● おまけの広場 ●
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2007年7月1日(日)
流砂の絶佳 九十一

だれだ、格好つけやがって、というのが、錦鯉が最初に思ったことである。
顔を上げれば、そこには三人の男が立っている。
が、その先頭に立つ、槍を手にした男の姿を見て、錦鯉は、思わず、げげ、と呻いた。
男の手にしている槍が、光龍の電光を帯びている霊具である、ということも、呻いた理由であるが、それよりも、男がアストラルである、ということが、その高い霊力の気配で、すぐに察知できたからである。
アモンさまを追って、アイオーンの乙女らが派遣してきた、外界の攻撃型アトラ・ハシース。
そのアトラ・ハシースのアストラルらしい。
アストラルの背後には、二人の男…年寄りと青年…がいるのだが、これは只人であるようだ。

それはともかく、このアストラル、相当に場慣れしているやつだな、と錦鯉は判断し、すぐさま、娘の腕を掴んだまま、攻撃をくりだされる前に、水の上から空中に跳ね上がるようにして、大きく飛び上がる。
家々の軒先を眼下におさめ、それから娘の腕をつかんだまま、近場の家の屋根に降り立つ。
娘は、腕が抜けるといって泣いたが、悪魔なので、そこはまったく気遣わない。

「逃げても無駄だぞ」
と、アストラルが追いかけてきた。
錦鯉は、黙って、泣き喚く娘の腕を、さらに引っ張ると、自分のまえに、盾のようにして、アストラルに向ける。
アストラルの背後では、さきほどの二人が、屋根のへりに掴まって、なんとか屋根をのぼろうとしているところであった。
アストラルは、中国人のようだ。基本世界から派生したアストラルらしく、この比較的平和な世界のアストラルには稀な、すさまじい殺気を放っている。
錦鯉は、こいつとまともにやりあったら、まず負けるのはこちらだな、と計算した。
さて、どうする。

「人質をとったつもりか。おまえは逃げられぬ。この槍の餌食となるか、それとも、大人しく捕縛されるか、どちからを選べ」
アストラルの提示する選択肢に、すなおに乗る悪魔なんぞおるまい。
ふざけやがって、と思いながら、錦鯉は、ふと、ひらめいた。
そうだ、さっきのアモンさまの宝。
これをこいつにぶつけたら、どうなるだろう。
「答えぬか。では、こちらから参る!」
と、アストラルが、槍をかまえてまっすぐと錦鯉に向かってくる。
その身のこなしは、風のように速い。

いや、速すぎた。

気づけば、娘の腕をつかんでいた錦鯉の腕は、槍の穂先によって斬られてしまい、アストラルは、見事に無駄のない動きでもって、自由になった娘を突き飛ばすようにして、やっと屋根にのぼってきた仲間に引き渡す。
片腕をとられた痛みをおぼえている間もない。
すぐさま槍をかまえてふたたび攻撃してくるアストラルに、錦鯉はなんとかそれをかわすことしかできない。
くそっ、こうなれば、宝を、と懐から、宝を取り出す。
それは、アモンからもらった、棘のような骨が大量に突出している、奇妙な古い骨であった。
巨人の骨だ、ということだが、さあて、本物かどうか、いまこそ確かめられるではないか。

そしてふたたび向き合った錦鯉とアストラルであるが、そのとき、ばっさばっさと、上空から、大きな羽音をさせたものが近づいてくる。
それはひろげた翼をふくめて10メートルはあろうかという大きな鳥で、黄金の羽毛を夜空に気高くなびかせながら、アストラルのところへやってくる。
新手か、と舌打ちした錦鯉であるが、鳥の背中から、なぜだかうさぎが顔をだし、悲しげな声をあげて、言った。
「おおい、大変ぞー! 諸葛亮が、またもや、呪詛にかかって、うさぎになってしまったぞい! 
しかもアモンの『ザ・レッドシューズ』の呪いをかけられて、ずーっと踊り狂っておるのだー!」


※さてはてほいさっさ(謎の呪文)。妙に落ち着かない一日でした(-_-;) テンションを上げねば! 頑張れ、自分! と、励ましてみたり。はやく嵐よ過ぎてくれい…

2007年7月2日(月)
流砂の絶佳 九十二

「なんだと!」
アストラルの目線が上空に向く。
しめた、と錦鯉が思ったとき、さらに上から声がひびいた。
「洒落にならん、いまはズールー族の戦士の踊りをおどっておる! ああ、危ない! 落ちるぞ!」
わんばば、わんばば、と妙な掛け声が上から聞こえてくるが、錦鯉としては、かまっておられない。
アストラルの気が逸れているいまがチャンス、とばかりに、巨人の骨をアストラルめがけて投げつけた。
と、同時に、また声がひびく。
「ああっ、落ちたー! 言わんこっちゃないー!」
「受け止めてくれ、子龍ー! けちゃけちゃけちゃけちゃ!」
「今度はケチャダンス!」

