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「おとなしく降伏せよ、アモン! でもってわれらを『下宿先』へ帰せ!」
「帰りたけりゃ、勝手に帰ればいいでしょ! ちっとも引き止めてないわよ、はいはい、おつかれさま!」
そんなやりとりをしているあいだにも、村人たちは、こりゃたまらん、とばかりに、広場から一斉に逃げていく。
そしてあれだけ人が群がっていた羊皮紙には、ひっかき傷のような線ばかりが書かれている。
村の一部の裕福で読み書きをおぼえる余裕のある家はのぞき、みな、自分の名前を書けなかったのである。
「あっ、これじゃいくらなんでも、牧場に連れて行けないわ!
チィイ! 岩壁に追い詰められた二時間ドラマの犯人みたいに、ぺらぺらとしゃべりすぎたのも敗因かしら!
けれど、どうして岩壁に追いつめられた犯人は、ああも気持ちよく白状しちゃうのかしら、マイナスイオンのせいなの?
だったら、あたしは岩壁には行かないわ!」
「ここがたとえ岩壁でなくても、おまえはもう終わりだ! おとなしくわれらに降伏せよ」
「降伏したら、どうなるっての」
「最高府へおまえを引き渡す。引き渡されたあと、おまえがどうなるかは、われらにもわからん。上級悪魔ともなれば、それなりの場所に連れて行かれるのだろうな」
「ふん、行き先はコキュートスかしらね。あんな寒いところお断り。
知ってる? コキュートスの平均気温が、地上ではもっとも寒い温度をたたき出す南極のマイナス六十度よりも低いのは、あんたたちが『創造主』と呼んでいるものを眠らせておかなくちゃいけないからだって。
そしてコキュートスに、あたし並みに強い化け者がうようよしている理由も、『創造主』を守るためよ。
あんたたちが『罪をおかした堕天使が、身を変えられて化け者になった』と信じている化け者たちは、そうではなくて、自分たちの手で『創造主』を守るために、怪物になったもの。
さあて、ここで謎々を出してあげる。なんだって、本来ならば永遠の玉座に座るべき『創造主』が氷付けにされているの?
そして、いま、永遠の玉座に座っているのは、だれなのかしら?」
「なにぃ! それは初耳! ほんとうか、それは」
灰色うさぎが、両の耳を器用にぴくぴくとうごかしながらたずねると、アモンは甲高い声で笑いながら、答えた。
「ほほほー、だ。あんたが堕天するなら、教えてあげる。答えは三十秒後!」
「諸葛亮、いまの話、知っておるか! 永遠の玉座とは、神々すべての祖といわれる存在が座るものであろう。それが空席だというのか!」
興奮して、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらやってくる仲達に、孔明はこたえた。
「落ち着け、悪魔がアトラ・ハシースを誘惑するために、もっとも興味をひきやすい謎を提供して、心を揺さぶる『蛇の罠』だ」
「なんと、罠か! でも気になる!」
「落ち着け、われらアトラ・ハシースは、永遠の玉座なるものが、実在するものかも知ることはできないし、コキュートスが伝えられているとおりの氷の地獄なのかも、知ることはできない。
真実は、わたしたちには届かぬところにある。つまり、悪魔は、嘘はつきたい放題、ということだ。エヴァのように、蛇に誘惑されてはならぬ」
「なるほど、さすが悪魔、うまく口車に乗せられてしまうところであった。にしても、りんごを食べただけで知恵がつく、というのも、奇妙な話よのう」
「聖書には『りんご』という記載はない。噂によれば、アダムとエヴァの食べた知恵の実は、りんごではなくて、『コラの実』だった、という説もある。
コカ・コーラの原料のひとつで、覚醒作用と強壮作用をもつ実だから、『知恵の実』と呼ぶにふさわしかろう。
ただ、この『知恵の実』のエピソードは、ギリシア神話の『黄金のりんご』のエピソードと同起源だとする説もあり、そうなると、やはり『知恵の実』は、りんごだということだな。
眠いときには、珈琲より、りんごをまるごと食べたほうが、目が覚めるそうな」
「ほー。さすが諸葛亮。だてに年はとっておらぬな」
「二十八、二十九、三十……ちっ! 三十秒、きっかり待ったら、そのあいだに説得されちゃったわね! 仕方ない、攻撃といくわ! さあみんな! 総攻撃よ!」
「まだ力が残っていたのか!」
舌打ちする孔明に、仲達は、その前に立つと、ぱっと両手を大きくひろげて、言った。
「ここはわたしに任せろ! ゆくぞ、新必殺技! バニー・フラッシュ!」
※思うに、ずんだシリーズは、どうしたって設定の説明が長くなるので、いつもの連載と同じ調子で書いていると、書いている方としてはいいにしても、読んでくださっている方は混乱することがあるかな、と気づきました…もしかしたら、このニッキこそ、『リクエストにする』というのはどうでしょう、みなさま。
リクエストしたら、だれか答えてくれるかなあ…。もし企画が立ち上がりましたら、救いの手をさしのべてやってくださいましm(__)m 流砂の絶佳、まだまだお話はつづきます。
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