ぼうねんかい。
※ ありがたくも4000HITを迎えました。みなさまありがとうございましたm(__)m
恒例?の御礼企画でありますが、これまたいつものごとく、カトマンズの青い空並に寛大で澄んだ心の持ち主に特に推奨いたします。
年の瀬ににぎわいを見せる成都の町を、周囲をきょろきょろと見回しつつ、歩く貴公子がひとり。
身にまとう服は、けして豪奢なものではないのだが、質素にしたなかでも、内面から輝き出るような、類いまれな資質が、その青年を、真の貴公子に見せていた。
彼の名は董允。字を休昭。董幼宰の一人息子である。
「おーい、休昭!」
と、その背後から、これまた輪をかけて身なりが質素…いや、継ぎの当たった服を身にまとった、邪気のない笑顔を満面に浮かべた青年が、駆け寄っていく。
彼は費褘。字を文偉。董允の親友で、のちの大将軍だ。
「どうした、きょろきょろして」
「おお、文偉。いや、なに、ちょっと探しものなのだ。おまえのほうは、もう具合のほうはよいのか」
「おかげさまでな。幼宰さまに贈っていただいた、鰻が利いたのであろう。お礼に伺おうとおもっていたのだ。おまえの家は、みな変わりないか?」
「おかげさまで元気だよ。父上は毎日の寒風まさつの賜物だと嘯いておられたがな」
「ところで、わたしが寝込んでいたときに開催された、忘年会の様子はどうであった? もし風邪なぞ引いていなかったら、ぜったいに参加したのだがなぁ」
突如として、休昭の顔色が曇った。
「ぼうねんかい…あれは魔の潜むおそるべき宴だ。参加しなくて正解であったぞ」
「? どうしたのだ」
乱世とはいえ、国内にも殺伐とした空気が吹き荒れているのはイカン、と劉備が言い出したのが、そもそものはじまり。
そこで、蜀の主だった武将・文官があつめられ、一大忘年会が開催されたのである。
「あきれるではないか、会場がどこであったと思う? 栄耀飯店だぞ。おそらく裏でなにがしかの駆け引きがあったようなのだが。まあ、一応、高級を謳っているだけのことはあり、料理はわるくなかったとも」
「酒と料理がうまければ、どこであろうと文句はないが」
「それがな、飯店の親父め、日本企業から賄賂を受け取っているらしく、カラオケが日本の曲しかないのだ」
「なに、日本の曲だけのカラオケ! わたしは結構、日本の歌が好きだが」
「中国の曲入りカラオケがどこにもないのだから、それで我慢するしかないのだ。そこで、カラオケ大会が始まったのだ」
「ほお…後学のために教えてくれぬか。皆様方は、どのような唄を?」
「うむ、最初は主公がマイクをお持ちになられ、『北酒場』を熱唱された」
「主公の明るい雰囲気に、じつによく似合っている選曲だな」
「もちろん、定番どおりに盛り上がったとも。この盛り上がりを壊さぬうちにと、次にマイクを持ったのが、張飛将軍だ」
「張飛将軍か…また演歌か? こう言ってはなんだが、あまり唄が上手そうに見えぬが」
「ところがどっこい、おどろけ、たくさんの方が唄われたが、あの方がいちばん上手であった。あとでMVP賞を受賞されたくらいだからな。唄ったのは、上田正樹の『悲しい色やねん』だ」
「渋い!」
「つづけて平井堅の『瞳をとじて』」
「おおー、唄い慣れている男の余裕を感じさせる選曲だな」
「そうとも。感激された主公と関羽将軍もこれに加わって、三人で合唱したのがテレサ・テンの『何日再来』。泣き出す者までいたのだ」
「よいなぁ、いきなり大盛り上がりではないか」
「そうとも。そこまではよかったのだよ。で、次に誰が歌うか、といえば、席次でいえば、あの方だ」
「尚書令をすっ飛ばして、軍師将軍か?」
「事実上のナンバー2だからな。軍師将軍は唄がお上手だ、というのは、父上からも聞いておったし、荊州方が『待ってました!』と掛け声をかけるくらいだから、期待していたのだが…」
「だが?」
「たしかに唄はすばらしかったとも。ブロードウェイにもっとも近い男、との異名は伊達ではない」
「そんな異名があったのか…」
「選曲がよくない。なにせ鬼束ちひろの『月光』だぞ」
「鬼…? っていうか、なぜに『月光』? どこにも居場所なんてない、ってしょんぼりしている唄ではないか。せめて『私とワルツを』あたりにしておけばよいものを」
「これで歌唱力がほどほどならば、宴席がちょっと静かになる程度で済んだのだが、唄がうまいので、かえってお通夜のように鎮まりかえってしまったのだ」
「想像に難くない…なんだかヘンなところで外すよな、あの方は」
「ともかく寒天に包まれたような、重い空気になってしまってな、つぎにマイクを持った法尚書令(法正)さまなどは、『これは新手の嫌がらせかもしれぬ』とこぼす始末だ。
本人は、だれにも聞こえないつもりで、小声で言ったのだが、マイクを持っていたのを忘れていたのが運のつき。ますます宴席は静まり返ってしまったのだ」
「聞いているだけで、落ち込む話だな…」
「法尚書令は、無難に、中島みゆきの『銀の龍の背に乗って』だ。
しかし無難さが幸いし、なんとか宴席はにぎわいを取り戻した。
