飛鏡、天に輝く

五十三

龐統の探索は偉度たちにまかせ、自分は黄蓋の屋敷へと向かった孔明であるが、その意図は、屋敷に到着してすぐに挫かれることとなる。
黄蓋が柴桑に滞在するために使っている屋敷は、柴桑の有力者の屋敷の一角で、魯家の屋敷よりはこじんまりとしていたが、風格のあるつくりの、どこか人を寄せ付けない雰囲気のある屋敷であった。
門の周囲はぐるりと高い塀がめぐらされており、正門はもちろんのこと、裏門にも衛士が配置され、中の様子を伺うことすらできない。
屋敷の周囲は、戦の影響で好景気に沸いている柴桑の街のなかにある屋敷とは思えないほどに、ひっそりと静まり返っており、孔明のほか、どこにも来訪者はいない様子であった。

孔明は取り次ぎの者に名を告げ、来意を伝えたのであるが、取り次ぎは、けんもほろろに、即答した。
「公覆さまは、ただいま療養につとめておられまして、見苦しいさまをお見せしたくないとおっしゃっております。
たいへん申し訳ございませぬが、お引取りくださいますように」
「すこしでよい。会わせてはいただけぬか」
孔明が食い下がっても、取り次ぎは無情に答える。
「残念でございますが、それはできませぬ」
「わたしが来ていると伝えてはもらえぬか。それだけでもよい」
「だれの名を伝えようと同じでございます。公覆さまからは、討虜将軍(孫権)がいらしたとしても、通すなと言い付かっております」

さすがに孔明はあきれてた。
まじまじと取次ぎを見る。
童顔であるが、世間なれした態度をとっている、飄々とした印象の人物であった。若いのに老成しているのか、それとも相応の年なのだが若作りなのか、判断がつかない。
茹でたての卵のようにつるりとした肌をしており、聡明そうな、澄んだ目をしていた。
孔明は、これは黄蓋の息子ではないか、と思ったが、黄蓋のいかつい風貌と、取次ぎの青年には、まるで共通するところがなかった。
黄蓋が使っている書生であろうか。
どちらにしろ、まずはこの取次ぎを篭絡しなければ、先へ進めない。
遠まわしな表現は避け、孔明は直球を投げてみることにした。
本音をぶつけて、相手の出方を窺うのだ。

「公覆どのは、そこまで頑固なのか。見苦しいというが、本当のところは、お悩みをかかえてらっしゃって、ひとり悶々としているところをだれにも悟られたくない、というのが本当ではないのか」
だが、取り次ぎは、孔明の意図したように、感情を崩すことはなく、淡々と答えた。
「申し訳ありませぬ、お答えしかねまする」
「ならば、答えられる者と話をさせておくれ」
「公覆さまは、お一人で柴桑にいらしており、ご一族は任地のお城に留まってらっしゃいます。ですから、お話できるのは、公覆さまのみとなります」
「では、その公覆どのと話をさせておくれ」
「ですから、ただいま療養につとめておられまして、見苦しいさまをお見せしたくないとおっしゃっております」
「……」

こんな調子で話がぐるぐると堂々巡りするばかりで、どうにもならないと察した孔明は、ひとまずは引き下がることにした。
そして、江東に来てから、どうも癖のある人物ばかりに会うな、などとつぶやいて、苦々しい胸を、なんとか紛らせた。

「見苦しいからお会いしたくないとおっしゃるなら、ご容態が快方に向かわれれば、また気持ちも変わってくるであろう。
諸葛孔明はまた来ると言っていたと、かならずそう伝えておくれ」
「かしこまりました。けれど、あまりご期待されませぬように」
「なぜ」
「お答えしかねます」
「……」

