが、ぜんぶ蹴散らしてやらあ、とか、そういってまわりの将兵を盛り上げるんだな。その点じゃあ、呂布もうまかったな。周囲を鼓舞させることができる大将。
関羽も、あれで、戦場じゃ人が変わるからな、見ていて気持ちいいくらいの凛々しさだぜ。曹操が惚れこむ理由がわかるってもんよ」
うんうん、となにやら納得する劉備。話が先に進まないではないか。
「つまり、子龍は、それができない、と」
「そう。あいつは、人に関心が薄いだろ。だから、ま、命令は淡々とこなすだろうが、しかし、味方への気遣いだのがどうも理詰めのうわ滑りで、じつにションボリした行軍になるんじゃねぇかと心配なのだよ。それが、何年もとなると、大丈夫かな、という懸念もあるのだ」
わかるか? というふうに劉備は孔明に目で問いかける。

孔明としては、そういう、大将の気風で左右される、それこそ天気のように勢いがコロコロ変わってしまう軍より、理詰めで動く軍隊こそ、いちばん欲しているものなのだが、と困惑しつつも、たしかに、劉備の言いたいこととはずれるが、趙雲の器に、劉備が疑惑をもっているのは問題だと思っていた。

「だから主公は、子龍は、わたしには重たい口が開くようであるから、主騎にして、ちょっとどうなるか様子を見ようと考えられた、と」
「そう! そのとおり! さすが軍師! そういうわけでよろしく」
と、劉備は、よろしくされません、という孔明の言葉を完璧に封じる勢いで、ぴしゃりと話を終わらせてしまったのだ。

※なんとなく「虚舟の埋葬」を読み返しておりました。いままでの中で、自分ではいちばん構成もあまり無駄がなく、まともに書けている作品だと(当社比であります、あくまで)思うのですが、うーん、漢字が多いなあ…
あたりまえですが時代モノですと固有名詞と名詞のほとんどが漢字になるわけでして、そのために、ほかのことばをひらがなに換えるように注意はしているのですが、埋葬に関しては、これはもう純然たる言い訳になるかもしれませんが、病気のあとに勘を取り戻しながら書いたものだったので、文章が固めです。
ぬーん、いつか時間があったら、多少の手直しを加えたいところだと思います。八月ももう終わりだなあ。24時間テレビが始まるとそう思うワタクシ。一日置きアップも八月一杯となりますので、みなさま、もうしばらくお付き合いくださいませね(^^♪

2006年8月27日(日)
椒聊よ、遠き条よ 番外編 おむすび・15

心がない、というわけではないだろう。
子龍は、冷静な印象は与えるが、冷酷な印象はそこにない。
武将にしては、立ち居振る舞いに品があるし、こちらが新米で年下、という気安さもあるだろうが、はじめて会ったときと比べれば、だいぶ打ち解けた。
主公が子龍にもとめてらっしゃるものというのは、つまり、張飛のような『わかりやすさ』なのか。
だとしたら、そこは、わたしと意見が別れるところだな、と孔明は冷徹に考える。

孔明がもとめるものは、おのれの手足のように動かせる、統制のとれた、理詰めで動く兵卒。それをまとめられる大将。
ただ、まちがえてはいけない。この場合、大将ひとりが優秀であればよいという話ではなく、末端の兵卒のひとりひとりまでが、作戦を理解し、危機に際しては、自分で考え、動けることが理想なのだ。

劉備のもとめる大将像。これは民衆のもとめる理想の武将像でもあるが、孔明は、そんなものには憧れない。
みずから好んで歌う『梁父吟』が主題としている三人の武将の悲劇を引くまでもなく、戦場で注目をあつめすぎる者は危険なのだ。
現場での人気が高ければ高いほど、よほど文官側と緊密な関係を築いていないかぎり、やがては思いあがり、治世の障害となっていく。
冷酷にも聞こえるかもしれないが、武将の本分はあくまで兵卒をうまく使いこなし、作戦通りに遂行することだ。戦場での派手な武勲など狙わなくていい。
なんであれ、勝てば官軍なのだ。勝たねば意味がない。大将の気風や調子によって、軍全体が左右されてしまうような、そんな実力の定まらない軍隊は、おそろしくて使えない。
もちろん、華があれば盛り上がるであろうが、それは、やはり花と一緒で、一瞬は美しくあるが、すぐに枯れ、しぼむ。

