秋下村塾

忘れちゃならないもの

「○○は俺の嫁」って発言が結構あったりしたけど、いまいち乗れない理由が判明した。

8月13日。コミケを早々に切り上げ、5年ぶりにサクラ大戦の歌謡ショウを観に行ってきた。
思い起こすこと11年前、天外魔境好きが高じて広井王子の信者となり、嘉門達夫のラジオが終わったのを きっかけとして「広井王子のマルチ天国」を聞き始めた最中。番組の中CMで流れていたのが サクラ大戦のCMだった。

マル天の前ワクでやっていたあかほりさとるが原作、女神さまで知られる藤島康介が作画。当時の REDカンパニーがなせる全てを結集したようなスタッフ。ハマらない道は存在しなかった。

1年目の歌謡ショウ「愛ゆえに」は見よう見まねで。10年の歳月を経て、広井さんも「最初は歌謡ショウって何? どうすれば いいの? て状況だった」と言うように、こちらも「どう」見れば良いか分からない。
中途半端に歌を伸ばして場を繋ぎ、今となっては演技とは呼べないような流れで話を進める。さながらそれは 間延びしたライブのようだった。

2年目の歌謡ショウの演目は「つばさ」。この時もコミケからの連戦だったなぁ。寝不足の頭にアイリスの 声がよく響いたのを思い出す。この回は前年をふまえ、歌は短く、なるべく話をふくらませつつ感動の ストーリーに仕立て上げた。その年春に発売されたサクラ2が良い後押しになった。

2年目のサクラ大戦は実験の年でもあった。春には歌謡ショウに先駆けて南少(南青山少女歌劇団)を メインにミュージカルが行われ、これは良い意味で歌謡ショウスタッフを刺激した。本場のミュージカルと 昨年の出来の差を見せ付けられたが故に、その後の発展があったといっても過言ではない。
ちなみにここで広井さんに見出され、「北へ。」を経て本格的に声優となったのが千葉紗子である (さらにちなみに、ここでは広橋佳以も発掘されていた)。

その年のクリスマス。夏の歌謡ショウに歌わなかった「奇跡の鐘」を主題に、クリスマスライブを行う。
この頃が絶頂期だったなぁ。

3年目の演目は「紅蜥蜴」この年からはゲームの発売には沿わず、「歌謡ショウ」という独自の地位を築いていった。
「ダンディ団のボス」を初めとした、歌謡ショウ生まれのキャラクターが活き活きとしだしたのもこの頃である。
この年で印象に残ってるのはボスが連れていた少女のタップダンスだな。当時はそれに圧倒される花組みの姿が至って 普通だった。

4年目。この頃、ちょうど私がこっち界隈から遠ざかろうとしていた頃。歌謡ショウに行った記憶が僅かにあるくらいで、 演目は「アラビアのバラ」。正直、全然覚えていない。

5年目はパンフレットを見るまで行ったことすら忘れていた「海神別荘」。泉鏡花が原作のものだが、つくづく この時期は私が遠ざかっていたことが伺える。

自身の興味の薄れと、「スーパー歌謡ショウ」なる得体の知れないものになるとのことから、6年目以降は 観劇を見送った。

そして月日は流れ2006年。今年で歌謡ショウも「一旦終わり」との情報を聞き、また、私自身の舞い戻りも 加味した上で観劇を決意。SS席を陣取る。

行った感想としては、本当に、心から、行って良かったと思う。
10年目のファイナル公演の演目は「新・愛ゆえに」。それは1年目からの成長を見るものでもあり、 定番ともいえる、初回からのファンへの恩返し的なものでもあった。
「○○は長年見たものの勝ち」これがよく当てはまるのがプロレスや演劇や落語といった、 その場で起こるものである。今回の「新・愛ゆえに」も、まさにその図式が当てはまるものだった。

ところどころで出される過去の歌謡ショウの逸話。1作目の「愛はダイヤ」は三味線を音頭に即興的に 歌ったりもした。その他にもこの10年の軌跡を日常会話の中で自然に回想していく。
歌謡ショウの良いところは、現場を離れた役者に対してのフォローがしっかりとしているところ。
一時離れたすみれ(富沢美智恵)には「霊力が衰えたから花組みを脱退した」、現在留学中の 織姫(岡本麻弥)は、文字通り「母国イタリアでの劇が忙しい」など、不自然なく話を展開している。

