くっきー先生の「はさみの教室」⑤

毎度おなじみ、仙台某所、某雑居ビル。

文偉「いつもながらの砂色のボロビルが、いまや第二の故郷のような気がします」
休昭「それは馴染みすぎだよ、文偉。しかしこのビル、上の階ってマンションになっているのだよね? どんな人が住んでいるんだろう」
文偉「どんな人、って、そりゃあ、ふつうの人だろう」
休昭「でもさ、気にならない? 外から見ると、このビル、ほんとうに不思議に見えるもの。下は企業の看板がかかっているのに、上の方の窓からは洗濯物がぶら下がっていてさ。なんというか、区切りが悪い感じがするんだ。
そういえば、むかしの巨大団地って、中にショッピングセンターや商店街もあったよね。それと似たものを思い出すよ」
文偉「思い出すよ、っておまえは団塊世代でもないのに、どうして思い出せるのだ。
まあ、北四番丁や北仙台にも、似たつくりの古い雑居ビルがあるからな。同じ年代かどうかはわからんが、当時はこういう下層部の何階かはテナントで、ふつうの企業の事務所や店舗になっていて、上はマンション、という作り方が流行ったのかもしれないな。調べてみると面白いかもしれぬ」
休昭「不思議といえば、くっきー先生も、どこに住んでいるのだろうね」
文偉「そういえばどこかな。案外、このマンションだったりして。というか、くっきー先生、住民票とか持っていて、市県民税なんかもきっちり払っているのかな。
銀行の窓口にならぶ先生の姿こそが不思議だ。
そうだ、営業課長に聞けば、わかるかもしれないぞ」
休昭「課長? 課長かあ……はは、課長はいいよ。というか、課長は今日も講座に来るのかな」
文偉「課長はわからぬが、きつねはまちがいない。前回の講義にしたって、営業会議にだってあんなに熱心にメモを取っている社員はいないぞ、というくらいの勢いでメモをとりまくっていたからな」
休昭「総務で聞いたけど、すごいメモ魔なんだって。速記しているんじゃないか、っていうくらい早くメモを作れるんだけれど、驚くよね、略語とか誤字とか、まったくないんだってよ」
文偉「さすがきつね。鬼だな、ざんこくな事務の鬼!」
休昭「事務の鬼ってさ、あんまり怖くなさそうな鬼だね」

そんなことを話ながら、三階のカルチャー教室のあるフロアに行ってみると、やはり廊下にぽつねんと、灰色の垂れ耳うさぎが、二人に背を向けて立っていた。
しかし、今日はなにをするでもなく、腕を組んで、なにやら頭をひねっている。

文偉「またなにかするのかな」
休昭「つっこまなくちゃ、だね。待っていよう」

二人が待っているあいだにも、うさぎの頭は右へ、左へ、と傾くのであるが、だからといって、なにをするわけでもない。

休昭「頭を捻っているだけのように見えるね。どうする、なにもしないのかい、とかつっこむべき?」
文偉「いや、もうしばらく様子を見よう。もしかしたら頭を捻っているのではなく、耳が重くて悩んでいるのかもしれない」
休昭「それは、人間にはわからない悩みだね……」

そうしてしばらくじっと黙ってくっきーの様子を見つめる文偉と休昭。
しかしくっきーのほうも、右へ、左へ、と頭を揺らしていた。
いつなにを始めるか、そしていつツッコムべきか?
二人はまるで九回裏1対1、二死満塁という局面でバッターボックスに立つことになってしまった野球選手のように、緊張感をもって、うさぎの背中を見つめていた。
つぎのボールはストレート? それともカーブ? でなくちゃ、また肩透かしのファウルでこちらの三振を誘ってくるか?
と、不意に、うさぎの背が、ぐらりと揺れる。
そしてうさぎは、突如として前屈みになりぺたりとその場にへたり込んでしまった。

休昭「くっきー先生! どうしましたか!」
くっきー「くう! ネタが、ネタがなにも浮かばぬー! そなたらがツッコミ待ちに入った気配が背中でびんびんに感じ取れたから、ネタをやらなければと思ったのに、プレッシャーに負けた! いいえ、世間に負けた!」
文偉「先生、世間って、負けすぎです。そういえば、今日はカルチャー教室全体が、すごく静かですね」
くっきー「それはそうであろう。今日の講座は『俳句教室』と『眠れないあなたのためのよりよいレム睡眠教室』だからな」
文偉「俳句はわかります。けれど、レム睡眠なんたら、は、なんなんですか」

