はんせいかい。2

       このページをご覧くださるモーツァルトの旋律のように典雅なお客様へ。このページは、カレン・カーペンターズの歌声の如く澄んだ心の方に特に推奨いたします。

 

兵士たちの調練が終わると、趙雲は全身の汗を拭きながら、兵舎の一室にある自分の部屋にもどってきた。
ほかの武将たちとちがって、家族を持たぬ身であるから、必要最低限のもの以外はなにもない。
劉備は、荊州を三郡も取って、昔のような居候じゃないのだから、ちゃんと屋敷を構えたらどうだ、と諌めるし、ほかの武将たちは、趙雲が妙に地味にしていやがるから、俺たちが贅沢しにくい、と冗談まじりに言っている(なかには本気で言っている者もいるが、いつものことだ)。
とりあえず、屋敷らしいものを家令の一家付きで頂戴したのだが、兵士の調練を行って、調子のあがらぬ部隊の様子を見てやり、
兵士の個人的な相談にのってやったり、厩の掃除をしたり、
部将たちと食事を一緒にとったりしているあいだに日も暮れて、
そのあとに簡単な事務仕事などをこなしてから、
例の男を自室に送り届けていたりすると、
もうあとは疲れて眠るだけなのだ。

「そんなアナタに最適なグッズが」
と、不意に兵舎の角から、見慣れない男がひょいと顔を出した。
趙雲が怪訝そうに眉をしかめると、その、丸眼鏡に頭髪が爆撃を受けたようなありさまの、奇態なぼさぼさ頭の若い男は、人懐っこく、にいっ、と笑って見せた。
しかしそこで気を許すような趙雲ではない。
「何者だ」
「通りすがりの訪問販売員でございます。
疲れがなかなか取れにくい、こんなときにぜひオススメしたいのがこの
『やぶやの豪酢』
中国の職人がひとつぶひとつぶ丹精込めて作り上げた健康食品です」
「いらぬ」
踵を返して立ち去る趙雲に、行商人はなおも食い下がる。
「お待ちを、それではこちらはいかが。
寝つきの悪いあなたにぴったり
『夢枕バク』
陰陽師特製の超レアもの枕。
夢枕に仕込まれた獏が悪夢をぱくぱく食べてくれます。
消費された悪夢は特製の容器に保管されて土に還元されるのでとってもエコロジー」

ぴた、と趙雲は足をとめて、行商人を振り返る。

「お買い上げでございますか? 今回特別価格といたしまして、ひとつ36450円での特別ご奉仕。
いまなら高枝切りバサミがセットでついてきます!」
「貴様、どこかで会ったことがないか?」
趙雲の思わぬ険しい表情に、ぎょっとして行商人は後ずさる。
「いえ、わたくし、こちらに訪問させていただいたのは今回が初めてでございます」
「俺はあまり人の顔をおぼえたりするのは得意ではないが、なぜだか貴様の顔は引っかかる。その眼鏡を取ってみろ」
「わたくし極度の乱視でして、この眼鏡を外すと何も見えないどころか命まで失ってしまう奇病にかかっておりまして」
しかし趙雲は、行商人のたわ言をみなまで聞かずに眼鏡を取る。
そうして、ヒトデを思わせるめちゃくちゃな立ち上がり方をしている髪をもぐいっと引っこ抜く。
それはあっさりと抜けた。

