● おまけの広場 ●
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2007年7月27日(金)
流砂の絶佳 百六

騎馬兵の様子を見て、さすがの仲達もぞっとした。
というのも、只人であろうと、霊力というものは、微量ながらだれしも保有しているものなのだが、その何万といる騎兵のだれからも、霊力を感じ取ることができなかったからである。
つまりは、死者の騎馬兵なのだ。
「悪魔め、なんと恐ろしい。軍団まるごと魂を狩りだしたか!」
うめく仲達の後ろでは、馬岱が笑っている。
その耳障りな、自暴自棄の色のふくまれている笑い声に、仲達は振り向いた。
「なにを笑うか! 一大事であるぞ! そなたは、もしや錦馬超の使いで、巨大うさぎに混乱している成都は、いまが攻めどきだと、伝えに行ったのではあるまいな!」
仲達が詰め寄ると、馬岱は気まずそうに目をそらしたが、それが肯定の返事でもあった。
「いかん! このままでは成都が戦場になる! 昭列帝と錦馬超の戦いになって、未来が変わってしまう! このバカタレ! そなたは、自分がなにをしたのか、わかっているのか!」
仲達がさらに馬岱を責めると、馬岱は、仲達のほうを向いて、答えた。
「ならば言わせていただくが、われわれがここまで追いつめられたのは、時の社がわれらの声を無視し、いつまでも漢族の横暴を見過ごしていたからだ!」
「ぬ?」
「漢族は、俺たちの土地にやってきては、奴婢にするために、動物のように狩りとって、そして俺たちを家畜のように選別し、親兄弟を引き離して、自分の屋敷に閉じ込める! 
俺たちの風俗をむりやりあらためさせ、選別する場を肴に、漢族は楽しそうに宴を行う! 俺たちの悲鳴や懇願を嘲笑して楽しむ、それが漢族ではないか!」
「むむ…」
事実である。
仲達は、まだ当時の一般的な漢族とちがって、漢族以外はみな人間ではない、という思い上がりに染まっていなかった。
だから、奴婢を狩りだすための行軍に随行したこともなければ、その後の宴にも参加したことがなかったのであるが(仮病をつかって休むことたびたび)、しかし、そうしてより分けられてきた奴婢たちが、多く自分の屋敷に住んでいたことも事実である。
かれらに冷たくした記憶はないのだが、それでも、かれらの労働力を土台に権力を築いていたわけだから、責められる理由は十分のように思われた。

「す、すまぬ」
「いまさら謝っていただいても、なにも変わらぬ。若君はずうっと悩んでおられた。俺たちの叛乱が失敗したことで、漢族、とくに曹操の、涼州の羌族に対する締め付けは、どんどん苛烈なものになった。
もし世を騒がせたことが罰せられる理由なのだとしたら、俺たちを罰せればよい。無辜の民が罪をかぶることはないのだ!」
「なるほど、だからこそ、悪魔たちの誘惑に負け、反乱軍の首領となることを承諾してしまったのだな」
「漢族を滅ぼす力を与えるといわれたのだが、話がうまくいきすぎる。さすがの若君も、これは裏があると読んでいた。
しかしその裏というのが、漢族ではなく、悪魔だと知って、それはそれでよいと思われたのだ。俺たちにとっては、漢族のほうが悪魔だからな」
「悪魔に魂を売ることの意味がわかっておるのか。一時はよいことがあるかもしれぬ。しかし、悪魔というのは、関わるものすべてに破滅をもたらす。だからこそ忌み嫌われておるのだぞ!」
「それでも、ほかに頼るものがなかったのだ!」