文偉がたずねると、くっきーは人差し指を自分の口に当てて、静かにするように、と示してきた。

くっきー「しーっ。いま、教室では不眠症に悩む諸君のために、ヒーリングミュージックを聴きながらアロマの香りを楽しみつつの『実技・ほどよい昼寝(10分間)』が行われているのだよ。邪魔をしてはならぬ」
文偉「あ、すいません。いろんな教室があるのだな。ところで先生、今日こそは、わたしたちが一番ノリですよね?」
くっきー「ぶーっ、残念。そなたらが最後。きつねと怪人なんか、もう30分もまえに来ちゃっているぞい。あの二人、ほんとうに社会人?」
文偉「いえ、それは、こちらが聞きたいです。というか、いま17:45でしょう? ということは、17時で仕事が終わって、すぐにこっちに来た、っていうことか。どんだけ熱心なんだ、あのふたり」
くっきー「なにせ余裕たっぷりの到着のくせして、二人ともハイヤーを乗り付けてきたぞい。熱心すぎて、こっちが引くわ」
文偉「そこは感激してくださいよ、先生」
休昭「まあ、講義を楽しみにしているのかもしれないけれど、二人で静かに競り合っている、ということもあるのかもしれないな。なににつけても負けたくないんじゃない? 
ところで先生、営業課長も来ていますか」
くっきー「趙子龍は、本日、札幌へ出張です」
文偉「あ、そうなのか。バイトには出欠情報が届かないからな、あの会社。というか、休昭、なんでそんなに心から安堵した、って顔をしているのだ」
休昭「いやだって、そうだもの。あー、これで、本日の最高のハードルは越えた気がしたよ」
文偉「おまえのハードル、わざわざ越えるには、低すぎやしないか」
休昭「いろいろ事情があるんだよ。でも聞かないでよ、答えられないから。先生、文偉の気を逸らすためにも、ガッツリ講義をお願いします!」
くっきー「お、気合十分だな、けっこう、けっこう。それでは、さっそく講義に入ろうぞ。諸君、教室に入りたまえ!」

こうして、相変わらず無駄に長い前フリを終えて、何度目かの教室が、いま開かれる……

藍の儀礼

劉巴「わたしたちが名前のみでしか出てこない、本編Bのメインとなる『藍の儀礼』だね。
このあいだ、本編Aと本編Bの差を話したさいに、いろいろ説明していたわけだから、正直、これは解説はいらないような気がするけれど」
くっきー「たしかにそのとおり。ざっと復習して、軽く流す程度に止めるぞ。

本編A→『孤月的陣』や『飛鏡』から、時代をすっ飛ばしてつづいている『風の終わる場所』『うつせみ』にさらに続いていく、史実準拠の政治劇を絡めた長編群で、群像劇でもある。

本編B→『うつせみ』までの流れは本編Aと同一だが、そこから先の流れは、まったくちがう本編Aのパラレルワールド的存在。
本編Aとちがい、主要人物になる二人の私生活や感情の流れを中心に物語は動く。
本編Aに重要人物として登場する人々の、ほとんどが登場せず、政局も時局も、かれらの感情によりつよい影を落とすことはない、夢の世界のお話」

