● おまけの広場 ●
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2007年8月1日(水)
流砂の絶佳 百十一

サイレンが鳴り響いている。

耳障りな音に目をひらいた孔明は、目のまえに唐突に、あきらかに悪魔に憑依されているとわかる人間が、至近距離にいることに気がついた。
見上げれば、おどろくほどに高い天井である。
大聖堂のように天をつく高さであるが、一面真っ白で、装飾はなにもほどこされていない。
前衛的ともとれるデザインの、どこかのビルの内部らしい。等間隔で、てんとう虫のような形のソフトライトが廊下を明るく照らしている。外光は入ってきていないようだ。
見れば、柱のあちこちには、ものものしい武装の兵士たちがいて、それぞれ武器を手にしているのが見える。つねづね思っていたのだが、重装兵というものは、どこか虫に似ている。
ヘルメットにゴーグル、マスクという出で立ちの彼らの人相はわからない。

かれらのうちのひとりが、軍用の携帯電話で、連絡をとっているのが見えた。
「正体不明の二名です! 古代人の服装をした男性二名。突如として標的のまえにあらわれました! 
こちらのシステムでは、分析依頼を拒否されました。中央での分析を願います!」
「流砂の絶佳だな」
趙雲がつぶやいた。
いつでも、孔明よりも趙雲のほうが、事態の把握が早いのである。
孔明は自分の身を見下ろす。うさぎから、元に戻っている。
推理は容易だった。
巨大うさぎになっていた者を元にもどし、なおかつ未来に引き寄せることができるほど、強い力を持っている者が、そうそういるはずがない。
アイオーンの乙女が動いたのだ。
目のまえには悪魔。
もしかしたら、乙女は、怒っているのかな?

「ぬぬ、せっかく主公たちと再会できる、という、いい場面であったのに」
こぼす孔明に、趙雲は言った。
「仕方なかろう。もともと、俺たちは、あまり世界に干渉してはならぬ身だったのだ。姿を見ることが出来ただけでも、運が良かったのかもしれないぞ。
さあ、それよりも、気持ちをあらためて、まず目のまえのものを片付けなければならぬ」
「あなたはプロだよ、ほんとうに」

悪魔に憑依された人間の姿は、気の毒なほどにねじれていた。
首の向きが、ありえないほどに直角に曲がっており、その曲がっているところから、あらたに別の首が生じている。
その首は、もとの肉体のもち主の風貌とはかけ離れたもので、本来の首よりも、二まわりほど小さい。
首狩り族のつくる首のミイラほどの大きさだ。
皮膚は干上がり、ぬめぬめとした粘液を全身からしたたらせている。
「無惨な」
孔明は柳眉をしかめた。
これでは、憑依された人間は、もう助からないだろう。
いくら弱みにつけこまれ、このような姿になったものだとしても、この状態は、哀れのひと言に尽きた。
すると、唐突に、悪魔の小さな頭の口が光った。
「いかん!」
孔明も趙雲も、咄嗟に身をひるがえす。
悪魔のちいさな頭の口から、光弾が発せられたのだ。
すぐに飛び退った二人であるが、光弾が穿った壁は、しゅうしゅうと音をたてて溶解している。

「ええい、被災した成都中の民を助けあげたばかりで、霊力も満タンではないというのに、次から次へと、人使いの荒い! 見ておれ!」
見れば、悪魔はふたたび攻撃をするべく、口から光を発しようとしている。
孔明はすぐさまおのれの指を鉤詰めのように曲げて、そのまま大きく空を裂く素振りをした。
とたん、ぎりぎりと、耳をつんざく音を立てて、床をはげしく抉りながら、線条のいくつもの空気の塊が地を走り、悪魔の身体を直撃した。
そのたった一度きりの攻撃で、悪魔は、一瞬で身を引き裂きさかれた。

※さて本日より未来?に戻ってきました。今回の連載は、ほんとうにいつもより作るのに時間がかかっています(>_<) ニッキ連載としては題材がねぇ。これをうまく終了させられたら、次の連載は、もっと単純なお話をアップしようか、それともまったく別のことを始めようかと思案中です。まずは、この連載に集中します(^^ゞ

