くっきー先生の「はさみの教室」④
毎度おなじみ、仙台市中心部にある某雑居ビルの3階。
休昭「なんだかんだと、また来ちゃったね」
文偉「真面目なのだけが、我らのとりえだからな。さーて、くっきー先生は今日も元気かな、と」
休昭「なんだか馴染みまくっているよね、文偉。そういうところは、わたしのまねできないところだな」
文偉「おまえだって、いつものとおり、空気のように馴染んでいるじゃないか」
休昭「空気……いいけどさ」
二人がいつものとおり、エレベーターで三階に上がると、例によって例の、灰色の垂れ耳うさぎが、二人に背を向けて、廊下にぽつんと立っていた。
教室のどこからか、なぜだか懐かしのメロディのイントロが流れてくる。
と、うさぎは両手を高々に挙げると、マイクを模した紙を中心に、頭上に大きな円を描きながら、リズムに乗って踊りだした。
そして音楽に乗って、突如としてポーズをとって、言う。
くっきー「♪UFO!」
文偉「まさかのピンクレディー! ちょっと待て、いま、あの扉の向こうでは何の講座が行われているのだ?」
休昭「えーと、パンフレットによれば、『ものまね講座』だって」
文偉「ものまねでピンクレディーって、ちょっとネタとしては古すぎやしないか。
ピンクレディーの全盛期は、いまの四十代後半がど真ん中くらいのはずだぞ。十代は、名前を聞いてもわからないくらいじゃないか?」
くっきー「♪手を合わせて見つめるだけで♪」
休昭「なりきっているよ、くっきー先生。話しかけたら、また怒られるかな」
文偉「しばらく放っておくか。しかし中をちょっと覗いて見たいな。どういう人たちが参加しているのか気になる」
休昭「たとえばさ、老人ホームとかの慰問でやると、古いネタでも受けるんじゃない? 団塊世代よりちょっと上の世代なら、わかるネタだもの」
文偉「あー、そうか。しかし、平成生まれには、もう判らぬネタだな、これは……判るか、といったら、winkだって怪しいぞ。
関係ないが、意外とピンクレディーの歌はカバーされないな。オリジナルのインパクトが強かったせいだろうか」
休昭「そういえば、カバーって、あんまり聞いたことないね」
くっきー「♪ぺっぱー警部! 邪魔をしないでーえぇー♪」
休昭「曲が変わったよ」
文偉「この曲も不思議な曲だな」
休昭「どこがさ」
文偉「不思議に思わぬか。この歌はいちゃついているカップルに『ペッパー警部』なる警察関係者が『家に帰れ』と邪魔をして、それがもう! という唄だろう。
しかし巡査ではなくて警部だぞ? おまわりさんがパトロール中に声をかけてきたんじゃない、ということだ。どういう状況?」
休昭「非常線が張られていたんじゃない? たとえばルパンが出没したとか」
文偉「銭形かい。というか、『ペッパー警部』自体、国籍は何だ?」
休昭「考えたことがなかったなあ。思いつくのといったら、炭酸飲料のドクター・ペッパーか、ビートルズのあれだ、『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。年代的にリンクするかな?」
文偉「待て。ペッパー軍曹が退役して警察官になって警部になった? どういうスピード出世だ。
もともと警部だったものが、兵役で軍曹になったのだとしても、なんだかかみ合わないぞ」
休昭「たんに血縁かもしれないじゃないか。ペッパー兄弟で、兄が警部で弟が軍曹」
二人があれこれ話しているあいだに曲は終わり、突如として垂れ耳うさぎは、激しく息をついて、その場に崩れ落ちた。
休昭「く、くっきー先生、しっかり!」
駆け寄ろうとする二人。
しかしたれ耳うさぎは、ぜえはあと荒い息を繰り返しながら、くるりと振り返ると、叫んだ。
くっきー「ツッコミが遅いわ! ペッパー警部で踊り死ぬところであったぞ! 『なんでうさぎがペッパー警部なんだよ!』とかつっこめ!
ツッコミに、迷いは不要! ツッコミどころをみつけたら、すばやくツッコむ! スベることを恐れるな!