文偉「本編Bの最初が『不機嫌な幽霊』。その続編が『藍の儀礼』。以降は、今後、ずっと同じタイトルでつづくのでしたよね。
つまり、本編B=藍の儀礼となるわけで」
くっきー「そのとおり。本編MAPもすこし分けねばならぬのう」
休昭「単純な質問なのですが、『藍の儀礼』の藍って、作中で軍師が藍色の衣を贈ったことから、また話が広がるからですか?」
くっきー「ノンノン。単に、はさみのが『あー、そういやあ、『藍の儀礼』ってタイトルの小説を、むかーし書いたっけな。『まだき春』よりはるかにいいタイトルだろ、というか、やっぱこのタイトルはないわな。リニューアルする予定もないし、これをもういっぺん使うか』と思っただけの話。
その古い作品のなかで重要なアイテムとして油絵が出てくるのだが、その絵の基調になっている色が藍色だったのだよ」
法正「つまり、藍色とこの作品は、ほとんど関係がない、ということか。ならばタイトルを変えるべきではないのか」
劉巴「とはいえ、はさみのは、タイトルをつけるセンスがイマイチだからねぇ。これで定着した感もあるし、しばらくこれでよいのではないかな」
くっきー「さて、『藍の儀礼』を読んだことのない人にかるーく説明するとだな。この作品は、より女性向けの傾向がつよい作品であるので、苦手な方は要注意である。
主要人物の二人の関係は、互いが互いにつよく想いながらも、方向性が違うために、より傷つけあってしまう、そのさまを描いたものだ。
諸葛亮視点の話があって、ラストの締めくくりは趙雲視点の番外編となる、というところが特徴かのう」
劉巴「それは『風の終わる場所』以来、ずっとつづいている傾向だね。『うつせみ』もそうだったし」
くっきー「趙子龍という人物は、非常に複雑な内面を持っている人間で、しかも頭も回るので、諸葛亮には、時には嘘をついてまで、自分のよい面しか見せないように気をつけている。
だから、諸葛亮視点だけで追っていくと、趙子龍の心情の本当のところは、じつはわからない、という仕組みにもなっているのだよ。種明かしとしてのラストの番外編がある。
そこで、物の見方が逆転したり、納得したり、ということがあるのではないかな。
であるから、諸葛亮視点での趙雲の言葉や行動には、ちょっと注意が必要だぞい。読んだときに『あれ?』と思う、その違和感には理由があるのだ」
法正「単に、はさみのの筆がおかしな文章を綴っていて、違和感をおぼえているのではないのか」
くっきー「はい、きつね、黙るー。そういうこともあるかもしれないけれど、趙子龍に関しては、『孤月』あたりから『?』な場面を入れてあるので、そこを覚えておいてね、という話なのだ」
劉巴「ちょっとネタバレになるかもしれないが、つまり『風の終わる場所』まで自覚をしていなかったものが、以降は自覚して、そこから先の歯止めを無理矢理利かせているのが本編A、利かなくなっていて、軍師もそれに引き摺られる形になっているのが本編B、という説明でもよいのかな」
くっきー「ま、だいたい当たっておるわ。引き摺られているのは、いまだけかもしれない。そこから先のことは、書いている人間にすらわからないミステリー」
法正「引き摺られるということは、ある程度は『それでもいいか』と許容しているということではないのか」
劉巴「そうとも取れる。複雑だねぇ。ははは」
文偉「なんだか嬉しそうですね……」
くっきー「だいたい一ヶ月か、一ヵ月半ごとくらいにシリーズを発表していく予定なので、この本編Bを特に見たい、という方はペースを覚えていてくれるとうれしいぞー」
休昭「つまり、一ヶ月か一ヵ月半おきぐらいに、わたしたちの出番がまったくなくなる状態になるときがある、というわけだね」
文偉「ま、言い換えるとそういうことにもなるな。番外編だけでもいいから出たいなあ」

捜神三国志・燭龍本紀

休昭「きたきた、わが家の二大連載」
法正「思うに、このHPのメインの連載のうち、二本が董家で主役をつとめておる、というのは問題だな。
なにをはさみのに渡せば、そんな厚待遇になるのだ」
休昭「なにも渡していませんよ。きっとわが家の『質実剛健』の家風が、このHPの主役たるにふさわしいものだったと……」
くっきー「董和は人物伝を読んだときに『すごい人だな』と思って興味をもち、そして主役に据えることに決定。
休昭に関しては、単に気弱でおどおどしていて、シンパシーを覚える部分もあり、書きやすかったことや、趙雲の立場をより際立たせるなどの理由から抜擢された、とは、はさみのより」
休昭「父上はすごいが、わたしって……」
文偉「そう落ち込むことはなかろう。主役は、ふつうにうらやましいぞ。なんだかんだと、おまえのほうが、じつは主役を勤めている作品が多いな。
中短編でも『笛伶』だろ、『黒棗の実』だろ、『樊籠宿の悲劇』もそうだし、『日和』もそうか。書きやすいというのは、ほんとうなのだろう」
くっきー「費文偉は、史実のなかでも蜀の重要人物であるから、そうした大きな史実の事件を背景にした話で活躍してもらう予定がある。逆に、たしかに高名ではあったが、はっきりなにをした、という具体的な記述がない董休昭のほうが、いろいろと自由に動かせるという側面もある」
劉巴「なるほど、尚書令も文偉も、いつなにをしたか、けっこうわかっているし、社会的にも立場が高かったこともあるからね。
だから逆にいえば、主役はめったにないけれど、あちこちで重要なポジションで顔を出す、ということだよ」
法正「しかしあれだ、こやつは、このままで大丈夫か。あえて伏せるが、こやつは史実どおりの人物になる、というゴールがあるわけだが、果たしてそこにたどり着けるのか、見ていると不安になることがあるぞ」
休昭「うう、それって気遣ってもらっているのか、励まされているのか……精進します」