2007年8月2日(木)
流砂の絶佳 百十二

身を裂かれた悪魔は、その傷を修復しようとしばらくねばっていたが、やがて力
尽きて、膝から崩れて、その場に倒れた。
その肉体は、異臭をはなちながら、大回廊の中央で溶けていく。

「いまのおまえの技は、初めて見るな」
趙雲に声をかけられて、孔明は得意そうに、にやっと笑うと、答えた。
「ウトナピシュテムが使役していた土蜘蛛からヒントをもらって、あらたに編みだしたものだ。かまいたちの複数バージョンだな。
ひとつひとつの威力は、ややおちるものの、全身にまんべんなく攻撃を与えることができる」

一方、孔明たちをまえにして、重装兵たちは、浮き足立って、たがいにどういうことかと話をしたり、あるいは外部との連絡をしたりしている。
「この世界でのわれらの認知度というのは、どれくらいなのだろう。記憶消去のスプレーは必要あるのかな」
「もし必要があったとしても、アレはどうする」
趙雲が指さす方向を見上げると、そこには複数の監視カメラが、熱心に孔明たちに視線を注いでいる。
「コンピュータ制御かな?」
「いや、オペレータの気配がある。手を振ってみよう。おーい」
のん気に手を振る孔明の背後では、携帯電話でどこぞと連絡をとっている兵が、
「いま手を振っています!」
と、叫んでいた。

「手を振っているから、なんだ! オペレーター、シェルターの全区域をモニタリングして、ゲストの現在地を割り出せ、大至急だ!」
防衛部隊の伝令に、怒鳴るようにいうオッペンハイマーのところへ、システムがアクセス要請をしてきた。
いったいだれだ、委員会か、と確認すれば、エウゲニー・バルエフスキーである。
「エピファニーが、例の二人をまちがいなくゲストルームに案内している。それがいきなり大回廊にあらわれるもんか」
「つまり」
「入れ替わったんだ。乙女の介入があったんだろうよ。
史実上では、初代宰相は、よい魔法使いだった、ということになっているが、ほんとうは、ごくごくフツーのやつだったことは、俺たちは知っている。
なのに、悪魔を一撃で撃破してみせたということは、そいつはアトラ・ハシースだ。乙女が召喚したんだろう」
「過去の問題は片付いたのか?」
「でなくちゃ、貴重な戦力をこっちに回したりしない。残るは『流砂の絶佳』というわけだ。
いいことだぜ。これに一気に乗るのが利巧だ」
「どういうことだ」
「あさっての、和平のための大晩餐会、これを首都移転の合意書の調印式に持っていく。そのとき、文書にサインするのは、新しい国王だ」
「……参謀総長が黙っていないぞ」
「そこは魔法使いに頼むさ。本物のな。俺はいまから殿下を説得しに行く。おまえは緘口令を敷いて、過去から来た魔法使いが、ほんものと入れ替わったことを隠しとおせ。できるだろ、クロノス機関は、ほとんどがナジエ殿下を支持している」
「ほとんどが、だ。やるだけやってみるが、あまり期待はするな」

※九州地方にお住まいの方、またまた台風ですね。どうぞお気をつけてー(>_<) そして、昨日もまたまたギリギリな状態でのアップ。遅くまで待っていて下さった方、申し訳ありませんでしたm(__)m 次週のアップは、お待たせしないようにがんばります(-_-;)

2007年8月3日(金)
流砂の絶佳 百十三


サイレンが鳴っている。
王女ナジエの部屋は、成都の民の羨望の的でもある。
贅沢なことに、世界中の植物をあつめた温室になっていて、そこでは、植物学者の知識と、優秀な植栽職人の技量をインプットされたロボットが24時間体制で植物園を整備している。
砂漠の王国のなかでは、緑と水を自由にできるのは、富の象徴である。

サイレンを耳にしながらも、ナジエは動じることなく、ソフトライトの電灯の下、籐の椅子に腰掛けて、ゆったりと読書にはげんでいた。
政務に追われる彼女の趣味は、絵本を読むことである。
とくにお気に入りなのが、蜀の黎明期を題材にとった、幻想的な内容の絵本だった。
本のタイトルは、『民をたすけた善いうさぎ』。
成都に押し寄せてくる軍団を、魔法でもって退治して、さらには地震に見舞われた民をたすけたうさぎが、じつは、蜀でいちばんの魔法使いが化けたものだった、という、史実に基づいているという伝説つきの、心温まる話である。
悪魔がいるなら、巨大うさぎがいてもおかしくない。
いま、悪魔じみたやつらが国をおもちゃにしてしまっているのに、わたしたちがどれだけ願っても、時の翁は沈黙しているのは、なぜなのだろう。