そなたら、それでも諸葛亮の部下か! つっこみのタイミングがなっちょらーん!」
両手を挙げてキイキイ怒るうさぎに、休昭と文偉はうろたえ、うなだれる。
休昭「やっぱり突っ込まなくちゃいけなかったんだ……す、すみません」
文偉「というか、われわれはたしかに営業部長兼経営企画部長兼社長室長(マジ長い)の部下に当たりますが、なぜご存知なのですか」
くっきー「だって、講座の申込書のところにあったから。『もなかの部下』って」
休昭「そんなこと書いたっけ……っていうか、うちの営業部長兼経営企画部長兼社長室長(うんざり長い)のあだ名の『もなか』まで知っているなんて、すごいうさぎだな」
くっきー「わたしはなんでも知っている。ライバルはウィキペディア」
文偉「なんでも? えーと、それじゃあ、浅田真央ちゃんの誕生日を教えてください」
くっきー「ググレカス」
文偉「……物知りなのはまちがいないみたいだが、悪い言葉を知っているな、このうさぎ」
ナゾの男「あまりそいつを本気で相手にするな。基本的には楽しませたがり屋で、リップサービスが過ぎるクチだから」
やたらと渋い落ち着いた声が二人と一匹にかかる。
振り返るとそこには……
休昭「ぎゃあ!」
文偉「おお、営業一課長趙子龍!」
くっきー「おお、趙子龍、久しぶりだな、乙!」
文偉「このうさぎ、ちゃねらーか? というか、どうした休昭、口から蟹みたいに泡が出ているぞ!」
休昭「あばばば、あ、あわ? 気のせいだよ、きっとガムの噛みすぎかな?」
文偉「ガムの噛みすぎでそんなふうになるか。そういえばおまえ、課長の前に出ると、やたらと落ち着きがなくなるな」
休昭「いやあ、そんなことはない、よ? うん。はは」
言いつつ、休昭はちらりと趙雲を見る。
趙雲のほうは、まったく休昭を気にしていない。
しかし、休昭のこめかみからは、たらりと冷たい汗が一滴垂れる……
それはある夕暮れであった。
アルバイトの終業時間も近くなり、個人情報の記載のある書類をシュレッダーしようとした休昭であるが、あいにくと自分が勤めている総務部のシュレッダーが壊れていた。
そこで別の階にある営業課のシュレッダーを借りに行くことになったのであるが、ちょうど営業には内勤もほとんど席をはずしており、いるのは趙雲と、見たことのないどこかの課の女子社員であった。
ふたりは至近距離で、なにやらぼそぼそと話をしている。
ブランド越しに見える夕日をバックに、なにやら絵になる光景ではあるが、邪魔をしてはいけない空気も漂いまくりだ。
こりゃだめだ、気は進まないが、経営企画課(なぜかというと、経営企画課には人使いの荒い孔明直属の部下・胡偉度がいて、目が合うと仕事を押し付けてくるのである)に行ってシュレッダーを借りようかな、と思っていると、女子社員のほうが、趙雲に一通の手紙を差し出した。
メールの時代に、古典的にも、ラブレターらしい。
果たし状ではないだろう(しかしノリは近いものがある)。
もともとモテる男だということは知っていたから、さすがだなあ、などと思ってみていると、女子社員がこう言う声が聞こえてきた。
「こんなことお願いしてすみません。でも、課長が営業部長兼経営企画部長兼社長室長(あきれて長い)と親友だって聞いたんで、ごめんなさい、本人はコンマ一秒の世界の住人なんで、呼び止めようとしても、ちっとも捕まらないし、内線はいっつも『話中』だし、メールだとなんだし、それに、あのひとの顔を見ていたら、怖くて、とてもじゃないけれど告白なんて出来なくて、こんなこと頼んで、ほんとうにすみません、読んでくださいって、渡してください!」
たしかに趙雲は孔明の大のつく親友である。
要するに、孔明に告白したいが勇気がないので、ラブレターを趙雲経由で渡してくれ、ということであるようだ。
女子社員はそれだけ言うと、恥ずかしくなったのが、そのまま駆け去ってしまった。