孔明は、年齢のつかめぬ、のっぺりとした風貌の取り次ぎの人物に、自分と似た気性を見て、あきらめた。
自分がそうであるように、この取次ぎもまた、言葉をうまく右から左へ巧みに交わし、人をはぐらかすことに長けており、しかも人の悪いことに、それを楽しんでいる節すらある。
なるほど、賄賂を渡して懐柔する、あるいは人情に付け入る、という手段は通用しそうにない。
こうした人物を取り次ぎに配したところに、黄蓋の、決して誰にも会うものかという意地が感じ取れる。

しかし、たとえだれであれ、人は人。
通いつづければ、いつしか情が生まれて、なにがしかの変化が出てくるものだ。
そこに賭けるしかない。

孔明はそれから毎日のように、黄蓋の屋敷と、河岸の庵を往復することとなった。

孔明が黄蓋の屋敷に通い始めてから数日が経過した。
しかし、黄蓋と、その取次ぎが折れる気配はまったくなく、初日と同じような会話が何度となく繰り返された。
孔明は短気なほうであったが、一方で、腹さえくくってしまえば、あとはどれだけでも耐えられる忍耐強さも持っていたから、ここは持久戦になると覚悟して、なるべく感情的にならぬように気をつけながら、黄蓋への言付けを頼んで、それから帰ることにした。

黄蓋の屋敷へは、目立たぬように、張昭や程普といった重鎮たちも見舞いを送っているようである。
だが、取り次ぎは優秀なところをみせて、すべてを孔明に対するのと同じ調子で追い払っている。
その慇懃無礼な態度に腹をたて、武力で脅しかける者もいるのだが、取り次ぎはまったく動じることなく、
「お答えしかねます」
「できかねます」
「お引き取りください」
の三つで、いなしてしまう。
日増しにその対応の精度は上がっていくようで、孔明はすっかり関心して、それを観察するときさえあった。

取り次ぎの若者に、まったく変化がなかったわけではない。
何日目かに、孔明がやってくると、いつもどんな感情も見せない若者の目に、はっきりと、
「またか」
と、うんざりした表情が見て取れた。
どんな感情であれ、そこに変化があるということはいいことだ。
孔明は、内心でほくそ笑みながら、こちらもあえて必死さを訴える表情をつくって、取り次ぎに言った。
「まだ公覆どのの加減はお悪いのか」
「まだまだ時間がかかるようでございます」
「お気の毒に、あのように満座で罰を受けたのであるから、相当に心を傷めておられるのだな。医師はちゃんとついているのだろうね」
「お気遣いなく。われらで十分に対応しております」
「して、医者はなんと申しておる」
「主人の許しがないので、お答えしかねまする」
「けれど、おまえは公覆どのを身近で見ているのだろう。詳しくはよいから、快方に向かっているのか、いないのか、だけでも教えておくれ」

すると、それまでよどみなく答えを返してきた取次ぎが、はじめて答えに窮した。
その変化に、孔明は思わず柳眉をしかめる。
もし、黄蓋の容態が本当に悪いのであれば、これはこれで、憂慮すべき事態だ。
おそらく黄蓋に同情し、周瑜を批判する声が高まる。
逆に、容態がよいのに、引きこもっているのであれば、村長らが気にしていた話を裏付けることとなる。
すなわち、黄蓋は周瑜の横暴にうんざりし、曹操へ下ろうとしているのだという話が、本当である、ということだ。

「どうした、それも答えられぬのか」
孔明が追求すると、取り次ぎは、誇り高い性格らしく、すこしムッとした表情をみせてから、答えた。
「背の傷が、なかなか癒えませぬ」
「どのように。熱が下がらぬのか、それとも、傷が膿んでしまっているのか。いや、気力の問題もあろうな」
孔明があれこれと可能性を示すと、やはり取り次ぎは、困ったような表情で、答えた。
「なぜ気になさるのです」
「なぜもなにも、わたしは、たしかに江東の人間ではないが、いま、わが主公と江東は同盟を組んでいる。
すなわち、公覆どのも、いまはわたしの仲間ではないか。仲間の怪我を気にするのは、当然のことであろう」
「距離を置いて、静かに見守るという気遣いもございますぞ」
「わたしが見たところ、江東の人間のほとんどが、そう思って黙っているようだが、ひとりくらい、しつこく毎日見舞いにやってくる者がいても迷惑にはならぬであろう。
ここが肝心であるから、しっかり伝えてくれ。思惑がまったくないわけではないが、貴殿を見舞う気持ちに嘘いつわりはないとな」
「伝えまする。が、お返事は期待なさらぬように」
「わかっておる。伝わればよいのだ。明日もまた来る」
「しつこいお方だ」
「忍耐強いと言い換えておくれ。それでは、また」
取次ぎの青年は、孔明が引き下がると、ほっと安堵した表情を浮かべて、門を閉めた。

