わたしの作品(製作途中ですが……)

2009年6月12日更新

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千鳥響(チドリキョウ)というのは、ペンネームです。
  「将来、もしも子供を産んだら付けたい」と思っていた名前。それを2つ並べただけです。囀るイメージで、とても気に入っているのです。なので、どちらが苗字のつもりもありませんが、当然、前が苗字に見えてしまいますね。

*グーグル検索して導かれるものの中に随分と愉快なものがあるようですが、わたしとは一切関係ありませんので(ーー;)
それから、よく言われるのでが、お笑い芸人「千鳥」のファンでもございません。(嫌いじゃないけど)

そして、その千鳥響の比較的短く読みやすい作品を選んで、いくつか紹介してみようと思います。
  これをきっかけに、道が拓けることもあるかもしれないので・・・・・・
  だけど、このカタチで、うまい具合にお届けできるのかどうか、”今は”とても不安です。

ともあれ、読んでくださった方に、 もしも楽しんでいただけたら、とても幸せなことです。

千鳥 響

 

公開する作品を検討しています。
  そのPDFが準備できしだい、公開の予定です。

〜今、しばらく≪準備中≫です〜
公開しました際には、よろしくお願いします♪

ちなみに、わたしの趣味「椎茸物語」の中に、5分足らずで読める同名タイトルのショートストーリーがあります。右に公開中の”paesonifyシリーズ”実験作ですが、 わたしの筆力がどの程度かくらいは、はかれるかとは思います。
  PDFではなくベタ打ちですが・・・ →こちら

 

** Kyon.C’s ”ショートショート”♪ **

(parsonifyシリーズ)

とりあえず1年ほど、月1作ずつ
3分で読みきれる作品を”Webオリジナル”で書こうと思います。

第12作*「ひとり割れたら」(2009年6月号){読む}

第11作*「ヒトよろしく、ヒトらしく」(2009年5月号){読む}

第10作*「おいしい水の、苦い雫」(2009年4月号){読む}

第9作*「カレはキミのイタミ」(2009年3月号){読む}

第8作*「いちばん深い透明」(2009年2月号){読む}

第7作*「墓場、ゼロキロバイト」(2009年1月号){読む}

第6作*「朝雨に蜘蛛の逡巡」(2008年12月号){読む}

第5作*「アレクサンドリアの香り」(2008年11月号){読む}

第4作*「ほしぞらウィンミル」(2008年10月号){読む}

第3作*「猫らしい彼女」(2008年9月号){読む}

第2作*「煽動的靴音」(2008年8月号){読む}

第1作*「雲の色彩」(2008年7月号){読む}

 

< ア レ ク サ ン ド リ ア の 香 り >

千 鳥 響 (Op.30)

自宅へ帰る道すがら、アタシのオトコは、ポケットティッシュをもらった。その中にチラシが一枚入っていた。金融でもカラオケでもなく、「フルーツショップ中野 フレッシュジューススタンドオープン」と書かれ、割引券がついていた。
 アタシのオトコは、その店先で足を止めた。スタンドはそれなりに繁盛していたが、オトコはその横手を通り、フルーツが並ぶ閑散とした狭い店内を歩きだした。