休昭のほうには気づかなかったらしい。
呆気に取られていた休昭であるが、つぎの瞬間、もっと凍りつくことになる。
ラブレターを受け取った趙雲は、それを一瞥するや、まったく迷う素振りをみせず、そのままシュレッダーに手紙を入れてしまったのだった。
ガーッと。
そのときの、シュレッダーが無情にも手紙を飲み込んでいく音を、休昭はいまだに覚えている。
そして裁断されていくその手紙を見つめる趙雲の顔は、おそろしいほど冷たく思いつめたもので、休昭は、そのとき、この普段はそこそこに人当たりの良い、出来る社会人の鑑のような男の本当の顔を見てしまったのだった。
以来、休昭は、怖くて趙雲のそばに近寄れないでいるのである。
文偉「今日は課長も受講に来たのですか。というか、もしかして、くっきー先生と前からの知り合い?」
くっきー「この男は仙台じゅうの動物と知り合いなのだぞ。だからわたしとも知り合いなのだ。さすが出来る男はちがうのう」
休昭「それってムツゴロウさんよりすごいスキルじゃ……というか、営業マンが動物と知り合いって、どんなメリットがあるんだろう……」
くっきー「お客さんとペットの話で盛り上がります」
休昭「それだけじゃん」
くっきー「はいはい、そういう細かい突っ込みは不要! 教室に入った。入った。くっきー、渾身の最後の講座、始めてしまうぞい!」
文偉「先生、今日は、生徒は三人だけですか」
くっきー「きつねも怪人も一時間前にスタンバイ」
休昭「うわあ、ほんとうだ。どうしよう、どこに座る?」
文偉「この間と同じ作戦にしよう。課長は休昭のとなりにどうぞ」
休昭「ええ、ちょっと!」
文偉「別にいいだろー。課長は貧乏ゆすりをしたりしないし、資料の端っこでぱらぱら漫画を作って、無理矢理笑わせようともしないし、大人しいものだぞ」
休昭「そりゃそうだけど。というか、貧乏ゆすりをするのはきつね、ぱらぱら漫画は文偉、君だろ……座っているだけだからいいか……どうぞなにも起こりませんように」
こうして最後の講義がはじまった……
連載のこれから。
くっきー「さーて、よく集った、わが生徒諸君! 今日は最後の講義となるわけであるが、ここでいよいよ今現在進行形の連載のあらすじと登場人物、そして予告などをさまざまに含めて紹介していくぞ。
これで『はさみの世界』ビギナーもあんしん! そして常連さまも、『ああ、そういう流れだったっけ』と抵抗なく続きを読めるという仕組み!」
法正「というより、はさみのが無計画に短期集中連載を二回も突っ込んだから、よくないのであろうが」
劉巴「しかもそれぞれ長かったからねぇ。われわれの出番もぜんぜんなかったし」
くっきー「はい、そこー、ツッコミはツッコミでも、くっきー先生、そういうのはうれしくないぞー。
というわけで、さくさく行く。まずは本編Aから参ろう。『飛鏡、天に輝く』」
趙雲「毎日アップしているものであるし、それは不要ではないか?」
くっきー「ブログまとめアップもあるから、たしかにそうかもしれぬが、ま、ここはかるーく説明しておくぞい。
『飛鏡、天に輝く』 あらすじ
要するに赤壁。
おしまい」
文偉「うぉい! 意味ねー!」
くっきー「はーい、活きのいいツッコミがきました。先生、うれしいでーす。
というのはさておき、三国志屈指の名場面である赤壁だな。それを孔明視点でアレンジしてある作品なのだ。さらには、そこにつづくまでの流れがあって、物語がちょっとほかと違うよ、という」
劉巴「おそらく最初にこの連載を読んだ人は、『壷中ってなんだろう』と首をひねっているだろうね」
くっきー「その質問を待っていたぞい。さて、ここから激しくネタバレ。孤月的陣からこの作品につづくまでの連作すべてを、楽しく読みたい、という方にはオススメしないので、スルーしてくれたまえ。
そうさのう、つぎに★が出るまでざーっと画面を下に下ろしてくれたまえ。★が出たならネタバレは終わりだよ。