くっきー「さて、それでは、燭龍本紀のマメ知識から行こうかのう。
この連載は、当HPの最初の連載なのだ。歴史としては、初回から途中までずっとつづいていたのだが、2006年に中断し、そのまま一年近く放置状態になってしまっていたが、去年のGWに、大刷新されて戻ってきた。
初期の連載というのは、頭のなかで設定をまだ練っている状態で、諸葛亮の設定も偉度の設定も、ほとんどできていなかった。孤月的陣と並行して連載していた、ということもあり、『伝奇冒険小説』のはずが、限りなく孤月的陣の流れに近づいてしまったのだ。
史実を意識しすぎて登場人物が多くなりすぎ、ぐだぐだな展開になってしまったので、仕切りなおして、連載の途中から書き直している、というのが現状である」

文偉「旧版と刷新版の両方があるのは、そのためなのですか」
くっきー「そう。刷新版のほうが、より『最初に書きたかった話』になっているかと思う。
はさみののやつも、すこしは成長を見せているようだ。その進度は、尺取虫並のレベルではあるが」
劉巴「新規のお客さんにオススメなのは、もちろん刷新版だね」
くっきー「そのとおり。旧版には劉巴どのも登場する(しているんですよ)わけだが、刷新版は残念ながら、登場予定はない。
両方読み比べて、はさみのが迷走していくさまを見るのもよいが、まず始めに『刷新版』のほうを読むことをオススメするぞ。それでは、まずはおはなしのだいたいのあらすじを見ていこう。
前回同様に、ネタバレはいやだ、という人は、つぎに★が出るまで、ぐぐーっとカーソルを下げてくれい。よろしくお願い!」

あらすじ

劉備が入蜀して間もない混乱期。
あたらしく国の頂点に立った法正によって人事が発表されるのだが、かねてより法正と仲のわるかった董和は、人事から外されてしまい、事実上の引退に追い込まれる。
そんな折、いつもの店で『九門古城』なる巨大地下遺跡に潜ると、宝を手に入れられると喧伝する男の姿を目にする。
きな臭い話だと思いながらも帰路についた董和は、その途上で、男を捕縛する、ほかならぬ店の常連客で、かねてより面倒をみていた長星橋の商店街の面々の姿を見る。
事情をたずねれば、『九門古城』の話はほんとうで、九つあるという門のうちのひとつを、仇敵である栄耀飯店の張大人が抑えていて、成都中の悪党を仕切り、地下へ潜らせ、入場料を徴収し、さらには地下で得た宝物の上前を跳ねている、という。
男を捕らえたのは、張大人の命令によるもので、商店街の面々が張大人の命令をきかざるをえないのは、劉備と劉璋が戦ったさいに、一時的に商売ができなくなり、借金を抱えてしまったからであった。

九門古城に多くの盗賊や悪党たちがこだわる理由は、その最下層に眠ると言われる『得れば必ず天下を取れる宝』の存在。
ほんとうの名前も正体もわからない、そのあやふやな宝を求めて、毎晩のように盗賊たちはしのぎを削り、我先にと地下へ、地下へと潜っていた。
古城には、他にも多くのめずらしい宝が眠っており、それをうまく発見することができたなら、大金を得ることも可能である。