空中でも踊りを忘れない、ダンサー魂のたくましい、パンダ模様のうさぎが、空から落ちてくる。
激しく手足をばたつかせながら落下する、あやしいうさぎ。
長い耳をさかさにして落ちてきたわけであるが、ちょうどその背中に、錦鯉の放り投げた巨人の骨がぶつかった。
そのまま屋根に落ちるところを、趙雲が動体視力のよいところを見せて、抱きとめる。

が、背中にぶつかった骨を、その突起の尖端が刺さったことから、手裏剣が刺さったものと勘ちがいをおこした孔明は、ぎゃあ、と尾っぽを踏みつけられた猫のような悲鳴をあげた。
「背中に手裏剣! さもなくばハリセンボンが!」
わめく孔明に、その背中の骨をあっさり取り上げて、趙雲は言った。
「落ち着け、ただの骨だ。めずらしい形の骨であるが」
と、ちらりと趙雲は、錦鯉のほうを見るが、錦鯉は、この隙に、とばかりに、背中を向けて、逃げる最中であった。
「武器にしても半端だな。なにかの呪具ではあるまいか」
「冷静に解説してくれるが、オロナインおねがいしますー うう、逆さに落ちたから気持ちが悪い」
「なんとも懐かしい姿になったな…大丈夫か、もなか」
「あー、うさぎになったら、孔明ではなく、名前ももなかに変わるわけか。って感心している場合では、カイマナヒーラー♪ つ、つかれる…」
「今度はハワイアンか…」

忠実な使い魔・飛廉は、仲達をその背に乗せたまま、ばさばさと大きな翼を動かして、逃げる化け錦鯉を追っていく。
錦鯉が逃げたのは、孔明にぶつけた巨人の骨の効力が、まったくあらわれなかったからであった。
『くそっ、アモンのやつ、俺にパチモンをつかませやがって!』
背後にせまる飛廉の気配に、けんめいに走る化け錦鯉。

飛廉の背中にある仲達は、錦鯉の走るすがたを眼下におさめつつ、叫んだ。
「晋の宣帝が申し上げる、巴蜀をおさめし后土神よ、尊体をけがす魔のものどもを捕らえたまえ!」
とたん、その声に応じるようにして、もこもこと、錦鯉の走る地面が盛り上がる。
もぐらか、と錦鯉が足をとめた瞬間、地中より巨大な土の手があらわれて、錦鯉を掴みあげた。
その手の神通力はすさまじく、掴みあげられただけだというのに、錦鯉は、あっというまに、人の姿から、正体をあらわして、もとの錦鯉にもどってしまった。
「おお、お流石にございます! 礼を申し上げますぞ!」
仲達が飛廉の背のうえで手を振ると、后土神の手は、気にするな、というふうに器用に小指と薬指だけで、錦鯉を掴みあげ、仲達にはOKマークをつくってみせた。


※ブログにも書きましたが、昨日は遅くなりましてもうしわけありませんでした(>_<) ごたごたが起こっても動揺しないようにしっかりしないとなと反省した雨の日でありました(^_^;)

2007年7月3日(火)
流砂の絶佳 九十三
「背中に穴が開いておらぬか、なにか妙にむずむずするのだ」
と、抱えられながらも、小さい手を背中にまわそうとする孔明だが、そのあいだにも、足は絶え間なくステップを刻みつづけている。
西域の村から成都にもどるまでも踊り続けていたから、霊力のほとんどは使い果たしてしまった状態だ。
夜目にも目立つ赤い靴。
そして、いま、孔明は、タップダンスを踊っている。

その孔明を、とりあえず地上に戻したあと、趙雲は、人質となっていた少女の記憶をスプレーで消去して、ふたたび孔明らのもとに戻ってきた。
はたから見れば、お茶目に見えるうさぎのタップダンスであるが、孔明としては、たまったものではない。
文偉がのん気に、
「かわいいなあ」
といいながら覗き込んできたので、かつかつとリズミカルに地面を靴で叩きながら、文偉のあごにタイミングをあわせて、ごつんとパンチを送った。
「ふぐ!」
少女を大通りに帰してやった趙雲が、顎をおさえている文偉に言う。
「そのうさぎをからかうな。しかしまた、やっかいな呪詛をかけられたものだな。こうなれば、アイオーンの乙女に呪詛解除を頼むしかないが」
「アイオーンの乙女たちは、われらが女神たちとちがって、簡単には姿をあらわさぬ。
今回の仕事も、メールだけのやりとりで、派遣がきまったものなのだぞ。こちらのピンチを知っても、あらわれてくれるかどうか ♪マイアヒー」
「なんだか進化してきているな」
「踊ることにすべてが吸い取られて、霊力を貯める余裕すらない状態だ! このままでは、霊力切れで活動停止になってしまう!」