両の目に、うっすらと涙をにじませて言う馬岱に、仲達は、すっくと立ち上がった。
その姿に、馬岱はたずねる。
「どうなさる」
「どうもこうも、止めねばならぬ。悪魔は、契約者の願いを聞き届けられなかった場合は、その契約を破棄し、白紙に戻さねばならない。
この行軍を止めることができたなら、そなたも、そなたの従兄も助かるのだ」
「し、しかし」
「しかしではない! わたしと約束せよ! 
これからわたしは、あの騎馬兵たちを止めに参る。これに成功したら、そなたは従兄を説得し、二度と謀反など考えないようにするのだ! 
腹が立つのもわかる。悲しいのもわかる。が、だからといって、武力で圧倒されたものが、ふたたび武力でこれを跳ね除けようとしたら、ますます戦禍が広がるのは道理! 
おまえたちは、いま以上に悲しい者たちを増やすつもりなのか!」
「それは…」
「本意ではあるまい。聞け。この三国の歴史は、はるか2000年先までつづくであろう。
未来において、そなたらの血族はたいへんに尊ばれ、王として人々の上に君臨することとなる」
馬岱は目をぱちくりとさせて、つぶやいた。
「そんなことが?」
「ある! その始まりは、そなたの従兄の娘が、劉左将軍の息子のもとへ嫁することろから始まるのだ! 
いま戦を仕掛ければ、その血筋は絶えるぞ!」
「………」
「よいか、約束したからな。では、わたしは行く。そなたはそこで、見ておれ!」
言うと、垂れ耳うさぎは、ふたたび飛廉の背中に乗って、天上へと飛び立った。


※今日の仙台は夏らしい一日でした。でもまだ梅雨明けじゃないんだなー。昨日の遅くにこっそりアップしましたが、小説じゃなかったことろが、なんともはや(^_^;) 八月の運営のことも考え、いまのうちに連載用のストックを貯めておこうと思っています。さ~、がんばるぞい。

2007年7月28日(土)
流砂の絶佳 百七

「いよいよここで、わたしの実力を見せねばならぬときが来たようだな」

仲達は言うと、そのつぶらな両の目を、きらりと黄金色に輝かせる。
眼下には、ひずめも高らかに、成都に一直線にすすむ騎馬兵と、人家や田畑、そして岩山と、成都の町が見える。
そしてもうひとつ。
仲達の黄金色の目は、大地のすべての状態を把握する。
眼下にはっきり見えるのは、成都を取りまく龍のうねり、すなわち活断層であった。
騎馬軍団は、その活断層に向けて、進軍をつづけている。

「今助けてやろうぞ」
と、仲達はつぶやいた。

馬岱が吐露した心情は、生前は、なんとなくわかる、程度のものであったが、アトラ・ハシースとして、さまざまな世界の危機に立ち会ったいまなら、十分に理解できる。
同じ人間でありながら、自分たちから搾取するだけ搾取する漢族が、伸び伸びと繁栄を謳歌している。
なぜだ、と思うのは当然である。
公平であるはずの神への不信が芽生えても、仕方がない。
アイオーンの乙女たちの考えが、どういうものなのか、仲達にも測りかねる部分が多い。
人がどんなに努力しても到達できないところへ、生まれながらにして到達している女神たちというものは、人間をどのように見ているのだろうか。
人間は、その気まぐれに振り回されるだけの、あわれな存在なのかもしれない。
とはいえ、だから諦めろ、と言われて、心を収められる者は少なかろう。
怒りや苦しみがとうとう昂じたかれらに、手を差し伸べてきたのが、悪魔だけだった。
神は沈黙をつづけている。
となれば、悪魔の手を取ってしまう気持ちも十分に理解できる。

馬岱の話では、アモンは、漢族を滅ぼす力を与えると、馬超に約束をしたらしい。
その力というのが、すでに魂を狩られた兵士たちの軍団なのだとしたら、あれを阻止すれば、契約は履行されなかったことになり、馬超や馬岱の魂が狩られることはなくなるし、あの軍団の魂も取り戻せる。

「巴蜀を治めし土精よ! 大地母神の眷属にして女王よ、わが声にこたえよ!」
仲達が大地にむかって呼ばわると、どこからともなく、巨大な獣の唸り声のような、不気味な地鳴りが聞こえてきた。
「晋の宣帝が命ずる、その身体を以て大地をうねらせよ、哀れなる軍団をそなたの胎にてうけとめたまえ!」

とたん、空には暗雲がたれこめ、風は生ぬるく吹きすさび、地面においては、ひっきりなしに不気味な音がひびきつづける。
大地が大きく揺れているのが、上空にいる仲達の目にもはっきりとわかった。
騎馬兵たちは、それでもなお直進をつづけていたのであるが、地響きが最高潮に達したとき、突如として大地が、爆ぜた豆のように、ぱっくりと避けた。
それはまるで、巨大な龍が、その背をあらわにしたかのようであった。

騎馬兵たちは、突如として目のまえにあらわれた地面の亀裂をまえに、あわてて馬を止めようとするのであるが、しかし馬は急に止まることができず、あわれ、つぎからつぎへと地面に落ち込んでいく。
そしてうねる龍のごとく、大地もまた、自らかれらを飲み込もうとするかのように、さらに亀裂を深めて、広がっていくのだった。