それを聞いた董和は、かれらの借金返済のため、引退した身を利用し、九門古城へ潜る決心をする。
張大人は董和に、父の借金を返すために張大人に仕えている青年・胡偉度、そして親族だという張伯岐という青年のふたりを仲間として与える。
さっそく準備をして古城に潜る三人であるが、古城の広さは思った以上にあり、しかもそこで繰り広げられる光景は、なんとも血なまぐさいものであった。迷路のようになっている構造、しかもあちこちに仕掛けられた、仕組みのわからない罠(?)の数々。
果てのわからない闇の中、初っ端、馬孟起・彭恙の二人組に出会ってしまった三人は、善戦するも、その強さに圧倒され、逃げる。
夢中になって逃げた三人であるが、張大人のもつ地図にない道に来てしまう。
道を進んだ董和は、そこで九つの門のうち、あらたに二つを見つける。
その過程で『ぼんやり考え事をしつつ馬で散歩していたら、うっかり穴に落ちた』という胡散臭い身の上話をする、見なりもあやしい赤い頭巾をかぶった男・名前もそのまんま、赤頭巾と出会う。
赤頭巾の話から、地上への入り口を見つける董和たち。

地上に戻った後は後で、成都を事実上占領状態に置いている荊州兵の動きがおかしい。
事情をさぐれば、張大人の元に、黄色い輝石をはめた指輪の人物の死体が投げ込まれて騒ぎになっているというのだ。
張大人のもとへ戻ってみると、そこでは、突然に門の閉鎖を告げられ、不平不満をぶつける悪党たちの姿があった。
そのなかでも、仲間とはぐれた黒イ族の姫・祝融は猛抗議をするが、結局、突っぱねられ、引き下がることになる。

翌朝、董和は早朝に軍師将軍・諸葛孔明の訪問を受ける。
その訪問の理由が『屋敷を売ってほしい』という唐突なものであったため、董和はこれを断わる。
昨日のことがあるため、不安をおぼえる董和のまえに、馬超があらわれ、そのまま逮捕されてしまう。
容疑は、董和が成都中の蝋燭を買い占めて値段を吊り上げた、というもので、これは古城のことを知った董和を消すため、張大人と法正が仕組んだ罠であった。
その法正と、馬超がさらに手を組んでの逮捕劇だったのである。

逮捕され、鞭打ちの拷問を受ける董和だが、もちろん嘘の自白はできない。
法正は董和にそのまま罪をかぶせ、処刑してしまうことを決める。
一方、なにもしらずに宮城にて職務に励んでいた息子の休昭も、おなじく連座の罪に問われて逮捕される。
窮地に立たされていた董和のまえに、お忍びで、思いもかけずに孔明がやってくる。
孔明は、この窮地から救うので、屋敷を売れとくりかえす。
その理由も奇妙なもので、孔明は董和の敷地内に九門古城の門のひとつがあるはずだ、という。
おどろく董和に、孔明は、さらに意外な話をはじめる。
孔明の遠い祖先は、かつて九門古城を建造した一族と同一であり、いにしえの大乱にて各地に散り散りになってしまったが、孔明の先祖だけが九門古城の門の地図を子孫に伝えていたのだという。
しかし董和は、孔明が古城にこだわる理由を聞いて驚く。孔明の目的は、法正らとちがって『得れば必ず天下を取れる宝』の存在ではなく、九門古城の秘密そのものを永遠に封じてしまうことであった。
秘密を封印するということは、すなわち、それを知ったもの全てを消す、ということである。
その人を人とも思わぬ倣岸な口ぶりや、乱暴なほどの強引すぎる考えに反感をおぼえた董和は、孔明の助けを拒む。

翌朝、処刑場に引き出される董和であるが、そこへ商店街の有志を束ねて、董和奪還に向かってきた赤頭巾に救われる。孔明も荊州兵を率いて乱入してくるのだが、董和と孔明、そして孔明と赤頭巾の決裂は、その場で決定的なものとなる。
傷を負った董和は長星橋の屋敷に匿われるが、孔明の動きを止めるため、だれよりもさきに『得れば必ず天下をとれる宝』を奪取することを決意。あらたに仲間を募る。
すると董和の元には、手塩にかけて育てた部下さえ切り捨てようとする孔明のやり方についていけなくなった趙雲、仲間を助けるためにやってきた黒イの姫・祝融があらわれる。
あらたな仲間を得て、董和は古城を目指す。

一方、牢屋につながれた休昭は、父の解放を知らぬままである。その休昭を助けるため、親友の文偉は、わざと騒ぎを起こして、自分も牢屋に入る。
その騒ぎに便乗して、仲間にくわわる赤頭巾。
正体のわからぬ男とともに牢屋に行ってみれば、運良く、休昭は董和に恩義があるという盗賊たちに匿われ、無事に過ごしていた。
盗賊の頭目である陳勝の話から、牢屋の拷問部屋の地下に、九門古城の入り口があると知った赤頭巾は、そこに夜な夜な出入りしているという彭恙を利用して、全員で脱獄する計画をたてる。
計画はうまくいき、脱獄には成功した赤頭巾ら一行であったが、地上に出るまえに、豹変した彭恙に襲われ、しかも、首のない不気味な化け者からも襲撃を受ける。散り散りになって逃げる赤頭巾、そして休昭と文偉ら。

