ざくろ石を食べる。3

       溶闇。
       あやふやな白いものが降りそそぐ映像。

       リリトが闇の向こうから語りはじめる。
       舞台の側に進むにつれ、光が差して来る。
       映像はさえぎられる。

       リリト「大地から産まれたものは、闇の優しさを識るだろう。
           瞳は夜の黒で満ちあふれ、解釈の虚像から開放される。」

       リリトは黒い上衣をスクリーン幕の前に吊るす。
       黒い十字架のように見える。
       それは、振り子のようなリズムで揺れる。

       リリト「古代ユダヤの伝承によると、最初の人間アダムにはイヴ以前にも妻がいた。
           創世記第一章では、最初の妻は神の手によって、アダムと同時に土から造られた
           となっているのだ。最初の妻・リリトは、アダムと同等の言葉と権利を神に要求した。
           神は認めず、アダムへの服従を命じた。するとリリトは自らの意志によって、
           神の最高の禁令を破り、絶対的自由を求めて飛び出して行った。
           最初の男と最初の女を神は夫婦にすることが出来なかったのだ。
           光と秩序の反対側へと境界を越えたリリトは、悪霊の頭・サマエルと手を握り、魔女と
           呼ばれるようになった。
           アダムは、リリトを連れ戻してくれるよう神に頼んだ。
           神は、サノイ、サンサノイ、サマングロフの三人の御使いを遣わした。
           彼らは「もし自分たちと一緒に戻らねば、あなたの子供を毎日百人づつ殺してやる」と
           言って、リリトを脅した。
           リリトは頑強に拒み、罰を受けることになる。
           その時からリリトは、他の者たちに授かった子供を殺すようになった。
           男の子は生後8日以内に、女の子は20日以内に殺されるかもしれなかった。
           ユダヤ人の母親は自分の子を守るために聖句の刻まれた護符を身につけさせた。
           そこには鎖につながれたリリトの姿と三人の御使いが彫られ「御使いたちのアルファベット」
           と呼ばれる奇妙なアルファベット文字が見られるが、言葉の意味は謎のままである。」

       リリトはしばらく揺れる黒い服を見る。
       それから、もう一度服を着る。

       リリト「さぁ、よく見て。あなたの周りの瞬間を。」

       リリトは後ろの椅子に帰る。
       風が吹いている。 まわりには・・


   2.地上の化石   時間の運命

       化石の壁が立っている。
       人間の日常生活品が貼り付いて、風化している。
       焼け焦げた写真、破れたシャツ・・新聞や手紙に混じって電話帳のたくさんの個人名・・。
       土や砂にまみれて同じ色になったそれらが遠目にはビルの林立する都市のようにも見える。
       枯れた花が咲いている。
       風の音だけが聴こえる。

       舞台奥、上部に下半身のないろうあ者・ナカザワが浮かびあがる。
       ナカザワは電話帳に[ナカザワ]のシャチハタネームを押している。
       1ページごと、すべての名前にナカザワを押すと、そのページを破って捨てる。
       立派な法衣の僧侶が出てくる。
       不思議な機械を持っている。
       ナカザワを一瞥し、「私」について語り始める。

       ☆以下、エチュードよろしく・・・
    〜〜〜〜
       僧の持つ機械は“即身成仏促成マシーン”である。
       つらい断食をすることなく大僧正として極楽浄土に行けるらしいが保証書は付いていない。
       僧はミイラ(石)になれば幸福になれると信じている。
       そこへ、ものすごく不幸な女が通りかかる。
       女はものすごく不幸なのだが、すべては前世の行いが悪かったせいだと信じている。
       ふたりの不幸自慢が盛り上がる(・・っていっても勝手に自分の話してるだけだったりして)
       僧は未来の幸せを夢見、女は「あの頃はまだ良かった・・」と過去ばかり追っている。
       つまり、ふたりとも意識として、ココに生きていない。
       僧はマシーンのテストに女を使ってみようとするが、女は優柔不断。
       さんざんスッタモンダしたあげく、マシーンを使ってみると整備不良で死ねない。
       で、ふたりは文句をいいにサービスセンターに行くのであった。
    〜〜〜〜

       ナカザワはハンコを押し続けている。
       肉体内部の様子が映像で流される。
       ナカザワはハンコを押し続ける。
       内臓がキラキラしている。