※いま書き溜めているもののうち、今日アップしようかな、と計画していたものがあったのですが、長くなったうえ、まだまだ終わりそうにないので、また別の機会にアップすることにしました。タイトルは「くっきき・オールドロケッツ・ゴー・ゴー・ゴー」。なんだそりゃですね(^_^;)でも続編まで構想ができあがっている話です。連載をつづけていくなかで、孔明がまったく出てこない回が重なってしまったらアップする分にしようと思います。ご容赦くだされー(T_T)

2007年7月29日(日)
流砂の絶佳 百八

「許せよ、これがそなたたちのためである」
飛廉の背中に乗った仲達は、亀裂につぎつぎと飲み込まれていく騎兵と馬とを見つめて、つぶやいた。
馬の悲しげないななきが、吹きすさぶ風に乗って、仲達の垂れ耳にとどいてくる。
「アモンの騎馬兵は費えた。これで歴史は変わらぬ。あとは巨大うさぎをなんとするかであるが、さあて、アイオーンの乙女を」
探さねば、とつぶやこうとしたとたん、暗雲のたれこめていた空に、まるで仲達を狙うかのように、雷が走った。
「な!」
飛廉は、さすが霊鳥だけあって、すかさず雷から逃れる。
しかし雷は、ふしぎなことに地面に落ちることなく、仲達をまるで籠めるようにして、空に留まりつづけている。
バチバチ、がらごろと不気味な音を打ち鳴らしながら、雷は巨大な見えない手のように仲達と飛廉を徐々に徐々に追いつめていく。
左右上下、どこに逃げても、小さな龍のように踊っている雷が邪魔をして、飛廉も仲達も、どこへ行くこともできない。

「これは、いったいだれの!」
自然現象ではないのは明らかである。上空に雷を走らせ、なおかつ自在にあやつり、雷の籠でもって自分たちを押し込めるなど、半端な霊力ではない。
これほど天候を自由自在にできるのは、ベテランのアトラ・ハシースでもほんの一握りである。
仲達が霊査しても、この巨大な力がどこから発生しているのかを突き止めることはできない。
「もしや、悪魔!」
空は夜のように暗くなり、仲達を取りまく雷だけが明るく光つづけている。
背筋にぞくりとしたものを覚えたとたん、仲達は、黒雲で出来た巨大な手が、雷の檻すらつきやぶって、自分たちに向かってくるのを見た。
そこで、仲達の意識は途切れた。



激しい揺れに、自分が倒れたら、周囲の人家を押しつぶしてしまうと、なんとか足を踏ん張っていた巨大うさぎの孔明。
が、しばらくすると、地面の揺れはぴたりとおさまり、見れば、成都に直進してきていた騎馬兵たちの姿はなく、そこには、もうもうと砂塵が巻き起こっているだけである。
「地震をわざと起こしたのか? となると、地属性の仲達が行ったことか?」
つぶやく視界には、激しい揺れのために崩れかけている人家や、巨大うさぎを眺めるために屋根に登っていたのが仇になって、地面に叩きつけられた人々、瓦の雨を浴びて怪我をした者たちの姿がみえた。
「ぬぬ、まずはこの者たちを救わねば。子龍、無事か?」
かたわらの趙雲にたずねると、すぐに答えが帰ってきた。
「無事だ。おどろいたな。成都に迫ってきていた騎馬隊が、みないなくなってしまったぞ」
「ただの地震ではない。おそらく仲達が力を使ったのだろう」
「あいつがこんなに大きな力を使ったところを、はじめて見たな」
「見るがいい、騎馬隊の襲撃はまぬがれたが、地震による被害も甚大だ。
両刃の剣のような力だから、いつもは使わないでいたのだ」
「なるほど、すこしあいつを見る目が変わってくるな。で、どうする」
「うむ、ともかくは成都の民を助けねばならぬ。ちょうどわたしを捕縛するために兵卒たちが動員されている。
あなたは、この世界の翊軍将軍になりきって、兵たちを束ねて民を助けよ。わたしも救援活動にはげむ」
「歴史が変わるな」
「そも、これだけの地震が起こることも、本来ならなかったことだ。
こうなれば、とことん思うようにやるしかあるまい。さあ、民が助けを待っているよ。動こう」