さらにもう一方では、張大人によって『得れば必ず天下をとれる宝』だという図讖(予言)の綴られた部屋を教えられ、有頂天になる法正の姿が。
しかし喜びも束の間、図讖を読めるという巫女を、蛮族の男に目の前でさらわれるわ、劉備が失踪するわ、そのために孔明と手を組まざるをえなくなるわで不運つづき。

さまざまな思惑を絡まるなか、九門古城の深淵に辿りつくのは、いったい誰なのか? お話はこれからも、もうちょっとつづく! 
くっきー「はい、ありがとう、ここでネタバレはおしまいです★」

文偉「これも登場人物の多い話だよなー。覚えるのが大変」
くっきー「ありがたいことに、こちらは刷新版のほうが読みやすい、と、ご好評をいただいているのだな。このHPでは初めて悪役となる諸葛亮のほうも、なんとか受け入れられてもらっている様子」
法正「わたしはいい迷惑だ。あやつが悪役、という流れは、物語の最初から決まっていたことなのか」
くっきー「そのとおり。旧版では、その設定の名残が、最初のほうにすこしだけ出ているのう。
諸葛亮の先祖が云々、という設定も、このHPの立ち上げ当初に固めていたものだったのだが、あまりに荒唐無稽に過ぎるかな、と思い、本編では適用しなくなったもの。
この設定は、じつは『ずんだ』に受け継がれている」
文偉「それ、だいぶ前から言っていましたね、大昔の滅んだ王国の一族って、いったい、どこの国のどなたさま?」
くっきー「それはひみつ。でも、当時の中国人なら、その名前を聞いただけで『はいはい……ってか、マジ? アンビリバボゥ』となるはず」
文偉「なんで……英語……」
くっきー「小さな『ゥ』にこだわりをつけてみました」
文偉「わかったよ……」
くっきー「泰山に祀られている神は、泰山府君、まー、わかりやすくいうと、閻魔大王の手下の一人で、冥府の人事課課長みたいな役目をしている神様となっているわけだ。
人の寿命を司る、という意味で、同じく死を司る北斗とは縁が深く、演義などで孔明の意匠に北斗がよく使用されているのも、おそらくそのあたりの道教的イメージを借りてきたのだろう。
これはあくまで推理なのであるが、もともと、この泰山のあたりには、北斗を信奉する民族か氏族がいたのだろうな。
泰山が特別な土地として、ここで封禅の儀が行われる、というところからしても、『今度あたらしく地上を仕切らせてもらうことになりました○○です。どうぞよろしく』と気を遣わなくちゃならない怖ろしい神だった、ということがわかる。
どうしてそこまで怖がられる存在となったか? 泰山に祀られている神の大元は、大半の大陸に住んでいる者たちの先祖たちを大きく脅かした『敵』(異国の王か、それを象徴するもの)だった、と考えるほうが自然ではないか。
そこまで強烈な印象を残せるものは伝説になっていないか。では、その伝説といったら? 
と、そこで考えたのが、物語のなかの諸葛亮のご先祖。長江流域にあったという文明の発掘レポートとかも読んで、『古城(遺跡)』ことも思いついた、という次第」

法正「そこを隠すことに、意味があるのか」
くっきー「意味があるのだよ。まあ、物語は中盤に入ったので、そこから先の展開を楽しみにしていてくれたまえ。
さて、ここで門と階層の様子を説明しておこう。

第一の門=張大人が仕切っている栄耀飯店の地下の門
第二の門=酸の海となっている洞窟
第三の門=成都の神政門のそばにある玄女の庵の敷地内にある
第四の門=成都の宮城の拷問部屋の地下にある
第五の門=孔明が荊州兵に使用させている門
第六の門=孔明が荊州兵に使用させている門に通じる古井戸
第七の門=董和の屋敷の敷地内のどこか
第八の門=不明
第九の門=不明

