「ロミオの青い空」によせて…
今さらであるが、このストーリーにこめられた最大のメッセージ。
それは、「平和と平等と自由のもとでの子供達の尊厳と社会的地位の確立」である。
ラストのナレーションで。
ロミオに語ったアルフレドの将来の夢の言葉として。
「青い空」というタイトルと主題歌「空へ…」に込められた思いとして。
「大空を自由に飛翔する夢の憧れと心情」が繰り返し語られる。
もともとの原作「黒い兄弟」が児童虐待告発の小説だけに、そのテーマはあまりにストレートだ。
ただし、アニメーションとして製作された「ロミオの青い空」はそれだけにとどまらず、ストーリーのあちこちに珠玉のように散りばめられている。
主軸となるアルフレドとロミオの友情と絆。
この二人から広がっていった黒い兄弟と狼団との絆と熱い思い。
個々の家庭のなかで描かれた家族の愛と絆。
登場したすべての人々への信頼と尊敬。
そのどれもが作品を築きあげる大切な骨格の役割を果たしている。
「ロミオの青い空」を語る上でかかすことができない大切な骨格。
けれども、私はこの作品を見たとき、それらのテーマがただの付帯事項に思えた。
私がもっとも注目したもの。
それは、主人公ロミオが成長していく姿だった。
最終回、ロッシ親方はロミオに声をかける。
「強くなったな。ロミオ。」
確かに、ロミオはストーリーの中で飛躍的な成長を遂げた。
この物語を語るためには、ロミオの成長の軌跡を振り返る必要がある。
1話から3話まで。
ロミオは人買いルイニの陰謀で仕方なく身を売って煙突掃除夫になることを強いられる。
それまで、ロミオは故郷のソニョーニ村で家族と慎ましやかに暮らしていた。
しかし、ロミオはようやく外の世界を見つめはじめる。
自分は母親の連れ子であり、父親とは血が繋がっていなかった。
ロミオは初めてその事実を知るが、そんな父親の愛情をロミオは再確認する。
その父親を救うため、自ら進んで煙突掃除夫の契約を交わしてしまう。
ロミオにとって、それが新しい世界に踏み出すきっかけだった。
4話から7話まで。
ミラノに行く道中、アルフレドや後の黒い兄弟になる仲間達との出会いが描かれる。
すでに、この間にアルフレドとロミオには、永遠の親友としての関係が築かれていく。
最初、アルフレドは無口だった。そんなアルフレドの心を開かせたのはロミオだ。
ただし、ロミオはそのことにまったく気がついていない。
7話から14話まで。
ロッシ家に買われたロミオの苦労と奮闘が描かれる。
この間に、ロミオはミラノでの自分の地位と自由を獲得していく。
アルフレドとも別れさせられて、一人ぼっちになったと思い込んでいたロミオ。
しかし、彼にはアルフレドに代わる心の支えが現れる。
ロッシ家に住む天使、アンジェレッタ。
彼女が、辛い仕事でくじけそうになるロミオを励まし勇気づけていく。
そして、ロミオはアンジェレッタのために字を覚えはじめる。
きっかけはアンジェレッタがくれる手紙だった。
ここから、ロミオの成長の一歩がはじまる。
15話から20話まで。
ロッシ親方から絶大の信頼を獲得し自由を許されたロミオは、自分の足でミラノ中を駆け回り、アルフレドを探し回る。
そして、聖バビラ協会で再会した二人は、変わらぬ友情を確認しあう。
その後、ロミオはアルフレドに導かれる。
秘密の聖堂への集結。黒い兄弟の結成。天敵だった狼団への対抗と挑戦。
ロミオの世界はアルフレドの導きでさらに拡大していく。
それは、すでにアルフレドが望み築きあげようとした世界だ。
ロミオはアルフレドと同じ世界を見つめ、同じ志を持ち、ともに歩む決意を固める。
その一方で、ロミオは、常に志高くリーダーの素質もあり、学問にも秀でたアルフレドに追いつけずにジレンマを感じた。
ロミオは、アルフレドに憧れながら目標をアルフレドに据える。
彼を尊敬しつつ、ロミオは一歩でもアルフレドに近づこうと童話を読破したりしながら、ロミオなりの努力を惜しまなかった。
21話から23話まで。
天使アンジェレッタの境遇が明らかになる。
心臓病を患い限られた命を精一杯生きようとする健気なアンジェレッタ。
外の世界に出て行けないアンジェレッタの代わりに、ロミオが外の世界の情報をアンジェレッタに伝え教えていく。
そして、アンジェレッタは、人々の幸せを願い清い心で世界を見つめようとする。
自分の夢を後回しにしても、アンジェレッタはそれだけで幸せだった。
しかし、ロミオとの出会いは、アンジェレッタに自由への願望を強く持たせていく。