※雨で投票率はどうなったかなー(仙台は午後から雨になりました)。投票はちゃんと行ってきました♪夜からの選挙番組が楽しみだな~(^^♪ いやーお祭りだと思ってチェックすると、選挙もけっこう楽しいもんです。

2007年7月30日(月)
流砂の絶佳 百九

成都を襲った大地震は、しかし、巨大うさぎによる救出作業が早かったこともあり(なにせ、瓦礫に埋まっている者を救出するため、孔明は瓦礫そのものを風で吹き飛ばし、人を取り出すという離れ業を、何度もやってのけた)、井戸が枯れた地域があれば、これまた霊力によって、成都を治める水精にたのんで水を取り戻し、その逆の場合は水を引っ込めてもらった。
地震におそれて逃げようとする兵卒をまとめた趙雲が、素早く孔明のサポートにまわったことも功をなし、夕闇が迫るころには、成都の民のほとんどは助け出され、おどろいたことに、死者のひとりも出さずに住んだ。

一方で、成都のはずれにある川から、奇妙な報告が飛んできた。
地震によって、谷の裂け目が滝のようになり、そこから、次から次へと、武装した異民族の兵士たちや馬が吐き出されているという。
みな命に別状はなく、馬超と馬岱が中心となって、これを助けあげているのだが、助け出されるとおとなしく武器を渡し、あやしい素振りを見せるふうでもないらしい。
馬岱は、なぜかしきりに
「うさぎ様の奇跡」
と口にしているようだが、仔細は不明である。


「やれやれ」
と、疲れて、ふたたび最初の市場に座り込んだ巨大うさぎの孔明。
その周囲には、この大混乱のなかでも、民が持ち寄った、ありったけの食糧が積まれている。
魏延が劉備に、あれは神の使いらしい、と伝えたことが、早くも民に伝わって、地震の被害から助かった民が、孔明に供物をささげに来たのだった。

「おお、バナナ。いまでこそありふれた果物であるが、この時代の成都にあったのだな。ちょっとつまんでみよう」
などといって、大きなバナナをむしゃむしゃやっているところへ、趙雲がもどってきた。
「子龍、バナナがうまうまだ」
得意そうに、バナナを食して言ううさぎに、趙雲は疲れ果てて、そいつはよかったな、と答えた。
「霊力が切れかかっているな。いま分けるよ」
「バナナを食べてからでよい。とりあえずだが避難所もつくって、水や食糧も兵の備蓄分をまわすことで決まった」
「素早い対応に感謝する。おお、見よ、夕陽の美しいこと。まるで太陽が空のルビーのようだ」

などと言っているところへ、大路を、仰仰しい一行が、しゃなりしゃなりとやってくるのが、孔明の視界に入ってきた。
見れば、正装して畏まっている劉備たち一行で、かたわらには法正のほか、なんと、漢中より駆けつけてきたらしい龐統までもがいるのだった。
かれらを守って随行しているのが、魏延である。
「主公! そして士元に尚書令! なつかしい顔ぶれではないか!」
目をぱっちり開いて喜ぶうさぎ。

劉備たち一行は、この地震のあと、魏延からの知らせで、うさぎが妖怪ではないと受けたのであるが、それなら早くご挨拶に、と法正が進言するのを、ちょうど到着した龐統が、うさぎを見よ、民を助けるのに奔走している、われらもおなじく、いまは被害にあった民を助けるべし、と進言。
劉備はこちらを採択した。

龐統がなぜタイミングよくあらわれたかというと、法正より、馬超の動きがおかしいと報せをうけて、まずは様子をさぐるのと、釘を刺すのと両方をするために、漢中は馬良にまかせて、成都にやって来たのだった。

そうしてみなして、巨大うさぎに負けてはならぬとばかり、一日動きまわり、やっとひと段落ついたので、神の使いのもとへ、着替えてみんなしてやって来た、というわけである。
「おお、本来なら、われらもこうあるべきだったのだ」
と、うさぎはバナナ片手に目をうるませた。


※最近は、あちこちのサイトさんに移動があるようですね。サーチなどを見ていると、もうサイト自体がなくなっている、ということがけっこうあるみたいです。明後日から仕事開始ですが、今回は短期ではなく長期勤務。なるべく身体に負担がかからないものを選んだつもりですが、さて、HPとどれだけ両立できるかな。できるかぎりがんばります!(^^)!