取り次ぎの青年とは、なんとなくではあるが、ある程度の関係が出来上がりつつある。
その意図は成功したようだが、問題は、黄蓋の容態だ。
思った以上に悪いのであれば、ただ毎日、しつこく顔を出すのは、かえって迷惑であろう。
とはいえ、曹操の細作が通っているようだ、という噂が消えない以上は、村長たちの頼みもあるし、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
なにせ、黄蓋本人と会っていない。
取り次ぎの青年は、どうも腹を読めないことも考えると、容態が悪い、ということが嘘だという可能性も捨てきれないのだ。

それにしても、人を疑い、あれやこれやと考えねばならぬのは、疲れることだ。
これで趙雲のように、気心の知れた人間がそばにいれば、本音を包み隠さず口にすることができて、鬱屈した心も晴れるのだが、鳥林に旅立って以来、まだ趙雲は戻らない。
どこかで足止めを食っているのか、それとも、船で、鳥林から北上し、江夏を回ってから、柴桑へ戻るという、移動方法をとっているのだろうか。
趙雲がいれば、自分があえて愚痴をこぼしているのだと了解したうえで、助言や励ましをしてくれるのに、と孔明は思う。

趙雲自身は、自分を人嫌いだと思っているようだが、人を適切に見抜いて、的確な助言を出来るのだから、その観察力が発揮できる理由は、逆に人を冷徹に観察しているからだろう。
孤独を好む人間は、ときに人に対して辛辣になりすぎるか、悲観的になりすぎるかで、どこか偏るものだが、趙雲にはそれがほとんどない。
趙雲が、乱世に生まれていなかったなら、冀州の旧家の出自という後押しもあるのだから、きっと中央の官僚として、立身出世を果たしていただろうな、とも孔明は想像してみる。

人としても、官吏としても、非常に均衡のとれた、逸材だと思うのだが、三十半ばにして、いまだその名は、知るものぞ知る、といった程度に留まっているのが、孔明としては解せない。
おそらく、その原因は、趙雲自身が、自分に対して信頼を置いていない、というところにあるのではないか。
自分に自信があればこそ、張飛がその典型であるように、前に進むのにためらいがなくなる。
気迫のある人物には輝きが生まれる。
残念ながら、趙雲は進んで前に出ようとしないので、能力は高いのに、目立たないのだ。

子龍が帰ってきたなら、周瑜から押し付けられている難題についても、なにかしらの答えが得られるような気がする。
根拠はないが、そんなふうに感じられた。

だれにも言っていなかったが、孔明は、劉備といるときよりも、趙雲といるときのほうが、本音を隠せずのびのびとしていられた。
やはり関係が主従というものではなく、年も近い、ということもあるのだろう。
趙雲も孔明に対しては、遠慮なくものを言ってくるので、孔明も気楽なのである。

早く帰ってこないかと思いながら、孔明が河岸の庵へ戻る道を移動していると、ふと、往来で、ぽつんとひとり腰掛けて、道を行くひとびとに声をかけている老人の姿が目に付いた。
その老人は、まったくやる気がないふうに、人々に呼びかけていた。

「泥鰌、泥鰌、おいしい泥鰌。とれたての泥鰌。滋養強壮、けが人、病人、妊婦に年寄り、酒より泥鰌。泥鰌はいかがだ。とれたての泥鰌、安くしておくよ」
その呼びかけに応じるようにして、孔明は足を止めた。