九門古城(九つの門をもつ地下遺跡、という意味。第一階層から下にくだるに従って、どんどん狭くなっていく。
古城の地図は成都の宮城にひっそりと伝わっていたが、これを先代の陳勝が盗み、さらにそれを張大人が奪った。
もう一方の、張大人の把握していない古城のスペースの地図は孔明が先祖から伝えられている。
孔明は偉度をとおして張大人側の地図も手にしているため、いまのところ、内部の構造にもっともくわしいのは孔明、ということになる)

第一階層=もっとも広い、城か要塞のように、あちこちに住居のためのような部屋があり、さらには不思議な仕掛けも満載な空間
第二階層=商店街のような空間がひろがっている
第三階層=不明
第四階層=不明
第五階層=図讖のある階。あちこちに水路が張り巡らされ、そこを行き来するためのボートが常備してある
第六階層=住居のように細かく仕切られた部屋のなかで、絶え間なく胞子を噴出す巨大植物の生えている不気味な空間」

くっきー「さーて、お楽しみ? の登場人物紹介。ちなみに登場人物は、椒聊のときと同じように、家や民族などでグループ分けしてみたぞ」

登場人物紹介

董家

董和(幼宰。董家の五男坊で、若いころに荊州から益州に移住し、そこで成都の風紀を取り締まる強面の官僚として大活躍。その柔軟さと、悪を恐れぬ勇敢さは、民からの絶大な信頼と支持をあつめている。
法正のいやがらせでリストラされたが、その後、長星橋商店街を助けるため、九門古城へみずから潜入することを決める、中年英雄)
董允(休昭。幼宰の一人息子で甘ったれ。十七という年齢よりずっと幼いが、董和もそれでよしとしている面もある。引っ込み思案であるが、ちゃんと自分の意思はあり、いざとなるときちんと主張できるところは父子)
じいや(董家の家事を取り仕切る、なんでもできるスーパーじいさん)

長星橋商店街のみんな

晴嬰(この物語のヒロイン。家宝を狙う豪族に罠にかけられ、兄を殺された過去をもつ。幼い晴嬰を救ったのが董和で、以来、董和を慕っている、飲み屋を一人で取り仕切る)
竹細工屋の親父(出っ歯の、ネズミのような顔をした、商店街の知恵袋)
肉屋の親父(商店街いちばんの力持ち)
卵売りの親父(成都中のあちこちを商売で移動するので、情報活動に長けている)
鍛冶屋の親父(董和のためにボランティアでせっせと武器をつくってくれる、腕のよい親父)
張大人(長星橋を裏からも表からも仕切る、成都のありとあらゆる黒い商売に手を染めている悪党で、栄耀飯店という高級ホテル兼賭場を経営する男。年齢も出自も不詳だが、つよい影響力を各方面に持っている)
張伯岐(張嶷。張大人を族父に持つ青年で、田舎において、盗賊の押し入った県庁に残された県令夫人を、単身で斬りこみ救い出した武勇伝をもつ。
漢族ではないおのれの身にコンプレックスを抱いている節もある)
胡偉度(病気の父の高額な薬を買うため、借金を負った、気弱そうな青年。借金返済のため、いやいやながらも張大人のもとで主簿をつとめている、ということになっている。このシリーズでは『壷中』そのものは登場しない)

黒イほか、周辺民族の方々

ゾトアオ(漢名は孟獲。黒イの医者の息子として生まれたが、その優しさゆえに、漢族の悪辣な侵入と抑圧に怒りを爆発させ、叛徒を率いて戦った人物。
実質上の黒イの長として、その名もひろく知られている。黒イの姫である祝融に一目ぼれし、これについてくる形で成都にやってきたが、宝そのものには、あまり興味は持っていない。熊のような体格の持ち主であるが、理知的な現実主義者である)
祝融(黒イの姫。九門古城を祖先が作ったものだと信じ、そこに眠る宝を得て、漢族を逆に支配してやろうという野望を持っている。炎のような激情家の美女)
寧寧(僚人の娘で、都会である成都に行きたいという単純な理由から、いまは里を出ていった幼馴染から聞いた九門古城の成り立ちの話を、自分の先祖の話だと偽って申告。そのために張大人に騙されて古城に幽閉されることになってしまった)
玄女(馬超を支援する、成都在住の羌族の長。巫女であり、医者でもある。羌族以外の近隣住民からの信頼も厚い。しかしその素顔はだれにもわからず、体中を、間に合わせの布でぐるぐる巻きにして隠している)