めずらしく悲鳴をあげる孔明であるが、上空から、飛廉が、背中に仲達を乗せて戻ってきた。
「化け錦鯉は退治したぞ。いやはや、ここまで無事に戻ってこられたのが奇跡ぞ。なにせ、こやつときたら、突然にバレエを踊りだしてのう。飛廉の背中で、グラン・ジュ・テをしようとしたときは、さすがにどうしようかと思ったぞ」
一方の飛廉は、背中に踊り続けるうさぎを乗せたはいいもの、絶えず落ちないように気をつかわねばならず、さらには孔明がバタバタと暴れて、背中を痛めつけるので、すっかり疲れている様子だ。
「仲……いや、くっきー、おまえにアイオーンの乙女への連絡役をつとめてもらうしかなさそうだな」
趙雲はいうが、仲達の顔も、また渋いものとなる。
「連絡役になるのはかまわぬが、相手がどこにいるかわからぬ、というところが困ったのう。
そもそも、アイオーンの乙女に、呪詛解除の力があるのかどうか」
「すくなくとも、俺たちよりは、力があるはずだ……おや?」

趙雲が、踊り続けるうさぎの変化に気づく。
その踊りが、なつかしのブレイクダンスに変わった、というものではなく……小さな体が、なんだかさきほどより大きくなっているような?


※なんだか微妙なことになっておりますが、明日のアップは通常通り予定しています。が、ちょっと明日以降どうなるか、まだわからない、という状況。なんか妙にドキドキしてます。また詳細は明日ご連絡します(-_-;)
2007年7月4日(水)
流砂の絶佳 九十四

「あれ? おや? 目線がどんどん上に! もしやこれは、呪詛が解除されたのか?」
と喜ぶ孔明であるが、そのわりに、視界に入ってくる自分の身体は、毛につつまれたままである。
目線が、趙雲と一瞬だけ同じ高さになり、目が合ったが、さらにどんどん自分の視界が高くなり、やがては、からだの一部が周囲の建物の軒に引っかかったことで、孔明は、自分がどういう状態に陥ったか、気がついた。
飛廉が、主の変化におどろいて、仲達を背にのせたまま、さらに上空へ飛び上がる。
趙雲はというと、唖然と孔明をみあげる黄忠と文偉をかばい、安全な場所へと移動させた。

めきめき、ばきばき、という音が、身体を中心としたあちこちから聞こえてくる。
と、同時に、家の一部を破壊された住人が、すっかり寝ていたものを目が覚めて、中で騒いでいる声も聞こえてきた。

「は? なにがおこっているのだ?」
うろたえる孔明であるが、いつのまにか、自分が踊っていないことに気がついた。
それもそのはず、体が巨大化する一方、赤い靴はその変化についていくことができず、途中で壊れてしまったのである。
「おお、さすがぞ、諸葛亮。巨大化することで靴を脱いだのだな!」
と、飛廉の背中で、仲達が感嘆の声をあげる。
が、孔明としては、たまったものではない。
「知らぬ、勝手に体が大きくなっているのだ! 仲達、止める方法を知らぬか!」
それを聞いて、垂れ耳うさぎは、耳を震わせて、声を裏返しにした。
「なんと、一大事ではないか!」
「一大事だー! ええい、このままでは、家が邪魔で身動きができなくなる。広い場所へ移動するぞ!」

むしろ真夜中であったことが幸いだった。
往来にほとんど人がいないため、孔明はなるべく建物を壊したり、揺らしたりしないように、爪先立ちで、気を使いながら、そおっと、一歩一歩、大通りに向かって進む。
そうしているうちに、巨大化もおさまり、ちょうど孔明は、地上から10メートルくらいの大きさになった。

「ゴジラの五分の一くらいだな、諸葛亮」
「もしかしたら火も吹けるかも。と、余裕の冗談を飛ばしている場合ではない! 仲達、空から、わたしが生きものを踏まないように誘導してくれい」
「よしきた!」