そうだ、ただ黄蓋の屋敷へ通うばかりも能がない。
本当に具合が悪い可能性が高いのだ。
見舞いの品として、この泥鰌を差し入れてはどうだろう。
言葉を伝えるよりも、ずっと励ましになるのではなかろうか。

「ご老人、その泥鰌はいくらかな」
孔明が声をかけると、老人は、うるさそうに、不機嫌に眉をぎゅっと寄せて、顔をあげてきた。
「泥鰌を買いなさるか」
「そうだ。その泥鰌をおくれ」
「ご自分で食べるのかね」
「いいや、病人の見舞いに持っていくのだ。うまくさばけは泥鰌はうまいし、さきほどそなたが言っていたとおり、滋養によいからな」
「譲ってやらんでもないが」

言いつつ、日に真っ黒にやけた老人は、片ひざを立てた姿勢でぺたりと地面に座り込んだまま、胡散臭そうに、孔明を上から下まで、舐めるように見た。
どうも商売人には向いてない老人だな、と孔明があきれていると、やがて、言った。
「一匹や二匹では滋養にはならん」
「その魚篭に入っている泥鰌をぜんぶ買え、とでも言うのか」
押し売りかな、と孔明がかまえても、老人は、つまらなさそうな顔をして、ふん、と鼻を鳴らす。
「しばらく毎日、食べさせるといい」
「毎日、泥鰌か。胸焼けしそうだな」
「病人には効果があるぞ。特にわしのとった泥鰌はうまい。この背びれのつやつやしているところを見ろ。それに、この元気な跳ね具合」

老人はぶっきらぼうながらも、魚篭のなかで、まだぴちぴちともがき、跳ねている泥鰌を指差した。
たしかに新鮮で、うまそうではある。

「では、土産として、三匹ほどおくれ」
「明日も来るかね」
「まあ、来ないでもない」
「はっきりしてもらわんと困る。あんたがまた明日もここに来るのなら、わしは、あんたの分の泥鰌を特別に用意しなくちゃならないし、来ないのなら、それはいらない、というわけだ」
「わたしの分をわざわざ用意するというのも変だぞ。こんなに売れ残っている」
「それはそうだ。ほかの連中を見ろ、まるでこちらを見ようとしない」

たしかに、孔明と老人が話をしているあいだも、小さな川沿いの道にぽつんと座っている老人を見る者は少ない。
「商売をするには不向きな場所だ。移動すればよいのに」
孔明が言うと、老人は、軽蔑したように、鼻をまた、ふん、と大きく鳴らした。
「金に興味はない。おせっかいなやつ」
「いや、そなたのためを思って言ったのだが」
「泥鰌はどうする。明日も来るのか、来ないのか」

じつをいうと、泥鰌を贈る、という考え自体は気に入ったのだが、この偏屈で変わり者の老人から買うべきかどうかについては、孔明は迷っていた。
泥鰌は市場でも売っているのである。
どうしたものかと迷いつつ、目の前の老人に目を落とす。
老人は、みにくい風貌をしていた。
乱暴な言動のわりには、ふしぎな気品もあるのだが、面貌がみにくいために、所作ひとつとっても、好ましく見えない。
偏見だな、過ぎたればなんとやらのわたしとて、似たようなものだ。
奇妙な親近感をおぼえ、孔明は決めた。

「通りがかりの道だからな。市場に寄るよりいいし、わかった、明日も来よう」
孔明が約束して、まずは泥鰌を買い取ると、老人はぶっきらぼうに、毎度あり、と言って、ふたたび、やる気のなさそうな売り言葉を往来にかけ始めた。
「うまい泥鰌、おいしい泥鰌、泥鰌はいかがだ、とったばかりの泥鰌だよ…」