壷中とは、黄巾の乱などの戦乱で大量に北方より荊州に難民が雪崩れこんできた時期に、とくに戦災孤児を救うための学問所を作ろうと、孔明の叔父である玄が劉表に提唱してはじまった組織であった。
ところが劉表と、その側近である荊州の豪族たちの一部は、この組織を悪用することを考え、子供たちに過酷な修練を積ませ、細作にしたり、あるいは娼妓のようにあつかったりして、裏から荊州の平和を守らせていたのだ。
そのことを知った孔明の叔父は、激しく抗議するのであるが、もともとが荊州の人間ではなかったことから、味方を得ることができず、逆に命を狙われる。
その代わりに当時、十六になっていた孔明を差し出せ、と要求されるのだが拒み、とうとう暗殺されてしまうのだ。
その後、この組織にあらたに播天流なる男があらわれ、さらに組織を先鋭化し、より非人道的なものに変えていった。
最初は戦災孤児を集めたものであったが、世情が落ち着いてくると、逆に子供たちを誘拐したり、あるいは無理矢理に親から奪ったりという所業をくりかえすようになっていった。
この組織は荊州のあちこちに村と称する修練場があって、そこに子供たちをあつめて教育をしていたのだな。
で、紆余曲折あって、『孤月的陣』で孔明と趙雲は、その組織の存在を知り、互いの過去と向き合いつつ、この組織を潰す。
そのときに孔明が樊城から掬い上げた子供たちの代表が胡偉度なのだ。
壷中という組織は荊州独自のものであったのだが、かれらの一部が諜報活動をしていくうちに、漢王朝が長きにわたり存続させていたふるい組織と接触し、かれらと融合するようになった。
かれらの目的は『正統な血統をもつ劉氏による漢王朝復活』。
劉備はこれに当てはめるには血が遠すぎるため、味方に数えられていない。
もちろんその長は、作中では「あの御方」とぼやかして描かれているが、『献帝』その人である。
この組織の一部が趙雲の幼なじみの夏侯蘭であったが、いまは裏切って仲間となっている。
一方で、献帝の熱心な信奉者が劉琮で、偉度たちとは決別した、より過激な一派が、いま、孔明たちと対峙している形となっている。
孔明とかれらが対立する理由は、その思想信条が合致しない、という点と、孔明にとっては、壷中は善意であったにしろ、叔父が作ってしまったものだという負い目があること、そして最後にここが重要だが、孔明は、袁術がバラバラにして家臣に守らせた玉璽の一部を持っているため、壷中はその奪還を狙っている、というわけだ。
はい、ネタバレはおしまいだよ~★」
文偉「へえ、そういう話だったのか」
劉巴「こうして壷中のエピソードだけを抜き出すと、わかりやすいね」
法正「ミステリー仕立てになっている話が多いうえ、やたら構造が複雑だからのう。うむ、こうしてあえてネタバレを披露したのは、よいことだったのではないか」
くっきー「ネタが割れても時間のあるときに、ほかの作品も読んでみてね!」
休昭「くっきー先生に、はさみのが憑依したようです」
文偉「本編Aでもうひとつとなると、『椒聊よ、遠き条(えだ)よ』ですか」
くっきー「さて、これにはいろいろと解説が必要になろうかのう。
もともとこの作品は旧版というものがあって、途中まで進んでいたのだが、はさみのが大きな失敗に気づいて、いったんこれを破棄し、書き直して新版にした、という経緯がある」
文偉「旧版は結構好評だったのに、なにが失敗したのですか」
くっきー「いろいろと収拾がつかないことが見えてしまったのだな。さすが、はさみの。ばっかだねぇ」
劉巴「まあ、それはともかく、この作品が唯一、われら一同が全員登場する連載だね」
くっきー「そのとおり。登場人物最多の物語なのだ。では、これに関してはあらすじを述べていくぞい。
これもやっぱりネタバレは嫌だなあ、という方は、次に★が出るところまで、ぐーっと画面を下げていってくれたまえ!
