小       塩

                    三番目物 金春禅竹

下京の男達が大原へ花見に出かけると、花の枝をかざし華やいだ風情の老人が現れ
た、興味を持った男は問いかけると、業平の歌を吟じ歌の意味を説き消える。
男は近所の男に聞くと小塩明神の謂れや二条の后に供奉した業平の歌など語り、不
思議を見ることを進めて去る。その夜男の前に在原業平の霊が花見車に乗って現れ、
伊勢物語の契った数々の女性を回想し、舞いながら花吹雪の中を消えてゆく。


後シテ 月やあらぬ、春や昔の春ならぬ、我身ぞもとの身も知らじ。
ワキ 不思議やな今迄は、立つとも知らぬ花見車の、やごとなき人の御有樣、
是はいかなる事やらん
シテ 實や及ばぬ雲の上、花の姿はよも知らじ、有し神代の物語、姿現す計
なり
ワキ あら有難の御事や、他生の縁は朽ちもせで
シテ 契りし人もさま/\に
ワキ 思ひぞ出る
シテ 花も今
今日來ずは、明日は雪とぞ降なまし、明日は雪とぞ降なまし、消えず
はありと、花と見ましやと詠ぜしに、今はさながら華も雪も、みな白
雲の上人の、櫻かざしの袖ふれて、花見車暮るより、月の花よ侍ふよ。


上人の、櫻
かざしの
 第二 春歌下 104 山部赤人
題しらず


それ春宵一刻値千金、花にC香月に影、惜しまるべきは唯此時なり。
シテ 思ふ事言はでただにや止みぬべき
我に等しき人しなければ、とは思へども人知れぬ、心の色はをのづか
ら、思ひ内より言の葉の、露しな/\に洩れけるぞや。
春日野、若紫の摺衣、しのぶの亂れ、限り知らずもと詠ぜしに、陸奥
の、忍ぶもぢずり誰ゆへ、亂れんと思ふ、我ならなくにと、讀しも紫
の、色に染み香に愛でしなり、又は唐衣、着つつ馴にし妻しあれば、
はる/\來ぬる旅をしぞ、思ふ心の奥までは、いさ白雲の下り月の、
都なれや東山、是も又東の、果てしなの人の心や
シテ 武蔵野は、今日はな燒きそ若草の
妻も籠れり我も又、こもる心は大原や、小鹽に續く通路の、行ゑは同
じ戀草の、忘れめや今も名は、昔男ぞと人もいふ。
春日野、若
紫の摺衣、
しのぶの亂
れ、限り知
らず
 第十一 恋歌一 994 在原業平朝臣
題しらず
伊勢物語 一段
謡曲へ戻る 新古今和歌集の部屋へ戻る