そうして現われたのは…

「おまえは!」
「くそう! 丹精込めて作り上げた復讐グッズをもうすこしで売りつけてやれるところだったのに!」
実は『やぶやの豪酢』はあまりの酸っぱさに顔が皺だらけになり、せっかくの美貌が即浦島太郎、というおそるべき薬であり、
『夢枕バク』は、悪夢を忘れるどころか必要な記憶もグルメな獏に食べられてしまい、抜け殻のような人間になってしまう、というとても非人道的なシロモノなのだ
※この結果は臨床実験によって実証されたものではなく、あくまで制作者の言い分による効能です)
整った気品ある顔立ちを歪めて悪態をつく、少年のあどけなさを残す青年であった。
巨大なスチールたわしのような鬘
(かつら)の下におさめられていた長い黒髪が、さらりと滝のように零れ落ちる。
「たしか馬良の弟で、いつだったか俺が新野の街を警邏で歩いているときに酔っ払って歩いていて、
自分が軍師より実力があると嘯いた礼儀知らずで病弱な、
名前を忘れたが
ともかく弟「梁父のギンギラギン・おまけ」を参照のこと)」
「どうでもいいことだけ妙に細かくて肝心の名前を忘れているところがムカツク!
馬謖だ! 字は幼常! ふん、僕を礼儀知らずだなんて評する筋肉バカは、我ら兄弟が世間でどのように謳われているかも知らないようだが、馬家の五常の末弟が僕のことさ」
「知っているとも、馬家の五常、白眉もっとも良し、であったな。
つまり馬良が一番優れているということで、優れてないそのほか四名のうち、いちばん下っ端がおまえか」
「よく言葉を吟味しろよ、「白眉もっとも良し」
つまりみんな良いけど、一番良さげなのが兄上、っていう意味だろうが。
ふん、兄上は人あたりだけはやたらとよいからな。
世人は愛想がいいほうに高い評価を与えたがるのさ」
「人当たりがよい、結構なことではないか。
いくら才能があっても、人当たりが悪いような奴はダメだぞ。
つまりは相互努力というやつで…」

趙雲が語り始めると、馬謖は小ばかにしたように鼻で笑うと、肩をすくめた。

「この僕に説教なんて止めてくれないか。
たしか孔明殿の主騎だったよね?
だったら判るのじゃないのかなぁ、天才っていうのは、世の常識をことごとく裏切ることが許されている、生まれながらの超法規的存在なんだ、ってこと」
「お前は勘違いしているぞ。
軍師は俺の知っている人間のなかでも、きわめて協調性が高いと思うが。
軍師は人をよく見ているから、阿
(おもね)るでもへつらうでもなく、うまく周囲を巻き込んで、一つにまとめるのが上手い。
これは協調性が高くなければできない芸当だ。
おのれを天才だとうぬぼれている阿呆には、あきれてだれも付いてこない」
「軍師だって、自分のことを天才だって嘯いているじゃないか!」
「軍師の言葉を額面どおりに受け取るな。
あれは一種の照れなのだ。天才の影には失敗と努力の積み重ねがある。
それを知られるのが恥ずかしいので、『天才だから』のひと言で片づけて笑っているのだ。
たまに言葉の裏に隠された意味を辿れずに、あれを傲慢なだけの男だと思う奴がいるが、俺に言わせれば、そいつは永遠に人の批判しかできない人間であり続けるだろうよ」
「あんた、本当にムカツク人だね。それが僕って言いたいの?」
「心当たりがあるから動揺するのではないか?
復讐グッズとか言っていたが、そんなものを作るのに懸命になるよりは、人のためになにができるかを真剣に考えるべきだ。
どうだね、馬家の五男坊」
「馬季常と呼べ! ふん、ちょいとばかり出番が多いからって威張るんじゃないよ! 
『ラックスのCMに出演してもおかしくない武将第一位』に選ばれた、この僕に向かってね!」