椒聊よ、遠き条よ あらすじ
孔明と法正の対立も落ち着き、蜀の世情も徐々に安定していくなかで、二人を凌ごうとする新勢力・李巌の台頭が著しくなってきた。
李巌は孔明の派閥である荊州人士を崩そうと画策し、つぎつぎと賄賂攻勢などをしてこれの切り崩しをはじめる。
しかも法正の娘を正妻に迎え、益州人士の味方もつけようという思惑なのだ。
ところが、この思惑を打ち破るように、李巌の側近たちが、何者かによってつぎつぎと殺されていく。
その異常な手際のよさから、犯人が浮かび上がるものの確証はない。
一方、七つ年上の未亡人・宋珪麗に片思いをつづける休昭は、珪麗が李巌に目をつけられ、その側室にされそうになっていることを知り、大混乱。
孔明のもとへ相談に行こうとしたそのとき、夜闇のなか、李巌の側近が暗殺されている場面に出くわしてしまう。その犯人は、ほかならぬ趙雲であった。
怯える休昭であるが、趙雲の強い口止めがあり、だれにもしゃべらないと約束することになる。
一方で、孔明側の側近の切り崩しをはかる李巌からも、休昭に対して味方につけと圧力がかかる。
職場で孤立する休昭。
しかし、李巌に味方すると約束したとたん、孤立は解け、休昭は李巌の力の強さに圧倒される。
趙雲との約束を破ることもできずに、どうするべきかと悩み続ける……
一方、呉の細作の芝蘭より、ナゾの暗殺者の存在と、同じような事件が呉でも起こったことを知った文偉は、芝蘭に協力し、この事件を解明することを決める。
さらにもう一方では、一連の事件が趙雲であろうと見当をつけながらも、確証が持てずにいる偉度に、李巌が挑発をしかけてくる。
その挑発に翻弄される一方の偉度に、親呉派である孔明の失脚をのぞまない呉から発破をかけられ、偉度の面目は丸つぶれ。
そうした動きを知りながらも、孔明は趙雲が自分のために事件を起こしているのだと知り、それらの罪をすべて引き受けると約束する。
趙雲は、孔明を守るためだけに、だれにも予想のつけられない動きをつぎつぎと起こす。
それに翻弄される休昭。
さらには、ナゾの男に付け回される陳到の娘・銀輪。
李巌の潤沢すぎる資産の出所とは?
そして趙雲の行動の真意は?
さーて、ナゾがナゾを呼びまくり、果たして収拾がつくのか?
はい、おつかれ、ネタバレおしまいです★」
劉巴「この話は、主人公はだれになるのだい」
休昭「えっ、わたしではないのでしょうか」
文偉「というか、一応、休昭の成長モノのように見せかけておいて、じつは主役は趙将軍だよな。
これがもしハリウッド映画だったら、休昭って、孤独な主人公の孤独さを、さらに引き立てるために死ぬ役どころだよね」
休昭「ええ? なに言い出すの、急に!」
法正「あー、あるある。最後に真新しい墓のまえに、好物かなにかを供えられて、主人公が「よくやったな」って言うパターン」
休昭「それでは史実ではなくなってしまいますよ!」
劉巴「はさみののことだからね、『休昭の死後、孤独に耐え切れなくなった董和を見かねて孔明が養子を紹介する。董和はその子にも『休昭』と名付け、そしてそれこそが正史に名を残した董休昭であった』……泣けるじゃないか」
法正「まさにハンカチを三枚ご用意ください、だな」
休昭「なに、そのもう死ぬことが決まっている、みたいな流れ! 死にませんよ! 死にませんよね、趙将軍!」
趙雲「え? ああ、すまない、もしそうなった場合の演技はどうすべきか、いま考えていた」
休昭「ちょっとー!」
くっきー「休昭の最期にも、ぜひご注目いただきたい。お楽しみに!」
休昭「死なないって! それと『お楽しみに』はおかしいから!」
くっきー「さて、どうするか迷ったけれど、この話は大変に登場人物が多い。
なので、これまでの登場人物をぜんぶ挙げてみることにした。
簡単なプロフィールもつけてみたので、忘れた方は、これを見て細部を思い出していただけるとうれしいのう。
さきほどあらすじを飛ばして読んだ方も、登場人物の紹介をざっと見れば、なんとなく話の雰囲気がつかめるのではなかろうか?