このあたりの意見の差は、どんなに親しみやすい方といっても、主公は仁侠の人だからなのだな、と孔明はため息をつく。学ぶべきところは大きいが、しかし、ここは譲れない。
大将が感情に走ったがために、末端の兵卒たちまでが狂ったように凄惨な掠奪や殺戮をくりかえした徐州から逃げてきた。叔父が任地を追われた際に、賞金ほしさに襲ってきた人々の無情さ、吐き気がでるほどのおぞましさを知っている。
だから、劉備の意見を受け入れることが、孔明にはできなかった。

「やはり、つまらぬか」
と、趙雲が、声をかけてきたので、孔明は思考の袋小路から抜け出して、顔を上げた。
見れば、意外や意外、趙雲は、蜻蛉を捕まえそこねた少年のように、すこしがっかりした顔をして、孔明を見ているのであった。
あわてて、孔明は否定する。
「いや、そうではないよ。すこし、思い出したことがあったのでな」


※昨日はなにやら思い立ち、本編マップのほうから「翳り行く明日」以降のものすべてを読み返しておりました。
が。以前よりはマトモになっただろうと思っていたはずの、この数々の誤字脱字、意味不明文章、校正の悪さ。とくに椒聊、ノリで書いているというのは恐ろしいことで、同じような光景・セリフがくどいくらいくりかえされております。
……………はさみの、才能ないんじゃ?
どんよりしたところで、明日もアップ。皆様、ヘンテコ文章目地目白押しの当サイトに来てくださいましてありがとうございます。うーん、校正しているつもり…なんだけど、やっぱり時間を置かないと駄目な様子。
むむ、難しいところであります(-_-;)

2006年8月28日(月)
椒聊よ、遠き条よ 番外編 おむすび・16
「襄陽のほうに足を伸ばしたほうが良かったかな。しかし、あちらだと、いろいろと気兼ねすることもあって、面倒だったのだ。いまから山を下りて、俺の知り合いに宿を借りるか」
すでに日は橙色をふくみ、西に向かい落ち始めている。
「いや、これはこれで、いい気分転換になっているよ。木の香りというのは好きだ。心が洗われる」
「そうか? ため息をついていたので、あまり気晴らしにならなかったのかと」
ため息の理由がちがう。
しかし、考えていたことを、趙雲にそのまま伝えることはせず、孔明は言った。

「襄陽のほうであったら、わたしは同行しなかっただろうさ。いまだに、わたしが軍師として招聘されたことについて、わあわあと言っている連中もいるからな。ここは人がいなくていい」
「そうか?」
「ため息をついたのは、ええと、そう、癖になっていたものが、つい出たのだ。不快にさせてしまったのならすまなかった。あなたのせいじゃない」
「悪い癖がついているな。昔からなのか?」
「いや、新野に来てからだよ」
すると、趙雲は口元に笑みをはきつつ、困ったような顔をして言った。
「それでは、一部は俺の責任もあるか」
「あなたの責任? あなたも、わたしのことを裏で批判していたのか」
拗ねたように孔明がたずねると、趙雲は声をたてて笑った。
「自信をもっていうが、俺は裏で、あんたのことを言ったことは一度もないさ。さっきも言っただろう。あんたのやっていることは正しい。
正しいと思っているものを批判する…いや、あれは批判なんてものじゃないな。悪口だ。ああいうのは、ほんものの馬鹿だ」
「容赦ないな」
こんなに毒舌だったかな、と孔明が呆れていると、趙雲はつづけた。
「俺がもうすこし才覚というものがあれば、裏で不要なほどあんたを悪く言ってるやつを牽制できるんだがな」
「子龍、それは主騎の仕事ではないよ」
孔明がいうと、趙雲は小首をかしげて、そうなのかな? と言った。