と、馬謖は得意げに、自慢の黒髪をさらりとかきあげてみせる。

「どこのランキングだ。第一、それ、 すごいことなのか?」
「一位だぞ! 関将軍を抑えての一位だったんだからな! 
その結果が発表された日は、地元の商店街は記念セールまでしたんだ。
これでも僕に衆望がないっていうのかい?」
「ネタが派手ならなんでも良かったのだろう、その商店街。
俺も行ったことがあるが、時計屋の店頭にいまだに「新製品」と札をつけて「キテレツ大百科」のコロ助の時計が売られていたぞ(仙台N町商店街)。
あれはどうにかならぬか」
「時計屋に言えよ! 言うに事欠いてコロ助だって! 
そういう、妙に庶民的な雰囲気を出そうとする貧乏臭い計算が鼻につくんだよな」
「それならば、豪勢にサザビーでカルティエのミステリークロックを落札しそこねた話でもするか?」
「ええい、
全方向位パーフェクト超人め
そのくせ「孤月」じゃ軍師を助けあぐねるわ、
「燭龍」じゃ馬超殿の助けがなくちゃゾンビに負けそうになるわ、
挙句の果てには「しんねんかい。」で董允を手品という名の拷問にかけて顰蹙買うわで、ヘンな人丸出しの癖して」
「軍師に付いていったらたまたまそういう役が回ってきただけの話だ。
イロモノにしか出られないやつよりマシだと思うが」
「くそぅ、蜀の四英のHPとか謳っておきながら、実は趙雲のHPだったりするこのHPがとっても嫌だ!
なんでいつまでも208年から215年をウロウロしているんだよ!
南蛮行こうぜ! 僕の活躍を見せてやる!」
「それ、暫くないと思うぞ」
なにゆえ!」
「いままで調子に乗ってワードで作り続けていたファイルをHTML化しているのだ。
これが案外手間でな。
リンクの貼りなおしもあるわけで、しかも校正しながら進んでいる。
よほど「これ書きたい!」というテーマがない限り、南蛮行きだけを取り上げることはないだろう。
だいたい「燭龍」が終わらない状態で、南蛮に行けると思うか?」
「そうか、時代がいつまでも先に進まないのは「燭龍」の進行の遅さが原因か!」
「単にここの管理人の、
四十代の軍師を書きたくない、というワガママもあるわけだが」
書け! それが現実だ!
っつーか、校正してあまりの誤字脱字、意味不明文章の多さに、お客さんたちがよく我慢して読んでくれたものだと感動しているが、感動する前に校正してからアップしろ!(ホント、すみませんm(__)m)
「一日おきアップになってからは、少なくとも二回の校正はするようにしているが、しかし以前にプロの校正者だったとは思えぬお粗末さ加減だな(重ね重ねすみませぬ)
「それに「燭龍」と「孤月」は繋げない、と言っていたはずだが、方向性が変わった様子だな。
なんだって胡偉度ばかりが登場して、僕が出てこないのかが理解に苦しむところだが」
「おまえが出てくると、どうしたって最期の悲惨さが前面に押し出されて、雰囲気が暗くなるのだ。
だいたい、おまえの失敗は底が浅くてドラマにならない!」
言い切りやがった! でも反論できない史実の自分がうらめしい!」
「軍師はなにゆえ、おまえに要害の地を一任したのであろうか…」

「いきなりシリアスモードに戻らないでよ。
そういう論考はもっと硬派のHPに任せるとして、3333HITのときに言っていた、新連載の話はどうなったのさ?」
「現状を見ればわかるだろう。
「孤月」は、謎解きはほぼ完了したものの、実は何も解決していない状態だし、
「燭龍」にいたっては、董和殿と軍師、そして法正がどのように新政権を樹立していくかに話がシフトしつつあって、予想以上の長さになりそうであるし、
キリリク連載すら終わっていない。
新連載など夢のまた夢だな」
「短編は?」
「あれこれ考えていることはたしかであるが、おまえの出番は
ない
「なぜだ! なぜみんな僕の素晴らしさを理解しようとしないんだ!
嗚呼、本当に僕は不幸な星の下に生まれてきたのかもしれない。生涯にたった一枚の絵しか売れなかった天才ゴッホ。
僕ももしかしたら、そんな悲しい運命を背負っているのではないかしらん。
うっかりオレオレ詐欺
(なりすまし詐欺)にひっかかりそうな主公や軍師のようなお人よしが幅を利かせる世の中、大嫌いだ!」
「おまえは間違っているぞ。
主公も軍師もオレオレ詐欺なんぞにひっかかるものか。
主公の場合はこうだ↓