勢力や家でグループに分けて並べてみたぞ」
董家
董 休昭(董允。とりあえず主人公の十七歳。出仕しはじめて間もない書生。孔明の代わりに縁談を断わりにいった先の、その縁談相手に一目ぼれ。しかし相手には見向きもされず、ガッカリなところへ、次から次へと陰謀・策謀に巻き込まれる不幸者)
董 幼宰(董和。愛妻の残した一人息子を守りつつ、左将軍府の重鎮として、若い孔明らをまとめる役をこなしている有能な官僚。『燭龍本紀』の主役であるが、この話とは別設定なため、董和はふつうに孔明の部下(というよりは先輩)としてよい関係を築いている)
じいや(早くに女手のなくなった董家で、家事の一切を取り仕切る、有能なおじいさん)
宋家
宋 珪麗(休昭が一目ぼれした相手で七つ年上。十五の時に親に秘密で結婚したが、その結婚相手は国を出たきり行方不明。妾腹の娘ということもあり、実家で肩身の狭い思いをして、日長一日、庭で椿の世話をしている)
小春(珪麗の侍女。珪麗の乳母が死んで、その交代として、最近、田舎から成都にやってきたばかり)
宋 文徳(珪麗の父親。耳が遠く、いつも都合のよい聞き間違いをくりかえす。陳到の友だち。成都でも指折りの財産家で、珪麗をとても可愛がっている)
左将軍府
諸葛 孔明(左将軍府事にして軍師将軍。神がかり的な直感と破壊的な行動力とで局面を切り開く人物であるが、今回は『守られる側』として傍観者)
胡 偉度(孔明の主簿(秘書)。同じ壷中の村出身の仲間(元壷中の仲間たちは、互いを兄弟姉妹と呼び合う)とともに、孔明を裏から守る仕事も請け負う。李巌の側近が次々に惨殺される事件の犯人に気づいているのだが、後手後手にまわっている状態)
劉 子初(劉巴。孔明の師匠的立場にある、味方のような、味方でないような、謎めいた言動をくりかえす人物。元曹操の家臣であったが、劉備の入蜀に際し、その家臣となる)
蒋 公琰(蒋琬。孔明の弟子、と言っていい人物。現在、訳あって無職。孔明の勧めによって諸国を漫遊しているが、いまは偉度とともに事件の真相を探っている)
趙雲
趙 子龍(趙雲。裏の主人公。とある目的を果たすために、黙々とおのれの職務をこなす、そのストイックさが、いつになく不気味に目立つ男。いろいろと思惑があるようだが、それを他者には容易に明かさない。孔明にさえも。しかしたまたま行動をともにすることになった子犬のような少年には、すこしだけ本音を打ち明けるようである)
青 (青、とは馬、という意味でもある。巴の寒村から徴兵されてきたものの、兵卒にまるで向いていないおちこぼれ。いじめられないようにと、趙雲が庇って、休昭につけている。純朴で、趙雲の命令に素直すぎるほど素直に従い、裏の思惑にはまったく感心を払っていない)
李巌
李 正方(孔明と法正と、二分化していた蜀の勢力に、割って入るようにして台頭してきた男。元は劉表の家臣であったが曹操の南下とともに劉璋のもとへ。その後、劉備が蜀を狙っていると知ると、一早く降伏をしてきた人物。人物観察眼は抜群で、趙雲の過剰なまでの孔明への思い入れの裏にあるものに勘付き、これを匂わせ、孔明を脅かす。法正とは姻戚になることでその勢力を取り込み、おなじ荊州人士に属する孔明には、派閥を丸ごと乗っ取ることで権力を手中にしようとしている。そのためには手段は選ばない。孔明を暗殺しようとしたことも、一度や二度ではない)
高 (最初に殺された男。王連と李巌の連絡役をつとめていた)
呉 恵才(尚書。法正と李巌の縁談をまとめた人物であるが、何者かによって闇討ちされた)
昭 (李家の部曲(私設ボディーガード)の長。以前は劉璋の衛士をしていたが、とある失敗を咎められ、処罰されるところを李巌に救われている)
藩 季元(李家の家令で、は虫類のような顔をした男。切れ者で、李巌の信頼を得ており、その片腕として、さまざまな策謀に加担している。が、なかなかの野心家でもあり、冷徹な現実主義者)
史 (李家に多数出入りする商人を仕切っている、痘痕面の男)
呂 (李家に集められた妻妾たちを取り仕切る役目を担う宦官。元は劉璋の宦官であったが、戦乱のどさくさにまぎれて、李巌に取り入り、その屋敷に雇われることとなった)
李岩&李円(李巌の親戚筋にあたる兄弟で、李巌の禄とはつりあわない潤沢な資産の管理を担っている、らしい?)