孔明が泥鰌を持っていくと、さすがにそれまで飄々とした態度を崩さないでいた青年の顔つきが変わった。
この場合、顔が輝いたわけではなく、なぜ泥鰌、という疑問が顔に浮かんでいるのだ。
孔明が竹かごに笹の葉を皿の変わりにして、泥鰌を並べたものを掲げると、青年は、まるでそれが初めて見る、未知の魚であるかのような目つきをして、じっと見つめると、言った。
「わざわざありがとうございます。主人も喜びましょう」
「滋養強壮に効くそうな。怪我の治療の後押しとなろう」
青年は、はあ、と生返事をして、竹かごを受け取った。

「して、お加減はいかがか」
孔明がたずねると、それまで泥鰌に気をとられていた青年は、われにかえって、顔をあげた。
「あいにくと、今日も気分がすぐれぬ様子でございます」
「食欲はあるのか」
「それは、はあ、まあ」
と、青年は、あいまいに視線を泳がせた。
その目線の先をたどれば、裏門へと向かっていく、野菜売りの姿があった。目が合うと、ぺこりと頭を下げてきたので、この屋敷に出入りしている者らしい。
「食欲があるのならなによりだ。食が細くなったときが危うい。早くのご回復をお待ちしておると伝えておくれ」
「主人に伝えましょう」

孔明が帰路につくと、川沿いの小道に、昨日とおなじ老人が、また泥鰌を売っていた。
ほかに客がないらしく、商売っ気のまるで感じられない、単調な口調で、
「泥鰌、泥鰌、泥鰌はいかがだ」
と呼びかけている。
道を行く人間のほとんどが、老人を無視して、足早に通り過ぎていく。
孔明が老人の前に立つと、老人は、またもや胡散臭そうに孔明を、上から下まで眺めると、言った。
「どうにも死にそうにない面をしているのに、なぜ泥鰌を買いなさる」
「おや、ここの泥鰌は半死の病人しか口にしてはならぬのか」
「わしの獲る泥鰌は特別なのだ。健康な者が食べると、かえって体を壊す」
「まことか、それは。なぜそれを言わない。もう贈ってしまったぞ」

黄蓋の引きこもっている理由が、怪我のためではないのだとしたら、孔明が差し入れた泥鰌は、かれにとっては毒となってしまう。
それにしても、泥鰌に毒があるなどという話は聞かないが、江東の泥鰌はそうなのか?
孔明が予章で叔父とともに過ごしていたころは、ほとんど屋敷から外に出なかったから、地元の野山の知識に疎いのである。

「どなたに贈りなさった」
「黄公覆どのだ。そなたも知っているだろう。いま、怪我をされて屋敷で療養されているのだよ。
滋養によかろうと泥鰌を贈ったのだが、しまった、泥鰌なぞ、どこで取れようと同じだと思っていたのに。
これはいけない、謝りに戻らねばならぬ。老人、そなた、わたしとともに屋敷に行って、事情を説明してはくれぬか」
「面倒はごめんですぜ」
「そなたが昨日、きちんと説明をしていれば、面倒は起こらなかったのだぞ」
「謝らねばならない理由がわからない。相手が病人なら、問題はないだろうに、荊州の人間は、とんちんかんが多い」
「とんちんかんで悪かったな。いろいろと混み入った事情があるのだ」

悪態に悪態で応えてから、孔明は気づいた。
この老人は、どうしてわたしが荊州の人間だと気づいたのだろう。
「言葉がやはりちがうか。なぜ荊州の人間だとわかった」
「わかったというより、知っているだけだ。あんたは有名人だからな。劉予州の軍師だろう」
「いかにも」
「うちの泥鰌はたしかに効果がつよいので、健康な人間が食べたなら、かえって毒だ。
あんたは病人に差し入れをしたのだから、いやしい奴がつまみ食いをしないかぎりは、だれも具合を悪くしたりしない。
もし具合を悪くしたとしたら、そいつはなまけ病に罹っているのだ。かえってよい薬になる。うちの泥鰌はほんとうに役に立つのだ」
「なるほど」

54へつづく
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