<窯の運転について>
電気窯の運転で気をつけなければならない事といえば、昇温速度と、保温時間といったところでしょうか。
電気である分、ガスや灯油、薪よりずっと温度制御は簡単になっていると思います。
特に素焼き時には、液体として残留、付着している物理的な水分の他に、粘土の素材自体がその化学構造の中に取り込んでいる化学的な結晶水もあり、その両方が粘土から失われるわけですので、急激な温度変化をさせると実に簡単に作品が壊れます。
保温時間を確保する理由は、これはどのタイプの窯にも言える事ですが、「窯の温度計が作品の現在温度を示しているわけでは無い」という事実のためです。温度計が指している温度は、温度計のある場所の周囲の温度に過ぎないので、たとえ200℃という数字が出ていても、作品自体は100℃近辺の温度であるという事もありうるわけです。また、粘土と釉薬の温度による状態変化や化学反応はその温度で突然一気に変化するわけでは無く、一定の時間をかけて、物理状態や化学構造を変えるためにエネルギーを吸収しながらゆっくり行われるわけであり、その変化の最中には当然体積変化も伴うものであるからです(体積変化の不均一は即ち作品の破壊を意味します)。
温度の転換点は以下の温度帯に気を付ければ良いと思います。
※素焼きについて
素焼きは必ずしもしなければならないというものでは無い様です。
かつて登り窯とかで焼いていた頃は生の乾燥した粘土からそのまま釉薬をかけて本焼までしたともいわれており、むしろ今の素焼き→本焼という工程で行うよりも素地と釉薬の結びつきが良く味わい深くなるとも言います。
今でも工業的には一部そうやって生から本焼を行う陶器業の方もいる(その方が工程の省略が出来、回転率が良く、かつ燃料費も一回分で済んでしまいますから。)様です。
しかし、釉薬等で加飾する工程等、乾燥しただけの粘土地は水分を含むとあっけなく崩壊してしまう等、熟練しないと非常に扱いに苦慮するのも事実であり、また素焼きの工程は大量に重ねて焼く事も可能ですので、限界容量まで窯に詰め込んで、本焼を少しずつ進める等、燃料コスト的な面でも決して悪い事ばかりとも言えません。(むしろ、生かけでは施釉時に破損しやすい等、成果物としての歩留まりを考慮すれば、特段の事情が無い限り、「素焼きをしない」という選択肢を採る理由は少ないかもしれません。)
素焼きの際の温度管理は以下の通りです。
(かなり感覚的に書いているところもあり、個人的に省略しているところもあります。作業工程の結果は非常にシビアに返ってくるという側面もあり、必ずしもこれで安全に進むとも限りません。作品の形や大きさ、詰めた作品の数や配置でも結果は変わるので、様子を見つつ探りつつ、トライする必要があります。)
○80〜100℃付近
言わずと知れた水の沸点近傍です。
自然乾燥がどのぐらい進んでいるかにも依りますが、急激に蒸発が進むのは危険です。なので、80℃前後で温度保持し乾燥を促進します。
温度保持時間は窯に詰めた作品量にも依りますが、私ならば窯を満タンにして15分〜30分を考えています。芯まで同じ温度になるまでに時間がかかるのは事実で、本当ならば慎重を期してもうちょっと長めにと考えたいところですが、昇温自体がゆっくりであり、次の温度帯に移り変わるまでに物理水は除去されるだろうと考えて、短めに考えています。むしろ私は次の温度帯を警戒しています。
○180℃〜200℃付近
この温度帯においては結晶水の分離が盛んに起こる温度帯です。なのでここでも十分に温度保持し、結晶水の分離が終わるのを待ちましょう。
ここでの温度保持時間は作品満タンで私は約1時間をとる事にしています。ここでじっくりと結晶水を除去しないと、表面のみ焼締まった素地から水蒸気が脱出できず、行き場を失った蒸気が水蒸気爆発を起こす可能性があるためです。また、爆発をしないまでも破損のしやすい温度帯であると考えていますので、じっくりと1時間。少なくとも芯までその温度帯に到着することを待ちます。
また、300℃までは窯から水蒸気が抜けるように、蓋や栓を開けておくようマニュアル等で指導があることから、200℃近傍以降も引き続き断続的に結晶水は分離されていっていると考えられます。イメージ的にはこの温度帯で最も盛んに結晶水の分離が起こっているというところでしょうか。
○400℃近傍
この温度帯は粘土の主成分であるケイ酸化合物が相転移する温度帯です。
相転移により体積変化が起きるので、ここでも体積変化の緩衝のため、温度保持を行う必要があります。
ここでの温度保持時間は30分を目安にしています。(むしろ人の作品を込みにせず、自分のものだけ焼くときは軽く通過してしまう事の方が多いですが。。)私は危険なのは200℃近辺では無いかと考えそこだけ気をつけています。経験的には通過しても。。と思っていますが、慎重にならざるを得ないときはやはり時間をとります。(個人的には取った方が安全と考えます。)
○400℃以降700℃付近まで
これ以降の昇温については特に心配する必要はありません。
400℃で保温時間を取っているならば、少々加熱を急いでも許容されると思います。
素焼きの最終温度についてですが、700℃がよく言われるところですが、さらに100℃上げて800℃が良いともいう説があります。(主に七輪陶芸されている方とかはちょっと高めに素焼きを済ませてらっしゃる方が多そうな印象です。あくまで印象ですが、再度加熱する際に一旦800℃まで加熱している事で歩留まりの向上を期待するのかもしれません。どうなんでしょうか。)少し高温で焼くことにより、素地の吸水性が多少落ちることから、釉薬を厚めに掛けないためなのかもしれませんし、そのへんは定かでないです。
わからないと言いつつ、私は最近800℃で焼いています。
釉薬をハケ塗りしているので、この方が無駄に厚掛けにならないで済んでいる様な印象がありますし。
ここまでで素焼きが終了です。
素焼き状態では見た目固まっているし、水をかけても壊れなくなっているので、そのままでも使えそうと思うかもしれませんが、残念ながら素焼き状態で水を入れるとガンガン水漏れします。
生の粘土の時にはあった水分等、抜けるべきものが抜けてしまっているので、素焼き地は目に見えない穴がいっぱいの、いわばスポンジ状態です。
これを水漏れしない様にするためには、粘土内に含まれる長石等の熱によって溶解する成分を高温(1100℃以上)で溶かし、目に見えない細かい穴を埋める必要があります。(結果、本焼をすると穴の分だけ体積が詰まって縮む訳です。)
(素焼き地の吸水性の良さがあるからこそ、水で溶いた釉薬がしっかり定着するという利点もあります。素焼きであんまり高い温度で焼くと今度釉薬の定着が悪くなるので注意。)
ちなみに七輪陶芸の話が出たので、ついでながら、七輪陶芸は生からやるより、素焼きを別途済ませてからであると、歩留まりは格段に上がる様ですね。
いつか河原でバーベキューなんかをする際に、もっていって炭火に放り込んでやってみたいと思うところです。(やはり燃えさかる火があるからこその陶芸という様な印象もやはり拭えないですし。。)
(しかし、今時荒川の河川敷などでやったら、軽く通報されるでしょうね。。ましてやマンションのベランダなんてもっての他です。かなり実行場所を選ぶものなんです。。)
※本焼について
「素焼きを終えたもの」という前提で書きます。
※以下鋭意制作中。。