前置きというか、思い出が長くなったが冒頭の「○○は俺の嫁」話の続き。
いよいよ始まった演目で、最初に真宮寺さくらの声を聞いたとき、本当に、フラッシュバックのように 思い出した。
広井王子を知った直後から、俺がずっと追いかけていたのは、この人だったと。

以前三石琴乃の声を聞いたときも若干思ったが、青春期に嫌というほど聞いた人の声ってのは 違う魔力を持っている。あの当時、番組チェックして過去のCD聞いて毎週ラジオ聞いてって やった人の声は、絶対に違うものがある。そして何よりも時代は太正。思い出さないわけはなかった。

前半はその憧憬に浸り、第二部へ。
今回の演目は、私がかつて見ていた二部構成とは違い、三部構成になっていた。全体は3時間ほどであまり 変わりはないのだが、その方が台本がすっきりして見ている方も楽になる。
オープニングは大帝国劇場、即ちサクラ大戦の劇中に入り込み、その後すぐに楽屋トークになる。笑いを とるのはこの場面であり、OPに歌劇団全員がタップダンスを披露したときは「紅蜥蜴」を思い出し、 少し涙腺が緩む。

第二部はいわゆる「戦闘パート」。敵が現れ、いかにもミュージカル的な歌って踊っての戦闘。
初期の頃は「破邪顕正・・・」とか言ってゲームの必殺技を使ったりしていたが、10年目の今や そういった小細工は必要なし。及第点レベルの殺陣を披露し、第三部へ繋ぐ。

そして第三部は始まりから終わりまで、全てが「大帝国劇場」。休憩明けには「間もなく演目が 始まります。」とのアナウンスから始まり、1時間弱をまるまる「新・愛ゆえに」を行う。
この出来はまた良くて、これだけでも充分一本出来るくらい本格的な仕上がりだった。

圧巻はラストシーン。歌いだしこそ新録の「愛ゆえに」だけれども、曲調はまったく旧作と同じ。そして 気付かぬままに「旧・愛ゆえに」へと繋いでゆく。この辺の曲の流れはさすが田中公平さんだと思う。全くの 新曲に対しても、イントロで「サクラ大戦」だと分からせる作り方は伊達ではない。

第三部も無事に終わりカーテンコールへ。ここで始めて演者の素の声が聞ける。10年という月日を感じさせる 挨拶。劇中にも、役者がアカペラで問答歌を歌い、最後に「ありがとうよ!」という場面があったが、 あの「ありがとう」は紛れもなくこの10年のことを指しているし、一人一人の思い入れが劇の端々で 発揮されていた。

劇!帝を歌い、花咲く乙女を歌い、夢の続きで幕が降りる。なおも「歌い続ける観客」を前に三度 舞台が上がる。そして本当の最後を迎え(千秋楽ではここでもう一度劇!帝やったんだろうなぁ)、 舞台がはねる。夢の続きは、きっとまた何年後か、魅せてくれるのだろう。

 

予想していたとはいえ、予想以上の長文になったな。それだけ思い入れがあったし、これは絶対文章として 残しておきたかったから。最後に細々とした話を。

ヤな名前みたい

当日会場に飾られていた花輪の一部。企業からの花輪に紛れて、本当に愛してやまないファンからの 花輪も。名前が素晴らしくて、「眞桜會」とか「すみれ組」とか「霞」とか、一見すると ヤな名前が多かった。なんというか、ツボを押さえている。

今回はやはり、長く見ていた者の勝ち、だろう。私自身4年間見に行ってなかったぶん、分からないところも 正直あった。

「これは良い作品だから最終回だけ見ても絶対面白いから」

どこかで名もない人が言っていたけど、これは私は賛成できない。
良い最終回だからこそ、それだけを見せるのは勿体無いと思うのだ。それを見て面白いと 思える人は、絶対それ以前も面白く見てくれるわけであって、そういう人に対して、 最終回だけを見せるのはひどく勿体無い仕打ちだと思う。

そんなことを考えて、今回快くSSへの道を開いてくれた友人に、心から感謝する。

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