心がないわけでもなく、気遣いができないわけでもない。
主公は、意外に子龍をご存じないのではないかと、孔明は思い始めていた。


※初出勤の時間が刻一刻と近づいております。うう…どきどきしてきた小心者。本日のアップは夜になるかと思います。用意できるかなー。遅くなったらすみませんm(__)mしかし家から近いとは素晴らしいですねー。寄り道するところも西友(関東の方はびっくりするかもしれない。東北じゃまだまだ元気なのですよ)くらいなもんかしら。お金が貯まるなあ。って、お給料が前よりぐっと少なくなるので、そこは節約生活。さーて、行って参りますです(^^ゞ
2006年8月29日(火)
椒聊よ、遠き条よ 番外編 おむすび17
「けれど、よかったな」
「なにが?」
「最近ついた癖なら、いまからでも治せるだろう」
「気をつけて治すようにするよ」
「それがいい。あんたはいま、新野の軍師なのだからな。ため息をつく癖のある軍師など、それこそ従うのが恐ろしい」
「徐兄はどうだった。堂々としていたのかな」
なにを思い出したのか、趙雲は苦笑いをして答えた。
「堂々というか、飄々、という感じだったな。良くも悪くも、徐軍師は、すぐに新野に溶け込んでいたよ。あの方を悪くいうのも少なかった。だから主騎が必要なかった」
「つまり、それほどに、わたしは異質なのだな。糜従事中郎(糜竺)は、みな照れ屋なのだとおっしゃっていたが、そうなのだろうか」
「照れ屋か。あの方らしい言葉だな」
と、趙雲は声をたてて笑った。
「あなたはそうではない、と思っているのだな」
「さっき言ったとおりさ。この七年間は、本当に平和だった。いい時間だったと思う。けれど、主公がいつか洩らしていた。ここは居心地がよいが、しかし、体もなまるし、心にも余計な贅肉がついてしまうと。
俺はあんたに早くに関われて、運が良かったと思っているよ。ほかの連中より、さきにこのことに気付けたからな。とはいえ、俺は独り身だし、この七年間で、家族ができたやつらとはちがう気楽さがあるから、そう思うのかもしれないが」
「子龍、そういうことを、主公と話し合ったことはあるか」
孔明の問いが、唐突に受け止められたのか、趙雲はふしぎそうに振りかえる。
「いいや。主公とはあまり、そういった話はしないな。なぜだ」
それこそ、なぜ、である。
「では、主公とは、いつもどのような話をしているのだ」
「そう、だな。あらためて問われると答えに困るが、すぐに思い出せないところを見ると、大した話を」
していない、といいかけて、趙雲は口をつぐむ。

それはそうだ。
孔明も、危うい質問をしてしまったとすまなく思いつつも、劉備と趙雲は、一見すると理想の主従であるが、それこそ根のところでは、微妙にすれちがいを起こしていることを確信した。
と、同時に、劉備にさえそうなのであれば、ほかの仲間とも似たようなものだろうと考える。
趙雲が、なぜ、人に対して距離を置きたがるのか、生まれつきの性質か、なにか理由があるのか、それは孔明にはわからなかったが、ともかくいま言えることは、趙雲のなかにある美質を見抜いているのは、新野ではこの自分だけであり、しかも、見事なことに、趙雲のもつその性質は、自分の理想にもっとも近いということである。
なにか得がたい宝を見つけたような気がして、孔明はうれしくなってきた。


※去年はなつに連続アップ(しかも仕事しながら)というとんでもないことをしておりましたが、体力がガクリと落ちたいまは、やはり仕事しながらだと一日置きでもキツイですね。明日のアップ、ちゃんとできるようにしないとな~。ショートショート二本か、あるいはオリジナルになるか、現在検討中です。せっかくの夏の最後のアップですし…明日をお楽しみに(^^ゞ