ロミオは黒い兄弟達とともに、アンジェレッタを外の世界に導き、念願の祖母モントバーニ家伯爵婦人イザベラとの対面を実現させる。
それは、アンジェレッタが与えつづけた幸せの恩返しだった。
最初は、アンジェレッタを拒絶しつづけたイザベラだったが、黒い兄弟達の熱い思いがイザベラの心すら溶かしてしまう。
それは同時に、ともに支えあった人との別れでもあった。
ロミオは、アンジェレッタの未来を思いながら、この別れを受け入れる。
ロミオは一つの支えを失った。
しかし、ロミオには、まだ黒い兄弟の支えがある。
おそらく、ロミオは黒い兄弟の存在の大きさを同時に感じたことだろう。
24話から29話まで。
ロミオや同じ境遇の仲間達のよりどころだった黒い兄弟。
その提唱者であり、リーダーのアルフレドに危機が訪れる。
すでに肺病を患い、命が長くないことを密かに悟っていたアルフレド。
アルフレドは夢を抱いていた。
早く大人になり、困窮する子供達をなくすための新しい時代を自分達の手で作っていきたいと。
しかし、限られた命の中でできることを、アルフレドは選択せざるをえなくなる。
それが、叔父マウリツィオ夫婦によって企てられた親殺しの汚名返上と、両親が残した財産と妹ビアンカを守ることだった。
アルフレドはマウリツィオの陰謀を暴くため、国王陛下に真実を打ち明けようと晩餐会に乗り込む計画を実行する。
それは、自らの命を賭けた最後の大勝負だった。
ロミオは狼団のニキータからアルフレドの病状を聞かされてショックを受ける。
信じつづけた友のために何ができるのか。
迷うことなく、ロミオはアルフレドに協力する。
ロミオはアルフレドに支えられて力強く生きてこられた。
今度は、ロミオがアルフレドを支えていくことを固く決意する。
同じ気持ちは、黒い兄弟達の中にも芽生えていた。
そして、敵対していた狼団のリーダー、ジョバンニにも。
ジョバンニは、アルフレドの優れた素質を見出していた。
アルフレドとロミオの人柄に惚れていただけでなく、自分の父親の命を奪った肺病そのものを憎んでいたのかもしれない。
思わぬ協力者に喜ぶ黒い兄弟達。しかし、それこそがアルフレドが望んだ平和の証だった。
そして、アンジェレッタの祖母モントバーニ家伯爵婦人イザベラの助けを得ることで、黒い兄弟達はアルフレドとビアンカを無事に晩餐会に送り届ける。
煙突掃除夫と上流階級。黒い兄弟達の思いは身分の格差すらも超えてアルフレドの力になった。
アルフレドは、その想いを国王陛下に臆することなく誇らしげに訴える。
無実が証明された瞬間、アルフレドもついに自身の自由を獲得する。
そうしてアルフレドが戻った場所は、黒い兄弟達が集まる秘密の聖堂だった。
すべての目的を果たしたアルフレドは、その日の朝、もっとも信じた友の腕の中で命を燃やし尽くす。
命が尽きる直前、アルフレドはロミオに自分の夢の実現を託そうとする。
それまでロミオは、ずっとアルフレドをまぶしい存在として見守るだけだった。
しかし、アルフレドからは、ロミオが希望そのものだったと告白されてびっくりする。
ロミオの支えがなければ、アルフレドは目的を達成することはできなかっただろう。
アルフレドはロミオの存在の大切さを伝えようとしたのだ。
だが、ロミオがアルフレドの意志を受け継ぐまでは、まだしばらくの時間が必要だった。
30話から33話まで。
それまでは、アルフレドの存在が大きすぎたために、ロミオは薄くみられがちだった。
そして、ロミオ自身も最大の心の支えをなくした痛手から立ち直ることができずにいた。
黒い兄弟達は、アルフレドの意志を継ぐのはロミオしかいないことを認め、ロミオを必要としていた。
仲間の一人、ダンテは現実から逃げ出そうとするロミオに決闘を申し込む。
ロミオに立ち直ってもらいたいという強い思いがダンテの中にあった。
殴られながらも、ロミオはまだ自分を取り戻すことができなかった。
さらに、その場に駆けつけた妹ビアンカの呼びかけを聞いたロミオは、ようやくアルフレドの面影を思い起こす。
そうして初めて、ロミオの中でアルフレドの意志を受け継ぐ気持ちが育ち始める。
アルフレドはいつもロミオのそばにいてくれる。
そのことを強く感じたロミオは、リーダーになることを受け入れ、アルフレドのお葬式を決定する。
それが、ロミオがアルフレドの死を受け止めることができた瞬間であり、アルフレドを越えようとするロミオの成長のはじまりだった。