つづけて関羽将軍が谷村新司の『昴』を熱唱し、どさくさにまぎれるようにして、劉巴どのが、『遠くへ行きたい』を歌った」
「どさくさまぎれに、またえらくギリギリの歌を唄ったな(意味のわからない方は、こちらをご参照ください)」
「主公が顔をひきつらせていたのを、わたしは見逃さなかった。ともかく、つづけて馬超将軍と、馬岱将軍が登場されて…」
「わかったぞ、みなまで言うな。久保田早紀の『異邦人』だろ!」
「そんなベタな選曲ではない。氣志団の『One Night Carnival』 だ。学ランまで用意した熱演ぶりだ。
といっても、馬超将軍は気持ち良さそうに歌っておられたが、後ろで一生懸命踊る馬岱将軍のいっぱいいっぱいなさまは、どこか涙を誘う姿であった」
「馬岱将軍もご苦労を重ねてらっしゃるな。ふむ、となると、次に趙将軍ではないのか。あの方はなにを歌われたのだ?」
「唄わなかった。軍師が是非にと何度もマイクを向けたのだが、『歌うくらいならば舌を噛む』とまで言い張られて…歌に関しては、心因性ストレス症候群があるらしい」
「むしろそのエピソードが気になるが…」
「また場が暗くなったので、それじゃイカン、と立ち上がったのが、黄忠将軍&巌顔将軍だ」
「わかった、年から考えて、狩人の『あずさ2号』!」
「残念でした。Ryuの『はじめから今まで』(冬のソナタ主題歌)。
さすが最前線に立つ武将ともなると、いかに高齢でも流行に敏感なのだ。だからあの方々は若いのだよ」
「かっこいい、じい様たちだなー」
「おかげで再び場が和んだところへ、登場したのが馬良どのだ。
弟君の馬謖どのと一緒に、小山兄弟の真似をして手品を披露した」
「…大丈夫か、あの兄弟。あの年で「手品―ニャ!」もあるまい…」
「一部では受けていたのだが、おおむねドン引きであった。その空気のなかで、父上の番が回ってきてしまってな。
父上も、けして歌が下手なほうではないのだが、ほかの皆様方が個性的すぎるのだよ。
唄ったのはチューリップの『心の旅』だ」
「悪くない選曲ではないか。カラオケの定番だろう」
「定番すぎて、盛り下がることもなければ、盛り上がることもなし、といったふうだった。
とはいえ、みな疲れ始めていたから、ちょうどよかったのだよ。まあ、最大の問題はこれからだ。
つぎにあらわれたのが南蛮の連中でな」
「ほお、毛色が変わっていて、面白そうだが」
「それがとんでもない。唄ったのが、『おどるポンポコリン』だぞ。
しかも、訛りがひどくて、なにを言っているかさっぱりなのだ。もともとわけのわからぬ歌詞だが、さらにわけがわからないうえに、南蛮の踊りをじゃかじゃかと踊るものだから、もう、怪しい宗教の儀式のようになってしまったのだよ。
彼らは歌い終わっても、まだ足りないようなことを言っていたが、そこは父上と軍師将軍とで協力して、丁重に帰ってもらったのだ。そんななかであらわれたのが、魏延将軍と李巌将軍だ」
「ふむ? 面白い組み合わせだな」
「濃いものと濃いものがぶつかり合って、異常な化学反応を生んでしまったのだ。
あのお二方は、あまり軍師将軍やその周辺とうまくいっておらぬので、こういう席で、すこしばかり関係を修復しようとした、と言い訳をしていたが…」
「言い訳?」
「言い訳もとおらぬぞ、あれは。お二方の唄ったのはゴリエの『Mickey』。
しかもフリつき、コスプレ完備。ネットオークションで、初回限定版についていたゴリエのキツネのパンツを落札してまでの挑みっぷりだ」
「あのパンツ履いて、やっちまったのか!」
「やっちまったのだ。
最初は大笑いであたたかく迎えられたのだが、パンツが決定打となって、お通夜の沈黙どころの騒ぎではない。
この世の終り、というくらいの沈黙が生じてしまったのだ。
しかも、魏延将軍も、李巌将軍も、そのことに気づかないまま、熱演する、という、じつに痛々しい状況になってしまってな…」
「それはイタイ。痛すぎる。日ごろ、仲良くしている法尚書令が、それとなく助けてやればよいものを」
「そこがまた尚書令らしくて、知らんぷりをしておられた。
まったく、忘れるどころか、常日頃のいざこざやしがらみが、かえって浮き彫りになってしまった忘年会であったぞ。
最後は、軍師将軍の指揮で、みなで『サライ』の合唱をすることになって、なんとかうまく終わったのだよ」
董允は、そういうと、野太いため息をついた。
それをみて、費褘はおおいに笑う。
「まあ、わが政府は出来て間もないのであるし、来年はよい宴席になるであろう。わたしなどは、いまから何を唄おうか、悩んでしまうが」
「呑気者め。来年はすぐ来るぞ。忘年会がめちゃくちゃになったので、主公が『新年会で仕切りなおしだ!』とおっしゃったのだ」
「え」
「年末年始は長期間あるような錯覚を生みやすいが、実際は十日もせぬうちに、また恐怖の新年会がある、ということだ。
わたしは風邪を引きたい。文偉、うつしてくれ」
「すまぬ、伯父上に移してしまった…」
「父上から仕入れた情報によると、軍師将軍は、性懲りもなく、今度は『ラルク』で行くらしい」
「だから極端なのだよ、あの方は。普通に福山雅治とかでいいじゃん!