そうして、ため息をついて顔を上げると、まさにそのタイミングを見計らったように、ぴたりとサイレンが止まった。
システムの声が、植物園内にもひびく。
『第一種警戒態勢は、解除されました。くりかえします、第一種警戒態勢は、解除されました。シェルターからの解放を許可します。民間人の方は、担当職員の指示に従って移動をしてください。くりかえします……』

「殿下、同志エウゲニー・バルエフスキーが面会を求めております」
システムではなく、生身の侍女が王女に伝えた。
ナジエはバルエフスキーを待つあいだ、自分の部屋から見下ろせる、流砂の絶佳の街をながめていた。
警戒態勢が解けたので、外出許可をもらっている市民たちが、街や公園にもどってきた。
せまいシェルターにいた反動か、それともだれかと話をしなければ心細いのか、警戒態勢が解けたあとは、人々は外にあふれだす傾向がある。
「防衛部隊はいい働きをしたようです。死傷者なし、負傷者3名。警戒態勢の発生から、解除までの時間は1時間17分23秒。まずまずの記録ですな」
あらわれて、ご機嫌伺いもせずに、状況報告をするエウゲニーであるが、これは、不要なやりとりをきらうナジエにあわせたものである。
「負傷者の見舞い行く。スケジュールの調整をするので、3名の収容された病棟と担当医をリストアップしておくように」
ナジエがいうと、そばで岩のように静かにひかえていた侍女が、ゆっくりと頭をさげて、退出した。

※仙台ではそろそろ七夕祭りがはじまります。道路が混雑する、おそるべきまつり。華やかなのですけれどねぇ(-_-;) 昨日よりはだいぶ過ごし易かったのですが、暑さも続く様子。みなさま風邪には気をつけてくださいませね(^^)/ 

2007年8月4日(土)
流砂の絶佳 百十四

レースをふんだんに使用した、古色然とした衣裳をまとった侍女を目で追いつつ、エウゲニーは言う。
「首都移転計画委員会が、悪魔の出没率が高くなっている成都を捨てるべきだというマスコミ会見をひらいてはどうかと提案してきております。
首都移転計画は、まだまだ保守層の抵抗がつよい。けれど、悪魔のことを出せば、さすがに頭の固い連中も、考えを変えるかもしれません」
しかし、エウゲニーの提案にたいするナジエの答えは、じつに簡潔なものだった。
「ばか」
「ばかですか」
「そうだ。悪魔がたくさん出てくる土地だからいらない、いらないから、少数民族のみなさんにさし上げます、などと、喧嘩を売ってるのか。委員会の中にも、差別主義がまかり通っているようだな」
「そりゃ、ご存知のとおりですが」
急になれなれしくなったエウゲニーに、ふん、と鼻を鳴らし、ナジエは背を向ける。
「委員会につたえよ。マスコミへのPRが足りないのは、わたしのマスコミ嫌いが原因なのではなく、おまえたちの工夫が足りないからだ。
このあいだ、TV-CFを見たぞ。なんだ、あれは。ほんとうに民間の代理店に発注したのだろうな。ホームビデオ並の出来ではないか」
「おっしゃるとおりで」
「首都移転計画は、なんとしても遂行しなければならぬが、しかし、それはあくまでも、悪魔を駆逐してからの話だ。
クロノス機関のほうは、どうだ。悪魔の発生の原因はつかめたのか」
「さきほど報告がありました。よいニュースがふたつ。どちらから報告したらいいですかね」
「わたしが喜ぶほうからだ」
「どっちもお喜びになるでしょう。まずひとつ。どうやらアイオーンの乙女が召喚したアトラ・ハシースによって、過去に介入しようとした悪魔は阻止することができたようです」
「ふむ」
ナジエは、エウゲニーの報告に、ちらりと、気の強そうな、すこし釣りあがり気味の目で、椅子の上に置いたままの絵本『民をたすけた善いうさぎ』を見た。
「過去世と現世の同時攻撃のうち、一方は防げたということだな。
となれば、悪魔は残る現世に対して、さらに攻撃を強めてくる可能性が高い。なお一層の警戒を要するというわけだ。気を抜くでないぞ」
「それについても朗報です。乙女の介入が確認できました。過去からのゲストと、アトラ・ハシースが入れ替わったようです」

