第一話 『残暑の東北・温泉とローカル線を巡る旅』



ページ総数1056ページ。厚さ実に3センチ。鉄道と共にその歴史を重ねてきた時刻表。一見すると駅名と時刻しか書かれていないが、まるでおもちゃ箱のようなバラエティあふれる物語が隠されていた。それでは仮想旅行へ出発しよう。

ページを開きまず目に入るのがさくいん地図である。網の目のごとく走る線路。じっくり見るとその壮大さに圧倒される。ふと、国鉄型気動車に乗りたくなる。同時に温泉に入りたくなった。地図を見ると・・・。む、陸羽東線に目がいく。愛称が奥の細道湯けむりライン、文句なし。国鉄型は只見線で乗ることにしよう。北を目指すので出発は上野駅。東北本線を北上し、陸羽東線へ。そこで途中下車し鳴子温泉に入る。新庄から奥羽本線(山形新幹線)で郡山へ下り、会津若松で只見線を全線走破、上越・高崎線で上野へ戻る。コースが出来上がった。いざ夏の東北へ出発進行!

上野駅8番線が旅の出発点だ。7時1分発533Mに乗り込む。普段とは違う感じがする。列車は関東平野を駆け抜け宇都宮で乗り換え。ここから先、ぐっと本数が減る。特急が走っていた頃の面影はない。黒磯着。電気方式が異なるため乗り換えを強いられる。ここから2133M、1137M、579Mと三本乗り継ぐ。東北本線も場所によって色々な顔を見せるものだと思う。701系が通勤電車タイプなのが否めない。やっぱりこの辺を走るのはボックスシートの方がいい。桜の名所、船岡を過ぎる。春にここを通り過ぎたら、最高だろうなぁ。14時36分仙台着。ここ仙台は駅弁数がハンパじゃない。迷うところだが、名物牛タン入りをチョイス。笹かまぼこもいい。仙台で小休止の後、539Mで小牛田へ。途中新幹線基地のある利府へ行く利府支線が分岐する。盲腸線だが、本数は多い。小牛田は鉄道の町である。しかし、新幹線が古川を通ってしまったためずいぶん寂れてしまった。16時48分鳴子温泉着。陸羽東線にはここを含め6駅に温泉や湯と言う字が付く。愛称に偽りなしとは素晴らしい。

日ごろの疲れを取り、新庄へ向かう。今日の宿は山形だ。奥の細道を旅した芭蕉も同じ疲れを感じただろう。

二日め、昨日と打って変わり今日の一番列車は、銀色流線型つばさ108号である。深い森を抜け、谷を渡り、踏切があるが間違いなく新幹線だ。米沢で米沢牛を使った駅弁を食す。鉄道旅行の醍醐味の一つだ。難所中の難所だった板谷峠を苦もなく通りこえ、福島へ。後から来たMaxやまびこ号と連結。いつ見ても興味深い光景に目を見張る。一路郡山へ。在来線から乗り換えなしで新幹線に入ったため、そのスピードの違いが新鮮だ。次に乗るは磐越西線。昔急行だった455系を近郊化改造をし、赤と白で塗り替えたやつに乗る。コンセプトは雪の磐梯山らしい。それじゃあ赤はあかべこか?磐梯山と猪苗代湖が美しい。白虎隊で名高い会津若松はもうすぐだ。磐越西線は新潟県新津まで延びるいわゆる肋骨線だが、電化区間は喜多方までだが最近は機関車の復活で一躍有名になった。

いよいよ只見線に乗り込む。全線を走る列車は上下6本しかないまさにローカル線だ。会津鉄道が寄り添いながら出発。この路線を進んでいくと最終的には、東京浅草に行き着く。列車は深い山奥をひた走る。ちなみにこの只見線、全39駅中17駅に会津とつく。陸羽東線よりすごい、実に40%だ。この路線沿線の積雪はすさまじく、並行する道路は通行止めになってしまう。そのおかげで雪にも強い只見線はローカルながら生きながらえているのだ。

実に4時間近くかけて終点小出につく。今日はこの先上越線越後湯沢まで。再び温泉に浸かれる。つくづく日本は温泉の多い国だと思う。

三日目は最初から厳しい。上越国境を越えるのだが、幹線にもかかわらず本数が少ない、しかもこの区間はとくに。それだけ山が険しいのだ。その証拠に地図を見ると、この区間はぐるぐると2回転もしている。「まっすぐいけよ」と思うがこのぐるぐるが大切なのだ。これはループ線といい勾配対策の一つだ。これを利用するのは上り線だけ。下りはトンネルで一気に下る。これがまた長い。途中のトンネル内に駅まで存在する。恐るべし上越国境。乗車するのは上り線だからループ線を味わえる。ループを終えるとはるか上に今来た線路が見える。大変な工事だったと思う。

山越えを終えると水上に着く。またも温泉地だが高崎に向かう。時間は10時。だるま弁当もすてがたいが、峠の釜飯を買うべく横川へ寄り道。かつては峠越えでにぎわった横川は線路を寸断され静かだ。思えばそんなところばかり来た気がする。

高崎へ戻り快速アーバンで上野へ。再び都心へ帰ってきた。なんだかもの悲しい。

14時5分上野着。地平ホーム14番線へ降り立つ。旅は今終わりを告げた。

ふと我に返る。ここは上野駅ではない。自宅で時刻表を見ているだけだ。それも単調な時刻と駅名だけの本。なのにこの充実感。素晴らしい暇つぶしだった。

続く 次回をお楽しみに!

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