宮城のひとびと

劉備(玄徳。孔明と法正の動きを怪しく思いつつ、いまは傍観している。なんともはた迷惑な裏の顔を持つ)
法正(孝直。尚書令として蜀を仕切る男。骨董集めが趣味。目的のためには手段を選ばない。張大人より九門古城のことを聞き、図讖のことを教えられて喜ぶが……)
諸葛亮(孔明。法正と対立する荊州からの移住組の長。九門古城のひみつを隠蔽するために、敵味方関係ない虐殺を前提に、九門古城の封印計画を実行しようとする、冷徹な人物。先祖の呪縛に取りつかれているような言動をする)
趙雲(子龍。荊州三郡統治時代に、人質でもあった孫夫人を取り逃がすという痛恨のミスをしたため、左遷されていた人物。孔明によって拾われた、という恩義を強く感じていたが、次第にエスカレートする孔明のやり口についていけなくなりつつある。しかし、見切りをつけたわけではない)
馬超(孟起。入蜀におおいに貢献した羌族の英雄であるが、いまは脱力したかのように、ただ流されて生きているふうでもある。親友の彭恙に誘われるまま古城に潜るが、董和の逮捕をきっかけに、徐々に変化が現れつつある)
彭恙(永年。広漢の出身の元流浪の傭兵隊長。?統とウマが合い、入蜀に貢献したのだが、その素行の悪さより敵も多く、高い地位を得ることはできなかった。その恨みつらみを『戦功を立てればいい』という奇妙な理由に結び付けて、古城にて目についたものを殺戮していく、という凶行をくりかえしている)
費褘(文偉。休昭と同期のいまは零落したものの名門出身の若者。友人思いで、わざと自らも罪を犯して、これを助けに行こうとする)

盗賊

陳勝(『陳勝』は巴蜀を中心に活動する義賊の、その頭目が代々受け継ぐ名前で、先代の陳勝は張大人によって殺されてしまい、いまの頭目は、張大人に罠にかけられ、手下ともども捕らわれの身となっている。
と、ここまではオリジナルの設定だが、陳勝という名の大盗賊がいたのは事実で、これを鎮めるために李巌は広漢に派遣されている。
つまり、本編Aにおいて李巌が『盗賊を取り締まるため広漢に駐留している』という、その盗賊は、陳勝のことである。燭龍とごっちゃになってしまうのを回避するため、本編Aでは、その名前をあえて出していない)

ナゾの人


赤頭巾(どこのだれだか知らないけれど、だれもがみんな知っている。人をおちょくったふうではあるが、その行動にはちゃんと理由のある、愛すべき赤頭巾。口八丁手八丁で、どんな難局も明るく切り拓いてしまう)

とまあ、こんな感じかのう。いままでセンキュー」

休昭「思っていたより、登場人物って少ないね」
くっきー「伝奇冒険小説を目指しているからのう。椒聊のようにやたらと人間が登場してごちゃごちゃ、というものではなく、荒唐無稽な設定と舞台を背景に、人物がそれぞれ絡み合い、戦うさまを純粋に楽しんでくれたまえ」
法正「さて、これであとは『ずんだ』か」
劉巴「例によって例のごとく、また残りスペースがないようだけれど?」
休昭「まだつづくの? というか、もうこのまま四月に突入する気配が……」
くっきー「はいはい、あと一回、あと一回で終わりだからね。ブーイングはよす! あとのこり一回、今度こそマジ最終回! 
さーて諸君、せっかくだから最後まで付き合っていきたまえよ! そのほうが気持ちもスッキリするだろうが」
文偉「うーん、まあ、確かになあ」
休昭「でもずんだって、設定ページとかあるし、定期的に『あらすじ紹介』もしているし、いまさら解説はいらないような気がするけれど、どう?」
くっきー「最終回は、『ずんだ』の解説+αだよ」
文偉「って、まーた、そのαの部分って、要るのかいらないのかよくわからない前フリのことじゃないですか……って、うわあ、うさぎがチョーク投げた!」
くっきー「百聞は一見にしかず! ともかく次回アップをお楽しみに!」
休昭「逆ギレ……うーん、小説に出たいなあ……」

というわけで、あと一回です。
すみません、もう少々、お付き合いくださいませm(__)m

6につづく…
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