2007年7月31日(火)
流砂の絶佳 百十

まずは劉備が、うしろに金銀の宝物を持った侍童とともに、まえに進み出て、おそらく劉巴が書いたものであろう謝罪文を読み上げた(劉巴の文章の格調の高さは、かねてより定評が高いものであった)。
孔明はというと、謝罪文をBGMに、ほとんどが戦死せず、仲よく居並んでいる人々をながめて、うっとりしている。
とくに、成都の街には、実際に足を踏み入れることがなかった龐統が、この場にいる、ということが、孔明にはすばらしいことに思われた。
そうそう、よろしくと、基本世界の龐統から伝言をたのまれていたのだっけ、と思い出し、劉備の謝罪文の詠唱がおわると、孔明は、さっそく、一行に対して、ことばを返そうとした。

「今日の良き日に、こうしてみなさまとご再会できましたことは、喜び以外のないごとでもなく~」

が、なにかおかしい。
口は動くのである。が、声にならないのだ。
思ったことは、もしや、かつて解いてもらった呪詛が、なにかのはずみで復活し、またもや無力なうさぎに戻ってしまったのでは、ということだった。
どうしようと、となりにいる趙雲を見れば、これまたおどろいたことに、半透明になっている。
そう見えるのは、孔明にだけではないようで、趙雲が半透明の姿をしていることに、劉備以下、ほかの家臣たちも動揺しているようである。

「これはいったい、なぜだ? もしや悪魔が残っていて、われらに攻撃を仕掛けているのか?」
と、ちかくに大きな霊力の存在がないかを探る孔明であるが、まったくそういった気配もなく、静かなものである。
そして、おのれの体を見下ろせば、やはり趙雲とおなじように、半透明になってしまっているのだった。
うろたえる孔明の両の耳に、ごうごうと風の渦巻く音が聞こえる。
いや、風の音などではない。
このすりこぎの中にとじこめられてしまったような轟音には、聞き覚えがあった。
アイオーンの乙女が、時を操作している音である。

「ええ、ちょっと! せっかく主公や士元とゆっくり話ができそうなのに、どういうことだ! ちょっと待てー!」
抗議も虚しく、孔明の意識は混濁する……



突如としてうさぎの姿が消えたと思ったら、そこにいたのは、諸葛孔明であった。
半透明だった趙雲も、元にもどっている。
ふたりとも、ぼう然として、自分たちを取り囲んでいる仲間を見まわす。
「おお、孔明! おまえが巨大うさぎに化けておったのか! なんかちょっと常人ばなれしているやつと、前々から思っていたが、まさかここまでとは!」
劉備のうしろでは、龐統と法正が、
「負けたよ」
と、なぜだか照れたように笑っている。
孔明としてはわけがわからなかったが、いつのまにか、なにかに勝ったようだ。
顔を、ぱあっと輝かせて近づいてくる劉備に腕を取られても、孔明は、わけがわらかない。
いつ、元の世界に戻ってきたのだ? 自分たちは、あの奇妙な『未来』にいたはずなのに。

「いやー、いやー、たいしたもんだ! へ? 誤解があるんじゃないかって? ないない。もう、俺は感激したぜ、おまえら、サイコー! 
疲れただろ、ささ、こっちこい。今日はささやかながら、民も交えて宴をしようぜ! 無礼講だー!」
おおはしゃぎする劉備に、騒ぐのが好きな者、見物に来ていた民も大喜びしている。
孔明も趙雲も顔を見合わせたが、事情がさっぱりわからない。
とはいえ、無理に誤解を解こうとせず、この場に合わせておいたほうがいい、というのは、なんとなく理解した。

ふと、孔明は、自分が手にしている本を見た。
どうやら、未来から、一緒に持ってきてしまったようだった。
絵本のタイトルは、『蜀をたすけた、まほうつかい』だったはずだが……いつのまにか、変わっている。
『民をたすけた善いうさぎ』
最後のページは、
『みんなで宴をして、歌ったりおどったりしてたのしくすごしました。
そのご、蜀は平和になりました』
で、終わっていた。

そして、この時代の史書もまた、おなじような言葉で締めくくられることになる。

※明日はアップの日、そして初出勤の日です。初出勤はほんとうにドキドキしますね。どういう職場かな~。長くつとめられますように、イヤ、ホント。明日は帰ってきたらアップになると思います~。

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