詐欺「もしもし、オレ、オレだけど?」
劉備「『オレ』? あー、もしかして以前、ちょっとお世話になったことのある人? 
あれ、声に元気がないみたいだけど、どうしたの?」
詐欺「久しぶりだよね、本当なら、こんなことで電話したくなかったんだけど、実はいま、警察なんだ」
劉備「あー、とうとう殺しちゃったか。でもよく我慢したよ」
詐欺「え? いや、そうじゃなくて、事故っちゃってさ、保釈金、用意できなくて」
劉備「ええ? なんで警察に言うより先に教えてくれないのさ。
うちにはその筋がいっぱいいるから、ちょっと言ってくれれば拳で解決できたのにー。水臭いよー」
詐欺「え、いやあ、その筋はいいんだ。
うん、話進んじゃったから、お金が必要なんだけど…悪いけど、少し貸してもらえないかなぁ」
劉備「いいよ。いくら?
 あ、でもこの間、ベガス
(パチンコ屋)で派手にすっちゃったから、13300円しか用意できないけど、いい?」
詐欺「なにそれ、
13300円って」
劉備「国民年金の一か月分をわざと滞納してそっちに回すわ。
義兄弟にも言っとくわ…ってあー、ダメだ。この間、差し押さえ食らってたんだっけ。
保証人になったら債務者に逃げられちゃってさ、自己破産で、今度裁判所に出頭なんだぜ。
出頭命令中にお金の貸し借りをしたら怒られるからさー、
ごめん、子供のお年玉からなんとか工面してみるよ」
詐欺「お、お年玉…?」
劉備「って、これもダメだわ。保証人なんてなるもんじゃないよー。
家に督促人が来ちゃってさ、洒落にならないよねぇ。
でも世話になった人に恩返しをするためだもんな、グチを言ったらバチがあたるって。
俺が金を作れば、あんたは助かるわけだろう?
なんとか考えてみるから、待って」
詐欺「あのう…」
劉備「なんか抜け道ないかなー。街金は出入り禁止になっちゃったからな。
あ、これは例によって例のごとく張飛が事務所で暴れたからなんだけどね。
業界にファックスで回覧板回ったっていうからいやになっちゃうよねぇ。
いやあ、俺の話ばかりごめんよ。いまいい手を考えてみるから…」
詐欺「あ、あのですね…」
劉備「お、そうだ。いっそ宝くじにすべての運命を賭けるってのはどうだろう?
ダメでもともと、やってみるっていうのもいいかな。
そうと決まれば売り場へ行こう。
あんた、いい売り場知ってる?」
詐欺「す、すみませんでしたぁ!」

某警察署前。寒空の下、たたずむ劉備と詐欺師。
詐欺「では、行ってまいります」
劉備「うん。きっちりお勤めして、綺麗な身になって帰ってくるのだぜ」
詐欺「なにからなにまでご迷惑をおかけいたしました」
劉備「あんたが組を抜ける手伝いなんてたいした手間じゃない。
うちの若いのも、ひと暴れできて喜んでいたからね。
娑婆に出たなら連絡してくんな。
世間の風は冷たかろうが、辛くなったら俺のことを思い出してくれるといいよ」
詐欺「あ、兄貴ィ!」
劉備「さあ、サツの旦那がお待ちだぜ」
そうして詐欺師は、小雪の舞う中、自首をするために警察署の扉をくぐっていったのでした…(BGM・高倉健「男の誓い」)