再び生きる勇気を取り戻したロミオは、黒い兄弟のリーダーの役割をきっちりと果たすようになる。
そして、その年のクリスマスの頃、足を怪我したロミオはカセラ教授のもとで治療のために静養することになる。
そこでロミオは、アルフレドの愛読書だった「白鯨」を読みはじめる。
まだ、この時、ロミオはアルフレドの背中を追いかけているだけに思えた。
しかし、確実にロミオの知識は広がりを見せていた。
そのことを目ざとく察知したカセラ教授は、ロミオに勉強する楽しさを教える。
ロミオに最初に文字を教え、事あるごとに黒い兄弟を助けてきたカセラ教授。
カセラ教授は孤児院に赴き診療したり、患者を第一に思う信望厚い優れた医師だ。
そんなカセラ教授の姿を見つめたロミオは、漠然としていたアルフレドと交わした夢の実現を具体化させる。
将来、ロミオは教師になることを決意する。
青い空のもとでは誰もが自由。そして、いつしか子供達が幸せの声をあげる日がきっとやってくる。
ミラノの街を見下ろす屋根の上で、ロミオはアルフレドとの誓いを改めて胸に刻みつけた。
そして、ミラノに春が訪れる。それは、煙突掃除夫としての子供達の契約が切れる季節だ。
さまざまな思い出を後に、ロミオと仲間達はミラノを後にする。
ロッシ親方と親子以上の絆を再確認し、妻のエッダすら涙を浮かべさせたロミオ。
アルフレドの墓前では、狼団の少年達と同盟を結び合い協調を誓い合う。
世の中の理不尽さを噛み締めながらも、ロミオ達はたくましく前に向かって歩き始める。
故郷にもどったロミオは、暖かい家族に再び迎えられる。
ロミオの家族には、ロミオの成長の素晴らしさが手にとるように感じられただろう。
そして10年後ー。
大人に成長したロミオは、夢を叶え教師になっていた。
彼の傍らには、妻のビアンカとアルフレドと名づけた息子がいる。
ロミオはこの新しい家族とともに、これからも明日を見つめ力強く歩んでいく。
亡き親友アルフレドの導きがある限り、変わらぬ青い空が広がる限り、ロミオが目指す世界はどこまでも続いている。
こうしてロミオの成長の軌跡を追っていくと、けっして、ロミオが与えられるだけの存在でないことが見えてくる。
ロミオは無意識の中で、出会った人々に対し何かの力を与えている。
たとえば、アンジェレッタに対しては自由に行動できる勇気と生きる力を。
カセラ教授には光り輝く可能性を。
ロッシ親方やエッダには存在感とまっすぐな心を。
ダンテやミカエル、アントニオら黒い兄弟達には、けっして諦めない勇気と希望を。
狼団の少年達には、ゆるがない決意と熱い信頼を。
ビアンカには、アルフレドから受け継いだ意志の実現と親愛を。
そして、アルフレドには惜しみない友情と永遠の絆を。
ロミオが与えたものを人々はロミオのためにお返ししているのだ。
ロミオは与えられたものを蓄積し、自分の才能に生かすことができる力に秀でた少年だ。
ファンの感想で、最初にアルフレドの人気の高さを感じた。
「ロミオの青い空」で主役以上に活躍し、特別な存在であるかのような印象。
しかし、実際の作品を見ていくうちに、アルフレドがそんなに秀でた存在ではないように思えてきた。
けっして、ロミオをひいきしているわけではない。
確かに、アルフレドの境遇は共感しやすく、まばゆいばかりの悲劇の美形キャラだ。
けれども、現実の世界にも、そんな少年はどこにでもいる。
ちょっと憧れるし、友人に持つと自慢できるが、同時にライバルにすると負けてしまうと思えるような少年。
むしろ、アルフレドはそんな身近な存在に見えてきた。
彼だけではなく、「ロミオの青い空」に登場する少年少女達は等身大の共感できる子供達ばかりだ。
物語の主役はロミオだが、誰もが主役になれる素質を持っている。
実際、登場してきた個性あふれるキャラクター達は、個々にストーリーを秘めているかのようだ。
「ロミオの青い空」は、そんな少年達が活躍する物語だった。
それは、現実の私達の社会を投影したもの。
特別なものではなく、極々普通に私達が築いている人間関係そのものである。
人間関係とは誰かに与え、そして与えてもらいながらの相互の関係で成立するからだ。
改めて問いかけてみよう。
「あなたにとって一番大切な人は誰ですか?
家族、友人、恋人…。
それは、人によってさまざまでしょうが、必ず誰かがいるはずです。
なぜなら、人は一人で生きていくことができません。」
その答えは、「ロミオの青い空」を見れば、きっとみつかるはずだ。