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鉾を手に、兎怪を討ち取ろうと意気込む魏延。
しかし、その顔を見る趙雲、そしてもなか、こと孔明の心中は複雑であった。
両足をぐっと大地に踏みしめて、巨大うさぎをねめつける魏延であったが、両者の、自分を見る独特のまなざしに、うろたえる。
「な、なんだ? やめろ、兎怪め! 俺を生ぬるい目で見るな! 趙子龍、貴様まで!」
「おまえは漢中太守ではなかったのだっけ?」
趙雲がいうと、魏延は顔を真っ赤にしつつ、怒鳴るようにして答えた。
「なんだ、嫌味か? 俺がそのような高位にあるわけなかろうが!
俺は主公より成都の治安をお預かりしている身だぞ。なにゆえ漢中にいなくてはならんのだ! 自分だって、翊軍将軍。俺と変わらぬ身のくせして、まったく」
ぶちぶち言う魏延をまえに、そうだったのか、とつぶやく趙雲に、孔明が説明した。
「三国鼎立が平和目的で、じつに穏便におこなわれたので、三国はそれぞれ、わたしたちの世界ほどに、他国の侵略を恐れなくてよくなったのだよ。
だから、主公も魏文長のような、野戦においてもっとも能力を発揮できる、好戦的な人物を漢中太守に抜擢しなかった」
ちなみに、孔明がしゃべっているのはアトラ・ハシースの言葉で、魏延らにはわからない。
「では、いま漢中には、だれがいるのだ」
「馬良と龐統」
思わず、趙雲は、孔明を振り仰いだ。
「なんと、龐士元は、この世界では生きているのか!」
「面白いといったら、本人に叱られてしまうが、わたしたちの世界においては、蜀の攻略のさなかに戦死してしまったが、この世界においては、蜀の桟道で事故にあったものの、命にまったく別状はなく、そのままふつうに入蜀したことになっている」
「すると、文官の一の席は、おまえや法正ではなくて、龐統ということか」
「そこがまたちがうのだな。あくまで文官のトップは法正だ。そのあたりが龐統のうまいところというか、気遣い上手なところで、この世界では、あくまで入蜀は侵略ではないから、荊州と益州をうまく合併させてひとつにまとめた人間が、功績がもっともあるとされているのだ。
益州人士をまとめて主公に仕えるよう説得した法正と、それを助けた龐統が、その功績がもっともあり、一方で、もともとの主公の家臣や荊州人士をまとめたわたしは、その次、という順番だ」
「ふうむ、となると、このままいけば、おまえは、この世界では丞相の位には昇らないのではないか」
「そこはそれ、紆余曲折を経て、なんだかんだと丞相になる予定だが、どうも雲行きが怪しくなってきたな。そもそも、この世界の、ほんもののわたしはいなくなってしまったし、その代わりを勤めるわたしが、このありさまだしな」
と、うさぎはぼやくのであるが、ふと、ぱし、と両の手を打った。
「いかん、すっかり忘れていた。この世界に派遣されることを士元から、自分に対して『よろしく』と伝えて欲しいと言われていたのだ。仲達に手紙を書いている場合ではなかったな」
「あとで伝えろ、あとで」
「趙子龍! きさま、もしや、その兎怪と通じておるのか!」
と、二人の会話を遮ったのは、魏延である。
見たこともない巨大うさぎをまえに、恐怖とけんめいに戦って、武器をかまえている魏延からすれば、目のまえの趙雲は、まったく緊迫感もなく、うさぎに寄り添うようにして、なにやらぶつぶつ言っている(ように、魏延には見える)のだから、いらだつのも無理はない。
「兎怪、兎怪と。こいつには、ちゃんと名前がある。『もなか』だ。『もなか』と呼んでやれ」
「も? は?」
「も・な・か」
「もなか?」
ぽかんとする魏延であるが、趙雲はまったく無頓着に、そうだ、こうしよう、などと一人合点して、それから言った。
「どちらにしろ、おまえにこいつは倒せない。
ついでですまぬが、ひと走り宮城へいって、主公に、このうさぎには、まったく害意がないことを伝えてくれぬか」
「なんだと?」
※ようやく復活。これから徐々に元に戻していければと思います。状況次第なところもあって、確かな予定をお知らせできないところもあるのですが、精一杯やりますので、どうぞお付き合いいただけたらと思いますm(__)m
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