それともあの方は、唄を通じて、われわれに訴えたいことでもあるのだろうか…」
「他と一緒っぽいのが嫌なのだろう。ちなみにこの間、場を盛り下げたことに気を病まれた趙将軍は、馬兄弟のパフォーマンスに感動し、歌えないなら、せめて、と手品の練習をはじめたらしい」
「真面目な…。しかし『手品―ニャ』は勘弁してほしいな。マギー審司みたいなのも却下だ」
「でもって魏延将軍と李巌将軍が、先日、CD屋のハロプロコーナーで目撃された。
証言によるとH.P.オールスターズの『ALL FOR ONE & ONE FOR ALL』を購入したらしい。
しかし、高橋愛と石川梨華、どっちがいいかで大喧嘩をした様子だから、次はソロでくるかもしれぬ」
「彼らこそ、だれかのプロデュースが必要だな」
「ちなみに父上は、『なだそうそう』を猛練習中だ」
「そうか、ありがとう、休昭。ううむ、そうなるとやはり、わたしは公琰どのと郭攸史を誘ってSMAPでいくか。
おまえはどうする?」
「わたしは趙将軍の手品のアシスタントをする予定だ。ところで文偉、郭攸史とは会ったか」
「いや、これから会いに行こうと思っていたのだ。どうした? 顔色が冴えぬが」
「うむ、実はな、『サライ』の大合唱時に、軍師将軍が、なにか忘れているようだ、と首をひねられていたのが、ずっと気になっていたのだ。
そして、今朝になってこんなメールが」
と、董允は携帯電話を取り出した。
ちなみに家族割りの利くauのほぼ5年前の機種である。
バッテリーがまだ保たれているところが日本製の優秀なところだ。
貯まりまくったポイントで、最新機種が半額以上の割引で購入できる、ということを、おぼっちゃまの董允はまだ知らない…
『TO:董休昭
挨拶の文言は貼りつけるのが面倒なので省く。
今朝になって、何が気になっていたのか思い出したので伝えておく。
忘年会の余興として、郭攸史に24時間フルマラソンを命じていたのだよ。
『サライ』の大合唱時に、完走し終えた郭攸史の登場で、会場は感動の涙に包まれる、という予定であったのだが、魏延と李巌の不気味なパフォーマンスのために、すっかり頭から消し飛んでしまったのだ。
捜索隊の報告では、36キロ地点で、陳老人のマッサージを受けて、走り出したのは確認されている。
しかし以降の行方は不明だ。
携帯を持たせておくべきであったな。悔やんでも致し方ないが。
と、いうわけで、おまえも郭攸史がどこかに落ちてないか探してみてくれ。
もし見つけられたら、諸葛亮が『ごめんね』と言っていたと伝えておいてくれ。
詫びのしるしにお年玉は弾むつもりだ。
それではたのんだ。休み明けは遅刻せぬように。ではな』
「軍師将軍…」
「というわけで、郭攸史がどこかに落ちている可能性があるので、探していたのだよ。おまえも時間があれば、手伝ってくれぬか」
「もちろんだとも。年が明けるまでに見つかるといいな」
「ああ、年が明けたらすぐに新年会だからな…」
しかし董允はこのとき、趙雲が、『手品』として、箱の中のアシスタントを剣で突き刺していく、という、定番の力技を構想していること、そして多忙な趙雲が練習などできるはずもなく、ぶっつけ本番で挑むことになるのを、まだ知らない。
ちなみに魏延と李巌の喧嘩は、『やっぱり松浦亜弥!』というところで落ち着き、ふたりはゴリエの失敗を教訓に、現在、W(ダブルユー)で再挑戦することを決意。
早くも周囲から、「やつらには当日、ちがう会場を教えるべきだ」という声が上がっている。
そして現在も、郭攸史の捜索はつづいている。