曰くありげなアレクサンドリアの香りに、どうしょうもなくそそられる。
 アタシの感覚を、決して拒まない、拒めない、アタシのオトコの口腔に、なにを、どれを届けようかと、アタシの気分は高揚する。
 この季節は、湿っぽい。まだまだ暑いのに、オトコはときどき震え、熱っぽい。アタシの粘液が、ここ数日溢れ気味で、アタシのオトコとともに、アタシも熱っぽい。
 スチューベン曰く、
“アレクサンドリアヨリモ、ジブンガオイシイ”。
 ふーん……そんな音を鳴らし反応してしまいそうになると、アタシのオトコは粘液を吸い上げる。そんなとき、ちょっとだけ痛い。
 アタシの男は咳をする。ちょっとだけ痛そうに。
 ワタシだって、と方々で騒ぎ出す。アタシに向かって、きっと騒いでいる。ロザリオとデラウェアの声は甲高く、カイジやピオーネの声はややしわがれ、スチューベンは甘ったるい。
「お一つ、どうぞ」対峙したエプロン姿のオンナが、アタシのオトコに話しかけた。
 アタシは嗅いだ。恋するように、痛く?がれたアレクサンドリアの香りを。
 アタシのオトコの指は、緊張した振る舞いで、美しい淡緑色の粒を摘まんだ。
 アレクサンドリアは、どんな声だろうか。
 物静かで物憂げでもどかしい。アタシはもっと、アレクサンドリアを嗅いだ。アレクサンドリアの一部が、オトコの口腔に転がり、砕かれ、ぐちゃぐちゃに甘くなる姿を想像しながら、めいっぱい嗅いだ。
「おいしいですね」アタシのオトコが言う。「なんだか鼻が通った気がします」
「鼻が通る?」エプロンのオンナは笑い、アタシのオトコも同調する。
 なんだか、みずみずしく笑う。
「お風邪ですか?」気遣うオンナの口元が見える。こんなことを言いだしそうな口元……
 スチューベンヨリモ、ジブンガオイシイ。
 そこから一瞬、妙な香り。求めるような、張り合うような複雑なそれは、圧倒的に、アタシよりも強い。
「いいえ。あ、えっと」アタシのオトコがたじろぐ間、顔色の悪い果実たちは、白けた溜め息を吐く。いい香りばかりだ。「風邪気味です」
「風邪気味?」
「はい。風邪っていうほどのことはなくて」
 ふーん……そんな音を鳴らし、悪戯にくすぐってみると、アタシのオトコは、大きなくしゃみを何度かした。アタシの一部が、わずかにオトコから飛びだした。
「大丈夫ですか?」気遣うオンナ。アタシは大丈夫ではないのに、
「大丈夫です」オトコは大丈夫だと強がる。オンナの手の上の紙皿に盛られたアレクサンドリアの一粒が突如、口を開いた。
“キミ、デテイッテヤリナサイ”
 それは、その美しさから想像しえなかったほどに重厚で、なのに澄んだ、魅惑的な声だった。たどたどしい感じもした。オンナにバラバラにされてしまったからかもしれない。
 絞ると、うっとりするほど、色っぽい汁を出すだろうアレクサンドリアの香りを、アタシは、いっそう嗅いだ。
“デテイッテヤリナサイ”
“ソレナラ、コノオンナヲ、アタシノオンナニスルマデ”
“コノオンナハモウ、キミヲ、ケイケンシテイルシ……”
 アタシを経験している……し?
“アタシニマサルモノガ、センプクシテイル、ト? ソンナコト、アナタニワカルノ?”
“コノオンナハ、ワタシヲコノンデ、ヨクタベルカラ”
 アタシにはもう、行き場がないのか。このオトコを、もうしばらく弱らせ、いずれは、別の誰かに乗り換えるかほかはないのだ。
“デテイッテヤリナサイ”
“アタシニ、シネト?”
“ワタシトトモニ”
 アタシは、アタシのオトコの中で目一杯暴れた。アタシのオトコは眩暈でもしたのか、額を手の平で押さえた。
「大丈夫ですか?」このオンナは、常套句が好きだ。
「大丈夫じゃないかもしれません」アタシのオトコは近くのベンチに腰を下ろした。オンナはアレクサンドリアを持ったまま、アタシのオトコの隣に腰を下ろし、背中を摩り始めた。アタシのオトコは、大きな咳をして、持っていたポケットティッシュで洟をかんだ。
 その隙を縫って、アタシは飛散した。そのまま、ジューススタンドに並ぶ誰かの中に移ることも不可能ではないのに、アタシは、アレクサンドリアを見失わぬことにつとめ、アタシはアタシの破片を掻き集めた。そうして、アレクサンドリアに辿り着いたとき、オトコは、清々しい表情で、ほっとした深呼吸をした。
「僕のせいで、お店が不衛生になってしまうので、今日はもう帰ります。そのマスカットと同じものを一房、包んでいただけますか」
「はい。ありがとうございます」
 死にかけたアタシを受け入れた一粒のアレクサンドリアは潔く、オンナの手のひらの皿から転がり落ちた。 あぁ!
とオンナが慌て、あっ! とオトコが手を差し出した。ついさっきまで同じ体温を共有していたオトコの熱が、アタシには既に冷たいものになっていた。
 アレクサンドリアは、麗しい香りの落胆を漏らす。
 オトコは、セーフ、と笑った。そして、口へと運んでいった。
 アタシは、オトコの香りを嗅いだ。ほろ苦い刹那。
 結局また、オトコの中へと戻ることとなり、アレクサンドリアはぐちゃぐちゃに潰れた。アレクサンドリアの海を泳ぎながら、しばらく、オトコの体内にくぐもって響いてくる女の勇気に酔っていた。
「あのね、ワタシ、看病しましょうか? もしよかったら、そうしたいです」
 オトコはしかし、もう二度と、アタシを全身へ、あるいは、鼻腔へと届けようとはしなかった。熱は冷めてゆくばかりで、多くの抗体がアタシの前に立ちはだかっていた。
「本当にもう、大丈夫そうです」オトコは冷静に答えた。
「そう、ですか」オンナは気落ちした声色。
「でも」
「でも?」
「嬉しいです。今度は、ぜひ」今度?
「今度?」オンナとアタシは同時に言った。
「あなたのこと、実は僕、ずっと前から知っていて、今日、たまたまこのティッシュを貰って、会いたくなってきたんです」
 アタシが静かに消え失せるとき、オンナは爽やかに微笑むだろう。アタシよりも、ずっと切なく、強かな思惑を無意識に持ったまま。
「あなたのこと、実はわたしも、知っていました」アナタガイマ、カゼヲヒイテイルコトモ……モット、モット、ニガイオモイヲスルコトモ……
「ほんとですか?」
  このトキメキは、アレクサンドリアよりもアタシに似た香りがする。

<了>

 

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