RED CHRONICLE



第二章


 一馬が目を開けるとそこには大野の顔が迫っていた。
「おお、やっと目を覚ましたか。」
安心したように大野が言った。さらに現状が把握できずに戸惑っている一馬に続けた。
「さっきのは冗談だよ。冗談。君を驚かそうと思ってね。実は公園管理事務所とは仮の姿でね。ここは東京防衛の最前線なのだよ。名を帝國防衛部隊龍組というんだ。で、君がその隊長に就任したと言うわけだ。」
 一馬は混乱していた。帝都防衛部隊?龍組?俺が隊長?・・・・
「なにからこの東京を守るかは、もう知っていると思うが例の甲鬼だ。甲鬼は思考回路を持たないことがつい最近わかった。つまり、裏でそれを操っている奴らがいるってことだな。そいつらはもちろん、すさまじい霊力の持ち主であることは間違いない。それを倒し平和を維持するのが我々の使命だ。もちろん素手でやっても勝ち目は無いからね、霊子兵器に乗ってもらう。」
大野はそこで話を止め、タバコに火をつけた。古いキセルを愛用している大野は長めのマッチを使い器用に火をつけた。そこになぎさがやってきた。なぜか白いエプロンなどしている。その手には白い湯気を上げている土鍋が握られていた。
「高坂さん大丈夫ですか?おかゆ作ったので是非食べてください。」
「ありがたくいただくよ」
そう言うと一馬は、おかゆをほおばった。作り立てなのかまだだいぶ熱かったが、五分もすると完食してしまった。見ればなぎさが真剣に顔をじっと見つめている。
「とってもおいしかったよ。わざわざありがとう。」
「いえ、お礼なんて。いいんです、私が勝手に作ったんですから。」
「そこのお二人さん、邪魔して悪いんだが、話を続けさせていただいていいかな?」
みれば大野が笑いながら後ろに立っている。キセルからはもう煙も昇っていない。
「じゃあ高坂君、今日は松本さんに施設を案内してもらいなさい。なぎさ君もよければついていったらどうだ。地下には格納庫や作戦司令室などのいろいろ重要な場所があるからね。一通りまわったらまた私のところへ来てくれ。霊子兵器について説明しよう。」
 それから約二時間。一馬は松本に連れられ地下を巡り歩いた。どうやら上野公園の地下全体が基地となっているらしく、すさまじい広さだ。これが地下五階まで広がっているというのであるから驚きである。また、博物館、科学館、上野駅とも直結していて、ありとあらゆる不測の事態に備えている。やがて説明も終わり大野の部屋へと一行は向かった。

 なかでは、大野がクロスワードパズルと激しく格闘していた。
「大野はん!いつまでやっとるつもりどすか?」
 松本が声をかけてやっと気がついたようだ。
「あー、ごめんごめん。じゃあ説明をはじめようか。まず我らが使う霊子兵器「炎帝」は人が乗り込みその人間の霊力と蒸気機関で動く!霊力が無くとも動くことはできるが、せいぜい移動が出来るか出来ないかのレベルだ。戦闘では霊力がどうしても必要となる。だから隊員はみな、強い霊力を持ったものばかりだ。そして、主に移動は上野駅地下にある“武蔵”をつかう。最高で300キロの速度を持つ蒸気機関車だ。つぎに、敵の話だが甲鬼という霊子機関であることは知っているだろう。甲鬼にも何種類かあることが確認されている。また、甲鬼よりも大型の霊子機関も何度か目撃されている、といったところだ。敵が誰であるのか、目的はなんであるのかも今一わかっていない。」
 一馬は自分が敵とするものの強大さと謎に包まれたその実態にただただ恐怖を感じずにはいられなかった。


 一方その頃、夜の上野公園に浮かび上がる影五つ。
「さて、おっぱじめますか!」
「ふっ、人も少ないこんなところでよくそんな気になりますね、金剛。相変わらずその単細胞にはあきれてしまいますよ。ふふふふ」
「なんだと、不動!」
「まあまあ、おさえて、おさえて。今回の目的は我らの存在をしっかりと世の示すことであって,破壊活動ではないのですから。因陀羅も何とか言ってくださいよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「愛染よ、因陀羅に何を言っても無駄だ。この女は興味あること意外は何もせんからな」
「阿修羅の言うとおりですよ。ふふふで、そろそろはじめますか?」
「そうするとしようか」
 そうしたまた五つの影は闇に消えた。
続く


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