「利益」 （りやく）
人はたえず自分の利益（りえき）を求めて生きています。現在は社会全体がすでに利益社会と呼ばれ、利潤追求の機構となっています。
宗教においても、人の祈りに応じて利益をもたらしてくれるのが、よい宗教であると考える人がいます。人の祈りにも、集団における共同祈願と個人的な祈りがあるといわれ、たとえば、雨乞い、日乞い、疫病送りとか、息災延命、家内安全、商売繁昌など、多岐多様の祈りがあります。
人は、現実の生活苦からの離脱を求めて祈りつづけ、その恵みとして与えられた恩恵を、ご利益（りやく）といっています。しかし利益ということには、自分が利益を得るということだけでなく、他の人を益するということ、恵みを与えるということがなければならなりません。仏教では、仏の教えに生きて得られた恩恵を、自利・利他の益（やく）として明らかにしています。つまり、自ら利益を得ることは同時に、他の人びとを利益することでなければならないということです。それが菩薩の精神であり、実践です。
仏の教えによって得られる利益（りやく）は、金銭上や物質上の利益ではなく、自らの生存在に自覚的に醒めて生きる、自覚者の誕生です。お釈迦様は、その誕生のときに、七歩あゆまれて天を指さし、「天上天下唯我独尊」と叫ばれたといわれています。それは、世の中で自分が最も偉いというのではなく、自らのいのちの尊厳性に最も深く目覚め立った叫びを、言い表わしたものでしょう。その仏陀の教言に出遇い、教えに導かれ育てられて、われわれもまた、自らのいのちの尊さに目覚めて生きるものとなるのです。
教えのもつ最も深い意味での利益（りやく）は、一人ひとりが、仏の本願に喚び覚まされて、最も尊いものとして自己を生きる自身の獲得ではないでしょうか。そこに自ら人びとを利益して、ともに生きるという、共生の生が開かれるのではないでしょうか。
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