ナジエは、はじめてエウゲニーのほうを見て、眉をしかめた。
「働き者だな、アトラ・ハシースというものは!」
「基本世界から生じたアトラ・ハシースの性質は、好戦的なのが特徴です。どうやらその例に漏れず、と申しますか、悪魔を一撃で倒しました」
「うちの突撃部隊にスカウトしたい人材だ」
「直接ご交渉なさってください。殿下、これで悪魔の問題は解決すると見てよいのではないでしょうか。
明後日の大晩餐会までに、われわれは行動を起こすべきかと存じます」

※そろそろ、おそろしい七夕まつり。しかし、なんで土日を利用して5・6・7・8の日程にしなかったのかな(?_?) おっと、ブログにも書きましたがTさまー、メール♪お待ちしております(^^)/

2007年8月5日(日)
流砂の絶佳 百十五

「おまえの言う行動の意味は」
「ご推察のとおり。クーデターです」
とたん、ナジエは目を猛禽のように鋭くして、自分の温室をねめつけた。

ナジエの温室には専用のロボットがいる。
もちろん、この国にも人間の庭師がいるのだが、繊細な植物のため、24時間体制で働けるロボットたちをあえて採用しているのだ。
ロボットたちは、せっせと水やりや、土の入れ替え、葉の剪定や消毒などを、てきぱきとこなしている。
ナジエは、自分のそばに置くロボットたちの人工知能に、植物以外の知識を与えていない。対話機能も持たせていないし、学習機能も極力抑えてある。
なぜかといえば、ナジエはロボットたちから、自分の政治的な動きが漏れることを恐れているからである。

「どうやって」
「プロフェッサー・オッペンハイマーを中心に作戦を練っているところです」
「方法も決めておらぬのか」
「俺の作戦を述べてもよろしいですかね」
「言うだけはタダだ。言ってみろ」
「アトラ・ハシースに助力を求めるのは如何でしょうか」
「ばか」
「ばかですかね」
「ばかだ。アトラ・ハシースは只人の命令なんぞ聞かぬ。あれは女神の命令のみに従い、動くもの。
おまえはクロノス機関の教育センターで、アトラ・ハシースについて、どう習った」
「世界が活動を続けるかぎり、停止することのない、呼吸する凶器。
ですがね、殿下、いまこの国にいるのは、まったく縁も所縁もないアトラ・ハシースじゃない。世界がちがうとはいえ、殿下のご先祖に惚れて、国を作ってみせた連中なんだ。
アトラ・ハシースも、殿下と会ったら、気持ちを変えるかもしれない。やるだけのことをやってみる価値はあるでしょう」
「楽天家だな。まったく相手にされなかったら」
「あきらめて、地道にクーデターを起こすしかありません」
「地道が一番だ」
「ですが、アトラ・ハシースが俺たちに力を貸してくれれば、流血沙汰が避けられる可能性が高い。なにせ大宰相・諸葛孔明のお墨付きがあるとなれば、陛下や兄上がたに付いている連中も、分が悪いとこちらに付くでしょう。
兄上方や陛下の性格からして、まわりにだれもいなくなったら、泣いて命乞いを始めるに決まっている。そうしたら殿下は、堂々と、泣いてあやまる父上の頭から王冠を取って、自分の頭に載せるだけでいい」
「そううまくいくものか?」
「うまくいかせるんですよ。アトラ・ハシースだって、一緒に戦ってくれ、と言ったら断わるだろうが、一緒に国を守ってくれと言われたら、これはなかなか断わりづらいでしょう。
この国は、連中が作った国の、『もしかしたらそうであったかもしれない』形の、たぶん理想形に近いと思いますぜ。千年近くつづいている国なんですから。
ともかく、アトラ・ハシースに会ってください。そして協力を要請するんです」


※いつもより、ちょっと早めにアップできたかな? と、思いますが、いかがでしょう(弱気)。水曜日もこの調子でいけるといいなー。さあて、明日から一週間、がんばります(^^ゞ

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