きつね家
法 孝直(尚書令。実質上の蜀のナンバー2。この時点では、孔明は三番手に当たる。権限も地位も勢力の大きさも、法正のほうが上である。目的のためには手段を選ばぬがゆえに孔明と対立するが、根は生真面目で意外にも(?)高潔であるという共通点があるため、単に反りが合わない程度で、本格的にいがみ合っているわけではない。社会的には孤高の立場にいる男だが、一方で親友や家族をとても大切にする、優しい面ももつ。法正の残酷さは、かれらが傷つけられたとき、最高にその本領を発揮する。李巌を息子の法邈の後見人にする意味で、愛娘を李巌に嫁がせようとしている)
法正の妻(糟糠の妻。法正の社会的な立場も、評判も、そしてその本当の気持ちも、なにもかも理解している、理想の奥さん。法正に対してつよい発言権を持っている)
法 玲瓏(法正の娘。年齢よりも幼いところがあり、今回の縁談を嫌がっている)
法邈(遅くに出来た法正の息子で、可愛がられすぎているためか、やはり甘えっ子)
陳家
陳 叔至(趙雲の副将で、仕事に対する情熱はまったくないが、武芸の腕だけは趙雲と対等か、あるいはそれを凌ぐほどという天才。が、その能力を発揮する気力は、やはりない様子。もっとも可愛がっている長女の銀輪が偉度になついているのが、いまのところの悩みであるが、なんだかんだと、偉度のことも気に入っているため、内面で葛藤が起こっているとかいないとか。偉度の過去を知りながらもそれを許容し、本人の実力を認めることのできる、公平な人物でもある)
陳 銀輪(昨今、成都の士大夫の家に起こっている椿ブームの発起人になった十三歳の少女。椿を育てることのほか、家庭的なことは、なんでもござれの働き者。年齢のわりに生育がよすぎるため、いつも身体の線を目立たなくするような地味な服しか着せてもらえないことが悩み。偉度に命を救われたことがあり、その裏の仕事のことも、なんとなくであるが理解している)
陳 頂華(身体が弱いと理由をつけては、家事をいっさい手伝わない、怠け者の次女。押しの強い性格でトラブルメーカーであるが、四姉妹では一番の美少女で、両親は甘やかしてしまっている。侍女の蓮華とともに、いつも部屋に籠もって美容術に励む。結果はそれなりに出ているようだ)
家令一家(陳家には住み込みで家事を切り盛りしている家令の一家がいる。噂話が好きな奥さんと、働き者だが腰の弱い家令と、気立てがよいがひどい近眼のため嫁き遅れた素白という娘がいる。この一家と、頂華の侍女・蓮華は、犬猿の仲である。ちなみに陳家の女性陣の名前は、陳到の妻と銀輪以外は、椿の銘柄から取っている)
費家
費 伯仁(文偉の伯父で、夭折した弟夫婦の残した甥っ子を育て、零落した本家を、のほほんと支えている。貧乏は気にしない、楽天的な性格で、文偉の明るい気性は、この伯父の影響によるもの。最近は琴が趣味だが、まさに下手の横好き、伯仁が琴を引き出すと、屋根から鳥が降ってくる)
費 文偉(費褘。休昭より二つ年上だが、同年に出仕をはじめた書生の十九歳。真面目で奥手で引っ込み思案な休昭とは対象的に、物怖じしない気性で、ありとあらゆる階層に友人がいる。ただし表面だけで惑わされるようなことはなく、きちんと人物の本質を見抜ける冷静さも持っている。女好き・酒好き・博打好き。とくに博打では失敗することが多く、この連載では、博打が原因で謹慎中(『日和』にそのエピソードは詳しい)。芝蘭に誘われ、事件を探る手伝いをすることになる)
御者(『丞相の御者』に登場した御者・陳鮮である。ただしそのエピソードは、この連載とは関連性がないのでご注意。はさみの世界の初期作品は、孔明が神仙のような描かれ方をしているものがあるが、これは当初の設定が、限りなく『燭龍本紀』の設定に寄っていたからである。これのあとにはじまった『孤月的陣』の連載をつづけていくうちに、人間らしい孔明が出来上がった、という次第。こぼれ話でした)