息のあったところを見せて、協力して大通りにやってきた孔明と仲達であるが、大通りのほうでは、すでにパニックが起こっていた。
それを誘導しているのは、趙雲と黄忠、そして文偉である。

突如としてあらわれた、巨大うさぎの姿に逃げ惑う人たちを見て、孔明は情けなくなって嘆息した。
「ああ、この国の者たちが恐怖に怯えている原因が、ほかならぬこのわたしとは。なんと因果なことであろう」


※ブログのほうに詳細を書きましたが、ろくでもない事情のため、しばらく家を留守します(といっても四日間)。日曜日までニッキの連載もお休みとなりますのでご了承くださいm(__)m日曜日更新がまったくなされていなかったら、月曜日にはさすがになんとかなっていると思うので、そちらをご覧いただけたらと思います(-_-;)

2007年7月12日(木)
流砂の絶佳 九十五

突如、成都きっての繁華街である長星橋にあらわれた巨大うさぎに、つぎつぎと警邏の兵が、屯所に飛び込んでくる。
「宮城の楼閣よりも大きなうさぎ」
の出現、という報に、最初はだれも取り合わなかった。
なにせ、出現場所がわるい。成都の東の玄関たる長星橋である。
警邏の兵が、見回り、と称し、たまにそこで暇をつぶしているのは、周知の事実であった。
であるから、最初に、この首都の危機をしらせた警邏の若者は、とても悔しい思いをすることになってしまった。

上役は、せせら笑って言う。
「酔って、くだらぬものを、巨大なうさぎとやらと勘ちがいしたのであろう。さっさと裏へまわって、頭から水でもかぶって目をさませ」
ほかに屯所に詰めていた者は、ちがいない、と笑うわけであるが、その笑顔も、長くはつづかなかった。
警邏の若者のあとから、第二報、第三報をもって、つぎからつぎへと、『巨大うさぎ』の報告が飛び込んできたからである。
「なんだ、なんだ、なにがどうした!」
わけがわからず飛び出した屯所の兵卒たちは、遠方に見える、理解し難いものに、一様にことばを失った。
巨大なうさぎ……すでに『兎怪』なる名称が定着しつつあった……が、ときおり、その長い両の耳をぴくぴくと動かしながら、成都の町並みの向こう、ちょうど小南門から江橋につづく大通りを、ゆっくり移動しているのだ。
そして、東の空から、しらじらと空を明け染めてのぼりはじめた太陽が、その巨大な影の輪郭をくっきりと浮かび上がらせていた。
人家の波の上に影を落とし、巨大なうさぎは、ゆっくりと宮城へ向かっているようである。

無不達、というものがいたと、ふるい伝説はいう。
中原から見て西南の地にある巨人で、身の丈は一丈、腹回りは九尺の巨人である。
この巨人、農業の祖とあがめられる神農に似た性質をもっており、たいへんに動植物についての知識がくわしく、どんな植物の味や効能も知り尽くしており、さらには、どんな動物とも話をすることができた。
しかも気前がよいことに、
「知恵を授けてください」
と頭を下げると、親切に、請われるまま、持っている知恵を人間に与えたという。

「ほんとうにいたんだなあ」
と、だれかがぽつりとつぶやいた。
成都の街は、うさぎの足取りが出す、どすん、どすん、という音と振動のために、いつもより早い目覚めをむかえつつあった。

「ほーい、諸葛亮よ、このままでは成都中が大パニックに陥ってしまうぞ」
飛廉の背中にのったまま、移動する孔明にしたがっている仲達が呼びかける。
「わかっておるわい。だからこそ、宮城に向かっておるのだ。
あそこの大広場であったなら、わたしがいても、周囲の迷惑にならない広さがある」
「郊外にゆけばよかろうに」
「郊外は……ああ、そうか、そうだな。どうして街中に進んでしまったのだろう。どうも混乱していたようだ。いまから方向転換をしよう……って、イテ!」
後頭部に、ぱち、ぱち、と輪ゴムで弾かれたほどの痛みが走り、孔明は振り返った。
見れば、弓をたがえた兵卒たちが、けんめいに孔明にむかって攻撃を仕掛けているのだった。
「あー、ほんとうに泣きたくなってきたな」

※九十四回目に『なんとかなっていると思う』と書いているのが、なにやら虚しい。でーもでも、とりあえず右往左往しても始まらないので、無事に家に帰れたことですし、以前のペースを取り戻そうと思います。明日のアップ予定は、ちと連続になってしまいますが、燭龍と椒聊の予定です。お時間ある方は、是非遊びにいらしてくださいませ(^^ゞ

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