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騎馬兵の様子を見て、さすがの仲達もぞっとした。
というのも、只人であろうと、霊力というものは、微量ながらだれしも保有しているものなのだが、その何万といる騎兵のだれからも、霊力を感じ取ることができなかったからである。
つまりは、死者の騎馬兵なのだ。
「悪魔め、なんと恐ろしい。軍団まるごと魂を狩りだしたか!」
うめく仲達の後ろでは、馬岱が笑っている。
その耳障りな、自暴自棄の色のふくまれている笑い声に、仲達は振り向いた。
「なにを笑うか! 一大事であるぞ! そなたは、もしや錦馬超の使いで、巨大うさぎに混乱している成都は、いまが攻めどきだと、伝えに行ったのではあるまいな!」
仲達が詰め寄ると、馬岱は気まずそうに目をそらしたが、それが肯定の返事でもあった。
「いかん! このままでは成都が戦場になる! 昭列帝と錦馬超の戦いになって、未来が変わってしまう! このバカタレ! そなたは、自分がなにをしたのか、わかっているのか!」
仲達がさらに馬岱を責めると、馬岱は、仲達のほうを向いて、答えた。
「ならば言わせていただくが、われわれがここまで追いつめられたのは、時の社がわれらの声を無視し、いつまでも漢族の横暴を見過ごしていたからだ!」
「ぬ?」
「漢族は、俺たちの土地にやってきては、奴婢にするために、動物のように狩りとって、そして俺たちを家畜のように選別し、親兄弟を引き離して、自分の屋敷に閉じ込める!
俺たちの風俗をむりやりあらためさせ、選別する場を肴に、漢族は楽しそうに宴を行う! 俺たちの悲鳴や懇願を嘲笑して楽しむ、それが漢族ではないか!」
「むむ…」
事実である。
仲達は、まだ当時の一般的な漢族とちがって、漢族以外はみな人間ではない、という思い上がりに染まっていなかった。
だから、奴婢を狩りだすための行軍に随行したこともなければ、その後の宴にも参加したことがなかったのであるが(仮病をつかって休むことたびたび)、しかし、そうしてより分けられてきた奴婢たちが、多く自分の屋敷に住んでいたことも事実である。
かれらに冷たくした記憶はないのだが、それでも、かれらの労働力を土台に権力を築いていたわけだから、責められる理由は十分のように思われた。
「す、すまぬ」
「いまさら謝っていただいても、なにも変わらぬ。若君はずうっと悩んでおられた。俺たちの叛乱が失敗したことで、漢族、とくに曹操の、涼州の羌族に対する締め付けは、どんどん苛烈なものになった。
もし世を騒がせたことが罰せられる理由なのだとしたら、俺たちを罰せればよい。無辜の民が罪をかぶることはないのだ!」
「なるほど、だからこそ、悪魔たちの誘惑に負け、反乱軍の首領となることを承諾してしまったのだな」
「漢族を滅ぼす力を与えるといわれたのだが、話がうまくいきすぎる。さすがの若君も、これは裏があると読んでいた。
しかしその裏というのが、漢族ではなく、悪魔だと知って、それはそれでよいと思われたのだ。俺たちにとっては、漢族のほうが悪魔だからな」
「悪魔に魂を売ることの意味がわかっておるのか。一時はよいことがあるかもしれぬ。しかし、悪魔というのは、関わるものすべてに破滅をもたらす。だからこそ忌み嫌われておるのだぞ!」
「それでも、ほかに頼るものがなかったのだ!」
両の目に、うっすらと涙をにじませて言う馬岱に、仲達は、すっくと立ち上がった。
その姿に、馬岱はたずねる。
「どうなさる」
「どうもこうも、止めねばならぬ。悪魔は、契約者の願いを聞き届けられなかった場合は、その契約を破棄し、白紙に戻さねばならない。
この行軍を止めることができたなら、そなたも、そなたの従兄も助かるのだ」
「し、しかし」
「しかしではない! わたしと約束せよ!
これからわたしは、あの騎馬兵たちを止めに参る。これに成功したら、そなたは従兄を説得し、二度と謀反など考えないようにするのだ!
腹が立つのもわかる。悲しいのもわかる。が、だからといって、武力で圧倒されたものが、ふたたび武力でこれを跳ね除けようとしたら、ますます戦禍が広がるのは道理!
おまえたちは、いま以上に悲しい者たちを増やすつもりなのか!」
「それは…」
「本意ではあるまい。聞け。この三国の歴史は、はるか2000年先までつづくであろう。
未来において、そなたらの血族はたいへんに尊ばれ、王として人々の上に君臨することとなる」
馬岱は目をぱちくりとさせて、つぶやいた。
「そんなことが?」
「ある! その始まりは、そなたの従兄の娘が、劉左将軍の息子のもとへ嫁することろから始まるのだ!
いま戦を仕掛ければ、その血筋は絶えるぞ!」
「………」
「よいか、約束したからな。では、わたしは行く。そなたはそこで、見ておれ!」
言うと、垂れ耳うさぎは、ふたたび飛廉の背中に乗って、天上へと飛び立った。
※今日の仙台は夏らしい一日でした。でもまだ梅雨明けじゃないんだなー。昨日の遅くにこっそりアップしましたが、小説じゃなかったことろが、なんともはや(^_^;) 八月の運営のことも考え、いまのうちに連載用のストックを貯めておこうと思っています。さ~、がんばるぞい。
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