呉
芝蘭(『風の終わる場所』より初登場となった、顔の半分に火傷を負っている細作の少女。若いのに元壷中の兄弟姉妹を束ねることのできる実力をもち、銀の山犬を使役する。かつて文偉によく似た性格の夫がいたが、戦乱ですぐに亡くしてしまった過去をもつ。それゆえ、初対面から文偉をなにかと助ける。偉度も孔明も、彼女の境遇にひどく同情しているため、より芝蘭は自由に動けている、という面も)
楊猿(いついかなる時でも、顔以外の素肌を決して晒さない、巴出身の呉の細作で、蜀の内情を探る細作すべての長をつとめている。元壷中で、孔明に近すぎる芝蘭のことは信用していない)
そのほか
孟 万徳(銀輪を付回す、なぞの男。荊州からやって来たようである。その目的は不明)
王 文儀(王連。司塩校尉で李巌とは同郷の人物。以前から李巌と親交があったわけではなく、むしろ逆に疎遠であったのだが、急接近をはじめ、李巌の代行をする形で、趙雲の部隊から人材を引き抜くなど、李巌に有利な行動をしている)
嘉斉 (休昭と文偉の上役。法正とは同期だが、自分のほうが追い抜いていると思っていたところへ、劉備の入蜀があり、あっという間に大逆転をされてしまった)
郭攸史 (頼りにならない休昭と文偉の同僚。悪気はないのだが、空気を読みすぎるために自己保身に長けた、ずるい人物に見られてしまう損な面も持っている。が、本人はそのことに気づいていない。周囲の空気には鋭いが、周囲のおのれに対する評価に対しては、なぜだか鈍いのである……)
劉 玄徳(劉備。入蜀後より、孔明に対しても、ほかの家臣らとおなじ距離を保つように態度を変え、その成長を見守っている君主。法正のことにしても李巌のことにしても、よほど逸脱しないかぎりは口も手も出さないことに決めている。が、李巌に対しては、孔明や趙雲の動きがおかしいことに、薄々と気づいている?)
関 雲長(関羽。一連の作品には、ほとんど登場することのない、しかし超のつく有名人。孔明側の人間かと思われていたものの、突如として李巌側の人間と連絡を取り合うようになり、孔明を混乱させる。手紙でのみの登場)
徐 元直(徐庶。同じく手紙でのみ登場。なんだかんだと徐庶の名前の出ない長編は、はさみの世界にはないのであった。かれの手紙の内容に、じつは物語のひみ…ゴフッ。口に黄砂が!)
文偉「何人いるんだ?」
休昭「44名だよ。ほかにも細かい人物、たとえばわたしの名なしの先輩書生なんかはカットしているからね」
法正「わたしの家の紹介で、『きつね家』はおかしかろう、訂正を要求する!」
休昭「それを言うなら、わたしの紹介文の『とりあえずの』を削ってください!」
くっきー「はいはい、文句は、あとでまとめて受け付けるよー」
休昭「あと、っていつですか!」
劉巴「というか、ファイルの容量を見たまえ。飛鏡と椒聊だけで、すでにアップ一回分になってやしないか」
文偉「あ、ほんとうだ、いつの間に……これでまだ『藍の儀礼』やら『ずんだ』やら『燭龍本紀』やらを解説するわけ?
時間的に無理だろう! 藍の儀礼はともかく、ほかの二編はもっと説明が面倒だぞ!」
休昭「やっぱり今回が最終回じゃないんだね」
くっきー「そういうことになるかのう。というわけで、柔軟に対応しちゃうぞ。
大好評につき、教室延長! またの機会をお楽しみに!」
劉巴「どこで大好評なのだろう。噂はとんと聞かないねぇ」
趙雲「柔軟といえば聞こえがよいが、単に計画性がない、というだけではないか」
文偉「はさみの世界なんだよ、これが、はさみの世界なんだよ……」
というわけで、まだ続く……