「ええ話や…」
「でもって、軍師の場合は、こうだ↓」

詐欺「もしもし? オレ、オレだけど?」
孔明「私も「オレ」という一人称を使用するに値するものだが、とりあえず話を聞こう。
用件はなんだ?」
詐欺「え、あの、オレだけど、覚えてる?」
孔明「残念ながら記憶にない。
しかしわざわざ私のところへ電話をしたというからには、それなりの理由があるとみたが、如何か?」
詐欺「理由…うん、あるんだよ。
実は、いま事故っちゃって、相手に怪我をさせちゃったんだ。
それで、至急お金が必要なんだけど」
孔明「ふむ、事故に遭遇したという状況であるがゆえに混乱し、即物的に金銭を要求してくるわけか。
で、いかほど入用なのだ?」
詐欺「四十万」
孔明
小さいな
詐欺「は?」
孔明「小さい、といったのだ。君はそちらに幾らで雇われているのかね。
四十万を請求し、うまくターゲットから略取せしめたとして、そのうちの何パーセントを手に入れることができる?」
詐欺「え、ちょっとちょっと、本当に事故で…」
孔明「くだらぬ猿芝居は止せ。
この私にそのようなものは通用せぬ。私の問いに答えよ」
詐欺「…一件に付き、四万だ」
孔明「たった一割か。それこそ無法な労働力の搾取だと思わぬか? 
君を雇っている人間は、君を電話口に立たせて危険な仕事をこなさせておきながら、たった一割だけの報酬しか与えない。
よいかね、警察が君の声を録音し、声紋を取って身元を割るかもしれない。
君が逮捕されたとき、君の雇い主は君を救ってくれると思うかね?」
詐欺「……」
孔明「その沈黙こそが答えだな。
どうだ、君、もっと大きな報酬を得たいとは思わないか」
詐欺「そんな上手い話があるのか。株なら勘弁だぜ」
孔明「株よりもっと確実な話だ。わたしに投資をしてみないか」
詐欺「はあ?」
孔明「私にかけてきたということは私の名を知っているはずだ。
それなりに世の中にも知られている。
しかし、私も仙人ではないのでね、元手が無くては行動も制限されてしまう。
そこでだ、君がもし私に投資をしてくれるというのなら、数年後に、十倍にして返そうと思う」
詐欺「なんだそりゃ、ふざけるなよ、オイ」
孔明「ふざけているとは心外だな。
いいかね、これは夢物語ではないのだよ。
私は確実に名声と地位を築き上げている男だ。
対して、君たちは社会の日陰から日陰へ、あぶく銭を追って暮らしている。
収入も不安定だ。警察から逃れるために裏工作をする費用もバカになるまい。
その費用のごく一部を私に回せばよいのだ。
たった一部で未来を買うのだよ。
いつか君らは警察に捕まるなり、あるいは組織から切り離されて、路頭に迷うハメになるかもしれない。
しかし、先に私に一部を回しておけば、その分は数年後に確実に十倍になって戻ってくるわけだから、安心できると思わないか?」
詐欺「ううむ」
孔明「それに想像してみたまえ、君が家庭を持ったとして、子供に職業を聞かれたとき、君はなんと答えるつもりだね。
そうして、人々から騙し取った金で子供の未来を作ってやるつもりなのか? 
だが、私に投資した分の金は、綺麗になって戻ってくるわけだから、これは堂々としていられるな。
さらに、私という人間と知り合いだということで世間に自慢できるというおまけつきだ」
詐欺「最後のはどうでもいいが、たしかに保険に入るのとおなじと考えればいいか」
孔明「万が一、私が出世を望めなくても安心したまえ。
私には叔父から譲り受けた財産がある。君から借りた元金はすぐに返せるさ。
ダメでも元金はそのまま戻り、手数料はいただかない。
成功したら報酬は十倍。宝くじより高確率に、夢を買うのだ。
どうだね、よい話だろう?」
詐欺「夢を買う、か。いい言葉だな。
よし、じゃあ、一丁、やってみるか」
孔明「結構。実に結構。
それでは今から言う口座に百万円を振り込んでくれたまえ、メモの用意はいいかな?
蜀漢帝國銀行 本店営業部 普通預金 口座番号は7ケタで…」

こうして孔明の通帳には、ヤクザから巻き上げた百万円の刻印がまたひとつ増えていくのであった…

受話器の向こうに悪魔がいる!
「相手の勢いをうまく利用し、おのれを有利に導く。これが策士というものだ。
ちなみにここでふつうの策士ならば、言葉どおりにおのれのためにだけ金を使うが、
諸葛孔明は巻き上げた金を元手になりすまし詐欺撲滅組織をつくり、これを壊滅させることに心血を注ぐ」
怖っ。策士ってそこまで考えなくちゃいけないのか。真似できないかも」
「そうだ。こんなところで俺に言われたたったひと言をいつまでも根に持って復讐グッズを作っているよりも、はるか高みにある策士の星を目指せ!」
「わかったよ、僕は間違っていた。
人間、もっと世の中を見なくちゃいけないんだ。
僕が世の中を見つめれば見つめるほど、世の中も僕を見つめてくれるんだね!」
「いや、そういうものでもないぞ」
「言わないで! 僕はすべてを理解した! 
さようなら、趙将軍、僕はさっそく高みに昇ってみるよ。
とりあえずチョモランマ行ってくる!」
「高みって、そちらか!」

趙雲の渋い低音でつぶやいたツッコミは、舞い上がり去っていく馬謖には届かなかった。
はたして、この会見が、のちの街亭の山登りの大失敗に繋がっていったのかどうか、その結果は天だけが知っている…

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